クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第49話 高速馬車にてその1

公開日時: 2021年9月18日(土) 17:30
文字数:6,354

コノハは衝撃を受けている。

これは何事なんだろう。


既に馬車は出発している。

クレマチスさんは御者席の方へ行ってしまった。


クレマチスさんが言ったのは冗談じゃなかった。

本当に馬車が一台、一行の専用に用意されていた。

馬車の中はコノハにとって驚きだった。


馬車の中にソファーが用意されてる。

家具に詳しくないコノハだけど、上等の品だろうと予想は付く。

背は意匠が施され、クッションは革張りでフカフカ。

後方には小さめだけどテーブルも有る。

テーブルも小型だけど、飾りの付いたオシャレな品物。

お茶やお菓子まで用意されてる。


これはコノハの知ってる馬車じゃない。

コノハが乗った時は、馬車の荷台にギュウギュウに荷物を詰めてた。

広い荷台をパンパンにしてある。

天井ギリギリまで積み上げ、ロープで固定するのだ。

馬車からみて後ろが荷物の乗り入れ口になる。

そこには多少余裕を持たせてる。

その空いたスペースに人が寝るのだ。

ギリギリ人が眠れる程度。

荷物はしっかり固定してあるとはいえ、横には馬車の天井まで積まれた荷物。

圧迫感が有って、寝るどころじゃなかった。


それがどうだろう。

荷物はほんの少しだけ。

並べられたソファーには睡眠が取れるように毛布やブランケットまで用意されてる。


 

「本当に私も乗っていいんですか?」


恐る恐る聞いてみる。

今からでも、別の馬車に行って荷物の後ろに乗るつもりのコノハだ。


「何をおっしゃってるんですか。

 ショウマ様から、6人と一匹と伺ってます。

 ご遠慮なく、さぁお飲み物は何がよろしいですかな」


飲み物まで勧めてくるキューピー会長だ。

コノハは紅茶を貰う。

ちなみに彼はキューピーとしか名乗っていない。

もしもキューピー・ルメイと名乗ったらコノハも気づいていただろう。

相手が誰かという事に。

気付いていたらお茶を貰うどころではなかっただろう。

帝国では最も有名な商会の会長なのだ。

しかしキューピー会長はショウマがルメイ商会を嫌がってるのでキューピーとしか名乗らなかったのだ。


「手伝いますっ」

とケロ子が飲み物を出すのを手伝う。

馬車には小型の冷蔵庫まで用意されてる。

紅茶もあればジュースもある。

おまけに酒らしき瓶まで有るのだ。


「よろしければいかがですかな」


キューピー会長がショウマに勧めてきたのは瓶に入ったドリンク。

葡萄酒だ。


「さっぱりした新酒も、深い味わいの古酒もありますよ」

「ありがとー」


ショウマは気軽にグラスに注がれたドリンクを飲んでしまう。

ぶとうジュースと思ったのだ。

あれ、これあんまり甘くないや。

葡萄酒を飲んだことが無いショウマだ。

ちなみにショウマの産まれた村でもブドウは栽培してる。

収穫祭や、葡萄酒が出来た時は子供でも少し飲んだりする。

子供にお酒飲ませちゃダメじゃん?という話は有るが、そうやってお酒を経験していくのだ。

辺境の村で、地元で葡萄酒を作っているのだ。

そこまでみんなうるさくない。

しかしショウマは飲んでいない。

だって収穫祭参加してないからね。


「御主人様は新酒ですか。ヌーヴォーってヤツですね。みみっくちゃんにはそっちの年代物をくださいですよ。あ、これは上等の品物ですね。迷宮に冒険者が持ってきてる安酒とはワケが違うですね」


みみっくちゃんはスッカリ我が物顔でくつろいでる。

ソファーに飛び乗ってクッションを堪能してる。

葡萄酒まで飲み始めてしまった。


「みみっくちゃんっ。それお酒じゃないのっ?

