クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第66話 野獣の森入り口その5

公開日時: 2021年10月5日(火) 17:30
文字数:5,662

「スゴい気配です」


ハチ美が言った。

『野獣の森』の入って来た方角。

無数の魔獣の気配の中、ひと際目立つ力のカタマリ。


「ワタシも感じるぞ。

 これは手強いヤツだな」


ハチ子も言う。

従魔少女達はショウマと別行動。

今日は様子見だけでいいと言われてる。

そろそろショウマも『野獣の森』に入って来るかも。

気配を追いつつ、入口に向かおう。


少女達は一時間以上前に『野獣の森』に入ってる。

でもそこまで距離は進んでいない。

魔獣と戦ってるからだ。


今も“飛槍蛇”(ヤクルス)が木の上から狙ってる。

槍に似た尻尾を下に向けて攻撃準備。

蛇を貫いたのはハチ子の槍だ。


「フンッ。

 レベルアップしたワタシの槍からは逃れられぬぞ」


最初は驚かされたが、慣れてしまえば大した敵ではない。

ハチ子はカッコつける余裕まで有る。


「ショウマ王!

 ショウマ王の気配です」

「ショウマさまっ?」


ケロ子は当たりを見回す。

まだ見えるような距離じゃない。

ハチ美の頭の黒毛が反応してるだけなのだ。

迷宮を越えてまでは超感覚は効かないらしい。

ならショウマが『野獣の森』に入ってきたのだ。

少女達は入り口へ急ぐ。

誰が言い出した訳でも無いけれど早く行こう。

みんな従魔少女なのだ。

主と分かれているのは落ち着かない。


ユキトは早足になった女性たちに付いていく。

さっきまでみんな連戦で疲れていたハズなのに。

ショウマという男と合流する話になった途端、楽しげだ。

なんで?

ケロ子さんも。

さっきまで、警戒したキリリとした表情だった。

今は口元が緩んでいる。

目尻が下がってる。

ニコニコしてるのだ。

それはそれで、もちろん魅力的だけど。

なんか面白くないな。


ハチ美が焦り出す。


「急いだ方がいいかもしれません」

「ハチ美、どうしたですか?何か気になるなら素直にみみっくちゃんに言うですよ」


「先ほどの手強い気配と、

 ショウマ王の現れた場所。

 近いような気がするのです」

「なにっ!

 王に危険が迫ってると言う事ではないか」


最後まで聞かずにケロ子は走り出す。

ケロ子が一番早い。

でも呼び止められる。


「ケロ子お姉さま。ハチ美と行動して下さい。この辺は魔獣だらけ。単独行動は危険です。ハチ美は出来るだけ急いでケロ子お姉さまに付いていくです」


ケロ子は飛び出しそうになってる。


「お姉さま。正確な場所が分かるのはハチ美です。

 結果的に一緒に行った方が速いです」


そうか。

ケロ子は今勢いで走り出した。

でもそれがホントウにショウマさまへの近道?

方向がズレてたら?


少女達はだいたい、まっすぐ前方に進んだ。

だけど、ところどころには木が生い茂って通れない場所も有った。

その度に方向は変わってるのだ。


ハチ美ちゃんと一緒に行くっ。

それがショウマさまへの早道っ。

頷いて、ケロ子とハチ美は走り出す。


「おいハコ。ワタシも急ぐぞ。

 お前はゆっくり来い」

「ハチ子。ユキトくんはどうするですか?ご主人様の協力者ですよ。

 ハチ子がほっておいてケガしたなんて事になったら、ご主人様に怒られるのはハチ子です」


どうだろう。

ユキトがケガしたからと言ってショウマがハチ子を怒るか。

実際はともかく。

ハチ子的には納得いく考えだったらしい。


「ム、そうか。王の協力者の少年を守るのもワタシの使命だな。

 放っておくワケにもいかない」


「いいか。ユキト少年。

 できるだけ急げ。

 魔獣の相手はワタシがする。

 キミは急ぐことに専念するんだ」


「ハコ。お前も急げよ」

「さっきからハコと言ってるのはみみっくちゃんのコトですか。みみっくちゃんゲテモノからハコになったですか。うーん。ゲテモノに比べればレベルアップしたのかもしれないですね。昇格です。まぁいいとしましょう」



ケロ子は走る。

ハチ美も遅れまいと必死だ。


「キキッ」


声がする。

“火鼠”

ジャマ!

