「あーっはっはっはっはっ」
レオン王子が聖剣を振り回す。
『疾風居合』
侍剣士キョウゲツがツタを切り割く。
「喰らえっ」
弓士カトレアが矢を放つ。
重戦士ガンテツは様子見。
戦鎚で殴れる距離まで近づいたら混乱の花粉にやられかねない。
もしもレオン王子が混乱にやられて、こちらを攻撃してくるようなら取り抑えないと。
しかし、王子は暴れている。
“三又根食肉植物”に向かって。
聖剣を植物型魔獣に突き刺す。
火の玉を飛ばす。
「あーっはっはっはっはっ。
ぎゃーっはっはっはっはっ」
Wowowowowwowoooo!woooooo!
“三又根食肉植物”は音を立てて倒れた。
デカイ植物魔獣が消えていく。
レオン王子の活躍である。
火魔法に似た攻撃を多用したのも良かったのだろう。
普通、植物は火に弱い。
カトレアが危惧したよりメンバーのダメージは少ない。
“三又根食肉植物”のツタ攻撃はキョウゲツが全て切り落した。
混乱にやられた女重戦士ビャクランも気絶からしばらくすると醒めた。
同時に混乱からも覚醒したらしい。
大ダメージを喰ったのは、ジョウマ大司教にぶっ飛ばされた付き人の二人くらい。
「いや、オレもヒドイ目にあったすよ。
というか一番ボコボコにされたのオレッす。
カトレアちゃん、慰めてくださいっすよ」
もう回復してもらってるじゃんか。
メナンデロスの顔には傷も残ってない。
ジョウマ大司教も倒れちゃいるがケガは無い。
「すぴー、ぐがー」
のんきにいびきをかいてやがるのだ。
大地の神は父さんだよ教団の二人は気を失っていたが女神官が回復させた。
「はっ」
「ここは」
もともと頑丈な筋肉ダルマ達だ。
天井までぶっ飛ばされたけど大したケガじゃない。
「そこの二人。
ここに立て!」
『名も無き兵団』のイヌマルが厳しい声を上げる。
顔が険しい。
明らかに怒っている。
「はいっ」
「はいっ」
二人は直立不動になる。
目の前の武道家の男に気圧される。
この男はあのジョウマ大司教とマトモに拳を交わして立っている恐るべき手練れなのだ。
「私も大地の神は父さんだよ教団で修行した同門だ。
私の方が兄弟子になるだろう」
「兄弟子としての質問だ。
心して答えよ。
嘘は許さん、いいな」
「はいっ」
「はいっ」
「ジョウマ大司教が“迷う霊魂”を倒したと言う噂は本当か?」
「そっ」
「それは」
「先ほど拳を交えてわかった。
大司教は肉体は間違いなく鍛えておられる。
身体能力はこのお年でも冒険者として通用するだろう」
「しかし精神は鍛えておられない。
自分の知らない特殊なスキルでもお持ちなのかと思ったが、
そんな様子も無い」
「“迷う霊魂”は物理的攻撃は効かない魔獣の筈だ。
大司教おひとりで何体もの“迷う霊魂”を倒せるとは思えない」
「お前達、その動揺っぷり。
なにか知っているな。
洗いざらいここで話せ」
イヌマルの気迫の込められた言葉に逆らえない二人だ。
二人は全て暴露した。
大地の神は父さんだよ教団の教徒を増やすため。
迷宮都市では『天翔ける馬』と“迷う霊魂”を倒した何者かが話題になっていた。
どちらも正体不明。
『天翔ける馬』関してリーダーはショウマという名前らしいと噂が有った。
大司教はジョウマという名前。
そこで閃いたのだ。
“迷う霊魂”を倒したのはジョウマ大司教。
そんな噂を流してみよう。
冒険者としてのチーム名を“天駆ける馬”にしてみる。
単に注目を浴び、人々の目を向けてもらうだけのつもりだったのだ。
大地の神は父さんだよ教団は素晴らしい。
きっと注目さえ浴びれば、その素晴らしさを分かってもらえる。
それだけで悪気は無かったのだ。
二人は平身低頭して言った。
「なんだ、なんだなんだ。
“迷う霊魂”を倒した冒険者じゃ無かったの」
「ガッカリだね、ガッカリガッカリ」
王子はつまらなそうに言った。
騙されて怒ってる風ではない。
「まあ収穫はあったよ。
侍剣士キョウゲツの剣技も見れたし。
重戦士ガンテツ、ビャクランの攻撃力も。
武闘家イヌマルの力も、弓士カトレアの技の冴えも。
始めて見る“三又根食肉植物”とも戦えた」
「はい、王子。
では引き上げましょう」
「それがいいっす。
帰るっすよ」
ブルーヴァイオレットは言う。
王子が駄々を捏ねないうちにサッサと帰ろう。
18階まで行こうと又言い出されたら面倒くさい。
帰れる雰囲気のウチに早く引き上げよう。
カトレアは若干フに落ちない。
キョウゲツの剣技を見た~?
