クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第65話 野獣の森入り口その4

公開日時: 2021年10月4日(月) 17:30
文字数:4,519

“双頭熊”がエリカを狙っている。

前足で突き飛ばされた女冒険者エリカは態勢を崩してる。

“双頭熊”の目の前だ。


マズイ。

木の上から見ていたコザルは反応する。

コザルは忍者。

エリカのフォローが任務なのだ。

エリカは鉄の胸当てを着てる。

魔法効果の有る武具。

その効果は防御じゃない。

速度上昇なのだ。

火や風、魔法に似た攻撃を飛ばしてくる魔獣が多い。

それを避けるにはちょうど良い。

しかし今エリカは態勢を崩してる。

“双頭熊”の攻撃を避けられない。



『変わり身』



“双頭熊”の右前足がエリカを襲う。

凶悪なツメが煌めく。

その瞬間。

魔獣の前に居たのは鉄の防具を着た戦士では無かった。

布装束の小柄な人影。

“双頭熊”の前足が攻撃したのはコザルであった。


あれ。

エリカと言う少女がデカイ熊に向かってった。

外見がコワイだけで大したコトない魔獣?

と思ったらヤラれた。

ええっ!

何してるの?

バカなの?

“双頭熊”ってヤツは攻撃準備。

図体がデカイ魔獣。

どう見ても攻撃力は高いだろう。

エリカが切り裂かれる。

魔法使うべき!

でも距離が近すぎる。

その瞬間。

エリカが居なくなる。

ショウマの隣に現れる。

瞬間移動?!

いや、替わりに誰かいる。

布装束の人。

コザルと名乗った忍者だ。

忍者スキル?

忍法キター。


コザルは“双頭熊”の前足を避ける。

エリカのいた場所に現れたコザル。

攻撃が至近距離過ぎた。

爪がかすめる。

それだけで布装束が切り裂かれる。

シャレにならない。

後ろから聞こえる。


『切り裂く風』


そのまま後方宙返り。

素早く魔獣から距離を取る。


ミチザネの魔法だ。

普通なら味方に当たりかねない。

コザルなら避けて見せると知っての攻撃魔法。

“双頭熊”はモロに喰らった。


獣毛が散った。

でもダメージが大きいようには見えない。

人間達を睨んでる。


風魔法だ。

“火鼠”や“化け狸”なら一撃で倒せる。

“暴れ猪”だって二発モロに喰らえば倒れるのだ。

“双頭熊”は?

血すら流れてない。

前足で顔を守っていた。

守った前足から獣毛が散っている。


「クゥー クォーーン」


タマモの『マヒの遠吠え』だ。

タマモ、ナイス。

動かなくなっちゃえばこっちのモノ。

そう思うショウマ。


「ガァッ!グワアアアアッ!!」


“双頭熊”が恐ろしい叫び声をあげる。

タマモより大きい声だ。


「タマモより体の大きい魔獣には、

 マヒはかかりにくいんです」


平気みたい?

コノハさんが解説してくれる。

体もだけど声も10倍大きいよ。


『氷撃』


ショウマも魔法を使う。


「グワアアアアッ!!」


ええっ!

