クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第129話 死闘、森の巨人その2

公開日時: 2021年12月7日(火) 17:30
文字数:5,258

従魔少女達は戦っている。

武闘家ケロ子、賢者にして運び人みみっくちゃん、聖戦士・槍ハチ子、聖戦士・弓ハチ美、忍者にして斧使いタマモ。

相手は“森の巨人”フンババ。

『野獣の森』最後の敵。


「頑張って、みみっくちゃんっ」

「いっけー」


「ハコ、やれ!

 根性を見せて見ろ」

「ハコ、やるのです!

 気合でやれるところまでやるのです」



『丸呑み』


巨大な人影が。

斧を振り回していた森の巨人が姿を消す。

小柄な人影に吸い込まれる。

小柄で前髪の長い少女。

みみっくちゃんが口を開けている。

その口元に大きなナニカが吸い込まれていく。


あっ。

ケロ子は着地してバランスを崩す。

斧を蹴って着地、しかし足元が靴が。

靴が壊れてしまった。

ショウマさまに買って貰った丈夫な革靴っ。

靴の底はひび割れっ。

靴底と周りがベロンと剥がれてしまった。

もう使えないっ。


「大丈夫なのか、ハコ」

「大丈夫ですか、ハコ」


「平気か、顔色悪いぞ。

 タマモ心配だ」


「んんんんっんっんんっんんんんんんんーっ」

みみっくちゃんはジタバタ。

口元を抑え右往左往。

パッと見、二日酔いの人がリバースを堪えてるみたい。

喉までせりあがるナニカを堪え洗面所を探してる。


「んげらぱらごらぱげらごらごこげこぱらげーっ」


ぺっぺっぺぺぺぺっ。


みみっくちゃんは吐き出した。

巨大なナニカ。

少女のゲロじゃないよ。

そんなの特殊な趣味の人以外誰も喜ばない。


従魔少女達の視界の先には。

地面に立つ“森の巨人”。

少し溶けてる。

巨人のアチコチ。

肩、背中にある鱗、鱗から尻尾への固そうな甲。

足、獅子の顔。

手に持つ石斧。

全てが融解している。

原型を留めないというほどでは無いが。

デロンとなっているのだ。



ショウマは見てた。

やったね、みみっくちゃん。

そっか。

進〇の巨人じゃ無かったか。

巨〇兵だったのか。

口からビームとか吐き出さないでよね。

あそこらへんに誰か女性に立って貰ってさー。

「どうした、それでも世界で最も邪悪な一族の末裔か」

とか言って欲しーな。

女性は誰が似合うかな。

マリーさん。

キキョウ主任。

いや、ベオグレイドの門番女隊長が似合いそう。

まーそれはともかく。


森の巨人は傷ついていたところに更に『丸呑み』喰らった。

もう本当にボロボロ。


「よし。

 多分あと一息だよ。

 やっちゃえ、みんな」



ハチ子が槍を突き刺す。

さっきまではナカナカ刺さらなかった巨人の固い肌。

今は力を込めていなくても刺さっていく。

肌が溶けたように緩くなっている。

これならば。


ハチ美が矢を放つ。

歪んでしまった胸当てを外す。

下には鎖帷子。

若干露出の強い格好だが。

恥ずかしがってる場合では無い。

矢が巨人の顔に刺さる。

いける。


タマモが斧刃を振り下ろす。

巨人の後ろから。

巨人の背は鱗状。

固くて攻撃してもムダだった。

背中から腰へ。

ザクリと斧が突き立つ。

やった。

かなりのダメージを与えた。

その手応えが有る。


WOOOO!WOOO!WOO!

巨人が哭き声を上げる。


回転胴回し。

ケロ子は手を地面につきながら前転。

縦の回転蹴り。

前転浴びせ倒しと呼んだ方が分かり易いか。

体重と勢いが乗る蹴りが巨人を襲う。


巨人が逃げる。

WOOOO!WOOO!WOO!

闇雲に攻撃していた巨人。

今はなりふり構わず敵から逃れようとしている。

その先は。

舞台。

木で出来た舞台。

巨人の指先が舞台に触れる。

WOOOO!WOOOONWOOOOON!

必死の祈り。


ああ、マズイ。

回復してしまう。


舞台に触れた巨人が回復し始める。

肌が溶けていた。

融解が止まる。

木属性魔法が効いている。


「こんのぉー」


タマモのハルバード。

斧刃の先端が切り落とす。

巨人の手の先。

舞台に触れていた右手の先、半分を斧刃が切断したのだ。


巨人の回復が。

目に見えて戻っていた肌の融解が。

また止まる。


「これは駄目でしょうか」


みみっくちゃんは立ち上がる。

杖に縋り付いて立つのがやっと。

回復のブースト効果は止めた。

でもほんの少しずつ巨人は回復してる。

従魔少女達は全員限界。

最後の体力を振り絞った攻撃。

でも届かない。

ほんの少し届かない。


「ご主人様、異常なのはご主人様だけ。所詮無謀だったのでしょうか」


みんなLV30前の少女達。

LV30いかなければ厳しいと言われる『野獣の森』の奥。

その更に最奥のボス魔獣。

LV30前の少女、5人だけでそのボス魔獣を倒すなんて。

出来ない。

出来なくて当たり前。


「ご主人様?」


みみっくちゃんは見回す。

何か言われた。

そんな気がしたのだ。


「よし。

 多分あと一息だよ。

 やっちゃえ、みんな」

 

そんな台詞を言われた。


巨人が手を振り回す。

右手の先が斬られた。

木製の舞台との繋がりが無くなった。

WOOOO!WOOO!WOO!

