クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第91話 イタチその3

公開日時: 2021年10月30日(土) 17:30
文字数:5,670

イタチは語ってる。

心に有ったことを吐き出してる。

小柄な少女に


「うーん。やっぱりイタチは魔獣じゃないと思いますよ」


何を言っている。

お前も見ただろう。

俺が四本足のケダモノになるのを。

狼になるのを。


「キバちゃん、キバトラやユキトだって獣化しますよ。獣毛が生えてケモノっぽくなります。

 そんな人は他にもいるんじゃないですかですよ」


いる。

いるがそれは顔に毛が生える程度。

爪や牙が伸びる程度。

羽根を広げてほんの少し飛んだり滑空できたりする。

その程度。

四本足になるようなものなどいないのだ。


「ホントウですか。村の全員に確かめたですか。

 実はイタチが知らないだけで四本足になる人もいたのかもしれないですよ」


違う。

そんな筈はない。

俺が四本足の狼から人間の姿になるのを見て、オンナノコは驚いたのだ。

怯えたのだ。

ケダモノ。

マジュウ。

そう呼んだのだ。

それが事実だ。


「オンナノコだって子供だったんでしょう。知らなかったのかもしれませんですよ。

 それに怯えたのは仕方ないですよ。ホンモノの“埋葬狼”に攫われたんでしょう。

 女の子が魔獣に暗い森の中へ攫われた。そこで出会ったイタチが四本足の獣から亜人の姿になった。

 一瞬驚いて、変に誤解してしまっても無理はありませんですよ。

 落ち着いたら違う事を言ってたかもしれませんですよ」


オンナノコが落ち着いたら。

落ち着いたらどうだと言うのだ。

ありがとう。

イタチが助けてくれると思ってた。

そんな言葉を言っていたかもしれない。

そう言うのか。

違う。

そんな事は無かった。

そんな事は起きなかったのだ。


何故なら。

オンナノコが落ち着く事は無い。

怯えたままだったのだ。

怯えたまま魔獣に嬲り殺されたのだ。


「そうでしたね。イタチは悦んで人を殺したんでしたね。

 嬲って痛めつけて悦びを感じる、それがイタチの本性なんですよね」


そうさ。

その通りだ。

俺は魔獣。

人間を嬲り痛めつけ喰らう。

そのために産まれた存在。

それが俺だ。


「フフフフフ。

 イタチ。

 イタチはただの亜人ですよ。

 アナタは魔獣を知らないですよ。

 魔獣は人間を喰らいますが、嬲って痛めつけて悦んだりはしません」


「人間を嬲って痛めつけて悦ぶのは人間だけです。

 それも人間の中でも下衆なニンゲン。

 イタチ、アナタのようなニンゲンだけです」


「アナタは本当の魔獣を知らない。

 魔獣と言うモノを少し教えてあげましょうですよ」


何だとキサマ。

何を言っている。

そう荒らげた声を出そうとしたイタチ。

しかしイタチは声を出せない。

目の前の少女を見てしまったからだ。