雄叫びでかき消された。


理屈は良くわかないけど。

“双頭熊”の叫び声で魔法が消された。

そんな風に見えた。


“双頭熊”が攻撃してくる。

一番近くに居た相手。

コザルにだ。


右前足。

左前足。

右中足。

左中足。

それぞれ爪をキラめかせ、コザルを襲う。

が、器用にコザルは避けている。

素早い。

魔獣の攻撃も決して遅くない。

しかも4本の腕が交互に襲うのだ。

それを全てかいくぐってる。

距離を取って“双頭熊”に苦無を投げる。

しかし魔獣も腕で払いのけて見せた。

ショウマから見ると目にも止まらぬ攻防というヤツだ。


「聞いた事が有ります。

 “双頭熊”は『咆哮』で魔法をツブしてくると」


ミチザネだ。

ショウマのとなりに居た、エリカに近付く。


「エリカ様。薬です」

「ありがと。貰うわ」


エリカは回復薬を飲む。

腕のキズが消えていく。

エリカは剣を構える。

さっきはヤバかった。

“双頭熊”と分かっていれば、こっちだって。



『疾風の剣』


コザルに気を取られてる魔獣を後ろから狙う。

剣で突き刺す。


「ハァッ」


速度を上げてズバズバ切り込む。

エリカが着ている胸当ては速度上昇効果が有る。

剣のスキルは素早く何度も攻撃する技。

相乗効果で素早さも攻撃力も高まる。

エリカなりに工夫、研究した技なのだ。

上手く当てれば“暴れ猪”くらいなら一発で倒せる。


“双頭熊”は最初の一撃を喰らった。

だがその後は振り向き、避けたり前足でガードして見せる。

こちらの攻撃が止んだ瞬間。

魔獣の前足が一閃。

前足の一撃がエリカを襲う。

なんとか避けた。

けど爪が空気を切り裂く音が横をかすめた。

これ、喰らうとヤバい。

さっきは一撃で鉄の胸当てが変形してるのだ。


「その『咆哮』への対抗策は有るの?」

「おそらく、魔法を消せるのは一つまで。

 同時にいきましょう」


エリカは一度後ろに逃げてる。

魔獣から距離を置く。

今度は逆側からコザルが苦無を“双頭熊”に突き刺した。

魔獣はまたコザルに気を取られてる。



『切り裂く風』


『氷撃』



ミチザネの風魔法。

ショウマの水魔法。


どちらも当たった。

獣毛が切れて宙を舞う。

血が流れてる。

前足が凍り付いてる。

身動き取れないほどじゃないけど、攻撃は鈍くなったみたい。


そうか。

コザルに攻撃してても『咆哮』は使えない。

なら同時にドンドン攻撃していけば。

勝機が見えてきたみたい。

相手は攻撃力も体力もありそう。

でも複数で注意して戦えばいいのだ。


“双頭熊”がショウマとミチザネに目を向けてる。

今度はコザルからショウマ達へ標的を移したみたい。


「グワアアアアッ!!ウグゥワアアアアァッ!!!ガァアアアアアアアア!!!!」


魔獣が雄叫びを上げる。

森が震撼してる。

そんな錯覚を覚えるほどの怒りの『咆哮』。


前に居たタマモがビクンとする。

コノハとショウマを守るように前をうろついて“双頭熊”を睨んでいた“妖狐”。

それが頭を垂れている。


「クゥゥキューン」


「に、逃げましょう。

 エリカ様。

 ここは逃げるべきです。

 相手はベテラン冒険者でも返り討ちに遭う魔獣。

 逃げてもなにも恥ずかしくない」


ええっ。

さっきまで態度の大きかった魔術師がいきなり小さくなってる。


「そうね。

 ミチザネの言う通りかも」


“双頭熊”に恐れげなく斬りかかってた女戦士。

エリカまで逃げだしたがってる。

あからさまに足が震えてる。

二人とも目がグルグル渦巻!

様子がおかしい。


コノハがショウマの腕に抱き着いてくる。


「ショウマさん」


ええっ。なになに?

コノハの体は震えてる。

腕にくっついてる手がガタガタしてるのだ。

顔は血の気が引いて真っ青。

目がグルグル渦巻になってる!


「恐怖!

 恐怖状態になってる。

 みんなやられてる!

 しばらくまともに攻撃できない」


コザルの声だ。


恐怖!

状態異常か。


「コザルさんは平気なの?」

「コザルは状態異常にかかりにくい。

 平気だ」


“双頭熊”がショウマ達に向かってくる。

怯えてるタマモやミチザネはいいエジキだ。

ショウマは言う。


「避けてて。

 大きいのいくよ」


コザルは上手く避けるだろう。

エリカは…しょうがない。

凍ったらあとで溶かす。



『全てを閉ざす氷』



ショウマの前方に有る物が凍り付く。

草が凍る。

木が凍る。

全てが動きを止める。


しかし


「ウグゥワアアアアァッ!!」


『咆哮』を上げる魔獣。

“双頭熊”の前で氷が割れる。

魔獣の左右は凍り付いてる。

そのさらに後ろまで。

しかし“双頭熊”のその周りは凍っていない。

見れば魔獣も薄く全身に白い氷は付いてる。

でもその程度。

ダメージがあるのかどうかレベル。

魔法の効力、そのほとんどをツブして見せたのだ。


「ええっ!