ケロ子は走りながら蹴りを入れる。

魔獣がピューっと跳んでく。

“火鼠”を攻撃するため、少し横にズレて戻る。

それでもハチ美より先に移動してるのだ。


「ンッ!」


ハチ美が足を止める。

弓矢を構える。

何かと思ったら。

“鎌鼬”

木の枝のところ。

ケロ子はジャンプしつつ、裏拳を入れる。

魔獣はアッサリ消えていく。

振り返るケロ子は鬼気に溢れてる。


「ハチ美ちゃんっ。

 気配がしたら言って。

 ケロ子が仕留める」

「ハ、ハイ。ケロ子殿」


普段ならハチ美も簡単には頷かない。

彼女だって戦士なのだ。

でも今のケロ子は普段のケロ子じゃない。

目が光を帯びてる。

背中から殺気が迸ってる。


「ショウマさまと強い魔獣の気配はっ?」


走りながら訊くケロ子。

息を切らしながら答えるハチ美。

そろそろ全力で走るのも限界そうだ。


「近づいてます。

 この方向でまっすぐ」

「魔獣とショウマさまの距離はっ?」

「近いです。

 至近距離かもしれません」


ショウマさまっ!


『身体強化』


ケロ子はそのまま、ハチ美の手を掴んで走り出す。


「ちょっ、ケロ子殿。

 まだワタシ走れます」


ハチ美はムリヤリ引っ張られてる。

ケロ子はさらに速度を増していくのだ。

ハチ美の足じゃとてもついていけない。

羽根で飛んでなんとかしようする。

けど、すでにハチ美の体は風圧で宙に浮いてる。


「ケロ子殿。

 怖い、怖い、やめて」


ケロ子は森の中を爆速で走っていくのだ。

大木と大木の間を走り抜ける。

枝の上を跳び超える。

まっすぐに前方へ走っていく。

ハチ美は既に涙目。

自分の体のすぐ横を太い木がかすめてく。

上に跳んだかと思ったら下へビュンビュン走るケロ子。

ハチ美は振り回される。

地面に叩きつけられそう。

地面に身体がぶつかるかという瞬間。

前に向かって飛んでいく。


「いやー。死ぬから、死んじゃうから」


ケロ子の耳には聞こえてない。

ただ少女は走ってく。

速度を上げて走っていく。

前しか見ていない。



「もうすぐ、そこ。

 そこです。

 ケロ子殿~。

 降ろして~」


ハチ美は泣き声だ。


「グガァアアアアッ」


ケロ子にも聞こえた。

吼える声。

魔獣の叫び。

ハチ美を降ろす。

繋いでた手をパッと放す。

ハチ美は地面に墜ちてオシリを打った。

腰をさすりながら涙目。


ケロ子は進みながら前方に目を凝らす。

見えたっ。

大きい二つの顔のケモノ。

魔獣の先には。

白いローブの人影。

居たっ。

ショウマさまっ。

見つけたっ。

会えたっ。

ケモノがショウマさまに近付いていく。

動きを速めてる。

ショウマさまに向かって行く。


「ショウマ王!」


ハチ美ちゃんが弓矢を構えてる。

それを背後に感じながら、ケロ子はもう走ってる。

全力疾走。

さっきまではあれでもハチ美に気を使っていたのだ。

今は何も気にしない。

相手はケロ子より大きい魔獣。

そんなコトも考えない。

今すべきコトをする。

それは走るコト。

魔獣の向きを変えるコト。

魔獣はショウマに向かってるのだ。


『体当たり』


ケロ子は全身で突っ込む。

最大最強クラスの魔獣に向かって。


「ショウマさまに何をするっ」


「ケロ子!」


ケロ子が来てくれた。

ショウマに向かってきていた“双頭熊”。

向きを横に変えてる。

強引にケロ子がぶつかって向きを変えたのだ。

今、“双頭熊”の視線の先に居るのはケロ子。

フットワークを使ってる。

軽い足捌き。

ケロ子は拳を上げてボクシングのような戦闘態勢。

魔獣と睨み合ってる。


矢が飛んでくる。

“双頭熊”目掛けて。

魔獣は前足で払いのける。


さっきも矢が飛んできてた。

ハチ美も来てるんだ。

どこだろう?

