あれ。
だいたい終わってるのかな。
“妖狐”タマモと魔術師ショウマは男達を追ってきた。
ケロ子達が攫われたかもしれない。
ハチ子、ハチ美、エリカ、コザルが先に追ってる。
タマモが臭いを追う。
「クー、クオンッ」
「「もうそこだぜ。ご主人」」
目の前には男達。
三人の男が倒れたハチ美のそばにいる。
ハチ子は離れた場所で別の男と対峙してる。
ザコっぽいやられた男達が数人倒れてる。
あそこに倒れてるのは!
ケロ子とイチゴちゃん。
無事なの?
気になるけど、まず男達を何とかしてから。
ショウマは攻撃魔法を放つ。
『全てを閉ざす氷』
倒れたハチ美の周りにいる男達目掛けて。
普通に考えてコイツラがハチ美を倒したのだ。
ハチ美にケガは無さそうだけど。
許せる訳がない。
二人は凍り付かせた。
けど一人は逃げた。
「タマモ、ハチ美のところへ」
「クォンッ」
逃げた男は放っておいてハチ美に近付くショウマ。
タマモの背から飛び降りてハチ美を揺さぶる。
大丈夫?
「ああ、
心配するなよ。
薬だ、薬で眠ってるだけだよ」
男達の一人が言う。
下半身が凍り付いて身動き取れない男達。
「薬?
じゃあケガしてる訳じゃないんだ」
「睡眠薬?!
眠らせて女の子にエロい事するとか
エロ犯罪の典型じゃん。
AVじゃん。
サイアクじゃん」
安心すると同時に怒るショウマである。
怒り心頭である。
「ハチ美にエロい事したのはどっち?
凍らせただけじゃすまないよ」
「してない、してない。
俺は雇われただけだ
主犯はこのおっさんだぜ」
「あー、チェレビー裏切る気か」
「そうだ。
俺はもう降りるぜ。
あのイタチとか言うヤツのヤリクチには付き合いきれん」
「何だと?!」
「なあ、兄さん。
俺は降参する。
薬を飲ませたのは俺だが、寝てるだけだ。
みんなすぐに気が付く」
男の一人が言ってくる。
盾を持った男。
チェレビーとか言う名前みたい。
「仲間割れ?
悪役の仲間割れとかよくあるよね」
「仲間じゃねぇ。
俺は雇われただけなんだ。
俺の仲間たちはやられちまった。
治療してやりてぇんだ」
確かに見るとザコらしき男達はたくさん倒れてる。
傷を負って、呻いてる。
ハチ子やエリカ達がやったんだろうな。
「チェレビー、お前~。
許さんぞ。
おい、兄さん。
このチェレビーがさっき女にエロい事してたぜ。
口づけもしようとしてた。
俺は見たぞ」
口づけ!
キス?
ハチ美に!
「殺しちゃおうかな」
ショウマはヤバイ雰囲気。
手加減出来そうにない。
というか、手加減する理由も無い。
相手は敵。
でも人間。
人間だけどいーや。
殺そう。
「いや待て待て、
もうちょっと人を殺しちゃいけないとか葛藤しろよ。
悩めよ。
オマエ若いし、人殺したことないだろ」
「うん。
殺したことない。
でもお前は殺す」
ショウマの従魔少女に手を出したのだ。
その罪、万死に値する。
みたいな。
「違う、ホントウに違うってば。
治療したんだ。
俺、薬師なんだよ。
さっきのイタチがアンタの仲間の女の顔を傷つけたの。
俺は治したの。
助けたんだって。
信じろよ」
助けた~?
ウソっぽいな。
っていうか顔にキズ付けた?!
見ると寝てるハチ美の顔にうっすら切り傷。
確かに消毒しようとした跡がある。
それどころじゃない。
『癒す水』
どう。
傷痕は消えた?
ハチ美の顔をよーく観察するショウマ。
うっすら有った傷痕はキレイに消えてる。
「良かったー。
女子の顔に向こう傷とか。
そんなキャラ立ては要らないよね」
「キサマ。
何をする?」
安心するショウマの後ろで何かハチ子が騒いでる。
「どうしたの?ハチ子」
「槍よ」
ハチ子は槍を呼び戻してる。
手に武器を持ってなかったハチ子が槍を手にしてる。
もう一人の男に聖槍を突き付けているのだ。
「ショウマ王。
油断してはいけない。
コイツ、王を切ろうとしました」
言われた男は肩をすくめてる。
オレは何もしてねーぜというポーズ。
実際、男は刀を鞘にしまってる。
「アンタが神聖魔法を使うって人かい。
なぁ、オレも降参するぜ。
そっちの薬師と一緒だ。
どうも気乗りしない仕事だしな。
あのイタチも気に喰わん」
タケゾウは肩をすくめながらショウマを見つめる。
神官か。
どんなヤツかと思ったが面白い。
俺の殺気を無視して見せた。
あからさまな剣気。
剣で切ってやるぞという気合。
どんな人間だって反応せずにはいられない。
そんな殺気を叩きつけた筈だ。
オドシやフェイントだと分かっても反応せずにはいられない。
そういうモノだ。
隣にいた美人は反応した。
真っ青になって、俺と神官の間に飛び込んで来ようとした。
それなのにである。
この男は一切反応しなかった。
まったく気になりませんよ。
キミの殺気なんて屁でも無いですよ。
そう言って見せたのだ。
この男。
おもしろい。
タケゾウは笑う。
おもしろいヤツがいるじゃねぇか。
もちろんショウマは気づかなかっただけだ。
剣気なんて分かる訳無いじゃん。
なにそれ、美味しいの?