 ダメだよっ」

「ケロ子お姉さま。心配ご無用です。みみっくちゃん、これでも成人年齢ですよ。16歳です。その証拠に冒険者証だって持ってるです。こう見えてもお酒の嗜みは有るですよ。」


ええっ。

ミミックチャンさん、もっと子供かと思ってた。

コノハは驚いてる。


「みみっくちゃんはいざとなったら 体内でアルコール分解出来るです。気にしなくて大丈夫ですよ。

 ケロ子お姉さまが心配すべきはそこの一杯飲んだだけで真っ赤になってるオコチャマの方ですよ」


みみっくちゃんに言われてみてみれば、ショウマは真っ赤になってる。

アルコールが初めてなのにグラスを一気に飲んでしまったのだ。


危険なので読んでる人はマネしない様に。

ちなみにワインは飲みやすいなどと言われるが、アルコール度数は10~15%。

ビールが4%ほどしか無い事を考えると遥かに危険である。

飲み慣れない方はくれぐれもマネしない様に。


「おおっ、さすがお強いですな。

 ささっどうぞどうぞ」


キューピー会長はさらにショウマのグラスに葡萄酒を注ぐ。


「どうですかな。お二人も」


キューピー会長がさらに勧めたのはハチ子とハチ美だ。


「いや。気持ちはありがたいが遠慮しておこう。我らには王の護衛の任が有るのだ」

「王の護衛の任が有ります」


まだ警戒しているハチ子とハチ美である。

馬車内には魔獣、“妖狐”のタマモがいるのだ。

馬車の外には“八本脚馬”もいる。

従魔だと言うが、従魔師と結託して王を襲わないとも限らない。


「ケロ子殿、思うのだが我ら三人交替で王の警護をしないか。

 到着まで二日かかるという。

 さすがに不眠不休という訳にもいかない」


「そっか、そうだねっ。ハチ子ちゃん。

 じゃあ三人だから、8時間ずつ。

 二人は起きてショウマ様の警護、一人は休憩睡眠ってカンジかなっ」


「ちょっとちょっと。なんで三人交替ですか。みみっくちゃんはどうしたですか。

 みみっくちゃんのけものですか。員数外ですか。 

 ハチ子はともかく、ケロ子お姉さままでヒドイですよ」


「うるさい! お前は既に酔っぱらってるだろうが。人数に数える訳が無いだろう」

「数える訳が無いです」


言い合いを止めに入ったのはキューピー会長だ。


「お待ちください。警護なら専門の者が付いております。

 別の馬車、三台にそれぞれ護衛の者が乗っている筈です。

 皆様はゆっくりおくつろぎになられて大丈夫ですとも」


「フフン。というワケですよ。今はゆっくりと『野獣の森』攻略に備えて英気を養っておくのが賢い行動というモノですよ。みみっくちゃんには最初から分かってたですよ」


「ええい。キサマはもう口を挟まなくて良い。我らだけで考える。

 いいかケロ子殿。馬車には警護の者が居るとは言え、王を守る事が我らの仕事だ。

 やはり一人は必ず警護の担当を決めて置くべきだろう」

「う、うん」


「まぁまぁ、落ち着いて。

 ハチ子っち」


いきなりハチ子の首元に抱き着いてきた者がいる。

ショウマである。


「ショ、ショウマ王、

 ハチコッチというのは私ですか?」

「そうだよ。ハチ子っち」


顔が真っ赤なショウマだ。

出来上がってる。


「ハチ子っちが頑張ってるのは僕が知ってる。

 だから~」


ハチ子をソファーに抱き寄せるショウマ。


「今は一緒に飲もう」


葡萄酒の瓶を直接ハチ子の口に差し込む。

そのまま瓶を傾けるショウマだ。

ハチ子は目を白黒させているが、相手がショウマでは暴れる訳にいかない。


「ご主人様、ご主人様。その飲ませ方はさすがにまずいと思うですよ」


「姉様。王と一人でイチャイチャしてズルイです」

「イヤ、ハチ美。私はだな…ヒック」


一気に葡萄酒を飲まされたハチ子。

すでに顔が赤くなり、呂律が回っていない。 


「ハチ美も飲む~?」

「はい。ショウマ王、ご一緒します」


グラスを差し出すハチ美。

ショウマが葡萄酒を傾ける。


「アレ。もう無くなっちゃった」


呆れたことに葡萄酒の瓶を既に空にしている。


「はっはっは。

 これは愉快ですな。

 まだまだありますぞ

 さぁどうぞ。ショウマ様」


次の瓶を差し出すキューピーだ。


それを見ながらケロ子はそっと逃げ出す。