弓矢で狙ってるんだから、そんなに遠くないハズ。

キョロキョロするショウマだ。


矢に気を取られた“双頭熊”にケロ子は攻撃する。

下段回し蹴り。

右足を軸に左足に回転力を乗せる。

狙いは魔獣の足元。


「グガァッ」


“双頭熊”はグラついた。

3Mを超す体長、それを支える体重が少女の蹴りでグラつく。


クッ。

ケロ子はローキックを当てて、一度距離を置く。

思いっきり蹴ったのに、相手はグラついた程度。

“暴れ猪”ならブッ跳んでった。

『身体強化』を使った上で。

『体当たり』も喰らわせたのに。

それで向きを変えられた程度。

ケロ子は“双頭熊”を睨む。

この魔獣、強いんだ。


“双頭熊”は無傷では無い。

先ほど『体当たり』を喰らった時か。

足を痛めてる。

4本の前足、その一本が上がっていないのだ。

蹴られた右足も動きが鈍い。

しかし、まだ弱った風情ではない。


今度は“双頭熊”がケロ子を攻める。

3本の前足が襲う。

交互にツメをキラめかせながらケロ子に迫る。

ケロ子は素早く躱す。

『身体強化』で体も軽い。

躱しつつ、また足元にローキック。

魔獣がグラついたところで離れる。

声が聞こえたのだ。

「避けてね」

ショウマさまの声。

あれ。

全部躱したと思ったのに。

ケロ子の頬から血が流れてる。

爪がかすめたらしい。


『旋風(つむじかぜ)』


“双頭熊”はモロに喰らった。

ケロ子と攻防を繰り広げる魔獣。

『咆哮』する余裕は無いハズ。


“双頭熊”の前足が切れて落ちる。

肩から大きな切り傷。

やっとダメージを喰らわせた。

後、2,3発当てれば何とかなりそう。


「グワアアアアァッ!!ウグゥワアアアアァッ!!!ガァアアアアアアアア!!!!」


“双頭熊”が怒りの『咆哮』を上げる。

でももうショウマは怯えない。

ケロ子がそばに居るのだ。

見えないけどハチ美もいる。

相手は魔獣。

ただの経験値の元。


でもケロ子は大丈夫?


ケロ子は立ちすくんでもいない。

大丈夫そう。


「わああああっ」


と思ったら叫んだ。


「ショウマさまをキズつけようとしたなっ。

 絶対許さないっ」


何?どうしたの。

ケロ子。

気合を入れてるのかな?


ショウマの予想はだいたい合ってる。

ケロ子は“双頭熊”が叫び声をあげた。

その瞬間怖くなった。

相手はケロ子より大きい魔獣。

爪が光ってる。

二つの顔で睨みつけてる。

『身体強化』して『体当たり』したのに効かなかったのだ。

ケロ子より強い。

でも。

ショウマさまが見える。

ショウマさまが魔法で攻撃してくれた。

だから魔獣はやられてる。

腕を一本無くしてる。

負けるモノかっ。

ケロ子は逃げたくなる心を抑えつける。


「ショウマさまをキズつけようとしたなっ。

 絶対許さないっ」


声を上げる。

宣言する。

宣戦布告。

絶対引かない。


“双頭熊”が接近してくる。

4本の前足。

一本は失った。

一本は傷ついて動かない。

まだ動く手でケロ子を狙う。

二つの顔も近づく。

二つの口を開ける。

噛みついてくる。


「グウゥッ!」


顎の筋肉はハンパではない。

ヒグマの一種、グリズリーはボウリングの玉に噛みつき砕いて見せたと言われてるのだ。


ケロ子は避ける。

避けつつ、カウンター。

せり出してきた“双頭熊”の顎を狙う。

後方宙返り蹴り。

魔獣の頭が蹴り飛ばされる。


“双頭熊”と離れて、ケロ子は頬をぬぐう。

さっき切られたキズ。

思ったより深かった?

