ケロ子は湖の淵に立った。
シャツにハーフパンツの軽装。
地下迷宮の中は地上より少し温度が低い。
肌寒さを感じるけど震えるほどじゃない。
泳ぎやすそうな服を選んだ結果だ。
「うう、なんでこういう時に水着無いの。
どこに行けば売ってるの?
踊り子さん探して交渉してみる?
きっと危ない水着持ってるよね」
ショウマさまはケロ子には分からない事を言っている。
「ケロ子一人で大丈夫かな?」
「仕方ないじゃないですか。まともに泳げるのがケロ子お姉さまだけなんですから。みみっくちゃん、泳げるというか水に浮くことは出来るです。
でも潜るのは出来ないです。背負ってる木箱のせいかプカプカ浮いちゃいます。」
みみっくちゃんはお風呂場で試してみたらしい。
どうしても沈むことが出来ないと言ってた。
「ケロ子大丈夫ですっ、カエルさんを探すだけですっ」
「うん、居るかどうか探すだけでいいから。
特に大きいカエル。
戦闘になりそうなら逃げておいで」
ショウマさまが不安がってる。
大丈夫なのにな。
「ケロ子、行きまーすっ」
ケロ子は湖の中に飛び込んだ。
だってショウマさまがここに居るのが分かってる。
ケロ子は絶対ショウマさまのところに戻ってくる。
だから大丈夫だ。
【クエスト:『毒消し』を手に入れろ】である。
本当にクエストが発生したわけではない。
ショウマがそう思ってるだけなのだ。
「カエルの喉が毒消しの材料になるそうですっ」
「胃袋は毒の抵抗薬になるそうですよ。毒状態にかかったモノを治療するのが『毒消し』です。『毒抵抗薬』は先に冒険者が飲んでおくと、毒の攻撃を受けても毒状態にならないというスグレモノなんです」
ケロ子とみみっくちゃんが情報を仕入れてきたのだ。
従魔師と名乗る女性コノハと一緒に買い物をした。
ショウマはどの装備をつければ従魔少女達がエロカッコ良く見えるか選ぶのに必死だった。
その間ケロ子達はコノハとコミュニケーションを取っていたらしい。
コノハは薬師の勉強をしていたそうで、『毒消し』の作り方も知っていた。
「ワタシまだ薬草から回復薬しか作った事無いから。『毒消し』の作り方は聞いた事があるだけなの」
それでよければと断って、コノハが教えてくれたらしい。
主人に変わって情報収集してくる勤勉な従魔少女達である。
現在ショウマは『巨大猛毒蟇蛙の喉』『巨大猛毒蟇蛙の胃袋』を持っている。
「これでクエスト達成?
もう少し数が要るかな?」
『カエルの死体』×5でショウマは階級(クラス)アップとなった。
『巨大猛毒蟇蛙の喉』『巨大猛毒蟇蛙の胃袋』は大きい。
『カエルの死体』より大きいのだ。
サイズ的にもっと『毒消し』を作る事が出来そうな気もするが、確証は無い。
ショウマ達の棲んでいる隠し部屋は湖のすぐ裏だ。
湖でまた大きなカエルを倒せれば一番楽である。
5体くらい倒せればベストだよね。
さもなくば“毒蛙”だ。
こちらは稀にしかドロップしないと言うのだから大量のカエルを倒す必要が有る。
「みみっくちゃんさー」
「何ですか、ご主人様」
「今後迷宮で“宝箱モドキ”と遭遇して戦いになったらどうする?」
「倒しますよ」
「………」
「ご主人様。余計な気遣いは無用です。みみっくちゃん元は“宝箱モドキ”だったかもしれませんが、今は人間です。亜人でしたっけ。亜人モドキの従魔少女です。
特に躊躇いは無いです。“宝箱モドキ”は“宝箱モドキ”同士仲間だったりしたことも無いです。むしろ迷宮と言う過酷な生存競争の場における敵、競争相手というべき存在です
みみっくちゃん“宝箱モドキ”の時の記憶は無いですが、というかその時はそういう事を考えるだけの意識も無かったと思いますが、その時点でも戦いになったら普通に戦って倒していたと思います。まぁ倒されていたかもしれませんが…
ほら人間同士だって、戦い合うし、殺し合うじゃないですか。それと一緒です」
「そうだね。
分かったよ」
みみっくちゃんはそう言うけれど
でもやっぱり…
