クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第48話 旅立ちの支度その3

公開日時: 2021年9月17日(金) 17:30
文字数:5,238

「ご主人様。コノハさんから聞いてきました。どうも複雑なんですよ」


迷宮都市から家に帰ってきたショウマ一行。

急遽、明日出発になった。

打ち合わせである。

みみっくちゃんがコノハさんから色々聞いてきてくれた。


コノハの故郷は『野獣の森』近くの村。

亜人の村と呼ばれてるらしい。


『野獣の森』を迂回して4時間ほど移動した場所に街が有る。

ベオグレイド、帝国の街だ。


明日乗る予定の高速馬車。

馬車が着くのはこのベオグレイドだ。

乗車券を手配してくれたキューピー会長もベオグレイドが目的地らしい。


『野獣の森』は帝国領土ではない。

迷宮はどの国にも属さない。

自由領土なのだ。


迷宮からは魔獣が出る。

冒険者が魔獣を駆逐しなければいけない。

そうでないと近隣に魔獣が溢れ出る。

だから迷宮に関しては国という仕組みを越えた案件。

人類すべてが対処すべき存在。

そう取り決められている。


迷宮は魔獣も出るが、貴重な物質も出る。

魔道具の材料であったり、貴重な薬草。

さらに宝石も出ると言う。

人類共通の案件。

同時に、共有の財産でも有るのだ。

『野獣の森』も例外ではない。


『野獣の森』は帝国領内に有る。

帝国領の北西部、端っこの方だ。

だけど、『野獣の森』は人類共有の地。

『野獣の森』とそれに対応する冒険者。

さらに冒険者のための組合。

それが亜人の村に有る。

そこだけは地域的には帝国領だが帝国の土地ではない。


「えーと

 どういうコト?」


ショウマはイマイチポイントが飲み込めない。

迷宮が人類共通の案件、共有の財産という話自体初めて聞いたのだ。


「だから複雑なんですよ。

『野獣の森』入り口は二つあります。一つはベオグレイド付近。普通の冒険者はこちらから探索に行きます。こちらの方が安全。入り口近くは比較的低LVの魔獣がうろつき、奥に行くにつれて手強くなる。地下迷宮と一緒ですよ。迷宮探索しやすいです。ここに行く冒険者は当然、組合もベオグレイドに有る物を利用します。

 ベオグレイドは帝国領です。『野獣の森』からベオグレイドに持ち込まれた貴重なドロップ品は帝国の許可なしには持ち出し出来ない様になってます」


「うん?

 でも迷宮は共有財産なんでしょ」


「そう。そこでもう一つの入り口です。こっちは手強い魔獣が最初からいます。そうそう冒険者たちも寄り付きません。

 でもこちらが人類共通の土地。帝国は『野獣の森』と亜人の村は人類共有の物と言ってます」

 

「亜人の村には亜人が住んでいます。帝国は亜人が住みにくいと言われてます。

 帝国領のアチコチから逃げ出した亜人が集まってる場所。それが亜人の村です。

 帝国としては『野獣の森』から溢れる手強い魔獣を亜人に押し付けられて万々歳という事ですよ」


うーん。


要するに地下迷宮で考えると

『地下迷宮』と迷宮都市

『野獣の森』と亜人の村


これが国に属さない人類共有の土地。

冒険者が魔獣と戦うため用意された場所。

それが迷宮都市であり亜人の村。

地下迷宮なら迷宮都市に冒険者達は集まる。


でも『野獣の森』の場合、亜人の村は便利じゃない。

すぐ近くに帝国領のベオグレイドが有る。

こっちの街が遥かに大きくて便利。

便利な街を帝国が作った。

持ち込まれた物は帝国の物。

文句が有ったら、亜人の村を使え。


さらに亜人の村に近い『野獣の森』は手強い魔獣が多くて危険。

手強い魔獣の対応が亜人に押し付けられている。


説明としては分かった。


「うーむ。良くは分からないが、自分たちの民を犠牲にする施政者としての道義に反する仕組みな気がするぞ」

「道義に反しています」


「そうですね。そうなんですが、一応は人類共通の土地としてのタテマエを通しているですよ。

 ベオグレイドが発展してるのは自国の領土を帝国が発展させるのは当たり前。亜人の村は帝国領土じゃない。帝国が力を貸さなきゃいけない謂れは無いと言う理屈ですよ。他の国々や冒険者組合としても文句を付けるのは難しいでしょう。

 で、ご主人様どうします。みみっくちゃん達はベオグレイドから攻略しますか。それとも亜人の村から?」


「それはコノハさんの依頼だもの。

 亜人の村からになるでしょ」


「ですよね。ならそれなりに厳しい事になるでしょう。覚悟していく事にするですよ」



旅支度は簡単になった。

二日でまた街に着くのだ。

ならちょっとした着替えや、二日分の食料でいい。


「メイド服は持っていきたいな。

 冷蔵庫丸ごと持っていくのはどうかな。

 ベッドも持っていきたい」


「ご主人様。ご主人様。二日で街に着くと言ってるじゃないですか。それにコノハさんの故郷です。コノハさんにも聞きました。5人くらいならコノハさんのお宅に泊めてくれるそうです」 

