ほっといたらそのまま立ち尽くしていそうなハチ子を連れて行く。
槍を借りるショウマ。
今回の槍は他の人も持つ事出来るみたい。
鈍い銀色の槍。
長い、ざっと2メートル半位かな。
柄に何か書いてある。
隼風。
何だっけ。
昔やってたゲームに出てきた気もする。
隼風と言う名の武器。
大きい分重たい。
ショウマはハチ子に槍を返す。
「んじゃ、それが『聖槍召喚』ランク2で呼び出せる槍ってコト?」
「そうなんですか? ショウマ王」
いや、知らないよ。
ハチ子が召喚したんでしょ。
ゲームに出てたのは隼風ノ鉾だった気がするな。
何のゲームだったかすら覚えてないけど。
「鉾と槍って違うんだっけ?」
「難しいところですね、ご主人様」
みみっくちゃんのウンチクキター。
「槍が武器として完成する以前の物を鉾と言ったという説も有ります。要は木の棒の先に何か凶悪なのくくりつけてりゃ全部鉾という寸法です。
槍が完成してからは、刃先が鋭く尖った物、突くための武器が槍。刃先が丸みを帯びて切るため、あるいは打撃のための武器が鉾。
あえて区分するとそんなカンジですかね。他にも柄に穴が有ってそこに刃先を差し込むのが槍、穂先に穴が有ってそこに柄を入れるのが鉾。両手持ちの武器を槍、片手持ちの物を鉾と呼ぶ。そんな説も有るみたいですよ」
「うーんと要するに似たようなモンで、
ハッキリしてないって事かな」
「さらにほこにも鉾という字と矛という字が有るですよ。矛という字を書く場合、槍や銛ツルハシ、薙刀全部ひっくるめた総称としての意味が有るらしいです」
「だってさ、ハチ子」
最後まで聞かないでハチ子に放るショウマ。
だって使うのハチ子じゃん。
僕が覚えてもしょうがないじゃん。
「うむ、良く分からないが分かった。
この槍は隼風ノ鉾と言う名の槍と言うコトだな」
まー、そんなカンジ。
ショウマ達の頭上にはオレンジの鳥が複数。
『旋風』(つむじかぜ)
“鴆”が二つに切られて消えていく。
ハチ美が矢を放つ。
撃たれた鳥はバタバタともがく。
追撃の矢がトドメを刺す。
ハチ子も槍を向ける。
隼風の槍。
いや、やめようよ。
途中で落っこちてきたらコワイじゃん。
大きい槍だよ。
槍が重いのか、ハチ子も軽くは投げられない。
ヒュッ。
槍から何か飛んでいった。
疾風の様なモノ。
“鴆”は疾風に撃たれてジタバタ。
『切り裂く風』?
風属性魔法。
それに似た攻撃の使える槍。
その後も試してみた。
隼風と書かれた槍は風属性魔法に似た攻撃を同時に3、4発放つ事が出来る。
でも魔力は消費する。
多分フツーに魔法を使うよりは消費量は少なそうだけど。
それでも際限無く使えるワケじゃない。
「フッフッフ。
これぞ聖槍パートツー。
魔法の槍の力を見たか」
ハチ子は偉そうなセリフだけど槍にもたれかかってる。
試しに使い過ぎた。
魔力切れ近くてフラフラしてる。
その後も“鴆”“蛇雄鶏”(コカトリス)を確実に撃破するショウマ達。
たまに毒や石化を喰らい、ショウマが回復する。
ショウマは回復以外魔力節約気味。
この後さらに強いのと戦うかも。
ショウマが攻撃魔法使わなくても従魔少女だけでオッケー。
“鴆”はみみっくちゃんの『眠りの胞子』が効いた。
寝て落っこちてきたところを中距離からタマモやハチ子が仕留める。
“蛇雄鶏”はハチ美が気配を感じたらケロ子が全力。
跳び蹴りからのパンチを連続で叩きこむ。
“蛇雄鶏”に息もつかせずノックアウトを決める。
そうこうするうちに木々の生い茂る場所が終わる。
視界が開ける。
そこには大きい樹が有った。
高くそびえ立つ大樹では無い。
大きく広い切り株なのだろう。。
ショウマ達からは根っこと幹が見えるだけ。
その上部が無いのだ。
森の中の開けた空間。
その先は木々が生い茂る迷宮のカベ。
おそらく層を分けるカベ。
通れそうなゲートは見えない。
探せば有るのかもしれない。
しかしそれ以上にドデカイ樹の根っこが目立つ。
そこを伝って上がっていけそうなのだ。
