クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第134話 アヤメ、フワワシティへ行くその2

公開日時: 2021年12月12日(日) 17:30
文字数:4,912

「じゃあ、アヤメ元気でねー」


アヤメは馬車の御者、クレマチスさんとお別れの挨拶。

クレマチスさんがアヤメをギュッとしてくる。

ハグって照れちゃう。

アヤメはあまりハグに慣れてない。


クレマチスさんとは結構仲良くなった。

夜、馬車が止まってる内にお話し。

なんとクレマチスさんは聖者サマに逢った事が有るらしい。

ビックリだ。


「お爺さん?

 いやいや若い子だったよ。

 細身のお坊ちゃん風。

 女の子4人も連れちゃって。

 ナニモノかと思ったね」


なんと聖者サマは若い男らしい。

ビックリだ。

しかも女好きなの。

ちょっと幻滅。


「馬車が今、特別運行してるじゃない。

 これも聖者サマに頼まれたの」


普通、迷宮都市、フワワシティ、テイラーサの3か所を廻ってる高速馬車。

今はフワワシティを中心。

迷宮都市に行ってフワワシティに引返す。

女神都市テイラーサに行ってフワワシティに引返す。


フワワシティに行きたがる人は多い。

フワワシティ側が必要としてる物資も多い。

逆にフワワシティから運び出される荷物も多いらしい。

貴重な迷宮のドロップ品。

ドロップ品から造られた特殊な品々。


「聖者サマにと言っても直接じゃないよ。

 賢者サマ、ミミックチャンに頼まれたのさー」


聖者サマに仕えてる人。

賢者と言われて有名らしい。

この人と商人のミチザネさん。

二人が副町長。

町長のエリカさんと一緒に町を運営してる。


あれ。

ミミックチャンて名前、確か。

あいつのチームメンバーの少女がそんな名前じゃ無かった。

まさかね。

珍しい名前では有るけど。

きっと記憶違い。


「その分、従魔師見習いの子紹介してもらったけどね。

 ほらっユキト君、挨拶しな」


「よ、よろしくな。

 従魔師見習いのユキトだ、ユキトです。

 アヤメ姉、いやアヤメさん…」


後ろから出てきたのは男の子。

うわー、可愛い。

美少年だな。

言葉使いがたどたどしいのもカワイイ。


「うー、なんで俺が…」

「高速馬車の御者に慣れたら稼げるよ。

 稼ぐ男になるんだろ」

「はっ、そうだ。

 ケロコさんの為に俺は稼げる男になるんだ」


そっか。

自分で気づいてなかったけど。

アタシって年下趣味なのかも。

だからあいつが気になるんだ。

会ったのも言葉を交わしたのも数回だけ。

もう顔を見なくなって大分経つ。

向こうはアタシの事なんて覚えてないかも。

でもアヤメはしょっちゅう思い出しちゃうのだ。

これって。

もしかして。

ヒトメなんとかってヤツ。

いやいや、そんなハズは無い。

年下で頼りない雰囲気だったから。

気になるの。

お姉さん的な心配ってヤツだ。

受付として担当冒険者の事を気にするのも当然。

仕事のウチでも有るし。


さてフワワシティに辿り着いたアヤメ。

町の入り口は解放されてる。

木の門らしき物は一応有るけど、開けっ放し。

見張りらしい人もいない。

いいの?


「フワワシティは入都市税無料ってのはこういう事だったのね」

「入都市税無料?