ケロ子をカエルと戦わせるのは出来るだけ避けよう
向こうが襲ってきたなら仕方ない
でもわざわざ“毒蛙”を選んで戦う事は無い
ショウマはそう思う。
「ぷはっ」
ケロ子が湖から上がってきた。
「ダメですっ。
大きいカエルさんいないですっ。
湖の底が見えるとこまで行きましたっ」
巨大カエル身長50Mはあったと思う。
あのサイズなら見逃したという事は無いだろう。
“毒蛙”なら少ないけれど居るらしい。
ケロ子が集めて来れば20匹位なら捕まえられるそうだ。
「いいよ。
稀にしかドロップしないらしいし、
それだとどうぜ足りてない。
やっぱり4階に行ってみよう」
ショウマは4階に行く事にした。
女冒険者カトレアは『花鳥風月』の副リーダー・ガンテツに報告している。
顔面傷だらけのオッサンだ。
「そうか、剣士の方は辞めたか」
「ああ、自分には警備の仕事の方が向いてるってさ」
「まぁしょうがねえな。
“闇梟”だっけか、俺も名前だけは聞いた事があるぜ。
もうすっかり忘れてたけどな」
「ウチもあんなのに一階で出くわすとは思わなかったよ。
下の階なら警戒してたんだけどね」
結局新入りの剣士は辞める事になった。
元々テスト期間中だ。
テストをリタイアという訳だ。
ガンテツはしょうがねーなの一言で、もう新入り剣士の事は考えない事にしたらしい。
冒険者志望として迷宮都市に来た連中の5割は最初の一ヶ月で諦めて去っていく。
残った5割も半分以上が三ヶ月でいなくなる。
今も迷宮都市に居るのはそこを潜り抜けて来た冒険者達なのだ。
今回は少しばかり早かった。
それだけの事だ。
うす暗い迷宮の中で一日中得体のしれない魔獣と戦う。
そんな仕事に慣れる人間は少ない。
冒険者を続けてる連中のほうがおかしいのかもしれない。
「従魔の方はどうだ?」
「“妖狐”のタマモは使えるね。
マヒ攻撃をどんどん試したいよ。
3階や4階でも通用するなら即戦力だ」
「確かにな。
複数で襲ってくる魔獣をマヒさせて、
一体ずつ仕留められるとなりゃ美味しすぎる能力だ」
「従魔師コノハの体力が心配だね。
今のままじゃ3階まで歩くだけでへたばっちまう」
「そりゃ地道に鍛えるしかねーな。
何ならお前がおんぶしていきゃどうだ」
「コノハは体力無いけどね、いい特技がある事が分かったよ。
薬師の勉強をしてる。
薬草から回復薬を作れるんだとさ。
あたしも分けてもらった。良い薬だよ」
「………」
「なんだよ、ロハで回復薬作ってもらえりゃ御の字じゃないか」
「そりゃ、そうなんだがそれは冒険者の能力じゃねーな」
「なんでさ?」
「あのな、薬師の能力が上がってきてみろ。
専門の薬の店を出すだろ。
冒険者を辞めるって事だ」
そうしたら“妖狐”タマモも自動的に『花鳥風月』を辞める事になる。
タマモとコノハだけで薬草を採集して、店で売ればいいのだ。
「カトレア、ちゃんと従魔師と話して信頼関係築き上げとけよ」
「リーダーってのは色々考える事が多くて面倒だね」
「それこそおんぶでもしてやりゃいいんじゃねーか」
「ウチがコノハをオンブしたらセクハラになっちまうよ」
「明るいですっ」
「キノコが光ってますね、みみっくちゃんビックリです」
ショウマたちは地下3階に来ている。
2階の分岐点から右に進むとそれほどかからずに3階への階段に辿り着いた。
降りて見れば草の生えた草原地帯であった。
コケやキノコが光を発しており、地上ほどではないが『明かり』を必要としないくらいには明るい。
今回は4階に行くことが目標だ。
初めて行く場所である。
にもかかわらず他の冒険者から情報集めを一切していない。
そんな所は変わってない。
進んでいくと、林や高く生えた叢によって歩けない場所も多い。
植物の迷宮となっていた。
「箱根に草で出来た立体迷路有ったよね。
子供のころ行ったことある~」
ショウマはのんきだ。
ほらほらのんきな事を言ってると魔獣に襲われるのだ。
「なにこれ、鎧の怪物。
ロボット?
