クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第62話 野獣の森入り口その1

公開日時: 2021年10月1日(金) 17:30
文字数:5,254

ショウマはコノハの家で朝を迎えた。

昨日のコトはあまり思い出したくないショウマだ。

村人たちを海魔法で治療してから頭がグルグルしてしまった。

なんだかんだ言って疲れてたのかも。

いきなり花粉症に襲われるし。

花粉症でハナミズ出てるトコをケロ子に見られてしまった。


コノハの家にベッドは二つしか無かった。

でも毛皮はやたらたくさんあった。

ベッドは元々コノハの物だろう。

コノハに使ってもらって、ショウマ達は床で毛皮を敷き詰めて毛布にくるまった。

馬車のソファーもクッションが効いてて良かった。

でもやはりちょっと狭かったのだ。

解放されて良く寝てしまった。


ショウマは情報を整理する。

本当は昨日の夜しようと思ったのに全然頭が働かなかったのだ。

何が有ったっけ。


海魔法。


確実なのは

ランク1 『癒す水』

これだけは『賢者の杖』無しでも使える魔法。


後は予想でしかない。

ランク2 『休息の泉』

ランク3 『治癒の滝』

ランク4 『回復の湖』

ランク5 『母なる海の女神』

 

ショウマが名前の印象から推測したランクだ。


『休息の泉』はやっぱり範囲治療だ。

多分そんなカンジかなと予想してた。

ショウマの近くに居た人達が対象。

いっぺんに5人から10人くらい。

半径10mくらいの範囲なのかな。

効果は体力の回復、軽いケガの治療。

骨折した人もいたのだけど、そこまではムリ。

軽く指をくじいたくらいなら治るみたい。


みみっくちゃんには内緒だけど『治癒の滝』も使ってしまった。

ユキトだっけ。

コノハさんのお隣さん。

足を折ったと言ってたのが治った。

効果はそれ以上はまだ分からない。

多分ランク3だろう。


みみっくちゃんの木魔法はどうだったんだろう。

後で聞いてみよう。


ケロ子の『身体強化』

効果は30分~1時間くらいだろうか。

走るのが速くなる。

蹴りの攻撃力もアップ。


前に練習試合で相手が使ってたのを見た。

もっと強力だったと思う。

矢をハジキ返したり、床を割ったり。

何かコツが有るのだろうか。

レベルアップすれば変わるかな。


亜人の村。

いろんな人達が暮らしてる。


コノハさんは独り暮らし。

ベッドが二つあったという事は前は誰かいた。


コノハさんは薬が作れる。

村では貴重な存在だったのでは。

帰ってきたのを知ってケガ人が集まってた。

コノハさんも回復薬を普通に渡してた。

何故村を出てきた?

コノハさんの頼み事って?


ショウマはまだ依頼の内容をちゃんと聞いていない。

【クエスト:毒消しを手に入れろ】が終わって、次のクエスト発生。

とか思ってただけだ。


でもちょっと予想はしていた。

みみっくちゃんは亜人の村に手強い魔獣が押し付けられてると言ってた。

帝国では亜人は生き辛いとも。

悲惨な状況の亜人の村。

それをなんとかしてくれ。

そういう話だと思ってた。


でも来てみれば、亜人の村はそんなに悲観したもんではない。

もちろん、魔獣が湧いて出るしケガ人も多い。

大変では有るのだろう。

森が湖が近くに有る。

食料にも困って無さそうだ。

ショウマがなにかしなきゃイケナイ。

そんな雰囲気じゃないのだ。


「今日は海属性魔法もっと使ってみようかな」


ケガ人はたくさんいた。

コノハさんの依頼が急がないなら、午前中くらい海魔法のテストに当ててもいいかも。



朝食の席、みみっくちゃんに訊いてみた。

木魔法のコト。


『ツタ縛り』


相手の動きを止める。

植物がロープのようになって縛り付ける。

みみっくちゃんは前にも使ってた。


「木属性の魔法の効果ですか。嫌ですね、ご主人様。前にも使ったじゃないですか。

 迷宮で4人の酔っぱらいに襲われたでしょう。みみっくちゃんあの時アイツラを縛り上げたですよ」


ショウマは気が付かなかった。

言われてみればロープなんて持ち歩いてなかった。

何で縛ってたのかというと木魔法のツタだった訳だ。


攻撃魔法ではないんだろうな。

相手に状態異常を引き起こすタイプ?


朝ご飯はジャガイモ。

蒸かしたのがどんっと置いてある。

それと昨日の鍋の残り。


「すいません。

 こんな物しかなくて」

「いえいえ。美味しいですよー。ジャガイモは栄養価が高いって言いますよー」


みみっくちゃんはパクパク食べてる。

なんか食いしんぼキャラになってるな。


隣に住んでる少年ユキトがやってくる。


「昨日の礼だよ。

 飲んでくれ」


差し出したのは牛乳?


