ショウマ達が購入した衣服はけっこうな量となった。
が、みみっくちゃんがんがっと飲み込んでしまった。
「みみっくちゃん、まだ入る?
重さは感じない?
女子に体重訊くのはマナー違反?」
「ううーん、なんとなくまだ平気で入りそうですね。
そして体重訊くのはもちろんマナー違反です。ご主人様」
「ついでだから食料もいろいろ買っておこう」
お気に入りの店、ミッシェルガンヒポポタマスから出る時。
あの店員さんに言われた。
「アナタ、黒ずくめなーの。なら顔は出しといた方がいーわ。
顔を見せればカワイイ少年顔だし、勘違いされなくて済むわ」
黒ずくめは良くない勘違いをされるらしい。
坊主か神父と思われるって事かも
宗教関係者と思われるのもイヤかな
仕方なく、ショウマはフードを開けておく。
ショウマたちは食料を買い込む。
「この前は重さも考えて新鮮な肉野菜あまり買えなかったし、
でもお肉だと傷むかな」
「火を通して冷蔵庫に保管すれば平気ですっ」
「なるほど。
んじゃドンドン行こう」
結局服は全部で2000Gだった。
クラス:ドッグ割引きで1800Gになる。
防具を買った時点で所持金はおよそ9000G。
現在7200G。
日本円換算でおよそ72万円だ。
食品を買うのに困る事は無いよね
「うーん食べものに関してはみみっくちゃんが飲み込んだ場合、消化しちゃいそうで危険な香りがします。袋か箱に入れてください。それから飲み込みます」
とみみっくちゃんが言うので袋に入れて、んがっと口の中へ入れてもらう。
ばんばん買ってドンドン入れてもらおう。
紅茶欲しかった。
水だけ飲んでる生活って僕入院患者なのってカンジ。
コーヒー無いのかな。
御菓子もいるんだよね。
クッキーだけか。
チョコ無いのチョコ。
ドーナツ有るね。
果物もまあ少しは。
あジュースあるじゃん。
「うー、みみっくちゃんそろそろいっぱいいっぱいなカンジがします。
これ以上飲み込むとゲーしそうな予感ですよ」
「そっか、無限収納じゃなかったんだね。
んーと服も合わせて担ぎ袋で5袋くらい?
リュックサック40リットルとすると200リットル?」
「みみっくちゃんふがいないですよ。修行が足りないですか? ダメな子ですか、ご主人様?」
「いや、メッチャ便利だよ」
「はいっ。みみっくちゃんすっごいですっ」
「ふふん。みみっくちゃん、すっごいですよ。ご主人様、みみっくちゃんを崇めるですよ。像を作って神棚に飾るですよ」
「出世早いね」
「大きいフクロウの魔獣、“闇梟”、う~ん」
「ダメかい、アヤメ」
冒険者組合の中だ。
女冒険者カトレアは今日倒したフクロウの魔獣からドロップした品を持ち込んだのだ。
渡された受付のアヤメは困っている。
記録が無いので幾らで買い取っていいか分からないのだ。
「10年以上前だと魔道具記録書に登録されてなくて、
紙資料を漁るしかないんで時間がかかりますよ」
「10年目撃されてないなんてシロモノに巡り合ったのか。
ウチついてないね」
「でもそうなると魔獣の目撃情報だけでも功績になりますよ」
「『梟の嘴』の方はどうだい?」
魔道具に登録されてればすぐ分かるのに
アヤメの手には余る。
他の受付の娘たちは知らんぷりだ。
「一度預からせてもらっていいですか?
調べておきます」
「なんだ、珍しいもんか。
見せてみぃ」
「あ、タキガミさん。
いいところに」
「なんだ? この爺さん」
「あああ、ダメです。
カトレアさん」
タキガミさんは魔獣素材に関してすごい詳しい方なのだ
二人の話は気にせず、『梟の嘴』に見入っているタキガミ。
タキガミはアヤメが冒険者組合に入社した時にはもう定年退職していた。
けれど顧問だか相談役扱いで毎日のように顔を見せている。
珍しいドロップ品と聞くとフラッと現れる老人だ。
「うん、間違いなく『梟の嘴』じゃな。
“闇梟”のドロップ品じゃ」
「タキガミさん、ご存じなんですか?」
「あれはどれほど前じゃろな。
もう20年くらいか。
その時幾つも見たから間違いない。
嬢ちゃん、一緒に羽は落ちてなかったか?」
「羽?『梟の羽」かい。知らないね」
嬢ちゃん呼ばわりに驚きながら答えるカトレアだ。
「そうか、『梟の羽」はいい矢の材料になる。
あれなら高く買えるんじゃが」
「そうなのか?