黒いガ〇ダム」
「みみっくちゃん知ってます、“大型働き蟻”です。“大型兵隊蟻”、“大型女王蟻”がいるですよ」
一瞬ショウマがアリと分からなかったのも無理は無い。
人間大のサイズなのだ。
黒く光る全身と光る眼が機械を思わせる姿である。
左右に口が開閉してギチギチ音がしてるのもメカっぽい。
それを裏切るのが顔から生えた触覚だ。
ウネウネと動いているのだ。
ウネウネである。
パッと見て足元を動く昆虫と同じ生物と分かるものでは無い。
「ヤバイ!
触覚動いてるのがキモい!
これなんてテ〇フォーマーズ?」
とか言ってるうちに“大型働き蟻”が二体、三体と姿を現す。
全員触覚がウネウネと動いている。
気持ち悪い。
『炎の乱舞』
「アレ、意外と火に強い」
『炎の乱舞』
ショウマは魔法を放つ。
連発だ。
キモイのだ。
ケロ子の攻撃を待ってられない。
昆虫型魔獣は範囲魔法の連発で全滅した。
ショウマたちはまた前進する。
ここまでショウマたちの戦歴は
“歩く骸骨”×24
“骸骨戦士”×4
“骸骨弓戦士”×2
“骸骨犬” ×1
“大型働き蟻”×6
みみっくちゃんのみLV6にLVアップしている。
ショウマとケロ子はLVが高いためか、なかなかLVアップしない。
「お姉さま。みみっくちゃん、マズイ事に気が付いた気がするですよ」
「なにかなっ、みみっくちゃんっ。なにかなっ」
「みみっくちゃん達地図も持ってなければ、印も付けてないです。いつ迷っても不思議じゃないです。というか現在地が分からない時点で、すでに迷子と言っても過言じゃないかもです」
「大丈夫だよっ、みみっくちゃんっ」
「な、何でですか? お姉さま」
「ほら見てっ、ショウマさまをっ。
まったく慌ててない。ちゃんと考えがあるんだよっ」
「いや、ご主人様は考えが有るから慌ててないという状態じゃないとみみっくちゃんは思うですよ。あれは何も考えてないというか、迷子になって飢え死にするとか帰れなくなるという可能性を視野にいれてないだけという気がするですよ」
「ダメだよっ、みみっくちゃん。ショウマさまに失礼なこと言ったらっ」
さてショウマは何も考えてない訳ではない。
左手に沿って進んでいるのだ。
「迷路は左手に進んでいけば必ずゴールに辿り着けるのさ」
というヤツ。
いわゆる左手法だ。
間違ってはいない。
だがこれはスタート地点、ゴール地点が迷路の外周に有ると限った場合の必勝法だ。
ショウマが2階から降りてきた地点は最初から草原の中央だ。
そして目指すゴールも4階への階段、外周に有るとは全く限らない。
さらに言うとショウマは都会っ子なのだ。
道に迷って飢死という発想は無い。
ショウマの先導で行動している、チームペガサスは大丈夫なのか?
危機感を持ってるのはみみっくちゃんだけである。
頑張れみみっくちゃん。
負けるなみみっくちゃん。
チームの明日は君にかかっている。
【次回予告】
時に大自然は残酷だ。
蜂と蟻の争いの場。上空から攻撃するハチを後ろから別のアリが組み付き地上に引き下ろしている。引き下ろされたハチにを四方から噛みつくアリたち。ハチは次々とやられていく。もちろんやられてばかりでは無い。アリも蜂によって首をもぎ取られるモノ、針で撃たれ即座に動けなくなるモノもいる。
「分かった。二人の誓いはこのショウマが受けとめた」
次回、残っているのは地面に落ち腹を食い破られ、羽をもぎ取られた無残な姿のハチたちだ。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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