左手の石斧を放り投げる。

標的目がけて。

巨人の左目は復活していた。

木製の舞台に手をついた一瞬。

左目が見えるようになった。

敵は右手の傍にいる。

ハルバードを持った少女。


上空から石斧がタマモを襲う。

タマモはハルバードを振り切ったポーズ。

体勢を崩していた。

無理矢理体を避ける。

ギリギリ、デカイ斧の落下から身を逃れる。

瞬間、巨人の左手が殴りつける。

タマモが巨人に殴りつけられていた。


「クッ 許さん」

「クッ 許しません」


タマモが殴りつけられた。

何かのスキルで逃げる。

そんな魔力は残っていない。

体は吹っ飛び、革鎧はズタボロ。

口からは血を流している。


ハチ子とハチ美は許さないと言ったモノの。

巨人に報復する力は残っていないのだ。


「よし。

 多分あと一息だよ。

 やっちゃえ、みんな」

 

そんな言葉を言われた気がした。

そこにはいない人物。

敬愛する王の口調。


ハチ子とハチ美はお互いの顔を見合わせる。

疲れた。

もう手が、足が上がらない。

それでも。

手が動かなくても、足が動かなくても。

槍を振るえなくとも。

弓を引き絞れなくても。

拳を使え。

爪だっていい。

何が何でも。

巨人を倒すのだ。


「タマモちゃんっ」


タマモちゃんの処に駆けつけるっ。

そう思ったケロ子。

だけどみみっくちゃんが向かってる。

回復薬を持った少女。

みみっくちゃんに任せるべき。

ケロ子には別にやる事が有る。

巨人を倒す事。


でも届かない。

ほんの少し届かない。


巨人の攻撃が鋭くなった気がする。

今までめったやたら振り回してた。

それが相手を狙っている。

近くに居る少女を狙って手を振る。

手を避けながら蹴りつける。

相手だってガードする。

いくらやってもっ。

巨人を倒しきれないっ


「よし。

 多分あと一息だよ。

 やっちゃえ、みんな」

 

