クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第132話 歩く『野獣の森』その3

公開日時: 2021年12月10日(金) 17:30
文字数:4,645

帝国軍の駐留基地。

コルマール大尉が飛び込んでくる。


「キルリグル少佐!

 大変です、大変なんです」


「とても信じられないと思いますが…」


「非常事態、緊急事態。

 一体何が起きてるのか」


「これは途方もない現象で。

 バケモノなんだか、奇跡なんだか」


「どう言葉にしたらいいのか、

 つまりですな…

 大変なんです」


精悍な顔つき。

間違いなく鍛えている体。

これぞ軍人と言った風情の男。

コルマールが慌てている。


「落ち着きなさいよ」


応答したのは上官のキルリグル少佐では無い。

女性。

帝国軍の制服に身を包んだ女性。

ロクセラーナ准尉。


報告が要領を得ない。

何を言ってるのかサッパリ。

これでも普段は余裕の表情を崩さない。

脳筋の様に見せかけて頭も回る。

一筋縄ではいかない男なのだ。

今回ばかりは本当に慌てているらしい。


ロクセラーナは面白く見物する。

コルマールがこんなアリサマになるなんて。

滅多に見られる光景じゃない。


「大丈夫。

 そこの窓からも見えていたわ。

 ドデカイのが移動してくサマ」


「そ、そうか」


コルマールが振り返ってみれば。

確かに窓から見える。

巨大なナニカ。

ナニカは既に移動を止めている。

建物からは相当な遠方の筈だが。

巨大すぎる物体。

ここからでも見える。


巨大なナニカ。

見ようによってはヒトガタに見えなくもないモノ。

それが四つん這いになった。

地面に手を突く。

足を着く。


湖を越え、街道を越えた場所。

開拓されてない荒野。

下手に開拓などしたら。

帝国が領地を広げようとしている。

そう見られるだろう。

湖までが帝国領。

その認識で長く、国家間は安定しているのだ。


荒野に広がっていく。

背の高かった巨大なナニカ。

徐々に高さを失いその分広がっていく。


「あそこに根を下ろすのかしら」


ロクセラーナが言う。

根を下ろす。

新しい物事が定着する。

風来坊だった人間が定住する。

そんな比喩だが。

この場合は。

本当に根を張るのかもしれん。


ナニカが広がっていく。

あれは森。

何も無かった荒野に森が出来つつあるのだ。



「キルリグル少佐は!?」

「情報端末の所よ」


ロクセラーナは指さす。

左官以外入れない部屋だ。


「緊急事態だ。

 報告はしたのか」

「ええ。

 アレを見て、情報端末の所へ行ったの」


「そうか」


魔道具情報端末。

仕組みはコルマール大尉程度に分るモノじゃない。

それでも大陸中にある端末と一瞬で情報を共有できると言う。


この事態をキルリグル少佐が何処かへ報告しているのか。

ならば邪魔するコトは出来ない。


「なら、俺はまた軍の所へ行ってくる。

 まだ魔獣の始末が終わってない」


「アレに関してはどう見ても、

 軍が手に負えるようなシロモノじゃ無い。

 何か有ったら遣いを出してくれ」


『野獣の森』から魔獣が溢れて来た。

それも多数。

対応する軍の指揮をコルマールは執っていたのだ。

情報部では有るが元々は軍の大尉だったコルマール。

駐留基地に居た尉官は何故か出払ってると言うのでコルマールが指揮していた。


「魔獣は何とかなりそうなの」

「ああ、冒険者達にも手助けして貰った。