 何それ。

 チート魔獣?」


タマモは脇に避けてる。

ショウマの避けててという言葉に従った。

コノハはタマモに抱き着いてる。

怖い。

“双頭熊”だ。

昔もベテラン冒険者がこの魔獣にやられたのを見た。

ショウマさんの魔法。

無敵のような効力だと思った。

数十人の冒険者を凍り付かせる。

“暴れ猪”を一撃で倒す。

でも甘かった。

“双頭熊”には通用しなかったんだ。

“双頭熊”がコノハを睨んでる。

走ってくる。


熊は速い。

大きいケモノは鈍重。

そんなイメージは熊には通用しない。

ヒグマは時速60KMで走ると言う。

キツネより速いのだ。

シカに真っ向速度勝負を挑める。

最大クラスの重量。

最強クラスの攻撃力。

加えて速度まで有る獣なのだ。


コノハはタマモに抱き着く。

怖い。

“双頭熊”がこちらを睨んでる。

恐ろしい、大きい魔獣が襲ってくる。

コノハが、タマモが一撃で殺される。

いや。

頭の片隅で分かってる。

魔獣の狙いはショウマさん。

“双頭熊”を少しだけだけど凍らせた。

厄介な敵と認めたのだ。

コノハは怯えてる。

恐怖でまともに体が動かない。

でも頭の片隅で理性が働く。

まずい。

“双頭熊”が突進してくる。

怖い。

でも狙いはコノハじゃない。

隣にいるショウマさん。

でも怖い。

ショウマさんは大丈夫なの?

でも怖い。


『荒れる颱風』


暴風が吹き荒れる。

落ち葉が風に舞い上がる。

小枝が吹き飛ぶ。

近付いてきた魔獣が動きを止める。


「グワアアアアァッ!!!」


『咆哮』


“双頭熊”は獣毛が切れて舞った程度。

ダメージを全部は殺せてない。

でもほとんどを消してる。

ケガも小さい。


まずい。

僕も恐怖状態になったかも。

ショウマはビクついてる。


“双頭熊”がショウマを睨みつける。

二つの頭から四つの赤く燃えた目玉が睨みつけるのだ。

四本の前足にギラギラとした爪が見える。

巨大な体に盛り上がった筋肉。

相手は悪夢の中のバケモノだ。


「状態異常?

 ホントウにコワイだけ?」


区別はつくのかな。

そんなコトを考えてるショウマ。

余裕あるじゃねーか!

そんなツッコミは当たらない。

現実逃避だ。

見ればショウマの足は震えてる。

目は左右を窺ってる。

逃げ場を探してる。


思い出してしまった。

ショウマは体力も防御力も最低レベル。

一発喰らったら死ぬんじゃね。

そういう状態なのだ。


ケロ子が、みみっくちゃんが。

ハチ子が、ハチ美がいてくれれば。

従魔少女が居れば怖くなかったハズ。

何故、全員別行動させてしまった。

僕のバカ、バカ。


『咆哮』を上げるため動きを止めていた“双頭熊”。

魔獣はまた走り出す。

ショウマに向かって。

“双頭熊”が突進する。


コザルが苦無を投げる。

ショウマの範囲魔法からは上手く逃れたらしい。

ついでにエリカも連れて避けたのだ。

苦無が“双頭熊”に刺さる。

だが気にも止めない魔獣。

魔術師に向かって走る。

その攻撃力は鉄の胸当てを一撃で歪ませる。

魔術師の着てる革のローブなど軽く引き裂くだろう。

ローブを着ていた人物ごと。


「ショウマさん!」


コノハの叫び声が上がる。



その時。

どこかから聞こえた。


『体当たり』


『一点必中』



走ってくる。

爆速で。

矢が飛んでくる。

“双頭熊”の頭目掛けて。

普通なら矢など無視して走る魔獣。

だが、“双頭熊”は払いのける。

何故なら矢は魔獣の目をキレイに狙ってる。

払いのけなきゃ目玉をツブされる。

突進を止めた魔獣に何かがぶつかってくる。

恐ろしい巨大な魔獣に躰でぶつかってくる。

“双頭熊”より小さい。

遥かに小さい少女。

だが、魔獣が態勢を崩される。

魔術師に向かってた魔獣の向きが強引に変えられる。

“双頭熊”の前に立つ少女。

戦士姿の従魔少女。


「ショウマさまに何をするっ」


ケロ子が立っていた。



【次回予告】

“双頭熊”が叫び声を上げた。それから頭のシンがぼーっとしてる。怖くてたまらない。逃げなきゃ。逃げなきゃ。でも戦ってる。誰か戦ってる。魔獣と。恐ろしい魔獣と。かないっこない魔獣と。ショウマさん?ショウマさんが危険。コノハが巻き込んだ。ショウマさんには関係ないのに。コノハが連れてきてしまった。

「いやー。死ぬから、死んじゃうから」

次回、ケロ子の耳には聞こえない。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください) 


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