「アレが村です」
従魔師のコノハが言う。
“妖狐”タマモにショウマとコノハは乗って移動してる。
確かに集落みたいのが見えてる。
まだけっこう先、小さく見える程度。
小さく見えるだけだけど、確かに襲われてるようなバタバタした雰囲気。
ケモノらしい姿が見える。
何か土煙も上がってる。
「“暴れ猪”です。
森からたまに魔獣が暴走してくるんです。
2,3頭ならいいけど、あの数は…!」
ショウマの目にも10頭くらいはいそうだ。
おおっ!
今なにか。
近くで火が上がった?
行ってみると子供が襲われてた。
火を吐き出すネズミ。
『炎の玉』っぽいヤツを使ってる。
子供をケロ子が助ける。
飛んでくる火の先から子供を抱えて逃げる。
火は一発じゃない。
ネズミは数頭。
みんなして火を吐き出してる。
ショウマはネズミの攻撃を『氷の嵐』でかき消す。
「クゥォーーーン」
タマモがいきなり叫び声を上げる。
ネズミは4頭いたけど、みんな動けなくなってた。
「タマモの『マヒの遠吠え』です」
へー。
便利じゃん。
子供が言う。
「コノハ姉、帰ってきたの?」
「ユキト、足は大丈夫?」
「コノハさんの弟?」
「いえ、同じ村の子です。
家が近所なんです」
言ってるうちにタマモが“火鼠”を爪で切り裂く。
僕も働いとこ。
『切り裂く風』
“火鼠”が一撃で両断され、消えていく。
火魔法は使えるけど、大した敵じゃなさそう。
ショウマはアタリを付ける。
『地下迷宮』で考えたら1階~2階レベル?
子供は足を怪我してた。
膝の先が変な方向を向いてる。
見るだけでこっちも痛くなるよ。
良く立ち上がれるね。
10~12歳くらい。
顔に毛が生えてる。
ヒゲ体質?
と思うと、毛が消えていく。
口元から見えてたキバも引っ込んでく。
普通の少年になった。
「特殊メイク?
CG合成?」
とりあえずつぶやくショウマだ。
「コノハ姉、村にイチゴと母さんがいるんだ。
お願い」
「イチゴ! ナデシコさん。
分かった」
「ユキトはここで待ってて。先に私達は村に行く」
足が折れてる少年と一緒に行動したら遅くなる。
「ショウマさん。行きます
乗ってください」
コノハは急いで村に向かおうとする。
タマモに乗りこむ。
なのにショウマはグズグズしてる。
「ユキトくんだっけ
ちょっと試していい?」
「ショウマさん!」
『治癒の滝』
「ユキトくんっ。
気を付けてねっ」
そう言って見知らぬ女性は去っていった。
ユキトは足が折れてる。
早くは移動できない。
先に行って、妹を助けて欲しい。
ユキトは別に村を救ってほしいとは考えてない。
“暴れ猪”が10体だ。
どうあがいても被害は出る。
魔獣が飽きて去ってゆくか、戦士達が戻ってくるか。
妹と母さんだけでも助けて欲しい。
女性はケロ子と呼ばれてた。
一緒に居た男の方はショウマと呼ばれてた変なヤツ。
さっき女性に助けられたのを思い出す。
ケロ子さんの柔らかな体に抱かれたのだ
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
ユキトも村に向かおう。
アレ。
足が?
痛くない。
さっきまで立つだけでも激痛が走ったのに。
普通に歩ける。
アレ?
オレは怪我をしてたハズ。
足だけじゃない。
猪に飛び乗ったり、振り払われたり。
細かいスリ傷だらけだった。
それが腕に何のキズも無いのだ。
アレ?
なんか亜人スゴイなー。
ショウマは感心してる。
ショウマ達は村の入り口に着いた。
入り口にもう“暴れ猪”はいた。
一頭の“暴れ猪”だけじゃない。
村人達もいた。
老人、子供がみんな戦ってる。
“暴れ猪”にみんな向かっていくのだ。
おじいちゃんが棒で立ち向かってる。
“暴れ猪”に一瞬で吹っ飛ばされてる。
お婆ちゃんが鍋みたいので“暴れ猪”を殴りつける。
鎌みたいの持った子供も“暴れ猪”に凶器をぶっ刺す。
“暴れ猪”に蹴られた。
すっ飛んでく。
ええっ大丈夫?