小柄な少女。

いや。

それは本当に少女だろうか。

少し長い前髪に隠れた目。

ツンとした鼻。

小さな口。

可愛らしい少女。

少し不思議な雰囲気を漂わせるが小柄な愛らしい少女だ。

そう見えていた。

さっきまでそうイタチの目にはそう映っていた。


でも今目の前に立っているモノ。

それは本当に少女か。

亜人か。

人間なのか。

目が有り、鼻が有り、口が有る。

さっきまでと何も変わらない。

でもそれは本当に人間の目か。

ヒトの鼻か。

亜人と同じ口なのか。


擬態と言う言葉が有る。

動物が攻撃や自衛等のため、身体の色や形を周囲の物や植物・動物に似せる事を言う。

例えばバッタの一種は動かないでいると枯葉そっくりになる。

カレイやヒラメは海底の砂地にいると周りの砂と区別がつかない見た目をしている。

タコの一種は独特だ。

幾つもの別の生物に化けるのだ。

二本の腕を広げ泳ぐとウミヘビのように見えると言う。

腕を全て同じ向きに揃え泳ぐとカレイに化けるのだ。

腕をワッと広げると 鰓に毒を持つ危険な生物ミノカサゴそっくりになると言う。

その名もミミックオクトパス。

正式な学名はThaumoctopus mimicus。


イタチにそんな知識は無い。

けれども感じた。

この目の前にいるモノは本当にヒトなのか。

この顔は、少女の体はホンモノか。

何かがそのように見せているだけのニセモノではないのか。

この目は本当に周りを見るための物か、、

鼻は呼吸をするため、臭いを嗅ぐために付いているのか。

口は食事を取るために有るのか。

目のように鼻のように見える何か別のモノではないのか。


目の前の少女は一瞬前の愛らしい少女では無い。

おそろしく非人間的なナニカ。


「うわああああ!

 何だ、オマエは何だ」


イタチは叫ぶ。

怯え慌てる。

男の大人のイタチが小柄な少女に怯えている。

客観的に見て滑稽な姿だと思うほどの余裕も無い。


「アナタが思っていた魔獣ですよ。

 そうなりたいと、自分が魔獣だったらと思っていたんでしょう」


辺りは森。

既に夜だ。

暗闇の中、少女の声が響く。


「知ってますか、イタチ。魔獣はねぇ、何もない所から産まれて何も無い場所へ消えていくんです。

 母親の胎内や卵からは産まれない。親も兄弟もいないんです。

 もちろん隣に家族はいないし、幼馴染のオンナノコもいないですよ」


イタチの周り中から聞こえる。

少女の声が木霊する。


「魔獣は人間を喰らい殺します。そう行動します。そういう存在だからです。

 そのように産まれた時から、発生した時から、存在した時からそのように有ったんですよ。魔獣に感情は無いです。人間を嬲り悦ぶ、そんな気持ちは持ち合わせていないんです」


「色の無い迷宮で産まれ、消えていくんです。そこには仲間も友達もいません。もちろん群れで行動する魔獣はいますが、それは仲間じゃ無いです。たまたま一緒に行動しているだけの存在。お互いを見分ける名前すらも無い。