ドデカイ樹はカベを越えて奥へ続いている。
昇っていくだけでグッタリ疲れそうな大樹の根。
トーゼン、ショウマはハチ美に抱えてもらって空を飛ぶ。
みみっくちゃんもハチ子にくっついてる。
ケロ子とタマモは自前の足でヒョイヒョイ昇っていく。
「広いですっ」
「駆けっこ出来そう」
ケロ子とタマモが言う。
ショウマはハチ美と少し空に上がって見下ろす。
樹の上は平らになっていた。
円形の切り株。
切り株には見えない位だだっ広い。
何も無い一面の野原。
足元は良く見ると年輪らしきモノもうっすら見える。
何層くらい有るのかな。
とても数えられるレベルじゃない。
苔が生えて草花も咲いてる。
樹の断面と思わなければ普通に地面だ。
ハチ美が気配を感じていたのはこの切り株だったらしい。
上空から見ると切り株の中央付近に何かある。
ラスボスステージかな。
そう思うショウマ。
切り株は迷宮のカベの上を越えて広がっている。
ショウマ達の先にはまた迷宮『野獣の森』。
方角的に考えてその先がベオグレイド方面。
ベオグレイドの側から『野獣の森』に入ってもここに辿り着きそう。
おそらくあちら側からもここは最奥。
エリカはベテランでもほとんど行った事が無いと言っていた5層。
その5層の更に先。
中央部分へと足を進めるショウマ。
従魔少女達はまだ元気いっぱい。
疲れ気味なのは魔力を使ってしまったハチ子くらい。
『身体強化』
ケロ子がスキルを使う。
今日の彼女は余裕を持たせた革の上着。
何の問題も無いハズ。
『聖弓召喚』
ハチ美が唱える。
金色の弓を手に持つハチ美。
矢は必要無い。
弓を構えれば矢がどこかから装填される。
ファンタジーな弓。
便利だけど魔力を使う。
そのまま中央へと思うけど、魔獣と遭遇。
“双頭熊”
キター。
二つの頭、四つの腕。
悪夢級にオッソロシイ外見の魔獣。
「聖なる矢よ、貫け」
『全てを閉ざす氷』
『眠りの胞子』
遠慮はしない。
ショウマは魔法使うの抑え気味だった。
全然疲れてない。
みみっくちゃんも『魂のローブ』魔力消費減少(中)装備してる。
まだいけるだろう。
「ガァッ!グワアアアアッ!!」
“双頭熊”が咆哮を上げる。
コイツの叫び声は攻撃をツブしてくるのだ。
ハチ美の輝く矢はデカイ魔獣に届かず消えていく。
でもそれだけ。
魔獣の半身は凍り付き、眠りも喰らったみたい。
バケモノクマは二つの頭を垂れて動かない。
「ハァッ」
ケロ子が跳んで脳天へとカカト落とし。
「フルパワーッ」
タマモが斧刃を魔獣の胴体にブチ込む。
「喰らえっ」
ハチ子が槍で心臓部分を貫く。
“双頭熊”は消えて行った。
ショウマの手には銅貨一枚。
「アレ、簡単過ぎない。
もっと手強く無かったっけ」
「だから言ったでしょう、ご主人様。
強くなってるんです。ケロ子お姉さまも、ハチ子も、ハチ美も。タマモちゃんだってもう手練れです。
何を隠そうみみっくちゃんだって魔術師のランク2、賢者も手に入れけっこうな実力者と言っていいハズだと自負してるですよ」
そうか。
本当にみんな強くなったんだな。
ショウマは見回す。
従魔少女達。
武闘家ケロ子。
賢者みみっくちゃん。
聖戦士・槍ハチ子。
聖戦士・弓ハチ美。
斧使い忍者タマモ。
「よーし。
目的地まであと一息だよ」
帝国軍は進んでいく。
三個中隊。
中隊は小隊四部隊から六部隊で構成される。
工作小隊や輜重小隊等が編成される場合も有る。
砲兵隊、弓兵隊等も有る。
場所によっては騎兵部隊もいる。
今回は編成されていない。
小隊は更に6名前後の班に分けられる。
4班から8班で小隊。
一個小隊で30名前後になる。
30名の小隊が4から6部隊。
120名から180名で一個中隊という事だ。
三個中隊でおよそ500名。
小隊の指揮が許されるのは尉官以上、曹長が隊長となる場合も有る。
中隊の場合は大尉以上、基本は佐官が隊長となる。
更に中隊が集まって、大隊へ、連隊、師団と大きくなっていく。
兵士達はグチを言う。
「こんな道をズラズラ行進とはな」