ショウマとコノハは村に入った。
魔獣に襲われてる村人たちを助ける。
そんなイメージだ。
でもなんかみんな襲われてる村人っぽくないや。
「村はしょっちゅう魔獣が襲撃に来ます。
たくましくないと生きていけないです」
コノハさんのセリフだ。
「どいてください。
危険です。
お願い。離れて」
“暴れ猪”に近付く。
コノハさんが頼んで村の人に距離を置いてもらう。
『旋風(つむじかぜ)』
ショウマの風魔法一撃で“暴れ猪”は胴体が切れて崩れ落ちる。
というコトは。
地下迷宮で考えると3階くらいの強さ?
4階の“動く石像”ほどじゃない。
“大型蟻”くらい?
ショウマはなんとなくアタリを付ける。
ならケロ子でも倒せそう。
「“暴れ猪”が一撃で!」
「すげえ、すげえ」
「戦士達だって、一人じゃそうそう倒せないぜ」
「魔法か。亜人で使えるヤツは少ないがこんなに凄かったんだ」
村人が沸きあがる。
歓声を上げる村人をほっといてショウマはケロ子に言う。
「ケロ子、ケロ子。
あれ試してみて。
『身体強化』」
「ショウマさま。
アタシもう使ってます」
「?」
ケロ子が爆速で走ってきたのは『身体強化』だったらしい。
便利だね。
そんなコトを言ってるウチに、
また一頭“暴れ猪”がショウマの方へ走ってくる。
「ブゴッ ブグルルーッ」
「ブグォッ!」
凄まじい唸り声が一瞬でかき消える。
ケロ子が跳んで、空中から“暴れ猪”の脳天を蹴ったのだ。
カカト落としである。
“暴れ猪”は頭ごと地面に勢いよく叩きつけられる。
「確かにいつもより攻撃力増してるカンジだね」
ショウマは見物状態。
いつもケロ子の蹴りはカッコイイけど。
今日は一段とパワフル。
一撃で“暴れ猪”が消えてゆく。
別の“暴れ猪”がまた現れる。
「ブゴッ ブグルルーッ」
「はいっ。カラダもいつもより軽く動きますっ」
そう言いながらケロ子は回し蹴りを放つ。
また突進してきた新しい“暴れ猪”に向かって。
上段回し蹴り。
左足を前に踏み込み、右足を一気に振り抜く。
少女の足技で“暴れ猪”が飛んでいく。
明らかに少女より体重が重いであろうイノシシ。
それがぶっ飛んで行くのだ。
「おおっ!“暴れ猪”がブッ飛んでいくぞ」
「あっちの魔法もスゴかったがあの娘もスゲェ」
コノハは空いた口がふさがらない。
コノハは村を進んでく。
村の中なのでタマモからは降りてる。
ショウマさんやケロ子さんも一緒だ。
自分の家を通り過ぎる。
コノハの家はいま誰もいない。
帰るのは後でいい。
「お隣の家に行きます。
小さい子と母親がいる筈なので様子を見ます」
ショウマさんに説明する。
お隣にある家に入って行く。
「イチゴちゃん!」
「誰?
あれ、この声コノハねえさん!」
「そうよ、大丈夫」
「うん。
なにかあったの?」
「“暴れ猪”よ
それもたくさん」
「だからか~。
なんかうるさいなと思った」
「ナデシコさんは?」
「母さんは寝てるよ」
ショウマも付いていくと小さい女の子とコノハさんが話してる。
女の子は縫物をしてたみたい。
動物の皮を縫い合わせてる。
なんだか人形みたいな子。
チラっと家の奥も覗く。
誰か寝ている。
あれが母親。
大丈夫?
なんだか生気が少ない。
病気?