 それが魔獣ですよ」


「それがどうした。

 だから何だと言うんだ。

 俺は人間に化ける魔獣だったんだ。

 アホウな亜人どもを騙してた。

 だから名前が有る。

 隣に家族もいた。

 ああ俺だってそいつらは仲間じゃない。

 そのフリをしていただけさ」


「となりのオンナノコもですか」

「それは…」


「アナタはオンナノコを助けに行ったはずです」

「それは…

 まだ自分の正体に気付いてなかったからだ。

 自分が魔獣だとは思ってなかった」


「イタチ、あなたは亜人ですよ。

 ただの亜人。

 獣化が他の亜人より少し進む。

 四本足にまでなる。

 それだけの亜人。

 話してみれば良かったんです。

 そんな人は他に何人もいたかもしれない」


違う。

違う。

俺は人間を殺す。

人間を喰らい、嬲り痛めつける。

そのために産まれて来た魔獣。


「じゃあイタチはそのオンナノコを喰らったですか」


それは…


「アナタはオンナノコを助けに来た。

 なのに勘違いして怯えられた。

 その事に逆上して、ついつい乱暴してしまった。

 顔を殴ったんですか。

 お腹を蹴ったんですか。

 首を絞めたんですか。

 それとも…

 それとも男が女性にする最低の行為をしたんですか」


違う。

違う。

俺は魔獣だから殺した。

人間を殺した。

それだけだ。

俺は魔獣だからそれは正しい行為なんだ。


「アナタは好意を持つ女の子に拒否されて逆上しただけ。

 それだけの最低男です。

 それで魔獣を名乗れば済むなんて 魔獣を舐めすぎてはいませんか」


「ホントウの魔獣。

 その力をアナタはもう知っている。

 思い出しなさい。

 さっき起きた事を。

 アナタが何処にいるのかを」


「うわぁ!あああぁぁぁ、あああああああぁぁぁぐわああぁあ!ああああああああ」

思い出してしまった。

イタチが今居る場所。

それは森では無い。

光の無い場所。

それは箱の中だ。


何が起きているのか。

目の前に有った箱。

箱の口が開き、何も見えない空間から何かがイタチを襲った。

狂暴な何か。

破壊のカタマリのようなモノ。

狂暴なケモノの顎。

恐ろしい肉食動物の毛むくじゃらの腕に囚われた。

そんな風に感じた。

イタチの力では抗えない暴力そのもの。

それはイタチを楽しみで害そうとしているのじゃない。

イタチを単にモノとしか捉えていない。

圧倒的な力の差。

イタチから見て圧倒的な力の差が恐ろしく感じるだけなのだ。

そこにはイタチを嬲ろうと言う欲望も、痛めつけようとする薄汚さも無い。

ただの力。

イタチを力そのものが捕らえる。

どこかにイタチの体が引きずり込まれる。

それは箱の中。

木の箱の中へイタチは引きずり込まれる。

「うわぁぁぁぁ、ああああああああああぁぁぁああぁああああぁああああああああ」

そんな馬鹿な。

箱はイタチより小さい。

その中へイタチが入って行く筈が無い。

だが引きずり込まれる。

圧倒的な力によって。

イタチはどこか分からない暗闇へ引きずり込まれる。


「どうです。これが魔獣です。圧倒的な暴力で人間を殺す存在。

 仲間を痛めつけて悦ぶ下品な男の言い訳に使われるのは心外」


「ああああああぁぁぁうあううううぁわああああああ!うううぅぁぁあうああああ」

少女の声が辺り中から聞こえる。

イタチの声は聞こえない。

悲鳴のような叫びが口から洩れている筈だが耳まで届かない。

イタチは落ちていく。

暗闇へ。

果ては見えない。

果てしなく落ち続けていく。


そうだ。

ずっと箱の中にいただけだ。

少女の声が響く。

目の前に少女が居るようなそんな気がしていただけ。

イタチはずっと箱の暗闇の中、引きずり込まれ落ち続けているのだ。


「イタチはアナタはつまらないオトコノコ。

 少しばかり頭が良くて、他の人を見下してる。

 だから同じ男の子たちと上手くやれない。

 その程度のどこにでもいる子供」


「言ってみればよかったんですよ。

 オレ四本足の狼になれるんだって。

 面白がられたかもしれない。

 気味悪がった人もいたかもしれない。

 でもキバトラは言ってくれたはずです。

 「おう、イタチすげぇじゃん。変わった特技じゃねーか。

  それで“埋葬狼”の巣から逃げ出してきたなんてオマエ凄いな」」


キバトラ、あいつが言いそうなセリフだ。

本当にその言葉をキバトラに言われたような気にすらなってくる。


「女の子だって言ってくれたかもですよ。

 「イタチ四本足になるの?

  プッ。

  変なの。

  ウソウソ、ジョーダンよ」

 