「やってられねーな」
「行軍目的もハッキリしてないぜ」
「どうなってるんだか」
亜人の村へ向かう。
それしか聞いていないのだ。
「亜人と言えば特殊能力を持つヤツもいるんだろ」
「どうするんだ、攻撃しちまっていいのか」
「いいんじゃないか。
蛮族どもが何か犯罪を犯したって聞いてるぜ」
「三個中隊も動かしてるんだ。
相当な事をやらかしたんだろ」
「こっちがやられてもつまらん。
先に攻撃するのが一番だろ」
「攻撃は最大の防御って言うしな」
眉をしかめる者もいる。
あそこは帝国領だが帝国領では無い。
迷宮にそこから出て来る魔獣に対処するための場所。
手強い魔獣の相手を押し付けられている亜人の戦士達。
借りが有ると言ってもいい存在の筈だ。
調査もせず攻撃していいのか。
しかし真面目な者は少数派だ。
軍は災害出動も行う。
嵐や地震、火山の噴火に対処し一般市民を救う。
盗賊だっている。
大きな盗賊団には村を襲う様な集団もいるのだ。
その対処もする。
そういった真っ当な任務のため軍人を志した者も少なからずいるのだ。
しかし任務のほとんどは帝国に従わない小国への出動。
上役は危険な場には出ず、下っ端が現場を走り回る。
上役は貴族出身者ばかり。
ヤツらは軍学校を出れば士長になれる。
平民は三士になり命懸けで戦い、戦場で泥水をすすり二士、一士へ昇進していく。
その上司からスタートするのだ。
実家が金や権力を持ってる貴族なら更にその上、尉官からスタートなのだ。
平民が尉官にまでなる事はまず無い。
聞いた事が無い。
平民は士長から兵曹へ曹長になる。
軍事行動は貴族だけでは指揮できない。
現場の叩き上げだって必要。
そんな家柄は無いが実力は有る者のポジション。
だから曹長ともなれば尉官と同等。
指揮系統上は尉官の下になってはいる。
しかし軍学校上がりの準尉が曹長に頭が上がらない。
そんな事だってある。
だが、あくまで少数例だ。
曹長にまでなれる人間は少ない。
ほとんどの者は一士がせいぜい。
その前に現場で死んでいく。
真面目な者ほど死んでいくのだ。
その状況を見ていて真面目で居続けられる人間は少ない。
大半の者は任務をこなして給金に有りつければいい。
そんな思いだ。
上役にゴマをすり、訓練をサボリ金にありつく。
そんな人間の方が生き延びられる。
軍人志望だったブルーヴァイオレットが見たらなんと言うだろう。
「これです、これなんです。
仕事には最低限の労力と人間関係で済ませて後は時間もお金も趣味に注ぎ込む。
私が望んでいた職場はこういうトコロの小隊長なんです」
彼女の場合うらやましがったかも。
まーそれはそれとして。
そんな現代の感覚では軍人と言うよりチンピラの方が近いかもしれない帝国兵士達。
帝国兵士が進軍していく。
森と湖に挟まれた道を進む。
広い街道では無い。
帝国軍は5人ほどで列を作っている。
そろそろ亜人の村も近づいて来た。
遠方に村が見えてくるハズ。
そこで兵士達は立ち止まる。
前方に立つ人間達がいたからだ。
「なんだキサマラ」
「巻き込まれたくなかったら道を開けろ」
「冒険者か、冒険者に用は無い」
「帝国軍は亜人の村へ進軍中だ。
関係ないモノはどいていろ」
帝国軍三個中隊。
500名の軍人。
その前に立ち塞がったのは2人の男。
長刀を両脇に持ちニヤニヤ笑う男。
帽子で顔を隠す男、そのマントからはチラリと弓が覗く。
タケゾウとムゲンであった。
【次回予告】
男から何かが飛んできた。刃。斬られた。そう思った。剣が疾風の様に飛んできた。自分の胸がバッサリと斬られた。血しぶきが上がった。胸元からこの出血。もう助からない。膝を折って倒れ込む。
「オレがそんなクサイセリフ吐くかよ。一宿一飯の恩義で充分だ」
次回、ムゲン笑う。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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