 冒険者だけじゃなくてですか」


「そう、商人でも誰でも入都市税がかからない。

 それで商人達も争って来たがってるのよ」


へー。


町の大通りを歩く。

建物には像がたまに飾られてる。

獅子の仮面を付けた女性の像。


「あれが“森の精霊”フワワ様ね」

「フワワ様?」


「この町では女神様のように崇められてるんだって」

「ここって母なる海の女神教団の人が多いんじゃないんですか?」


確か聖者サマも母なる海の女神教団の人だったハズ。


「うーん、そこがちょっと微妙なの。

 聖者サマは母なる海の女神教団の人間と明言してないみたい。

 でも女神教団の人は訪れてる。

 聖女エンジュ様も聖者サマと親しいらしいわ」


「さてと冒険者組合は何処かしら?」


キキョウさんが訊きに行った。

アヤメは辺りを眺める。


本当だ。

建物は全て木で出来てる。

石造りより原始的なイメージも有るけど。

人々が生活する場。

木の建物にはそんなホッとする空気が有る。

新築だし、色々趣向を凝らしたような建物も多い。

うん、ステキな街だ。


うわっ、びっくりした。

魔獣が歩いてる。

あれは上半身が獅子、下半身が山羊。

“獅子山羊”キマイラってヤツ。


フワワシティでは従魔師、従魔師見習いが増えてるみたい。

クレマチスさんとユキト君に聞いた。

『野獣の森』には人間を襲わない魔獣もいる。

“妖狐”“一角兎”“獅子山羊”。

それらをペットにしてると従魔師になれる確率が上がるらしい。


賢者ミミックチャンが積極的に従魔師になるよう促してる。

ミミックチャンを慕ってる亜人は多い。

みんな従魔師になろうとしてる。

特に子供はどんどん従魔師見習いになってるらしい。


そっか。

普通に通りを従魔師が連れた魔獣が歩いてる。

これもフワワシティの見所かも。

いずれ従魔師を輩出する町として有名になるのかな。


「行くわよ、アヤメ」


キキョウさんが冒険者組合の場所を訊きだしたみたい。

アヤメも行こう。



冒険者でいっぱい。

冒険者組合は人でゴッタがえしていた。

メッチャ忙しそう。

受付を見ると受付が数か所しかない。

どう見ても足りてない。


窓口にいる人。

仮面をかぶった変な女性は叫んでる。


「忙し過ぎー。

 なんでこうなったのー。

 恨むよ、聖者サマー」


うわー大変そう。

同情しちゃう。


とてもマリー支店長を探せそうにない。

と思うとキキョウさんは何か取り出した。

カバンから瓶を。


「マリー支店長~。

 とっておきのお酒を持ってきましたよ。

 ブランデーの年代物です。

 いないならワタシが一人で呑んじゃいますよ」

「なになに、年代物。

 一人で吞むなんて。

 そんな冷たいコト言わないで」


!!!!

いきなりどこかからキキョウさんの目の前に人が現れた。

革鎧の上に上等そうなコート。

マリー支店長!


「捕まえましたよ~。

 マリー支店長。

 ずっと帰ってこないで。

 何やってたんですか」

「あ、あらキキョウちゃん。

 どうしたの、こんな所まで…」


「支店長を探しに来たに決まってるじゃないですか。

 ずっと情報端末からメッセージ送ってたハズですよ。

 すぐ帰ってきてくれって」


「あれ~、ホントウ?

 最近忙しくって。

 ホラ見て、このフワワシティの冒険者組合の状況。

 大変そうでしょ。

 放って行く訳にいかないじゃない」


「フワワシティが出来る前から。

 メッセージは送ってました!

 ここも大変かもしれませんが。

 迷宮都市だって大変なんです」


「だって…

 だって、ボス魔獣は倒されたって言うし…

 『地下迷宮』は『地底大迷宮』になって。

 なにがなんだか。

 スゴイ勢いで冒険者はやってくるし。

 サラ様は怒鳴るし…

 大変だったんです。

 タイヘンだったんですぅ~」


うひゃあ。

キキョウ主任が泣きそうになってる。

初めて見た。

キキョウさんが目に涙を溜めてる。

そうだ。

迷宮都市の冒険者組合はホントウに大変だったのだ。

聞いたコト無いようなコトがたくさん起きて。

相談しようにも責任者の支店長は不在のまま。

キキョウさんが全部何とかしたのだ。


「あ、あれキキョウちゃん。

 どうしたの、泣かないで」


マリー支店長が困ってる。

アヤメに目で助けを求めて来る。

知らない。

どう考えても支店長が悪い。


マリーさんに合図。

キキョウさんを指さす。

ちゃあんと受け止めて。

謝ってあげて。


マリー支店長はキキョウさんの肩を抱いた。


「ゴメン、ゴメンね。

 キキョウちゃん、大変だったのよね」


「支店長~」


二人が抱き合う。


おおー!!