 

「でも冷蔵庫無いでしょ。

 魔道コンロもいるよ。

 お風呂も持っていけると良くない?」


「いい加減にしてくださいですよ。みみっくちゃん、引っ越し屋さんですか。風呂桶とかベッドまで吞み込めんだらお腹壊しちゃいますよ。

 ご主人様、旅先で不便なのはそれも味なんですよ。不便さを楽しむのも旅の醍醐味ってヤツですよ。非常用食料と最低限の着替えが有れば十分です」


昨日は街に行ったが、武器屋には行っていない。

ハチ子は武具屋街が有ると聞いて行きたがった。

ショウマとしては魔法武具が気になってるのだ。

どうせなら、帝国行って魔法武具買い揃える。

ここでチマチマ買い替えなくていいじゃん。

大型店で槍と矢は購入した。

矢は消耗品、持って行かないと。

槍はハチ子の折れた槍の替わりだ。


そうか。

魔道具や魔法武具を手に入れるのが目的だった。

帝国に鍛冶の村が有るらしい。

『野獣の森』で手に入る魔獣のドロップ品。

それを鍛冶の村に持っていく。

そう考えるとみみっくちゃんの収納力はそこでも必要だ。

さらに魔道具を手に入れたら、それも吞み込んでもらわないと。

仕方ないな。


「分かった。

 分かったよ、みみっくちゃん。

 お風呂とベッドは諦める。

 でもメイド服は持って行こう」


必需品だからね。



ショウマ達は隠し部屋にしばしの別れを告げる事になる。

しかし不安が残る。

滝の近くまでくる冒険者が出てきている。

裏の空間に気付く者がいたら?


扉には鍵が無いのだ。

どこかで鍵買っとけばよかった。

しかし、しばらくは誰もいないのだ。

鍵かけても木の扉をブチ破られたら終わりだな。


「みみっくちゃんに考えが有ります。おまかせですよ」

みみっくちゃんにいいアイデアが有ると言う。

何かと思えば、前に壊した“屍食鬼”の隠れ家の壁。

アレをみみっくちゃんは吞み込んで持ってきた。

家を壁で覆い隠すのだ。


石や砂、木片、木クズで出来た壁。

それを従魔少女達が積み上げて、木の扉を隠す。

これでもしも滝の裏に空間が有る事に気付く者がいたとしても大丈夫。

入ってもすぐに行き止まり。

石に囲まれたちょっとした空間が有るだけに見える筈。



翌日。

迷宮都市の正門前。

コノハとタマモは待っている。

高速馬車に本当に乗れるんだろうか。

実はコノハは迷宮都市に来るときも使っている。

普通に馬車に乗る事は出来ない。

そんなお金は持っていない。

護衛という枠で乗せてもらったのだ

高速馬車は貴重品の輸送もしている。

盗賊に狙われる。

野生の猛獣だって危険。

『野獣の森』近辺では魔獣に襲われる事だってあるのだ。

護衛は必須である。


旅の冒険者が護衛を引き受ける。

高速馬車の運賃は無料。

その替わり護衛代は出ない。

賊との戦闘で相手を捕獲したり、獣を仕留めれば多少の礼金が出る。

そんな仕組みだ。


高速馬車専任の護衛隊長指揮下に入り、隊長の指示に従わなくてはいけない。

キチンとした客席などは無い。

馬車の荷台、その後ろの空いた空間に寝るのだ。

それでも歩いて旅するよりはいい。

希望者は多い。

いきなり行って護衛になれる訳ではない。


コノハは知り合いが口を利いてくれて、事前に約束した。

今回は何の約束も無いのだ。

人数もショウマ一行と自分達。

6人と一匹だ。

気軽に受け入れられる人数じゃない筈。


「コノハさんっ

 おはようございますっ」

「おはようございます」


ケロコさんの声。

続けて、ショウマさんの一行。

あれ。

みんな手ぶら?