 魔獣の相手はヤツらの方が慣れてる。

 もう片付く。

 こっちは後始末くらいのモノだ」


ガチャリ。

扉の開く音がする。

部屋からキルリグル少佐が出て来る。


「キルリグル少佐!」

「ああ、コルマール大尉」


いつものようにキルリグルは微笑む。

なにも慌てる事は起きてないかのように。

コルマールは緊急事態の報告に来たと言うのに。

まるで世間話でもしているみたいに微笑む。


「今、観察をしていたのですが。

 巨大な物体が街道を越えた荒野で移動を止めました」

「ドデカイの、森になっちゃったみたいよ~。

 こうしてみると『野獣の森』が移動したみたいね。

 『野獣の森』もたまにはお散歩したくなるのかしら」


ロクセラーナが軽口をたたく。

余裕が有るのは結構だが。

緊急事態を上官に報告する時位、軍人らしく出来ないのか。


キルリグル少佐はチラリと目を窓の外に向ける。

一瞬だけ。

やはり微笑んで見せた。


「いくつか同時に物事が起きてるみたいですね」


「コルマール大尉、ロクセラーナ准尉。

 伝達事項が有ります。

 一度しか言わない」


「ハッ」

「はいっ」


「王国で迷宮が発見されました。

 おそらく『竜の塔』」


「この情報に呼応して帝国も発表します。

 迷宮と思われるモノ。

 迷宮が帝国領で発見されました。

 名称は『鋼鉄の魔窟』になるでしょう」


「そしてもう一つ。

 女神教団の教徒がこちらに向かっています。

 人数はハッキリしませんが、数百人。

 彼等の目的は亜人の村に向かう事のようです」

 

コルマールは息をのむ。


『竜の塔』。

新しい迷宮。

いずれ発見されるとは思っていた。

存在は既に誰もが知っているのだ。

しかし王国領だったか。

嫌なハナシだ。

帝国の皇族、貴族が苛立つだろう。

情報部に飛び火しなければいいが。


『鋼鉄の魔窟』

何だそれは。

それは更に危険な情報ではないのか。

呼応して発表するとは。

以前から発見されていたと言う事か。

帝国内部では知られていた。

迷宮は全人類が対応しなければいけない存在。

知っていたのなら。

帝国が分かっていて隠していたのなら大変な事だ。

王国はもちろん、全ての帝国以外の組織から非難される。

帝国内部からも非難は上がるだろう。

少佐は知っていたのか。

いつも通り微笑む顔からは何も読み取れない。


女神教団。

何の話だ。

迷宮の情報は重大事件。

間違いなく国家規模の重要情報。

逆に重要過ぎて、コルマールが関与する話じゃない。

数百人の教徒。

その位がコルマールの関与出来る話。


「その女神教団と言うのは。

 普通に通してしまって構わないのでしょうか」

「はい。

 丁寧に対応してください。

 どうやら一緒に来ているようなのですよ。

 有名人が」


「有名人ですか~?」


ロクセラーナが食い付く。

ミーハーな女だ。


「そうです。

 母なる女神教団の有名人。

 聖女エンジュが来ているのですよ」




キューピーは仕事を終えた。

今日は自宅に戻る。

本宅とは別。

ルメイ商会の公宅は大豪邸。

キューピーの親族も住む別邸と一緒の場所。

そこも自分の家だが、ゆっくり出来る場所では無い。

ルメイ商会の会長として暮らす場所。

今から行くのはキューピー・ルメイ個人として過ごす場所。


「ご主人様、来客がお見えです」


着いた途端キューピーは言われた。

使用人の男。

ここの使用人は僅かな人数。

本当に間違いの無い者のみ。


来客?

そんな話は知らない?

通したのか?

