クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第112話 従魔少女成長その1

公開日時: 2021年11月20日(土) 17:30
文字数:4,981

「おいおい、姉さん。

 いったい何があったんだ?」


タケゾウとハチ子だ。

侍剣士タケゾウ。

ハチ子は探索が早めに終わったのでタケゾウを呼び出した。

訓練である。

なんとなく亜人の村に居ついた男は従魔少女達の指南をしているのだ。


二人が持っているのは木の槍。

先は丸くしてある。

当たれば打ち身にはなるけど大怪我はしない練習用の槍。


タケゾウは槍を持たせても一流だった。


内へ払う、外へ払う、そして突き。

この3つが基本動作だな。

これを上段、中段、下段と意識して使い分けるんだ。


槍ってのはな。

手の中でリーチをコントロール出来るのが面白いとこだ。

そこが長剣と違う。

普段は柄のまん中を持つだろ。

それを左手の中で滑らせて石突まで移動すりゃリーチが伸びる。

相手から見りゃいきなり槍が伸びて来やがる。

後ろに逃げても喰らっちまう。


相手だって考えるわな。

至近距離に飛び込んで来ようとする。

そうしたら今度は柄を短く持つ。

刃先だけで対処するんだ。

まあどうしても長い柄が邪魔にはなるけどよ。

やってりゃそのうち慣れてくるってもんだ。


本来は剣士の男。

その男に自分の得意の槍で軽く打ち負かされるのだ。

ハチ子は不機嫌。

むぅ、もう一回。

と訓練は長くなる。

そんな練習を何度もやってる。


しかし今日は。


ハチ子は顔に笑みを浮かべる。

いい感触なのだ。

槍を左から右へと大きく払う。

タケゾウがさっと後ろに避ける。

顔には驚愕の表情。

当然、私の攻撃は速くなった。


そのまま槍を手元から中段に突き入れる。

真正面。

タケゾウはギリギリ自分の槍でガードする。


「若いから成長が早いってのは有るだろうけどよ。

 いくら何でも伸びすぎだぜ」

「そんなに成長したか?

