ショウマは本来、亜人の村に長居する気は無かった。
【クエスト:埋葬狼に攫われたコノハの母親を救い出せ】
を完了させたのだ。
帝国で魔道具買う。
魔法武具求めて、鉱山か鍛冶の村に行く。
その予定だったのである。
それがある理由で移動しなかったのだ。
その理由とは?
攫われた女性達が気になったのでは無い。
だってショウマは何もしてない。
最初に体のケガを治しただけ。
後は村のお婆ちゃん達やサツキさんナデシコさんに丸投げ。
亜人の村を発展させるためでも無い。
これもみみっくちゃんやミチザネ、大工のアラカワさんに丸投げ。
ショウマは報告を聞くだけ。
ショウマはホントウに何もしていない。
別に僕が村に居なくても一緒じゃん。
なのに何故ショウマと従魔少女一行は亜人の村に残っていたのか。
ショウマは“森の精霊”フワワさんと話したかったのである。
重要な話。
これを言わないと夜もゆっくり寝られない。
そんな話をしに来たのだ。
「見てこれ」
ショウマは取り出す。
銅貨だ。
銅貨一枚=1G。
ショウマの市場感覚だとおよそ日本円で100円。
フワワさんはショウマの掌の上を眺める。
「えーと、銅貨ね」
「そう、銅貨。
さっき“双頭熊”を倒したらドロップしたんだ」
「そうなのね」
「それだけ?」
「えーと“双頭熊”はかなり強い魔獣なんだけど簡単に倒すなんてさすがね」
フワワは困惑してる風情。
獅子の仮面をかぶってるから表情はハッキリしないが。
ショウマがなんの話をしてるのか分からないのだ。
「あのね、『野獣の森』入り口の“火鼠”を倒しても銅貨一枚。
“蛇雄鶏”コカトリスを倒しても銅貨一枚。
明らかにおかしいじゃん」
「『野獣の森』のドロップコインが変なんだよ。
誰か明らかに間違えてるよ!
迷惑だから何とかしてよ!」
そう。
ショウマがフワワに話したかったのはこれだった。
クレーム!!
文句である。
相談である。
店員を捕まえて、
ちょっと言いたい事があるんだけど
ってヤツである。
どうなってんのさコレ!
ってヤツ。
ショウマは全然納得してなかった。
だって明らかにおかしいのだ。
“火鼠”倒して銅貨一枚はまあいい。
『地下迷宮』の“吸血蝙蝠”だって銅貨一枚だった。
まあ拘って考えると“火鼠”の方が“吸血蝙蝠”より手強い気もする。
火魔法らしきモノ使ってくるのだ。
危険じゃん。
まあでもザコ魔獣だ。
そこら辺までは許せる。
しかしである。
“暴れ猪”倒しても銅貨一枚。
“土蜘蛛”倒しても銅貨一枚。
そんなハズ無いだろう。
『地下迷宮』の魔獣で言うと3階くらい。
“大型蟻”“殺人蜂”クラス。
ショウマの感覚だとその位の手強さ。
“大型蟻”のドロップコインは銀貨一枚。
“殺人蜂”に至っては銀貨五枚なのだ。
銀貨一枚=100G、銀貨五枚=500G。
日本円でおよそ、一万円、五万円。
『野獣の森』だと銅貨一枚=1G。
およそ100円。
自販機で釣銭が100円硬貨が出て来るところ1円玉が出てきたら誰でも怒るだろう。
500円硬貨が出て来るところで500〇〇〇出てきたらもっと怒る。
更には“蛇雄鶏”コカトリス倒しても銅貨一枚。
“双頭熊”倒しても銅貨一枚。
そろそろ切れる。
てめぇ!フザケんなよ!
