「なんか変なカンジだ」
「?」
「今迷宮のカベを越えてるんだ。
ホントウはここは越えちゃイケナイ場所なんだ。
そう感じる。
『野獣の森』が弱ってる。
綻びが出来てる。
だから通れるけど、
ホントウは通っちゃイケナイ
そう感じるんだ」
“妖狐”タマモが言う。
タマモは従魔だから、元迷宮の魔獣だ。
迷宮内での決め事というかルールみたいなモノを感じてるのかも。
『野獣の森』が弱ってる?
どういう意味だろう。
ショウマが聞いてみようかな、そう考えた時。
「よし。カベを抜けた。
ご主人。
『野獣の森』の中だぜ。
油断しないでくれよ」
『野獣の森』の中。
魔獣がウヨウヨいる場所じゃん。
ショウマとタマモだけだとマズくないかな。
まあなんとかなるか。
今ショウマはタマモに乗っている。
たいていの魔獣ならタマモの上から魔法で倒せる。
手強いのがいたら逃げればいい。
でも『野獣の森』にしては魔獣が少ない。
襲われないのだ。
「いるぞ、ご主人」
オオカミ。
“埋葬狼”か。
「キサマラ、
ドウヤッテココマデ」
狼が喋ってる?
「タマモとセイジャサマカ。
ソウカタマモもマジュウダモノナ。
ホコロビガワカルノカ」
「ククク。
タマゲタカオヲシテルナ
カカカカカ。
コレガオレダ。
オレノショウタイダ」
狼が笑う。
人を嘲るようなイヤな笑い。
と思うと狼が2本足で立ち上がる。
全身を覆う毛が薄くなっていく。
せり出した鼻、口が引っ込み平坦な人間の顔になっていく。
そこに立っていたのは、亜人の村の戦士イタチであった。
変身能力?
ショウマは驚かない。
タマモも美少女から“妖狐”の姿になれるし。
ユキトやキバトラも獣化している。
「ククク。
どうだ、聖者サマよ。
怯えろ、驚け。
俺は魔獣なのだ」
えーとこの人何言ってんのかな。
中二病的なアレ。
「えーと。
イタチさんは魔獣なんですか?(棒読み)」
「当たり前だ。
先ほどの俺の姿を見て分かっただろう」
「あれは獣化とか言うんんじゃないの?
キバトラさんやユキトも毛が生えてたよ」
「アホウが、あれは毛が生えて牙が伸びる程度だ。
4本足の獣になるものなど亜人にはいないに決まってるだろ
俺が魔獣だからだ」
「へー、ソウナンデスカ(棒読み)」
「キサマ、本気にしていないな」
バレたか。
それはともかく。
「ここ『野獣の森』の中なんだよね。
その割には魔獣に襲われないね」
「ここは“埋葬狼”のナワバリだ。
他の魔獣はまず入ってこない」
「ふーん。
良く知ってるね」
「フッ、俺しか知らん事だ。
ここは『野獣の森』の奥に当たる。
先に行けば“双頭熊”のナワバリも有れば、“鴆”のナワバリも有る。
入ったらまず生きて帰れんだろうよ」
「うぇー。
あのコワイ熊がウヨウヨいるの?
そりゃ近寄りたくないね」
「それが分かるのも、
俺が魔獣だからこそだ。
どうだ、俺の恐ろしさが分かったか」
「ソッカー。
コワイナー、スゴイナー」
「キサマ、馬鹿にしているのか」
バレたか。
「みみっくちゃんとコノハさんをどうしたの?
二人を返せば何も言わないよ」
「コノハか、そうだったな。
コノハならここにいる」
その瞬間、イタチの腕に女性が現れる。
狼の姿から人間になったイタチ。
裸で元々着ていたらしい鎧、服を抱えていた。
その手にいきなりコノハが現れたのだ。
「コノハさん!」
コノハさんは意識を失ってる様子。
イタチの腕の中でグッタリしている。
「ククク。
コノハの命は俺が握ってる
逆らうんじゃねーぜ」
コノハさんをイタチが抱きしめている。
意識が無い様子のコノハさん。
彼女の首元にイタチは肘を回している。
いつでも首を絞められるぜというポーズだ。
「…イタチさん」
「何だ?」
「服着なよ。
待っててあげるから」
「何を言ってるんだ、お前は」
「だって、裸で意識の無いコノハさんを後ろから抱えてるんだよ。
どう見ても変質者だよ」
「やかましいわ」
いやホントウだ。
イタチはずっとハダカなのだ。
男の裸は見たくないのに。
辺りは既に暗い。
暗い森でハダカの男が意識の無い少女に後ろから抱きついてるのだ。
変質者以外の何物でもない。
変質者じゃ無かったらチカンである。
性犯罪者である。
「その手には乗らないぞ。
隙を見てコイツを取り返そうとしたって無駄だ」
「いや、そんな気は無いけど。
フツー男のハダカは見たくないよね」
イタチは片手でコノハを掴み、もう片手に服らしき物を掴んでいる。
狼の姿になった時丸めてどこかに持っていたのだろう。
にしてもコノハさんをどこから出したのだろう。
最初からこの辺に隠してた?