何故か拍手が鳴り響く。

いつの間にか周りの冒険者さん達もこっちを見てる。

すいません。

騒がしくして。


「キキョウちゃん。

 出来る子だから、

 つい、頼っちゃうの。

 あたしはあたしで、やらなきゃいけない事も有ったし」

「支店長…」


キキョウさんとマリー支店長は二人だけの世界。

周りに気付いてない。

周囲の人たちの注目の的になってるのも感じてない。


「いいよ。

 ドラマチックで面白いもの」

そうアヤメに言ったのは窓口で叫んでた女の人。

何でこの人仮面被ってるんだろ。


「キキョウちゃんがいてくれれば、

 迷宮都市の組合は何とかしてくれる。

 そう信じてたわ」

「支店長…」


キキョウさん、苦労が報われたのね。

見てるアタシも涙が出そう。

周りの人達も固唾を飲んで見守る。


「支店長…」

「な~に?」


「やらなきゃいけない事って何ですか?」

「えっ、やーねぇ。

 それはいろいろよ、いろいろ」


あ、あれ。

さっきまで泣いてたキキョウさんの顔に。

ピキピキと怒りのシワ。

目は逆三角。

鬼の顔になってる。


マリー支店長の顔色は青くなってる。

逃げ出そうとする支店長。

だけどキキョウ主任は許さない。


「誤魔化そうたって駄目です。

 正直におっしゃい」

「ホント、ホントに仕事よ。

 信じてキキョウちゃん」


「じゃあ何してたか言いなさい」

「母なる海の女神教団への出張よ~。

 キキョウちゃんも知ってるじゃない」


それはあたしも知ってる。

マリー支店長は母なる海の女神教団のエライ人と昔からの知り合い。

その縁で良く女神教団の聖都テイラーサへ出かける。

冒険者が本職じゃない教団の戦士達への手ほどきやら何やら。

半年に一度、期間は一ヶ月くらい。

その分、女神教団からは迷宮都市に腕利きの神官が派遣されてる。

治療院に神官が多い。

大怪我する冒険者さんが助かるのだ。


「ええ知ってますよ。

 教団への出張予定は一ヶ月でしたよね。

 支店長、迷宮都市を出てどの位経ってるか分かってますか」

「あれ~、どの位だったかしら。

 ほんのちょっと長くなっちゃったかなー」


あはははーとマリー支店長は誤魔化そうとする。

またキキョウさんの額に怒りのマークが増える。

ピキピキと怒りシワだらけ。


「三ヶ月ですっ!

 もう三ヶ月以上帰ってきてません」

「いやーその。

 いろいろよ、いろいろ」


マリーゴールドはキキョウに頭を下げる。

本当に言う訳にはいかないのだ。

ここには他の人間も多い。


大教皇からの頼み事。

聖者と言う人物を調べて欲しい。


マリーも教団の儀式でのウワサは聞いていた。

儀式の最中、女神様が降臨したと言う。

女神様が聖者と認める人物について言及した。

亜人の村に居ると言う聖者。


会いに行くつもりの教徒が大勢いる。

なにせ女神様直々の御言葉なのだ。

聖者に力を貸せと。


そして聖女エンジュ。

エンジュも聖者に逢いに行くと言う。

女神がエンジュの体に降臨した。

本人はその事は覚えてないらしい。

意識の無い中自分が語った聖者と言う人物。

どうしても一目逢いたいと言う。

普段は大教皇に逆らうような娘では無いのだけど。

今回だけは大教皇が諫めても駄目。

一目で良いから逢いに行く。


教徒とエンジュが亜人の村に向かう。

その前に先回りして、聖者と言う人物を調べてくれ。

それが大教皇からの頼み事。


「頼まれたのよ。

 エライ人に。

 お仕事よ、お仕事」

「じゃあどんな仕事なんです」


「いやだから、それはね」

「ほら、やっぱり出まかせだわ」

 

だってこの町には聖者サマを崇めてる人間も多いのだ。

こんな人の多い場所で言う訳にいかないじゃない。

キキョウちゃんの顔が恐くなってる。

許して、ねっ。

本当に仕事なの。


「マリーさん。

 言ってたよ。

 亜人の村の新築祝いに来たって。

 新築祝いなんだからお酒の一杯呑むくらい誰も文句は言わないって」


ザクロちゃん。

それはこの場で言っちゃ駄目。

表向きの嘘よ。

ジョーダンってヤツよ。


「支店長~」


うわー。

キキョウちゃんが怒りに震えてる。

せっかくの美人さんが大魔神みたいなお顔に。


「ゴメンナサイ。

 ゴメンナサイ。

 ゴメンナサイ~」


アヤメの前でマリー支店長が土下座するまでキキョウさんは怒りを解かなかった

うーん。

キキョウさんだけは怒らせちゃいけないなー。

そう思うアヤメだ。




【次回予告】

強制収容所だったのだ。犯罪者を捕まえ強制的に鉱山で働かせている。本当に犯罪者なら帝国の法だ。マリーが口出しできる話じゃない。しかしあまりにも亜人が多かった。女子供の亜人まで混じってる。話を聞いてみれば、多額の税が払えなかっただけ。他の人間より明らかに高額の税金。役人、帝国兵に少しだけ逆らう言葉を言っただけ。そんな亜人が大量に混じってる。マリーはかなり強引にほとんどの亜人を罪人から免除にさせた。冒険者が必要な場面。彼等を冒険者として働かせる。そのまま鉱山で『鋼鉄の魔窟』で働かせる訳にいかない。どうしたってしこりが残る。フワワシティへ連れ出した。

「ここがあたしの家ですっ。アヤメさんこそなんでウチに?」

次回、アヤメ再会する。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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