お前!暴れてるだけで他の冒険者なんか目もくれてなかったじゃんか。
「キサマラ、なんと愚かな事を。
ジョウマ殿も。
大司教という身に有りながら。
この事は教団本部に報告する。
キサマラは一度、教団に帰れ」
イヌマルは二人と大司教に対して怒り心頭である。
カトレアはイヌマルに教えてもらった。
大司教はやはり一番エライ訳じゃないらしい。
普通に教団で働いてるのが1級神官から3級神官。
司祭、助祭とも呼ぶらしい。
その上に司教がいる。
中でも偉い人やベテランなのが大司教。
司教、大司教から選ばれた代表者が枢機卿。
その上、最高位が教皇という事になるらしい。
教団や宗教によっても呼び方や仕組みは違うが基本はそんなカンジのようだ。
ってことは大司教は3番目くらいにエライ人。
なんだ。
大したことないな。
納得するカトレアだ。
その下に何人くらい人がいるのか、そこまでは考えない。
イヌマルは教団本部で修行した事が有る。
その頃からジョウマ大司教は筋肉の鍛錬こそ怠らないが精神修行が足りない人物として悪評が有ったらしい。
そんなの外に出すなよ。
迷宮都市が迷惑すんだろ。
混成冒険者チーム一行が迷宮を出ると夜になっていた。
既に深夜。
街は一部の酒場、商店を残して既に暗い。
「今日は皆さま、お疲れ様です。
ドロップしたお金などは均等割りさせていただきます。
本日はもう遅いので、明日にも連絡いたします」
ブルーヴァイオレットさんが言う。
解散だ。
やっと解放された。
カトレアはビャクランを気にする。
「よう、お疲れ」
「ああ、カトレア。
今日は迷惑かけた」
「気にすんなよ。
ビャクラン、呑みに行く元気あるか?」
「うん」
食堂は閉まっちまってる時間。
朝までやってる酒場なら。
鉄兜を脱いだビャクランと目線を交わす。
お互い言いたいグチが山ほどあるのだ。
吐き出さないと眠れない。
「ブルーヴァイオレットさん。
確認したいんんだが」
ガンテツが言い出す。
「飛行船でスクーピジェに乗せて行ってくれると言う話。
あれはいつ頃出発の予定だ」
「三日後ですね。
正確な人数と荷物の量を明日にでも教えてください」
「分かった」
ガンテツは慌てない。
元々今日には街を出発予定。
旅支度は済んでいるのだ。
バラバラに分かれて行こうとする冒険者達。
しかしそこに騒々しい大男がやってくる。
鉄鎧を着た重戦士。
王子の忠臣クレイトスだ。
「レオン王子、王子は無事か」
「ブルーヴァイオレット。
今日は戻らない可能性が高いという話だったではないか。
予定が変わったなら連絡くらい入れろ」
「クレイトスさん。
今、迷宮から帰ってきたばかりなんです。
急いでるようですが、何か有りましたか?」
「そうだ、レオン王子。
王子が気にされていた件で、本国から連絡が来ました
伝えねばなるまいと馳せ参じました」
「気にしてた件?
何か有ったの、何か有ったの何か」
「はっ、遂に場所が分かったそうなのです」
「場所?