みみっくちゃんも居るのかな。
「もう喋るな」
イタチが腕に力を込める。
コノハさんの首元が締まる。
「いいか。
コノハを助けたかったら、
その場でオマエが死んで見せろ」
何言ってんの。
「オマエが死んだらコノハを開放してやる」
「何言ってんの?
おかしいのキミ」
「フン、出来ないか。
聖者などと偉そうに名乗っておいて、
やはり自分の命は惜しいか」
「アタリマエじゃん。
僕は聖者なんて名乗ってないよ。
勝手に村の人が呼んでるだけだよ」
「このペテン師め。
最初から怪しいと思っていた。
何が目的だ」
「だいたい僕が死んだ後、コノハさんを解放する保証がないじゃん。
おかしいじゃん。
ペテン師なのはそっちじゃん」
ショウマとイタチは睨み合う。
えーい。
この人全然話が通じないよ。
「分かった。
自分で死ぬ度胸が無いなら、
俺が刺し殺してやろう。
そこを動くな」
イタチが槍を取り出す。
えーと。
今どっから出したの?
布の服を丸めたようなようなカタマリ。
15cmくらいしか無い布のカタマリから身長に近いような槍が出てきたのだ。
イタチは布を腕に縛ったらしい。
片手に槍を持っているのだ。
「手品師?
マジシャン?」
職業に手品師って有るのかな。
イタチは槍をショウマに向けてくる。
「抵抗するな。
コノハの命が無いぞ」
そう言って槍をショウマの身体に向けてくるのだ。
「何言ってんの?
抵抗するよ」
槍で刺されたら痛いのだ。
抵抗するに決まってる。
ショウマは槍から逃げる。
「逃げるな」
「逃げるよ」
「なぜ逃げる」
「刺されたら痛いからに決まってるじゃん」
「キサマ、
俺がコノハを殺しはしないだろうと、
タカをくくってるな」
そんなコトは無い。
だいたい、高を括る なんて言葉正確な意味も分かんないよ。
「後悔させてやるぜ。
聖者サマ」
イタチがコノハを突き飛ばす。
と同時に槍で突きさす。
コノハの身体を。
槍がコノハさんの身体を貫いて刃先が前に抜けるのだ。
「コノハさん!」
「コノハ!」
受けとめたのはタマモだ。
“妖狐”スタイルでショウマを乗せていたタマモ。
ショウマを放り出して、美少女スタイルへ。
変身しながらコノハを腕で受け止める。
「なにっ!?」
イタチは動揺してる。
「タマモ!
人間の形になっただと!
ケモノ、四つ足のケモノが人間の姿に…!」
なにを驚いてるのさ。
自分だって四本足のオオカミスタイルから人間スタイルになったじゃん。
「バカな。
タマモは従魔。
いや、そうかやはり…
魔獣が人間の姿になる事があるのだ…」
イタチは異常なくらい驚いている。
明らかに動揺しているのだ。
踵を返して逃げていく。
マズイ。
追わないと。
まだみみっくちゃんの場所を聞き出してない。
だけど。
「コノハ!