 「イタチ、イタチあなたなのね。

  四本足になるってジョーダンじゃ無かったのね。

  この前は変なのなんて言ってゴメンナサイ。

  だって、だからイタチはアタシを助けに来れたんだものね。

  誰も来ることが出来ない“埋葬狼”の巣まで助けに来てくれた。

  イタチ、本当にありがとう。

  アタシあなたがお隣の家に住んでてくれて本当に良かった」」


そんな事はオンナノコは言ってない。

でもあまりにもリアルにそのセリフがイタチの耳に聞こえてくる。

オンナノコが今、目の前で言葉を言っているような気さえする。


そんな事があり得た。

本当だろうか。

“埋葬狼”の巣から逃れた子供のイタチ。

イタチは怖くて逃げた。

自分が怖かった。

村人たちが怖かった。

自分はケダモノなのだと思った。

このケダモノめと言って村人たちが襲ってくる。

そんな気が毎日していた。

冗談にしてしまえば良かった。

笑い話にして打ち明ければ良かった。

そうすれば今頃オンナノコと笑っていられたのか。

はっ。

はははっはっははははっ。

くだらない。

そんな事は起きなかった。

そうはならなかった。

イタチはオンナノコにもキバトラにも打ち明けなかった。

オンナノコは他人と一切話さなくなったイタチと距離が離れていた。

キバトラは「大丈夫か」と尋ねてはきたけれど、イタチに近付こうとはしなかった。


「イタチ、可哀そうにですよ。これは同情してるんじゃないですよ。

 哀れんでいるんですよ。アナタに同情する事は出来ないです。

 だってアナタは何をしました。

 オンナノコに同じ村の娘たちに」


そうだ。

俺は。

俺は。


俺はオンナノコを殺したのだ。

いたぶって嬲って怯えるオンナノコをズタボロにした。

村の娘たちを売り払った。

変態の金持ちどもが買ったはず。

みんな今頃はおかしくなってるかもしれない。

あの店の地下で会った亜人の娘のように。

   

少し前までのイタチなら自慢するように言っただろう。

俺がやってやったと。

俺は魔獣だ。

魔獣として正しい事をしたんだと。

今のイタチにそんな事は言えない。


魔獣とは。

魔獣とはどんなものか教えられた。

圧倒的な力のカタマリ。

そこには弱いモノを苛む陰湿な喜びなど無い。

人を殺す、それはただの結果でしかない。


俺は。

俺は。

魔獣じゃ無かった。

ならば俺は何だった。

何をしてきたのだ。


「アナタはただの卑劣で矮小な男。ただのみじめな亜人。

 信頼できる友人も心の中を話せる相手もいなかった情けない子供のなれの果て。

 自分の歪んだ欲望で女達を傷つけて来た異常者。

 自分の罪悪感から逃れるため魔獣と言う言葉を使っただけの卑怯者。

 アナタなどに魔獣と言う言葉は使わせない」


少女の声が変わる。

イタチに寄り添うような、イタチの心の中を覗き込むような。

そんな語り掛ける響きはもう無い。

有るのは恐ろしい怒りの響き。

全てを断罪する怒りの化身。


「魔獣を騙ったな。

 魔獣を利用したな。

 ウソツキめ。

 オマエなどが魔獣で有るモノか。

 ワタシだ。

 ワタシが魔獣だ。

 ワタシこそが魔獣」


暗闇の中、怒りの声が響き渡る。

何も無い空間にいるイタチを断罪する。


「親の体内から産まれる生物では無いモノ。

 何も無い所から産まれ、

 何でも無いモノとして消えていく。

 あるべからざる力の結晶。

 人間に怖れられ、人間を殺すためだけに存在する迷宮のバケモノ。

 それが魔獣。

 それがワタシ。

 それこそがワタシだ」


イタチの周囲を大音響が木霊する。

怒りの響きがイタチを打ちのめす。


「キサマのような存在が魔獣を騙る事が許せると思っているのか。

 親の胎から産まれ、仲間に囲まれ育ったイキモノ。

 キサマが魔獣なハズが無い。

 キサマのようなモノが魔獣を騙るなど許される訳が無い。

 魔獣が許さない。

 ワタシが許さない」


すでにイタチは意識を保っていない。

俺は箱に呑まれ消化され消えていく。

消えかかる意識の中、何故かそんな風に思う。

俺はおれは…

俺と言う言葉の意味さえ意識からこぼれてゆく。

後には何も残らない。



【次回予告】

顔を隠す帽子を取ったら美青年だった。なんだよ。顔を隠して正体の分からない敵。実は美女でしたー。みたいなのを期待してたのに。ガッカリだよ。それはコザルさんがやってしまったか。いやネタかぶってもいいじゃん。何回やってもいいモノはいいんだよ。

「いや、もう勘弁しろよ。いくら何でも俺、働き過ぎだぞ」

次回、アラカワさんオーバーワーク。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)  

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