『梟の嘴』じゃダメか」
「いや、これも珍しいし魔道具の材料になる。
帝国辺りに売れるハズじゃ。
ざっと5000Gってところか」
「5000G!すごい」
「5000Gか。まあまあだね、爺さん」
5000Gはアヤメにとっては大金だ。
しかしカトレアクラスの冒険者にとっては違う。
1階で戦闘していたら500体は倒さなければ手に入らない額ではある。
しかし3階まで行って昆虫型魔獣を相手にすれば10~20体も倒せばいい。
美味しいと言えば美味しいが、飛び上がって喜ぶほどではない。
「それよりもアヤメちゃん。
20年前の話じゃ。
“闇梟”は一度倒したら立て続けに出た。
あの時10体は出た筈じゃ。
今回も同じとは限らんが、用心しといた方がいいぞ」
「!」
どうするといいの?
アヤメは思い出す。
組合からの注意報。
魔獣の目撃情報と注意報を出すのだ。
「キキョウ主任に言って、
注意報出してもらいます」
「待て待て、アヤメ。
そんなの組合から出したら大事になるぞ。
20年前と同じか分からないんだろ。
冒険者にはウチからウワサを流しとく。
お前も親しい冒険者に世間話として注意しとけ」
「爺さん、ウチらは1階で遭遇した。
その時出たのは?」
「さてな、ワシはドロップ品を持ち込まれただけじゃ。
魔獣の生息地まで知らん」
「何だよ、意外と役に立たないね」
「冒険者に聞け。
20年前から迷宮探索してた冒険者に」
「そんな年寄り、もう現役なワケないだろ」
どうしよう
アヤメだって大騒ぎになるのはイヤだ。
でも注意報を出さないで冒険者が“闇梟”の犠牲になったら
「キィ キュイ キィ」
“吸血蝙蝠”だ。
ショウマたちにとって既にお馴染みの敵だ。
「ケロ子、いっきまーすっ」
「待って待って」
新装備でやる気十分、ジャンプしようとしてるケロ子をショウマは引き留める。
「みみっくちゃん、やってみる?」
「ふふふふふ。このみみっくちゃんの実力を見たいと仰せですね、ご主人様。ならばやりますよ。やってやりますよ。みみっくちゃんの実力を見ろですよ…」
と言ってるうちに“吸血蝙蝠”はみみっくちゃんに近づく。
すでに攻撃される距離にコウモリの集団がいる。
んがっ
『丸呑み』
コウモリの集団はみみっくちゃんの口の中に吸い込まれていた。
集団が全部!
「すごいですっ、みみっくちゃんっ」
「どういう仕組み。
掃除機なの、
サイクロン?」
あれ。
みみっくちゃんの顔が青くなってる。
んがっ
「ぺっぺっぺ、コウモリまずいですよ。みみっくちゃんの中に噛みついたですよ。血ぃ吸おうとしやがったですよ」
ショウマとケロ子の前に(は吐き出された。
吐き出された“吸血蝙蝠”は弱った風だが、まだ飛び廻っている。
「ケロ子!」
「ケロ子、いっきまーすっ」
「ガ〇ダム?
ケロ子はア〇ロだったの?」
ケロ子が回し蹴りを決める。
コウモリの集団はアッサリ消えていった。
「新しい靴っ、良いカンジですっ。
キックがパワーアップした気がしますっ」
「みみっくちゃん、
見た目がハデな割に使えない技だったね」
「どうせみみっくちゃん、ダメな子ですよ。ケロ子お姉さまの恰好良さと正反対ですよ…」
「みみっくちゃんっ、気にしなくていいよっ。
まだLV1だもんっ。
ケロ子もコウモリ倒したのLVあがってからだよっ」
「与えるダメージ少なくても、何匹も呑み込めるのが面白いね。
この前のアンデッドみたいに何十と魔獣が出てきたらみんな呑み込んでもらって順番に倒すとか、
みみっくちゃん待合所?」
「うーん。みみっくちゃん小柄な少女ですよ。そんな何十人も男を咥え込むみたいに言われてもムリですよ…」
「言ってないよ」
「やってみないと分かりませんが、みみっくちゃんの身体のサイズくらいが限界な気がするですよ」
「ん~、荷物を収納してるのとは違うのかな」
「みみっくちゃんの感覚ですけど行ってる場所が違う気がします。荷物を預かった時は背中の箱に行ってる雰囲気です。魔獣を『丸呑み』は胃に行ってるカンジでしょうか。胃と言っても比喩的な表現で本当にお腹の中に行ってる訳じゃないですよ…」
「じゃあさ、あそこの岩を一度『丸呑み』してみてよ」
ショウマは岩壁辺りに有る岩を指す。
みみっくちゃんより一回り大きいくらいのサイズだ。
「ご主人様、やっぱりみみっくちゃんの扱いが雑です。乙女に対する仕打ちじゃないです」
と言いながらもみみっくちゃんは近づいて試そうとする。
黒い影が近付いているのには気が付かない。
ショウマもケロ子も気づいていない。
何故ならその魔獣は黒いから。
迷宮の闇に隠れるから。
音もなく近寄るから。
「それではやってみますよ。成功したら褒めてください。失敗しても褒めてくださいですよ」
んがっ
『丸呑み』
ずぞぞぞーずっぞぞぞぞぞぞーずっぞぞぞぞぞぞー!