ショウマは思う。
うーん。
危険な場面と思って来たけど。
相手の男達はバタバタ降伏してくる。
こんな簡単でいいのかな。
もちろんいい。
簡単な方がいいに決まってる。
「聖者サマ!」
エリカだ。
縛られてる。
男達に縛られたらしい。
「コザル、コザルがやられたの。
治療してあげて」
あの忍者の人が。
そう簡単にやられそうにないけど。
ハチ子がエリカの縄をほどく。
ついでにその縄で刀を持った男を縛る。
男、タケゾウと言うらしい、は抵抗しないと言うけど一応ね。
チェレビーと紳士服の男は凍ってる。
すぐには身動き取れない状態。
そのまま放っておこう。
ショウマはコザルの手当てをする。
布装束のお腹の部分から血が滲んでいる。
槍で刺されたらしい。
コザルは動かないのだ。
エリカと一緒に布装束をほどいていく。
コザルは全身に包帯のような布を巻き付けている。
サラシってヤツかな。
これ服なの?
忍者装束?
全身に巻き付けられたサラシをほどいていくと見えてくる。
肌色の部分。
お腹、足、腕。
早いうちからエリカはそっぽを向いてしまった。
「アタシは見ない方がいいでしょ」
別にショウマだって医者じゃないのだ。
男の裸が見たいワケが無い。
そうだ。
脱がさなくても回復魔法使えばいいじゃん。
でももうほとんど脱がしてしまったし、傷がどうなってるのか良くわからない。
とりあえず傷だけは確認しよう。
なんだかやたらしつこくサラシが巻かれてる。
ただでさえ小柄な体だけど、それもサラシが巻かれた上でなのだ。
徐々に肌色が見えてくる。
脱がしてみると見えていた以上に小柄で細い体。
…
…
…
?!
胸がある。
女の子かも。
…
落ち着こう。
良くあるよね。
正体は分からない。
脱いでみたら女の子でした。
みたいな。
うん。
それだけの話だ。
うん。
といいつつ、ゆっくり裸体を確認するショウマ。
だって傷を確認しないとイケナイし。
傷はどうしたのか。
槍で貫かれたという傷は正直大した傷じゃない。
ちょっと刺された程度。
分厚いサラシに阻まれていたのだ。
出血はしてるみたいだけど、傷は大したことない。
コザルさんはビックリして気絶しちゃったんだろう。
ショウマの視線はお腹の傷よりもその上の柔らかそうな胸や腰の部分に吸い寄せられている。
「まだなの?
聖者サマ」
エリカが言う。
しまった。
忘れてた。
『癒しの水』
ショウマは回復魔法を使う。
ランク1。
それで足りてそうな小さい傷。
でもコザルさんは気を失ってる。
意識を失ってる女の子の裸体をじっくり眺めるのは罪悪感があるね。
そろそろ目をそらしてサラシをまた巻いてあげよう。
さんざん観察した後で今さらかいっ。
というヤツである。
「うーん」
コザルさんの口から洩れる。
うめき声。
「気が付いたの、コザル」
エリカが振り返る。
良かった。
間に合った。
サラシはある程度戻っている。
コザルさんの裸体をショウマがじっくり眺めたのは内緒。
「聖者サマ、傷はどうだったの?」
「思ったより小さい傷だった。
もう魔法使ったから大丈夫だと思う」
「そうなの、良かったわ。
ありがと、聖者サマ」
いやいや、こちらこそ。
良いものを拝ませていただきました。
みたいな。
さてケロ子とイチゴちゃんも寝ている。
眠り薬を喰らったはず。
回復魔法で起きるのかな。
「薬だろ。
2~3時間程度の効き目なんだ。
村で使った娘はそろそろ目覚めるはずだぜ」
そうか。
んじゃハチ美だけ何とかしようかな。
いや、それ以前にみみっくちゃんとコノハさんはどこだろう。
「ハチ子、みみっくちゃんとコノハさんは?」
「ショウマ王、まだ確認できてないんだ。
我らが見たのはケロ子殿とイチゴちゃんだけだ」
ショウマは紳士服の男とチェレビーを睨む。
どこにやったのさという視線。
二人は首を横に振って見せる。
違う違うというポーズ。
「イタチだ。
イタチのヤツが隠し持ってるぜ。
名前は知らんがあと二人」
チェレビーが言う。
イタチ。
さっきまではいたな。
背の高い、性格悪そうな男。
タマモが言う。
「クオォーン」
「「ご主人。臭いで追うぜ」」
どうしよう。
他の人達を回復させた方がいい?
寝ているだけだから放っておいて、コノハさんみみっくちゃんを探すべきかな。
「僕らは行ってくる
後はよろしく頼んだ」
紳士服の男、チェレビー、タケゾウは縛っておいて。
寝てるケロ子、イチゴちゃん、ハチ美、コザルさんを見ておいて。
起きてるのはハチ子、エリカ。
ちょっと不安なメンツだけど。
まぁなんとかして。
辺りは夕暮れを越えて暗くなっている。
ショウマにはもう回りが見えないがタマモは分かるみたい。
タマモは小道を外れ木々の中を進む。
「ご主人。
ここから『野獣の森』に入ったみたいだ」
タマモが森を見ながら言う。
木々が絡み合った通れそうにない場所だ。
「どう見ても通れそうにないけどな」
「オレ分かる。
ここに綻びがあるんだ」
良く分からないけどタマモから見ると通れるみたい。
【次回予告】
タマモがガバッとコノハさんの服をまくり上げる。いや傷口が見えるくらい。そっと服を上げてくれれば良かったんだよ。タマモは服を一気に上まで上げてる。コノハさんの顔が隠れるくらい。見えてる。見えてる。
「ふ、ふぁい。お願いします」
次回、コノハは顔色が良くなる。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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