そう言ってもおかしくないレベル。
だって『地下迷宮』で言うと“動く石像”並の手強さ。
“動く石像”は銀貨たっくさん。
ジャラジャラ出て来るのでキチンと確認出来てない。
多分銀貨50枚なのだ。
銀貨50枚=五千G=五十万円。
もうクレームどころの騒ぎじゃない。
警察沙汰。
ケーサツに訴えないでまず相手に話するなんて。
僕って忍耐強いよね。
そう思うショウマである。
どこに訴えていいか分からなっただけと言う話も有る。
しかしやっと誰に言えばいいかわかった。
フンババさん、今の呼び名はフワワさん。
『野獣の森』はフンババちゃんち。
ティアマーはそう言っていた。
フワワさんの家。
良く分からないけど、フワワさんの管轄。
文句を言うべき相手はフワワさん。
そうしてやっとフワワの前に辿り着いたショウマなのだ。
クレーマー魂である。
ヒトコト言わずには立ち去る事が出来ないのだ。
恐るべし。
意外と粘着質なショウマであった。
巨人と従魔少女は戦っている。
ケロ子は避ける。
巨人の右手が払ってくる。
それを避けて、足元をキック。
巨人の右肩は大きく傷ついてた。
腕が上がらない。
さっきまではそんな状態だったのに。
今は少し不自由だけど動かせる。
攻撃も出来る。
「どうしようっ。
攻撃しても回復しちゃうんじゃ」
幾ら攻撃してもムダッ。
「ケロ子お姉さま、落ち着いてください。巨人を見てくださいですよ。もう回復止まってます」
ホントウだ。
巨人の右腕は大きな傷が少しずつ塞がっていくようだった。
それが止まった。
もう大きなケガじゃないけど。
右腕の付け根にまだ切り傷が残ってる。
それ以上塞がって行かない。
「どうやらこの巨人の回復力は弱いです。少しだけ徐々に回復してくですよ」
「なら我らが攻撃していけばそのダメージの方が大きいな」
「回復以上にダメージを与え続ければいいのです」
「よしっ、タマモ頑張る」
タマモがハルバードの先端で巨人の足を刺す。
ハチ子ちゃんも一緒足を狙う。
この巨人は大きい。
人間三人分くらい。
ジャンプしないで攻撃するなら足しか狙えない。
「うん、ケロ子もっ」
巨人は足元に気を取られてる。
この隙にケロ子はっ。
ジャンプして背中に回し蹴り。
更に上へ跳ぶっ。
首の後ろを狙うっ。
巨人の肩に手を置いて全身のバネで回し蹴りっ。
WWOOOO!
巨人は前向きに引っ繰り返る。
延髄蹴り。
アントニオ猪木が得意としたプロレス技。
延髄斬りとも呼ばれた。
相手の後頭部をジャンプして蹴りつける。
正確には蹴ってる位置は延髄じゃなくて小脳だと言う話も有るが。
ジョーダンでもプロレスごっことか言ってマネしてはいけない。
後頭部を強打するとダメージは脳に伝わる。
小脳が喰らえば運動神経がマヒするし。
延髄は神経が集中している。
呼吸が止まる。
大脳に届けば、脳震盪。
確実に失神する。
相手はドデカイ巨人。
どの程度体力を奪ったかは分からない。
だけどフラフラしてる。
すぐには立てない状態。
みみっくちゃんは杖でタコ殴り。
タマモは斧で切り込む。
ハチ子は槍で突き刺す。
ハチ美も弓矢を振るう。
スキルは使わないが矢を放つ。
執拗に目を狙う。
巨人は前のめりに倒れてる。
顔が近くに有る状態。
せっかくだから目を狙おう。
巨人は反応した。
フラフラしながらも本能なのか手で頭を庇う。
チッ。
仕損じたか。
ハチ美は舌打ちしながら攻撃。
みみっくちゃんはそれを見てたらしい。
小柄な顔に悪い笑顔。
巨人の顔の方に近付く。
巨人の左手の小指の爪を杖で強打。
WWOOOON!WWOOOON!
巨人は手を振り回す。
掴んでた石斧は放置。
ジタバタしてる。
イッテェ!イッテェ!。
そんなカンジ。
みみっくちゃんはハチ美に指さす。
巨人の顔。
巨人は顔が今や無防備。
左手の小指を右手で掴んでジタバタ。
フフン。
ハチ美も悪い笑顔。
『一点必中』
矢は見事、巨人の左目を貫いた。
WWOO!WWWOOO!WWWWOOOO!