酔っぱらいは素面の人間から見たらみっともないモノだ。

混ざったらマズイと思ったのだろう。


「ケロコさん。こっちこっち」


コノハがケロ子を呼ぶ。

馬車の前方にあるソファーにコノハは避難してた。

タマモも一緒だ。


「酔っぱらいは危険ですからね」


タマモに隠れる、コノハとケロ子だ。


「うー。ショウマ王。

 私はですな…

 私は前から気になってたのです。

 何故ショウマ王は飛行する時、ハチ美にばかり抱かれるのです。

 私に抱かせてくれてもいいじゃないですか」


ハチ子はマズイ雰囲気になってる。

言っちゃいけない事を言い出すのが酔っぱらいと言うモノの特徴だ。


「姉様。偶然ですよ。たまたま。気にするような事じゃないです」

「えー。

 特に考えてないよ」


「またまた、ご主人様。ホンネはどうなんですか?」

「そうです。王はハチ美を気に入っておられるのでは?」


「まあ!ショウマ王。それならそうと言って下さればハチ美は…」

「違う!違う!ちぃがぁうぅー」


ショウマが抱えて移動してもらうするときハチ子を選ばなかった理由はハッキリしてる。


「だって、

 ハチ子の方がガサツそうだもの。

 抱えて飛んでもらったら、その辺の壁に足とかぶつけられそうじゃん」


普段なら包み隠すだろうが、露骨に言ってしまうショウマ。

酔っぱらってるのだ。

言葉を選ぶような高度なマネ、出来ないのだ。


「王。王はそんな風に私のコトを…」


涙目になってるハチ子だ。

一気にグラスを呷る。

ヤケ酒である。

飲み慣れない方はくれぐれもマネしないように。


「ハチ子がガサツなのは誰の目にも分かってることですよー。今さら傷つくような言葉ですか。傷ついてるアピールをご主人様にするのはカッコ悪いというモノですよ。ハチ子」

「ゲテモノ。貴様、傷ついてる姉様に追い打ちをかけるつもりですか。

 姉様は確かにガサツです。

 誰の目にもガサツです。

 しかし傷つく乙女心くらいは持っているのです」


ガサツ、ガサツ、ガサツ。

連呼されるハチ子。

言葉の槍で刺されてる。


「ハチ美まで…」

涙目からすでに涙の溢れ出してるハチ子だ。


うーん。

マズったかな?

少し気になるショウマ。

酔った足取りでハチ子の隣へと歩いてく。


「落ち着いて、ハチ子」


ハチ子に語り掛けるショウマ。


「ハチ子はハチ子でいいところが有る。

 いつでも前向きなとこ、努力家なところ。

 僕は分かってるから大丈夫」


普段ならなかなか言えないようなセリフ。

酔ったショウマの口からはポンポンと出て来る。

いつも酔っていた方がリーダーに向いてるかもしれない。

語りつつ、ハチ子が空にしたグラスに葡萄酒を注ぐショウマだ。


「お、王!」


「ショウマ王はやっぱり、ハチ子の王です。

 ただ一人の王です。

 ハチ子は全身全霊でお仕えします」


さっきまで涙を浮かべてたハチ子。

すでに涙は止まっている。

替わりにピンクのハートマークが浮かんでいる。


心の中が全部ダダ洩れである。


「うわー。これが噂のチョロインてヤツですね。みみっくちゃん生で見たのは初めてですよ。貴重なモノ見せていただいたですよ。感謝はしませんけど」


「まあまあ落ち着いてください。

 みなさん食べ物もありますよ。

 飲むだけは体に毒です。お食事も召し上がってください」


キューピー会長が如才なく立ち回る。

みんなに葡萄酒を振る舞いつつ、トークを繰り広げる。

さすがに経験豊富な中年男だ。

行った事の有る土地、名産品から観光スポットまで話題が広い。


「そうだ、ショウマさん。

 ご注文のフライドチキン、ご用意しましたよ」


キューピー会長がテーブルに出してきたのはショウマのイメージとちょっと違う。

ショウマがイメージしてたのはアレだ。

ケン〇ッキー。

手に取ってかぶりつくのにちょうどいいサイズのだ。

キューピー会長が出してきたのは1羽丸ごと揚げた鳥。

北京ダックみたいなヤツだ。


「うわ、

 すごい豪華。

 今クリスマスなの?」


葡萄酒片手にチキンにかじりつくショウマ。

みみっくちゃんも遠慮しない。


「おいしいですよー。揚げ鳥。皮を揚げたパリパリした部分と中のお肉の柔らかさが絶妙ですね」

 

「あれー、

 ケロ子はどうしたの?