「ヤギの乳ね。

 ありがとう」


ヤギの乳!

ア〇プスの少女のアニメでおじいがやたら推してたんじゃなかった?

さすがに観たのが昔過ぎて良く覚えてないや。


ショウマがフンフン臭いを嗅いでるうちにユキトは話し出す。


「コノハ姉。

 もしかしてこの人達とサツキさんを助けに行くつもりなの?

 オレも手伝う。

 一緒に行かせて」


サツキさん?



サツキさんと言うのはコノハさんの母親の名前らしい。


「二ヶ月くらい前かな。

 “蛇雄鶏”(コカトリス)にやられたんだ」


ユキトは言う。


「“蛇雄鶏”は石化の呪いを使う。

 サツキさんもオレの家族もやられた」

「近くで息を浴びると即、石になってしまうんです。

 その時は鳴き声を聞いただけでした。

 だから無事だったと思ったんですが、

 数日したらだんだん体のいろんなところが動かなくなってきて」


「徐々に石になってきちまったんだ」

「人によって進行具合は違うみたいです。

 一週間くらいで全身石になる人もいれば、

 一年かけて徐々に進行する人もいます」


ショウマは昨日ユキトの家族を見た。

何だか人形みたいと思った妹と寝ていた母親。

あれは体が石化して自由にうごかなかったせい?


「それでコノハさんのお母さんはどこ?」


「それが……」

「さらわれちまったんだ。

 オレを助けて」


“埋葬狼”

人を攫って行く魔獣だ。

攫って行って自分の住処の土中に埋める習性がある。

埋めておいてゆっくり食べるのだ。

お陰で土中から抜け出し逃げるのに成功する人もたまにいるらしい。


犬は自分のエサを埋めて隠すと言うし、リスもドングリを土中に埋めると言う。

熊も餌を土や木の中に隠す。

ビーバーは水底に木の実を隠しておくと言う。

似たようなモノかなと思うショウマだ。


「なるほどですよ。埋められているだけなら、助けられる可能性も有るってコトですね。つまりコノハのみみっくちゃん達へのお願いと言うのはお母さんが埋められてる場所を探して助けて欲しいとそういうコトですね」

「その攫われたって言うのはいつ頃の話なんですかっ?」


「………」

「一ヶ月くらい前だ」


黙ってしまったコノハに替わってユキトが答える。


「一ヶ月? それはコノハ殿、

 ハッキリ言って申し訳ないが母上は生きていないだろう」


「姉様、それは」

「事実だろう。ウソを言っても仕方ない」


まあハチ子の言う通りだ。

人間が飲まず食わずに生きられるのは3日がいいところ。

水だけでも飲めれば、一ヶ月くらいは生き延びられるという話も有る。

しかし埋められているのではそれも望み薄だ。


「そうです。

 多分亡くなってます。

 でも母さんは石化しかけてました。

 すでに半分以上、身体が石になってたんです。

 石になりかけてご飯もだんだん食べる量が減ってたんです。

 だから、

 だから」


「オレ、戦士達に頼んでみたんだ。“埋葬狼”の巣に行けないかって。

 でも『野獣の森』のかなり奥の方らしい。

 下手に進んでいったら戦士達の方が全滅しちまうって…」


つまり石化が進んでれば食料は少なくて済む。

だから生きてるかもしれないってコト?


「その例えばの話だけど、

 コノハさんのお母さんが完全に石化したとしたら治せるの」


「望み薄でしょうね、ご主人様。毒やマヒくらいなら、治療院に行けば母なる女神教団の神官が治してくれます。

 石化を治したと言う話はみみっくちゃん聞いた事ないです。

 女神教団の本拠地に行って高位の神官、聖女様や大教皇に頼めればあるいは…ってトコロです。それはでもなにかのツテが有るか、とんでもない大金でも無きゃ頼むことが不可能です」


ショウマの質問にみみっくちゃんが答えてくれる。

でもさ、みみっくちゃん。

森でお母さんを見つけてみれば何故か石化が治ってた。

そんなシナリオはどうかな?