言われた。

間違いなく言われた。

言った人も間違いない。

間違えるハズが無い。

ショウマさまっ。


よしっ。

あと一息っ。

どうすればいいっ。


少女の目から諦めが消える。

どうしたって届かない。

そんな思いが消え失せる。


何か有る。

巨人を倒す方法が有る。

ケロ子は知ってる。

そんな気がする。


ケロ子は今地面に裸足で立ってる。

革靴が壊れてしまった。

だから脱いだのだ。

裸足の足に地面を感じる。

大地を。


そうだ。

教えてもらった。

マリーゴールドさんに。

ケロ子の力がもう残っていなくてもっ。

力を借りるっ。

大地の力を借りるのだっ。


この場にいる者は誰も気付いていない。

それは小さな異常。

修行僧 ランク0

大地属性魔法 ランク0

ランク0がランク1に書き換わる。


それは起きた事が無い。

教団の本部に行って認められない限り、修行僧にはなれない。

大地の奥義が使える事はない。

そう信じられていた。

その筈だった。


既に準備は出来ている。

マリーゴールドは導師の資格を持っている。

やり方も教えた。

それでもいまだかつて為された事は無かった事。


ムゲンはなんと呼んだか。

神の気まぐれ。

人はそれを奇跡と呼ぶのかもしれない。


ケロ子は感じている。

体に力が巡っていく。

足から吸い上げられ、全身に循環する。

大地の力。

体が熱くなる。


マリーさんは何て言っていた。

『我が肉体は固き岩なり』

違うっ。

それじゃダメ。

それはケロ子の体を守る技。

そうじゃないっ。

相手を攻撃する技。

あの巨人を倒す技。

巨人を必ずぶっ倒すのっ。


ケロ子は心に浮かぶ言葉を唱える。

その口元が唱える。

知らない筈の言葉。

使った事の無いスキル。

それはこう言っていた。


『我が腕は激しき火山なり』




ベオグレイド、帝国軍の駐留基地。

兵士達は報告をする。


「何が起きていると?」


「それがその…」

「魔獣が、魔獣が溢れているのです」


「魔獣ですか、何体位の話ですか?」


「見当も付きません、数十体」

「いえ、数百体かもしれません」


「現在、門の処で戦闘しておりますが」

「門に兵士は十数人しか居りません。

 破られるのは時間の問題です」


目の前のキルリグル少佐は頬笑みを浮かべる。

状況が分かっているのか。


兵士は困惑する。

緊急事態の報告。

急いで軍の駐留基地に来たのだ。

ところが、司令官のムラード大佐は留守。

下士官もほとんど留守にしていると言う。


急いで軍を出動させねばならない。

しかし指揮を取れる人物がいない。

中隊を動かすなら大尉以上の人物が必要。

そこで思い出したのがキルリグル少佐だ。

情報部は通常軍と行動を共にする事は無いが。

それでも軍の一部である。

少佐ともなれば緊急時に指揮する権限は有る筈。


しかし報告を受けた少佐は笑っている。

幸せな事でも起きたように微笑んでいるのだ。


「分かりました。

 すぐ中隊を出撃させましょう」


「コルマール大尉、頼みましたよ」

「はっ、了解しました」


少佐の部下らしき男が言う。

顔が四角い、ゴツイ体をした男。

兵士に少佐は言う。


「コルマール大尉は元軍人です。

 軍の指揮は私より慣れている」


コルマールは兵士達に指示を出す。


「一人、急いで門の処に行け。

 すぐありったけの兵隊が駆けつけるから、それまで何とかして保ち堪えるよう伝えろ」


「一人は俺を軍まで案内しろ。

 非常事態だ。

 基地をカラッポにしてもかまわん。

 全員出動するぞ」

 

確かに慣れているようだ。

兵士はやっと安心して行動につく。


「はっ、了解しました」


情報部が借りてる部屋を出るコルマール。


「こんな時に基地に居られないとはな。

 ロクセラーナ、頼んだぜ」

「フフフ、アナタの方が軍人受けしそうだもの。

 仕方ないでしょう。

 こちらは任せておきなさい」


ロクセラーナは女性。

黒い軍服に身を包んではいるが色気の有る女性。

長い髪を制服に隠しこんでいる。


「行きましたか」


キルリグルは微笑む。

ロクセラーナは頷く。


「はい、少佐。

 どこから行きましょうか。

 大佐の執務室ですか」

「ええ、ロクセラーナに任せますよ。

 あなたなら間違いないでしょう」




なにが起きているのか。

“森の巨人”は困惑する。

目の前には見下ろさなければいけない小さいニンゲン。

自分の身体の半分も無いだろう。

腰より低い位置までしかない少女。

それが。

少女に殴られる。

それだけで自分の身体が吹っ飛ぶ。

殴られた腿の骨が折れている。

足が変な方向を向いている。

まともに立てない。


こんなバカな。

自分は強きモノなのだ。

この森を代表する存在。

森の全てでも有るのだ。

少女に打たれて立ち上がれない。

そんなハズは無い。

無理矢理腕を使って上体を起こす。

既に目の前に少女はいた。

ガンッ。

景色が変わる。

自分の視界に入っていた世界が入れ替わる。

頭を蹴られたのだ。

少女に。


仰向けに倒れた巨人。

目の前には空が広がる。

ニンゲンとは戦って来た。

ニンゲンが自分を蹴り飛ばす。

素手で殴って骨を折る。

そんな事が起こるハズが無い。

体の回復が遅い。

森の木々に祈った。

徐々に体が回復するハズ。

しかし回復は遅い。

左足の骨は治らない。

右目が潰れているのも治らない。

先刻、石斧は投げつけてしまった。

巨人に残ってるのは拳のみ。


近付く少女に拳を振るう。

上体を起こして、腕に力を込める。

弓なりのフック。

ニンゲンなど当たれば一撃で吹き飛ぶ。

全身の骨は折れてグシャグシャ。

残るのはニンゲンの残骸のみ。

そのハズ。

そのハズだが。

巨人の腕が、拳が蹴り飛ばされる。

何に。

少女の蹴りに。

下から上へ蹴り上げる。

小さい足。

それが自分の拳を跳ね上げる。

WOOOO!WOOO!WOO!

巨人は既に何も出来ない。


もうこれ以上は。

いいのかもしれない。

巨人の心に沸き上がったのは諦めでは無い。

不思議な満足感。

相手は小さいニンゲン。

少女だからといって侮っていた。

相手は戦士なのだ。

大地の力を身に纏う本物の戦士。

自分は戦士に破れた。

戦士になら。

自分以上の力を持つ相手になら破れても構わないのだ。


自分は使命を果たした。

やるべきことをやった。

元々森から産まれた自分。

森に、木々へと還るのだ。

全力を尽くした。

既に自分の全身はボロボロ。

もう立ち上がる力も無い。

森へ還ろう。

あの少女が森へと還してくれる。





【次回予告】

女性達がいきなりザワザワとする。座って休憩してた人達がみな立ち上がってる。何が起きたの!エリカは慌ててみんなの視線の先を追う。眼下には『野獣の森』。『野獣の森』を脇に見て山へと昇って来た。かなりの高さまで登って来たエリカ達。下には『野獣の森』の全貌が見える。いや、見えていた。それが今。

「いえ、何でも有りません。これしきの事。ミチザネはめげたりしません」

次回、エリカとミチザネは呆然とする。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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