あまり人の家に立ち入っちゃマズイかな。
後ろを向くショウマ。
家の入口に向かう。
タマモが外で待ってる。
“暴れ猪”を警戒してる。
何かあったら知らせてくれるハズ。
僕も表で待ってよう。
すると男の子がやってくる。
さっきの少年?
「ユキト!」
「良かった。
二人とも無事だったか」
足を折ったにしては少年の到着は早い。
「イチゴ!母さん!
ここを動くなよ。
オレはこの人たちと一緒に“暴れ猪”を倒してくる」
「村を案内します。
“暴れ猪”を倒せるんですよね」
少年はショウマとケロ子を見て言う。
真正面から見られて、目線を逸らしそうになるショウマだ。
ショウマ一行は村を廻ってる。
二手に分かれようか。
そんな意見もあったけど、ショウマもケロ子も初めて来た村だ。
イマイチ勝手が分からない。
それにケロ子がショウマと離れるのを嫌がった。
「ショウマさまを守るのがワタシの役目ですっ」
村を案内するのはコノハでもユキトでも出来る。
でも“暴れ猪”を倒すのはショウマかケロ子。
どちらかが必要だ。
“暴れ猪”は村のアチコチに突撃していた。
家が壊れてる。
畑が荒らされてる。
果樹園の木が折れている。
“暴れ猪”は目立った。
隠れようとしてない。
暴れてるのだ。
さらに村人たちも押し寄せてる。
よせばいいのに、棒で立ち向かってぶっ飛ばされてくお年寄り。
タマモが臭いで捜索する。
そんなつもりだったけど。
その必要も無い。
村を移動していけば騒動に当たる。
「ブモッ ブモォオオオー」
「ハァッ」
ケロ子の蹴りだ。
あれ。
一撃で倒してない。
“暴れ猪”は頭を蹴られてフラフラしてる。
ケロ子の追撃の拳が決まる。
腹にストレート。
どうも『身体強化』の効力がきれたっぽい。
効果時間は30分~1時間?
ショウマも働いておこう。
『凍てつく氷』
「ス、スゲェ
“暴れ猪”を一撃で!」
「何者なんじゃ?」
「あっお気になさらずに。
コノハさんの知り合いです」
村人の興味をサラっと躱して次のイノシシを探す。
タマモが近付いた一頭がまた凍り付く。
“暴れ猪”が一撃で凍り付いたかと思うと消えてゆく。
ユキトは攻撃魔法を見た経験が少ない。
亜人の村に魔術師はほとんどいない。
「魔術師ってこんなに凄かったんだな。
コノハ姉」
いや、明らかにショウマさんがおかしい
口には出さないがそう思うコノハ。
「いっぺんに全部来てくれないかな」
“暴れ猪”を探しては倒してる。
ショウマはメンドクさくなったらしい。
『旋風(つむじかぜ)』
また一頭“暴れ猪”が吹き飛び、消えていく。
『荒れる颱風』
今度は三頭まとめて。
コノハはもう訳がワカラナイ。
あれ、魔術師さんに聞いた話では…
『炎の玉』は一日に5~6回が限界。
それよりスゴイ魔法『炎の乱舞』。
イザという時しか使えないハズ。
なんだか教わった常識と違う気がする。
今ショウマさんが使ってる魔法は?
だって、魔術師さんの『炎の玉』は何度も見た。
これはそれよりどう考えても強い魔法。
「これで終わりかな?」
「いや、今倒したので8頭だよ。
もう2、3頭いるハズ」
「えーっ、
もうメンドクサイなぁ。
向こうから来てくれないの。
キミ、
イノシシホイホイとか持ってない?」
「なんだよ、それ?
聞いた事無いぞ」
コノハはワケの分からない事を言ってる魔術師を眺める。
うーん
スゴイ人なんだよね。
きっと…
【次回予告】
言ってみれば、新入社員がいきなり壇上に上げられたようなものだ。何の準備もしてないのに、一言どうぞとマイクを持たされた。周り中、知らない人。知らない人たちが自分に注目してる。誰でも緊張する。ましてショウマである。
「この人はこれ以上魔力を使ったら倒れるところまで無理をしてくれてるんです」
次回、ショウマは花粉症になる。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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