 自分では良く分からんのだ。

 むしろお前の動きが鈍ってるんじゃないか」


昨日までタケゾウにいいようにやられていた。

そんなハチ子がタケゾウに負けていない。

しかもこの突きの威力はどうだ。

タケゾウの胴体目掛けて一直線に伸びてくる。

手に持つ槍で向きをずらして躱すが、喰らえば木製の槍でもシャレにならん。

そんな力が込められている。


「そんなワケねーだろ。

 明らかに姉さんが強くなってんだよ」

「そうか、フフフ」


ニヘッと笑うハチ子。

今日LVアップはしたもののステータスは確認できていない。

どんなものか気になってたのだ。


今日はこの男と互角に打ち合えている。

昨日までのタケゾウは手を抜いてるのが明らかだった。

練習と称して、ハチ子がどんな攻撃をしても軽く躱して見せたのだ。

そのあげくポコンと頭を打って、まだまだだなと笑う。

子ども扱いである。

いい加減ムカついていたのだ。

それが今日は男が慌ててる。

互角に打ち合っている。

いや、ハチ子の方が先制攻撃をしてるのだから優勢といってもいい筈だ。

ドヤ顔で笑うハチ子である。


「そこまで勝ち誇るのはちょいっと早くねーか。

 まだ俺に一撃も入れられていねーぞ」


その通りだ。

ハチ子は鋭い攻撃を繰り出している。

しかし男はその槍先に槍を合わせてくる。

狙う方向をずらされてしまうのだ。


ハチ子は柄を長く持って下段を払う。

足元を大きく攻撃。

相手は対処し辛いのだ。

後ろへ避けたところに下から上へ突き上げる。

男に習った通り。

相手に下段を意識させて次は上段を狙う。


良いタイミング。

突きは相手への直線距離をするすると伸びていく。


取った。


そう思った瞬間。

ハチ子の手から槍が抜ける。

前方へ突き出した槍が手から離れ上へと巻き上げられる。

男の槍が絡みハチ子の手から槍を奪ったのだ。

ハチ子の槍は男を越えて、地面に落ちてる。



「はぁー、冷や冷やしたぜ。

 姉さん、力を入れすぎだ。

 あんなの顔に喰らったら顎の骨が折れちまう」

「いや、狙ったのは首だぞ」


「余計悪りぃよ。

 首の骨が折れたら死んじまうだろ」

「くそっ、何だ今のは。

 卑怯だぞ」


「卑怯じゃねーよ。

 巻き上げってヤツだ。

 相手の攻撃に合わせないと上手くいかない。

 姉さん、攻撃が真っすぐだからな。

 やりやすかったぜ」


チクショウ。

さっきまでドヤ顔だったハチ子は不機嫌そう。

優勢と思ったのも束の間。

また子ども扱いされたのだ。


頬を子供のように膨らませてるハチ子を見ながらタケゾウは冷や汗を拭う。

タケゾウは彼女に稽古をつけだして一ヶ月足らず。

さすがにまだ負けるわけにはいかない。

しかしやばかった。

彼女が調子に乗って攻めて来たから何とかなったが。

冷静に戦えばどうなる事か分からない。

成長しすぎだろ。

聖者サマ。

これもアンタの奇跡かい。




ハチ美は弓で狙う。

離れた位置にある大木。

幹を狙う。

枝を狙う。

枝の先には赤い実。

実を傷つけないよう茎を狙う。

矢が次々に刺さる。

幹に刺さる。

枝に刺さる。

茎に刺さる。


「んっ!」


赤い実が落ちる。

落ちた実を受け止める男。

帽子を目深に被る青年。


「お見事です」


青年はリンゴをハチ美に差し出す。

革マントを着た弓士、ムゲンであった。


「どうぞ、差し上げます。

 失敗しましたから」

「失敗?