 鶏肉好きだったハズ」


ピクン。

トリニクッ。

耳をそばだてるケロ子。

香ばしくも甘いいい香りも漂ってくる。

フラフラと誘われていくケロ子だ。


「あっ、居たいた。

 はい、どうぞ」


ショウマはケロ子にチキンを差し出す。

ついでに葡萄酒も差し出すのを忘れない。


「ケロ子お姉さま。これナイスに美味しいですよ。覚えて作ってください。

 お姉さまなら作れますですよ」


ホントウだ。

美味しい。

油で揚げてるだけじゃない。

香辛料が色々使われてる。

中のお肉もだ。

塩もみだけじゃない。

多分揚げる前に、タレに付け込んでいる。


そんな事を考えながら、ケロ子はお肉をパクつく。

ついでにグラスに入ってたドリンクも飲んでしまう。


「おい、お前。体が小さいのにいくら何でも食べ過ぎだろう」

「いくら何でも食べ過ぎです」


ハチ子、ハチ美も手を伸ばす。

二人のグラスにキューピー会長が葡萄酒を注ぎ足す。


「鶏肉はモモの部分は美容にいいって言いますよー。お肌のシミやシワを防いでくれるんです。ムネ肉は確か血圧の上昇を抑えてくれるですよ。

 ハチ美は外の揚げたとこばっか食べてますね。パリパリしてて美味しいですが、そんな油ばっかり食べてたら、あっという間に血管詰まらせますよー」


あれれ。

ケロ子はグラスを一杯飲んだら寝てしまった。

今はショウマの隣。

隣でショウマの腕に抱き着いて眠ってる。


「ケロ子、ケロ子。

 うーん。

 疲れてるのかな」


主に家事を担当してるのはケロ子だ。

お弁当も含めて3食作って、お掃除、お洗濯までしてる。

ハチ美やみみっくちゃんも手伝ってるけど。

中心はケロ子だ。

おまけに迷宮探索までしてたら疲れるだろう。

寝かせといてやろう。


「ショウマさん。

 ショウマさんは魔術師として活躍してるそうですな

 ぜひ、地下迷宮のお話伺いたいですな」


キューピー会長が葡萄酒の瓶を持ってショウマの隣に来る。


「地下迷宮かぁ。

 6階まで行ったし、ひと段落ってトコロ?」


そういや5階に一度も行ってないままだ。

7階以降は今後のお楽しみだな。

そういえば従魔少女。

最初は7人仲間にしようと思ってたんだっけ。

うーん。

“動く石像”少女に“石巨人”少女。

どっちもピンと来ないな。

やっぱり“野獣の森”だな。

動物がたくさんいるんだろう。

ケモ耳、ケモ尻尾が期待できそう。

 

「まだ気になる点も残ってたな。

 商人さんは言ってた。

 大きくなる研究をしてたんじゃないかと」


大きくなる研究。

あの大きいカエル。

それで造られたモノ?

なにも分からない。

していたとしても遥かな昔だ。

でもあの『大樹』。


「『大樹』も造られたのかな。

 迷宮の中の魔獣が造られた。 

 もしかしてアリとかハチも。

 遥かな昔の研究成果」


いーや。

この辺は考えてもどうせ分からない。

学者とか研究者が考えてくれる。

分かってもショウマにはあまり関係ない。


それより魔法だな。

こっちは今後のショウマの行動に大きく影響する。


「魔法ー。

 うーん、魔法ね。

 色々考えてるんだけど、まだ分かんない事多いなぁ」


「とりあえず、火属性と水属性、風属性は極めたじゃん。

 後何が有るんだろう。

 分かってるのは雷属性、海属性、木属性」


「そーだ。

 みみっくちゃん。

『野獣の森』行ったら木属性、ドンドン使ってよ。

 優先ね」

 

ガンッ

返事の代わりにみみっくちゃんからグラスが飛んでくる。

何すんの、何すんの。

と思ってるショウマとキューピー会長の間にみみっくちゃんが割り込む。


「あはははは。ご主人様ったら酔っぱらっちゃって嫌ですねー。

 キューピーおじ様。何か酔っぱらいが変なこと言ったかもしれませんがお気になさらないように」


「いえいえ。私は何も聞いていませんよ。

 それよりミミックチャン様。

 ミミックチャン様は魔術師だったのですね。

 冒険者にしては小柄な方だと思ってましたが、そうですか。

 魔術師でしたか」


聞いてないとか言いながら聞いてるじゃん。


【次回予告】

幾つか持っている。

人を思いのままに操る方法。例えば〇〇の実。これを精製すれば中毒作用のある薬が出来る。常用した人間は薬を手に入れるためなら親でも殺す。

「ブッブー。正解はみみっくちゃんにも分かりません!でしたー」

次回、みみっくちゃんは隙間に潜り込んで眠るつもりだ。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください) 


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