スゴイ音がした。
スゴイ絵だった。
掃除機に大きい物が吸い込まれ、途中で詰まってまた吸い込まれた。
そんな音を数十倍にしたような。
そんな音だ。
黒い物が、大きい物が飛んできて少女の口の中に吸い込まれた。
少女より大きい、3倍は優にあっただろう。
それが口の中に入って行く。
入らないハズの物が何故か吸い込まれてゆく。
そんな風に見えた。
「!」
「みみっくちゃんっ」
「んんんんっんげらぱらごらぱげらごらごこげこぱらげーっ」
「宇宙語?
バグってる?」
「みみっくちゃんっ、大丈夫ですかっ」
「大丈夫じゃないです。みみっくちゃん明らかに大丈夫じゃないです。ご主人様、魔法の準備です。
今みみっくちゃん、大きいの ぺっ します。ご主人様、倒してください」
「えーと、良く分からないけど分かった。
いいよ。
出して」
ショウマは準備する。
『賢者の杖』を握る。
風属性を使おう。
まだほとんど使ってない。
んがっ
「ぺっぺっーぺっ」
『旋風(つむじかぜ)』
小柄な従魔の少女から大きな鳥らしきものが吐き出された。
と同時に吐き出された黒い物体が舞い上がる。
暴風に巻かれ上空へ吹き飛ぶ。
見えないような速度で空で回転し、地面に叩きつけられる。
『LVが上がった』
『ケロコは冒険者LVがLV7からLV8になった』
『ミミックチャンは冒険者LVがLV1からLV3になった』
「うわーっ、ひどい目に遭いました。胃袋裂けるかと思ったですよ。」
「よく平気だね」
「なんですかなんですか、それ。「みみっくちゃん 大丈夫かい?」とか言って抱きしめるくらいしてくださいですよ。ご主人様、みみっくちゃんの扱いが雑過ぎます…」
「みみっくちゃんっ、大丈夫だった?」
ケロ子が自分より小柄な少女を抱きしめる。
「平気です。ありがとうございます。ケロ子お姉さま。お姉さまはやっぱり優しいですよ」
「それなんてマ〇ア様がみてる?
ケロ子が令ちゃんでみみっくちゃんが由乃ちゃん?」
みみっくちゃんはまだお腹をさすってバタバタしてる。
初LVアップを喜ぶ余裕は無さそうだ。
なら僕がやるのかな。
「みみっくちゃん。
LVが上がったら『丸呑み』の収納力も上がる?」
「なんですかいきなり。分かんないですよ。自分でも良く分かんないですってば。
さっきもまさか口の中に入ると思いませんでした。本当どうなってるんでしょうね。でもあれはあまりやりたくないです。本当にお腹が裂けるかと思ったですよ…」
「そうか、もう一度試してみないかと思ったんだけど」
ショウマは天井付近を指さす。
そこには黒い翼が滑空してるのが見えていた。
「いいです。みみっくちゃんはいいですよ。少し休ませてください。こんなの連続してたら胃拡張になっちゃいます」
「ショウマさまっ」
「ケロ子。僕がやるけど、
アレが近付いて来たら頼んだよ」
「はいっ」
『切り裂く風』
ショウマは天井方向を観察する。
黒いのにダメージは与えた。
飛び方が不自然になってる。
でも倒しきってはいない。
『賢者の杖』はここが不便だな。
心の中に魔法は浮かぶ。
使える魔法が一気に増えて、どれがどのくらい強い魔法か分からない。
『旋風(つむじかぜ)』
黒いのが吹き飛び下に落ちて行く。
多分、単騎攻撃魔法の上位。
『LVが上がった』
『ミミックチャンは冒険者LVがLV3からLV4になった』
「やりましたねっ、ショウマさまっ」
「うん。
もう一匹いるね。
鳥だから一羽かな。
1匹いたら100匹いると思えみたいな?」
『荒れる颱風(たいふう)』
範囲魔法の上位。
だと思う。
黒いフクロウの魔獣が風の渦に巻かれ天井に叩きつけられる。
そのまま落下し岩の地面にも叩きつけられる。
『LVが上がった』
『ショウマは冒険者LVがLV14からLV15になった』
『ケロコは冒険者LVがLV8からLV9になった』
『ミミックチャンは冒険者LVがLV4からLV5になった』
「うーん
終わりかな」
良く働いた。
そう思うショウマだ。
みみっくちゃんが何故か呆然とした目でショウマを見ている。
「ご主人様…」
「うん?」
「みみっくちゃんを不条理な物でも見るかのような目で見るのはもう禁止です。ご主人様の方がよっぽど不条理です」
【次回予告】
現在自分の従魔少女は“毒蛙”少女と“宝箱モドキ”少女。
定番の狼少女とか猫耳少女がいないのだ。まだ魔獣で狼や猫を見てないし。
今日狐の魔獣がいる事が分かった。ならキツネ耳 キツネ尻尾少女が従魔に出来る可能性がある。
「うぅー お風呂はいいですね。それだけで人間型になってよかったと思えますよ
ご主人様 お次入りますか?」
次回、ショウマは胸をときめかせる。
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