そんなショウマの目線に気付いてるみみっくちゃん。

ため息をついて肩をすくめる。

止めても無駄でしょうね。

そういうポーズ。


「頼む。

 ケロ子姉ちゃん。変な兄ちゃん。

 サツキさんを見つけてやってくれ」


「“埋葬狼”に襲われたのはオレなんだ。

 サツキさん。

 自分が石になりかけてるのに、それでもオレを助けてくれたんだ。

 オレ、『野獣の森』を案内する。

 戦士達と一緒に荷物持ちで何度も付いていってるんだ」


「ショウマさん。

 こんなあやふやな話に捲き込んですいません。

 本当は自分で何とかするつもりだったんです」


「私一人で『野獣の森』に探索に行くのは無理です。

 だからお母さんが全身石化してくれてる可能性にかけようと思いました。

 『迷宮都市』に行って、冒険者のLVを上げてお金を稼ぐんです。

 私とタマモが強くなれば、『野獣の森』の奥にも行けます。

 お金さえ稼げれば、他の冒険者を雇うことも出来るかもしれません。

 石化していてもお母さんを救い出せるかも。

 石化した人を元に戻せる可能性が少ないのは知っています。

 でも少ないって事はゼロじゃない、可能性が有るって事です」


うん。

分かった。

そう言おうとしたショウマ。

だけどなんだか表が騒がしい。


「ううっ。ううぅー。

 なんて悲しいの。

 お母さんが、お母さんが死んじゃってるかもしれない。

 運が良くても石化してる。

 それでも挫けずに自分の力で助け出そうとしているその娘さん。

 感動だわ。アタシ、泣いちゃいそう」

「泣いちゃいそう

 というか泣いてるぞ」


「シーッ、エリカ様、コザル。声が大きい」

「ミチザネ!

 なんでアナタ平然としてるのよ。

 可哀そうじゃない。

 しかも娘さんは毅然と悲しい運命に立ち向かおうとしているのよ。 

 良い話じゃない。

 これで泣かないなんてアナタ人の心は有るの?」


「いや、もちろんミチザネとて、母が生きている可能性が少ないと知りながら、

 何とかしようとする少女の思いには頭が下がる思いですが…」


扉を開けてみると3人の冒険者姿。

戦士姿の少女は泣いてる。

あからさまに目から涙をこぼしてる。

少女に食って掛かられて困った様子の男。

マントを纏った魔術師スタイル。

「ほら気付かれちまったじゃねーか、オレのせいじゃねーぞ」

後ろでそう呟いてる顔を隠した布装束。


誰?


「あ、あのいきなりスイマセン。

 表から話を聞くなんて失礼なマネを…」

「お初にお目にかかります。

 こちらにショウマさんが居ると聞いて来ました。

 何やら重大な話をしているようでしたので、表で待っておりました。

 ワタクシ、魔術師のミチザネと申します。

 キューピー会長の紹介で参りました」


ああ、キューピー会長が言ってた。

ツアーガイドの人達か。


「だから、なんでミチザネはアタシを押しのけるのよ。

 アタシがアイサツしてるのよ」

「エリカ様におまかせすると我々が盗み聞きしていたように相手に聞こえてしまいますので、ミチザネが上手く説明しておきました」


騒がしい人たちだ。


「コザルだ。コザルが助けたと分かるようにショウマ殿を助けるぞ」


もう一人目立たない雰囲気の人もアイサツしてくる。

この人も変だ。


しかし表に居たのは三人組だけじゃなかった。

さらに大柄な男がコノハの家に入ってくる。


「コノハ。なんで言わなかった。

 戦士達とオレが『野獣の森』の奥に向かうぜ」

「キバトラさん!」


「ダメです!

 こんなアヤフヤな話に他の人達を捲き込めません。

 『野獣の森』の奥まで行ったら、どれだけ犠牲がでるか。

 そうしたら、たとえ母さんが助かっても意味がありません」

「コノハ姉」


戦士達のリーダーという男キバトラだった。

顔に獣毛が生えてる。

キバが伸びてる。

獣毛は斑、鼻まで少しせり出してる。

トラ男、ワータイガーみたいになってるのだ。


「うわっ。みみっくちゃんびっくりしたですよ。色んな亜人さん見ましたけど、この人コワイ顔ナンバー1、一等賞ですよ。夜道で有ったら叫び声をあげる自信が有りますね」

「みみっくちゃん。失礼ですっ」


「スマン、スマン。

 興奮するとついな…」


キバトラの顔からは獣毛が消えていく。

キバも八重歯くらいのサイズに戻るのだ。

また泣き声が聞こえる。


「ううっ。いい話だわ。

 母さんが助かっても他の人が犠牲になったら意味がない。

 本当は母親が心配なはずなのに、そんなコトを言えるなんて…

 なんてステキなの」

「エリカ様、いい場面を壊してますよ。

 泣きながら解説するのはお止めなさい」


騒がしいと言うか人が多い。

人が多いのニガテなのに。

まだ朝なのに、すでに疲れてるショウマだ。



【次回予告】

“妖狐”や獅子山羊(キマイラ)なんかは手を出さなきゃ、襲ってこないから大丈夫。“森の精霊”(フンババ)様や “翼有る蛇”(ケツァルコアトル)様には手を出さないで。人間を助けてくれるんだ。神様だって思ってる人もいるんだよ。“鴆”は猛毒を使ってくるから、『毒消し』が無かったら近付いちゃダメ。“蛇雄鶏(コカトリス)”は石化を使うけど、奥まで行かなきゃ滅多に出くわさない

「む。いっぺんに言われても覚えられないな」

次回、ハチ子は困惑する。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください) 


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