 見事に撃ち落としたではないですか」


「傷を付けずに土産にするつもりだったのです」

「ふーん」


確かにリンゴの表面は小さく矢傷が付いている。


「この程度、気にする事は無いでしょう」

「王への土産です。

 傷ついたモノなど差し出せない」


「……

 では仕方ない。

 私がいただきましょう」


ムゲンはリンゴの表面を軽く拭いて齧りつく。

ハチ美はまた弓矢を射る。


「ふーん、どうされたのです」

「何がでしょう」


「昨日までと別人のようです。

 矢を番えるまでの速度、その威力。

 簡単に成長するレベルではありません」

「成長したのです」


ハチ美は言う。

有無を言わせぬ口調。


「ならばあなたに教わる事はもう無いという事ですね」

「何かを教えていたつもりはありませんよ」


良く言う。

ハチ美が弓の練習をしているのを見ては近付いてきた。

ほら、こうやるんですよ。

そう言わんばかりに目の前で弓矢を操る。

確かに男の弓の腕は間違いなく高レベル。

攻撃力だけではない。

走りながら的を捉える。

時間をかけずに標的を射抜く命中精度。

弓を構える姿勢。

足元が不安定な位置でも矢を放ってみせる。

弓矢を使うとは単に射る事が出来るだけを言うのではない。

そう言う事を教える行動。


腕がムゲンの方が上なのは分かっている。

俺の言う通りやれと言えばいい。

これみよがしな行動が鼻に突く。


「弓矢とはなかなか奥の深い物でしょう。

 その真髄に近付くための協力者。

 お互いに切磋琢磨するのが良いではありませんか」

「ではあなたから見て、

 私に足りないものは何ですか?」


「…そんな質問になかなか一言では答えにくいですね。

 ではあれを見てください」


男が言う。

指差したのはヒラヒラと舞う木の葉。

季節は初冬。

枯葉が舞う季節だ。


帽子をかぶった男は矢を射る。

それほど丁寧に狙ったとも思えない。

しかし矢は枯葉の真ん中を射抜き、木の幹に突き刺さった。


男がハチ美に手を振って見せる。

次はあなたの番ですよ。

そういう仕草。


ハチ美は弓を構える。

落ち葉はスピードの有る物でも無い。

そこまでの芸当とは思えない。

手近な落ち葉に矢を向ける。

しかし。

緑から茶色に色を変えつつある木の葉。

木の葉はヒラヒラと舞う。

向かう先が予想できない。

一直線には動かない。

時にクルリと舞い、時に風に吹かれ舞い上がる。

捉えられない。

風が止む一瞬。

落ち葉が動きを止める瞬間。

ハチ美の手から矢が放たれる。

瞬間を捉えた手応え。


矢は葉に当たり幹に刺さった。


「お見事です」

「いいえ、失敗です」


矢は確かに幹に刺さっている。

落ち葉にも当たっている。

しかし落ち葉の真ん中を捉えていない。

ムゲンの矢は落ち葉の中心を貫き幹に差し止めている。

ハチ美の矢は落ち葉の隅に引っかかっているだけ。

今にも外れて舞って行きそうなのだ。


「フフフフ、落ち葉の真ん中を貫かなくてはいけない。

 そんな決まりを作ってはいませんよ」

「いいえ、的は常に動いてる。

 相手がこちらの予想通りに動いてくれるとは限らない。

 確かに弓矢は奥が深いです」


相手を認める発言をしてはいるがハチ美の眉は寄っている。

不機嫌が隠しきれていない。


「フフフフ。

 あなたは怒った顔がまた奇麗ですね」

「まさか、ワタシを口説いてるつもりですか。

 残念ながら私のつま先から指の一本に至るまで、

 全てショウマ王の物です。

 無駄な事はお止めなさい」


「そんなつもりは有りません。

 本当に奇麗だと思っただけです。

 それに私にも心に決めた許嫁が居る」

「許嫁ですか。

 一緒には居ないのですか」


「故郷の国に残しているのですよ」


それなりの年齢の筈なのに何故結婚していない。

許嫁のまま一緒に暮らしてもいないのは何故だ。

ハチ美の言外の質問に答える言葉。

ムゲンは以前、ショウマ達に素性を明かしている。

彼の故郷は小国、ムゲンはその王族なのだ。

相続争いに捲き込まれるのを避け逃れてきたと言う。


「私もあなたに足りない物をお教えしましょう」

「女性に教えを戴けるとは光栄です。

 何でしょう」


「その国から愛する人を連れ出さなかった。

 その勇気があなたに足りない物です」

「…厳しい言葉ですね。

 しかしその通りです。

 彼女には申し訳ないと思っています」


アイリス。

今どうしているか。

ムゲンは心の中で許嫁の名を呟いた。




「はぁー」


ショウマはお風呂に入ってる。

今日はLV上げ結構進んだ。

目標全員LV30には行かなかったけど。

まだ1日だしね。

現在ショウマはLV29、あと一歩。

タマモはまだLV25。

だけど、今日だけでLV3からLV25まで行ったのだ。

よし頑張った、僕頑張った。


さて、色々情報を整理しよう。

何が有ったかな。


“森の精霊”フンババさん。

獅子の仮面をした、神様と思われてる女性。

今日会ってしまった。

本来そのうち会えるだろうと思ってはいたのだが。

いきなり会えちゃうとは。

でも別の女性とケンカしてたのだ。

ショウマにクレーム着けて来た女性。

蛇のお面した女性。

おまけに頭から羽根も生やしてた。


ケロ子はLVアップ。

スキル『鎧通し』手に入れてる。

相手の防御力を無視するワザ。

“動く石像”や“石巨人”に使えそう。

また『地下迷宮』行ったら試そう。


他はみんなステータス確認してない。

冒険者組合にマリーゴールドという女性が来ていた。

ザクロさんと二人で酔っ払ってたのだ。

『冒険者の鏡』を覗き込もうとして来るので逃げてきたのだ。

明日行ったらいなくなってるかな。


でもマリーゴールドさんはちょっと重要。

だってエロかっこいい鎧着てたのだ。

上着も着てたのでしっかり確認できなかったけど。

鎧は肩まで、腰鎧はホットパンツ風。

二の腕も太腿も出しその上に革紐のようなタイツ。

そんなに編み目の細かいモノじゃない。

しっかり素肌が見えてた。


従魔少女達にもあんなの着せたい。

えちえちな格好させたいのだ。

だけどそうもいかない。

迷宮で実戦なのだ。

場所は『野獣の森』である。

木の枝や背の高い草に引っかけるだけで人間の肌は傷つく。

せっかくの美少女たちの肌を傷つける訳にはいかないのだ。


そこんとこがショウマの課題。

昔は良く分かって無くて、チアガール風の服装でケロ子に戦わせてしまった。

後で考えるとトンデモナイ。

美少女がケガしたらどう責任とるのだ。

後に残るような傷でも負ったらどうしよう。

まぁ今なら回復魔法で何とかなりそうな気もするけど。


しかしアレは良かった。

ミニのチアコスでケロ子がハイキックを繰り出すのだ。

まさに至高の光景。

この光景を見るために産まれたのかも。


以前練習試合をした男達。

武道家だと言う男達。

上半身ハダカで試合をしていた。

弓矢を素肌で跳ね返していたのだ。

あの技術。

あれが有ればイケルかもしれない。

従魔少女達をエロカッコイイ姿で戦わせられる。


今日見たマリーゴールドさんもかなり露出度の高い服装。

なにか秘密が有るのか。

それとも組合の偉い人だから。

すぐには実戦に参加しない。

そんな余裕が有るだけ?


ショウマがマリーゴールドに尋ねるのはムリ。

だって良く知らない大人の女性。

挨拶するのすら難易度高い。

みみっくちゃんに尋ねてもらおうかな。




【次回予告】

定番の賢者。普通ゲームやアニメだと魔術のスペシャリスト、魔法使う人の頂点だ。

隠者。正確な意味は知らない。タロット占いで有名だよね、ハーミットってヤツ。

祓魔師。名前のトキメキ度で言ったら一番上だ。そのままマンガの主役張れる。

「じゃあ本当にみみっくちゃんのでいいんですね」

次回、みみっくちゃん慎重になる。 

(ボイスイメージ: 岡本信彦(神)でお読みください)

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