頬を拭った手は真っ赤だ。


あっ。

ああああっ。

ショウマはケロ子を見てしまった。

ケロ子が血を流してる。

頬が真っ赤になってる。


プチン。

何処かでなにかが切れた音がする


もう手加減無し。

手加減無し。

ちょうどみみっくちゃんもいないし。

周りのエリカやらコノハさんはパニック。

知ったコトか。

だいたい僕が何で魔獣に手加減しなきゃいけないの。

おかしいじゃん。


「ケロ子、避けてて。

 大きいのいくよ」


“双頭熊”は少し警戒した風。

ケロ子と睨み合ってる。

ケロ子は魔獣と睨み合う目線を外さずにどんどん離れてく。

手加減無しと言ったら手加減無し。



『絶対零度』



“双頭熊”が凍り付く。

周囲の木々が、枝葉が凍り付く。

足元の草も凍り付く。

音を無くした世界。

魔術師の声が響く。



『灼熱地獄』



輝く物が噴き上げる。

大地の中から。

魔獣を呑み込む。

ドロドロと溶かし尽くす。


数秒後、後には何も残らない。



コノハは何が起きてるのか良く分からない。

“双頭熊”が叫び声を上げた。

それから頭のシンがぼーっとしてる。

怖くてたまらない。

逃げなきゃ。

逃げなきゃ。

でも戦ってる。

誰か戦ってる。

魔獣と。

恐ろしい魔獣と。

かないっこない魔獣と。

ショウマさん?

ショウマさんが危険。

コノハが巻き込んだ。

ショウマさんには関係ないのに。

コノハが連れてきてしまった。

逃げなきゃ。

でもショウマさんも助けなきゃ。

目の前にタマモがいる。

タマモにくっついてれば安全。

怖さが薄れる。

逃げよう。

タマモと一緒に。

ショウマさんも一緒に逃げればいいんだ。

でも戦ってる。

誰か戦ってる。

恐ろしい魔獣と。

“双頭熊”と。

あれはケロ子さん。

怯える風もなく。

真っ向から魔獣に立ち向かってる。

コノハには出来ない。

そうだ。

コノハは逃げよう。

タマモと一緒に。

ショウマさんと一緒に。

この隙に。

ダメ。

逃げちゃダメ。

頭のどこかが言う。

ショウマさんは目の前。

ケロ子さんと魔獣は少し離れたところで戦ってる。

ショウマさんは戦いを見てる。

一緒に逃げよう。

そんなコトを言ってもムダ。

ぼーっとした頭でも分かる。

何?

なにか言った。

ショウマさんが。


いきなり辺りが静かになる。

ケモノの叫び。

ケモノが枯葉を踏む音。

戦う音。

音が消えた。

冷気がコノハの体を刺す。

寒い。

と思ったら熱い?

熱い。

何が起きてる。

目の前には輝く物。

ドロドロとした物が噴き上げてる。

地面から。

“双頭熊”は見えない。

熱気がコノハを襲う。

思わず目を閉じる。

次にコノハが目を開けるとそこには何も無かった。

森が、木々が広がってる。

さっきまでいた魔獣は影も見えない。

幻覚?

“化け狸”に化かされた。

そんなハズは無いけど…



『LVが上がった』

『ハチミは冒険者LVがLV7からLV8になった』 

『コノハは冒険者LVがLV5からLV7になった』


やっぱり幻覚じゃない。

幻覚だったらレベルは上がらない。


ショウマさんがケロコさんに近付いてる。


『癒しの水』



「ケロ子。

 キズ、キズは消えた?

 ホッペタ見せて」

「ショウマさまっ。

 大丈夫ですっ。

 治りましたっ」


「ホントウに全部治ってる?

 ホッペタ良く見せて」

「痛いですっ。

 ほお引っ張らないでくださいっ」


良く分からない。

良く分からないけど終わったんだ。

コノハは息を吐き出した。



【次回予告】

新ショウマである。真ショウマかもしれない。あるいは神ショウマかも。

ゲッ〇ーロボか。それはそれとして新しいショウマ、ショウマネクストは考えてる。

「ご主人様、ご主人様。お耳に入れたい事が」

次回、ショウマは生まれ変わるのか。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください) 

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