キューピーが居ない時に客を通す。

有り得ない。

通す筈が無い。

この使用人がそれを知らぬ筈も無い。


ならば一人だけ。

あの方。

あの方が来ている以外有り得ない。

この自宅の場所はお教えしていないが。

あの方ならいつの間にか知っている。

知っているのがむしろ当然。


キューピーは身なりを整える。

玄関に有る鏡で自分の姿をチェック。

あの方にお会いするのに失礼な姿ではいけない。


「今、寝室にいらっしゃいます」

「寝室、お休みなのか?」


「いえ、そういう訳では…」


寝室に近付いたら分かった。

女性の嬌声。

何をしているのか一声で分かる。

艶やかな声。


どうしたものか。

入っていいのか。

邪魔せずに待つべきか。


「キューピーだろう。

 入れよ」


扉越しに聞こえた。

間違いなくあの方の声。

仕方なく寝室の扉を開ける。

と目に飛び込んで来た。


裸体の女性が男に乗っている。

女の背中が腰が動く。

絶頂を迎える声。

腰が最後の動き。

ビクビクと上下し、やがて動きを止める。

女は男の裸身にしなだれかかる。

身体を預ける。

男は女性を払いのける。


「おいおい、重たいだろう。

 終わったならどくんだ」



「悪かったな、キューピー。

 勝手に寝室を使っちまった」

「いいえ、お気になさらずに」


男は服を脱いだまま。

ベッドの横に腰掛ける。

キューピーは脇のイスに座る。


キューピーはチラリと女性に目をやる。

女は部屋の奥で服を着ようとしている。

華美な下着姿。

かなりのプロポーション。


「どうだ、なかなかの女だろう。

 貴族が差し出してきた。

 帝都で最高クラスの店の女だそうだ」


高級娼婦。

容姿が最高級なのはもちろん。

貴族と言っても通用する身のこなしと気品。

どこかの大貴族が公の場にも連れ出せるレベルに育てたのか。


「なんなら置いてくぞ。

 キューピーの好みならな」

「お戯れを、バルトロマイ様」


以前お会いした時はあまり女性に興味なかった筈だが。

嗜好が変わったのか。


「キューピー、聞いた事が無いか?

 死期が近付くと性欲が高まるってな。

 俺は長生きしないだろう。

 そう思ったら下半身が疼くようになった」


聞いたことはある。

子孫を残そうとする生物としての本能の働き。


「そうか、今日その女を置いていく訳にいかないな。

 もしも妊娠したら、

 俺の子か、キューピーの子か。

 分からなくなる」

「私は既に子供も、孫もおります。

 バルトロマイ様の女性に手を付ける気はありませんよ」


もしも本当にこの方が子を作る気になっているなら。


「よろしければ、

 私からも女性をお送りしましょうか。

 お好みに合わせて、どの様な女性でもご紹介します」


「止めておけよ、キューピー。

 お前の紹介した女が妊娠でもしたら、

 皇族同士の争いに巻き込まれるぜ。

 いくらルメイ商会の会長でもな。

 危なすぎる橋だろう」


忠告。

キューピーではまだ力が足りない。

それはそうだ。

キューピーは世界的な規模の商会会長とは言え、ただの商人に過ぎない。

キューピーは頭を下げる。


「このシーツはいいな。

 あまり知らない感触だ。

 新製品か」


「はい、迷宮からの産出品です。

 まだ研究中なので量産出来ていません」


『土蜘蛛の糸』製。

気に入って手に入れた品。

 

「キューピー、ベオグレイドに行った方がいいぞ」


ベオグレイド。

キューピーは先月ベオグレイドから帝都コステンタイニーに戻ったばかり。


「何か有りましたか」

「有った。

 『鋼鉄の魔窟』を正式に発表する。

 それだけでも大騒ぎだろうが、

 それじゃすまない事になりそうだ」


『鋼鉄の魔窟』を。

あれもこの方が見つけた場所。

そこからしか手に入らない『魔道核』。

今や帝国の屋台骨を支える魔道具技術。

その根幹だ。


「わ、私などに教えて良い事なのですか?」


キューピーはこの方とそれなりに親しいつもりだ。

それなり程度。

本気で信頼されているとは思っていない。


「クッハッハッハハ。

 お前だろう。

 この結果を出したのは」


自分?

キューピーが何に関わってると思われている。

思い当たる事は。

一つだけ。

しかしいくら何でも早すぎる。

まだショウマを『野獣の森』に案内して一ヶ月程度。

その間に既に素晴らしい結果をもたらしてくれた。

ミチザネから報告が来ている。

魔法防具の量産体制。

今までまともに手に入らなかった魔法防具。

それをベオグレイドのルメイ商会では常に在庫を持って販売できる。

徐々に確実に評判になりつつある。

いつの間にかショウマは亜人の村で聖者という名で敬意を集めているらしい。


「それだよ。

 聖者サマとやらが起こした事態だ」


「えええええええええええええええええええええ!」


しまった。

あの方の前で叫んでしまった。





【次回予告】

聖者サマ。この人もウワサの人だ。白い衣を纏う男性。背にはペガサスの意匠。ペガサスと言えば聖なる獣。神様の乗る馬。自分を神様に使わされた存在だと名乗っている服装。

どんな方なんだろう。アヤメには想像もつかない。奇跡のような神聖魔法。聖者サマを頼り体を回復してくれという来訪者が後を絶たないらしい。

物語に出て来るような老賢者。100歳を越えるお年寄り。見ただけで震え上がる恐いジジィ。それとも。優しい空気みたいなお爺さん。

「見つけたー!。支店長、もう逃がさないわ」

次回、キキョウ主任、叫ぶ。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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