コノハ、しっかりして。
コノハー!」
タマモが必死の叫び声を上げてる。
明らかにコノハさんは重傷。
「ショウマ、ご主人。
回復、回復魔法を」
分かった。
『治癒の滝』
コノハさんは麻の服に革マント姿。
槍に貫かれた処から血が流れ出てる。
服が真っ赤に染まってるのだ。
『治癒の滝』はおそらく海魔法のランク3。
血が溢れ出るのは止まったみたいだ。
「コノハ…」
「う、…ううん」
コノハさんは意識を取り戻したのか。
かすかに声を上げる。
そうか。
眠り薬の効果からも回復したのかも。
「こ、ここは」
「コノハ。
良かった~。コノハ~」
少女姿のタマモがコノハさんに抱き着く。
「だ、誰?。
私どうしたの」
コノハさんはタマモが分かってない。
そりゃそうだ。
「落ち着いて、コノハさん。
まだ動かないで」
「ショウマさん」
「コノハさん、イタチに刺されたんだ。
今回復魔法使ったんだけど、
まだ完全に治ったか分からない。
調べるから少し待って」
「ハ、ハイ」
コノハさんは何だか良く分からない様子。
まだぼーっとしている。
ずっと薬で眠らされていて、起きたばかりだものな。
「タマモ、コノハさんの服を。
傷口を見るから」
「よっし」
タマモがガバッとコノハさんの服をまくり上げる。
いや傷口が見えるくらい。
そっと服を上げてくれれば良かったんだよ。
タマモは服を一気に上まで上げてる。
コノハさんの顔が隠れるくらい。
見えてる。
見えてる。
胸まで見えてるってば。
コノハさん。
下着をつけていらっしゃらない。
前にも思った通り、服の上から想像するよりも凹凸の有る身体をしていらっしゃる。
ははー。
ありがたい。
ありがたい。
良いもの見せてもらった。
思わず敬語になっちゃうよね。
いや、それはそれとして。
コノハさんはもがいてる。
けどまだあまり力が出ないのか。
弱々しい。
傷口は。
うん。
ほとんど残ってないね。
服の上から考えてお腹の辺り。
この辺から槍の先端が出ていたと思う。
少しだけ傷らしきものが残ってる。
でも流れた血は戻らないんだろう。
体は血だらけ。
もう一回、回復しておこう。
それで大丈夫だろう。
「コノハさん。
もう一回魔法を使う。
それで大丈夫だと思う」
「ふ、ふぁい。
お願いします」
コノハさんはまくれ上がった服で顔が隠れてる。
言葉がハッキリ聞こえない状態。
『治癒の滝』
「タマモ。
コノハさんの服戻してあげて」
「分かった。
ご主人、コノハは大丈夫なのか」
「うん。
もう傷も無いよ」
コノハさんの捲れてた服をタマモが戻す。
現れたコノハさんの顔は赤らんでる。
「顔色も良くなってるね」
「………!?」
なんだかコノハさんがジタバタしてる。
元気になったアピールかな。
「ほら元気になってるでしょ、タマモ」
「ホントウだ。コノハ良かった」
「………(違う―)
…(服が捲れたところを見られて恥ずかしいの)…
…(言えないけど)…
…(ショウマさんは治してくれたんだし)…」
なんだかコノハさんの心の声が聞こえる気がするけど。
気のせいと言う事にしておこう。
「タマモ?
あのアナタはタマモってお名前なんですか?」
「何言ってんだ、コノハ。
オレだよ、オレ」
ぼうっとしたコノハさんと美少女スタイルのタマモ。
すれ違ってるな。
それはともかく。
みみっくちゃんを助けに行かなきゃ。
いやでも、ここは“埋葬狼”の巣だって言ってたな。
「タマモ、ここは“埋葬狼”の巣だって、
さっきのヤツが言ってた。
本当なら、どこかにコノハさんのお母さんがいるんじゃない?」
「分かった。
臭いで探してみる」
タマモは美少女スタイルから狐スタイルに変身してる。
狐スタイルの方が鼻が効くのか?
「タ、タマモ。
さっきのお姉さんは?
何でタマモに?
え? ええ?」
コノハさんがフラッと倒れる。
慌てて支えるショウマ。
「どうしたんだ?
コノハ、大丈夫なのか」
「ちょっとフラッとしただけじゃないかな。
傷は治ったけど、大分血を流しちゃったみたいだし」
コノハさんをタマモの背に乗せる。
「すいません」
コノハさんは言葉を出すのもやっとという風情。
夢うつつみたいな雰囲気だ。
タマモが辺りの臭いを嗅いで回る。
たまに“埋葬狼”が現れる。
けど襲ってくるどころか逃げていく。
元々“埋葬狼”は弱い人間や、傷ついた冒険者を狙っていく魔獣。
こちらが強いとなれば逃げていくらしい。
すでに辺りは真っ暗。
ショウマは『明かり』を使って照らす。
タマモは夜目が効くらしいが、ショウマはそうもいかない。
「うえー。
もう真っ暗じゃん。
今日も残業じゃん」
フンフンと辺りを嗅ぎまわっていたタマモは一点で足を止める。
「サツキの臭いだ」
おうっ?!
なんてこったい。
手が見えてる。
人間の手らしき物体が地面から出てる。
【次回予告】
僕にしか聞こえない声が語り掛けてくるんだ。
魔法を使え。
お前にしか出来ない事だ。
そう語り掛けてくる。
「違う、違う。妄想やあらへんて」
次回、ショウマは無視をする。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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