巨人が吠え声を上げる。
「冒険者組合の役員だと」
「その役員が何故、我々の邪魔をする」
「この先の村は『野獣の森』と迷宮から出現する魔獣に対抗するための冒険者の為の土地。
帝国領の中であっても帝国の土地じゃないわ」
帝国兵とマリーゴールドは睨み合う。
帝国の下士官達は目を見合わせる。
どうする。
ムラード大佐に報告するか。
チッ、大佐は不機嫌だ。
怒鳴られるだけだぞ。
役員とか言ってるが相手は冒険者一人。
それも女だ。
踏みつぶせばいい。
殺すのか。
殺すのはマズくないか。
帝国領民じゃないとはいえ冒険者。
敵兵じゃない。
殺せば殺人罪だ。
相手は明らかに帝国軍に敵対行動を取ってる。
こっちの兵士は既に数人死んでるんだ。
女を殺すのは惜しいが。
終わったら娼婦でも買えばいい。
亜人の村にはあんなのより若い女がいるらしいしな。
よし、殺そう。
「キサマラ、この女は敵対行動を取っている」
「敵だ、殺してかまわん」
コザルはチェレビーの横。
傷ついた亜人の戦士をチェレビーの処に運んでは横にピッタリ。
「おい、お前なんでオレにくっついてんだ。
暑苦しいだろ」
「護衛だ。
矢がまたこっちに飛んでくるかもしれない」
「そうか、そうかもな。
サンキューな」
「…いやいや大したことは無い」
コザルは更にチェレビーにピッタリとくっつく。
「いや、治療しにくいだろ。
もう少し離れろよ」
チェレビーは言うが、セリフの途中でもうコザルは離れてる。
森の方をコザルは見ている。
顔まで布で覆ってるコザル。
表情は見えないが、緊張した雰囲気。
「おい、どうかしたか?」
「何か、マズイ気配だ」
コザルはいきなり大声を出す。
「みんな注意しろ!
森の方だ」
亜人の戦士達と帝国兵は道で激突している。
湖と森の間の小道。
人間5人くらい通るのがやっとの道。
横は森。
木が生い茂る暗い森。
迷宮『野獣の森』。
生き物の気配が感じられない深い森。
『野獣の森』から出て来る。
何かが。
気配が幾つも木々を越えて出て来る。
“火鼠”、“鎌鼬”、“飛槍蛇”、“暴れ猪”、“土蜘蛛”、“獅子山羊”、“妖狐”、“化け狸”、“一角兎”、“森林熊”、“埋葬狼”、“猩猩”、“鴆”、“蛇雄鶏”、“双頭熊”。
『野獣の森』の魔獣。
魔獣が森から続々と姿を現そうとしていた。
【次回予告】
横柄な態度の客が店員さん捕まえて文句言ってんの見ると、なんだコイツと思ったりするよね。文句言ってんじゃねーよ、ジャマくさいな。
逆に明らかに店側がおかしいだろって時もある。他の人達もみんな変だと思ってるじゃん。ヒトコト言わないと駄目じゃない。こっちが言わないでも気づけよ。早く対処してくれよ。ってカンジ。
どっちが正しいかはよく聞いて客観的に判断しないと分からない。
でも関係ない人にとっては良く聞いてなんかいられない。
そんなコト多いよね。
「従魔師が従魔を操るのには普通魔力は必要としないの」
「でも従魔師が従魔に出来る数はランクで決められてる。それを越える数の魔獣を従えてしまうと魔力を常時使う事になってしまうの。ペナルティみたいなモノね」
「そして従魔師のレベルで従えられる魔獣のレベルも決まる。あなたのレベルじゃ本来不可能なコト。だけどアナタには有り余る魔力が有る。その魔力を使いさえすれば、それをペナルティとして支払えば。きっと出来るハズ」
次回、フワワ語る。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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