武器を持ったりはしてるけど、手荷物すらない。

コノハはもちろん荷物を持ってる。

麻で出来た背負い袋に食料、水、薬やらを詰め込んでる。


一行は今日は戦士スタイル。

メイド服じゃない。

メイド服は予備が無いし、馬車は盗賊に狙われる事も有ると言う。

これから『野獣の森』別の迷宮に向かうのだ。

すぐ迷宮探索に入る訳じゃないが、一応戦闘スタイルにしている。


さて迷宮都市の入り口、正門前で集合した一行。

ショウマ、ケロ子、みみっくちゃん、ハチ子、ハチ美、

さらに従魔師コノハ、“妖狐”タマモ、キューピー会長。

8名にもなる一行である。



「どうぞ、どうぞ こちらですよ」


キューピー会長が愛想良く、馬車の元へ案内する・


高速馬車は4台有った。

馬車と言えば、ショウマが乗った事が有るのは村の荷馬車だけだ。

村の荷馬車は元々ショウマがイメージした物より小さかった。

高速馬車はイメージしてた物に近い。

車輪が4輪、箱状の荷台に付いてる。

2t~4tトラック位のサイズは有る。

しかし馬が違う。

2頭の馬が1台の馬車を引いている。

その馬がショウマの知ってる馬じゃない。

足が多いのだ。


「変なウマキター」


「王よ、あれは魔獣だ」

「魔獣です」


「あれは“八本脚馬”(スレイプニル)と呼ばれる魔獣ですね。みみっくちゃんも見るのは初めてですよ。『不思議の島』に出るというウワサを聞いてます。伝説では天を駆けるとか、大陸を3日で走る事が出来るとか、寝ずに走り続ける事が出来ると言われてるですよ」


「馬車で2日で行けるなんておかしいと思ったら、こんなカラクリだったですか。普通馬車の移動距離と言ったら一日20~30KMがいいところです。健脚な旅人だったらもっと早く移動できると言われる程度なんですよ」


「そうなの?

 じゃ馬車の意味ないじゃん」


「ご主人様。荷物を運んでるんですよ。荷物が無きゃもちろん人より早いでしょうけど、1t以上の荷物を運ぶんです。それで速度も速くと言ったってムチャというモノですよ」


そっか。

1tというと5kgの箱が200個。


「なるほど。

 フツーの人なら5kgも荷物持ったらまともに歩けないよね」

「いや、それはご主人様だけですよ」


そんないつも通りのショウマ達にいきなり話しかけて来た者がいる。


「コノハー」

「クレマチスさん!」


「御者になってくれる気になったかい」

「違います」


女性だ。

コノハの知り合いらしい。


「コノハさんのお友達ですかっ?」

「クレマチスさん。

 この高速馬車の御者をしてる方で従魔師なんです」


「そうだよー。

 クレマチスだよ。

 よろしくね」


そうか。

魔獣が馬車を引いてると言う事はその魔獣を操ってる従魔師がいるのだ。

年上の女性。

コノハさんの一回り上くらいだろうか。

なんだか、コノハさんと距離が近い。

百合!?

百合なのか。


「ワタシ、ケロ子ですっ」

「みみっくちゃん、みみっくちゃんといいますですよ」


ハチ子、ハチ美は様子見している。

“八本脚馬”に対して警戒しているらしい。

魔獣だしね。


女同士の会話に男が入るのは無粋だぜ。

ショウマはそんな風情で距離を置く。

もちろんホンネは初対面の相手に自己紹介するのが苦手なだけだ。

後ろから会話を盗み聞くショウマである。


「私、迷宮都市に来るときもこの馬車に載せてもらったんです。

 護衛として乗るのに紹介してくれたのがクレマチスさんです」

「コノハには高速馬車のコト知ってもらって、

 行く行くは馬車の御者をやってもらいたいからねー」


「クレマチスさん。

 だから私は冒険者になるので、御者は出来ませんと」

「いいんだよ、すぐじゃなくて。

 従魔師の能力を鍛えるのも必要だからね。

 冒険者に飽きたら御者ってコトで考えといてよ」


「いえ。冒険者じゃなかったら、薬師になるつもりなので…」

「えーっ 冷たいねぇ。

 じゃ、3番目。

 冒険者が失敗して、薬師も上手くいかなかったらおいで」


「クレマチスさん。そのセリフはヒドイです」


へー

馬車の御者の仕事へスカウトか。

大型トラックの運ちゃんみたいなモノかな。

もしくは高速バスの運転手。

どちらも激務でなりてが少ないっていうもんね。


「馬車を1台借り切るっていうから、

 どんな金持ちかと思って見たら、コノハだったなんてね」

「え! クレマチスさん。今なんと」


「1台借り切ってるんだよ。この馬車を」

「はい。

 1台。ショウマさん達のため貸し切りでご用意させていただきました」


答えたのはキューピー会長だ。


ええええっ

コノハは絶句した。



【次回予告】

馬車。

1頭の馬が引く軽装の馬車がバギーと呼ばれる。2頭で引く4輪の馬車がキャリッジ。さらに大きい4頭で引くような大型馬車をコーチと呼んだりもする。厳密な区分は無い。

紀元前には既に使われていたこの乗り物は、蒸気機関車に取って替わられる19世紀まで最大の交通手段だったのだ。

「うわー。これが噂のチョロインてヤツですね。みみっくちゃん生で見たのは初めてですよ」

次回、ショウマ一行は旅をする。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)



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