クレイトスさん、もしかして」
「うむ、そうだ。
新たなる迷宮の件だ」
「『竜の塔』」
「『竜の塔』」
「『竜の塔』」
「『竜の塔』」
王子一行の声が重なる。
レオン王子、ブルーヴァイオレット、クレイトス、メナンデロスだ。
どれだけ気にしてたんだ。
カトレアだってもちろん気にはなる。
四つ目の迷宮。
どんな所なのか。
「何処だったんです?」
「王国領だ。
南の山脈で発見された」
「王国!、自分とこの庭じゃないすか。
今まで気付かなかったなんてマヌケな話っすね」
「山の中らしい。
地元民がいつの間にか謎の建物が出来たと騒いでいたが、
誰もそれを迷宮の情報とは思わなかったのだ」
王子たちが話す。
カトレアは耳をそばだてる。
聞いても行けるワケじゃない。
『花鳥風月』は『不思議の島』へ行くのだ。
それでもウワサ話のネタくらいにはなるだろう。
「王子、実はそれだけでは無いのです」
クレイトスが辺りを窺がう。
周りは冒険者達。
迷宮の情報だ。
みんな聞いている。
巨体を屈め王子の耳元に何か囁いている。
内緒話か。
「…帝国で…
『鋼鉄の魔窟』…」
「ホントウに、ホントウにホントウに。
…今まで隠して……
「…国際ルール違反…」
「…厳重に抗議すべき…」
「まずその情報の確認が先でしょう
事実確認できない事には抗議も何もありません」
ブルーヴァイオレットさんがスパンと結論を出す。
カトレアには何の話か良く分からない。
帝国とか聞こえた。
帝国と王国が何か揉めてるのか。
冒険者だってのに王子様ともなるといろんな苦労があるもんだ。
国際関係なんてカトレアには関係ない。
だけど。
少し気になる言葉。
やけに耳に残る響きだ。
『鋼鉄の魔窟』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
閑話
「ブルー、
キョウゲツさんと話さなくて良かったの?」
「はぁ?
何故私がキョウゲツ殿と話さなくてはいけないのです」
「だって、部屋に貼ってあったよ」
「!、レオン様。
私の私室に入ったのですか。
「キョウゲツ、キョウゲツキョウゲツさんの大きい絵だったね」
「王子と言えど私室に勝手に入るのは止めていただきたい。
速やかに鍵を返却ください」
「だからさ、キョウゲツさんと一言も会話しなかったよ。
せっかくの機会だったのに」
「いえ、私キョウゲツさんのファンでは有りませんので」
「どういうコト?」
「絵を貼ってあったのが気になるのですか。
レオン様のも有りますよ」
ブルーヴァイオレットは一瞬見せる。
懐にしまってあった手帖に挟んだ小さいイラスト、ブロマイド。
西方神聖王国第一王子であることが誰にでも伝わる。
金髪碧眼、意思の強そうな美青年の絵。
「…そうなんだ。そうなんだそうなんだ」
ブルーヴァイオレットは会話を終了してキビキビと部屋を出る。
実際の人間の男性などに一つの興味も無い。
彼女が愛してやまないのは絵の中に済んでる架空のイキモノだけだ。
モデルが実在の人物であろうとなかろうと。
描かれている絵の中の存在とは別物なのだ。
そんな説明を王子にする気は一切ない。
無駄な作業そのものである。
自分が分かっていればいいのだ。
「相変わらず、思い通りにならないね」
王子は一人取り残される。
にしても、懐に肖像画をしのばせるなんて。
相手の肖像画を仕込んだペンダントや小物を懐に持つ。
それは普通、夫婦や婚約者のする事だ。
「まあいいかな、いいかないいかな」
迷宮都市まで遠出した。
それだけの甲斐は有った気がする。
【次回予告】
エリカは言っていた。「“双頭熊”に挑むならLV30からよ」ベオグレイド側から『野獣の森』を探索してる冒険者達。彼等の中ではそういう事になっている様だ。『野獣の森』亜人の村側から入った奥。そこには“双頭熊”がウヨウヨいると言う。
ショウマが進もうと思ってるのはその場所なのだ。LV30くらいまで上げたい。
「聖者殿。いったい、どこからそのような噂話をお聞きになったのです」
次回、キルリグルが微笑む。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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