ショウマ達は街へ向かってる。
ベオグレイド、帝国の街だ。
女冒険者エリカは呆れ顔だ。
なんなのコイツ。
男が普通女子に抱いてもらって移動する?
最初は自分の足で歩いていたショウマ、あっという間に限界が来たのだ。
だってしょうがないじゃん。
今日はみみっくちゃんがいない。
荷物を自分で持たないといけないのだ。
いつも通りハチ子、ハチ美がショウマを抱いて移動している。
と言ってもショウマは重い荷物なんか持って無い。
買い物するため金貨を持ってるだけなのだ。
今日はショウマは上等のコートという服装。
ハチ子、ハチ美はメイド服スタイル。
エリカやミチザネがキチンとした服装をしていた方がいいと言うのだ。
下手に毛皮のマントなんか着てたら亜人扱いされると言う。
ハチ子は武装無し、いざとなったら聖槍召喚が有る。
ハチ美は一応弓矢を持ってる。
メイド服に弓矢。
素晴らしいね。
「エリカ様、そう露骨に呆れた顔をするものでは有りません」
「だって一時間も経たずにもう歩けないとか言ってたわよ。
どんな冒険者よ」
ミチザネに言われなくともエリカだって分かってる。
相手はルメイ商会に取って重要な人物。
会長であるキューピーが直々にエリカに面倒を見るよう頼んできたのだ。
あからさまに失礼な態度は取れない。
「冒険者と言っても相手は戦士では無いのですよ。
体力が少ないのは当然です」
「そのくらい分かってるわよ」
だからってチームメンバーの女性に抱えて運んでもらうの?
このショウマという男がそれなりの能力の持ち主なのは分かる。
神聖魔法を使う。
それも同時に多数の人間を回復させる魔法を複数回使えるのだ。
攻撃魔法まで使っていた。
“双頭熊”戦でエリカは助けられた。
それは気に入らないけど事実だ。
エリカが“化け狸”が“双頭熊”に化けるという知識を持っていたから。
コイツは知らなかったら引っかからなかったのだ。
たまたまじゃないの。
だいたいショウマとチームの人達の関係はおかしい。
男がリーダー1人で後は全員若くてキレイな女性。
子どもも一人混じってるけど。
どうやってメンバーを選んでいるのか。
明らかに目的にヨコシマなモノが混じってる気がするのだ。
ケロコさん、ハチコさん、ハチミさん、ミミックチャン。
みんな魅力的な女性で、冒険者としての能力もある。
なのに全員ショウマに丁寧過ぎる。
リーダーだから丁寧語なのはいいけど、王とかご主人様とか呼んでるのはどうなのか。
この男がやらせてるのか。
エリカには他にも気に入らない点が一つある。
納得がいっていないのだ。
だからベオグレイドに行くのである。
そろそろ一行は目的地に近付いている。
街の塀が見えてくる
ショウマは道で男達とすれ違う。
一人は紳士服、街の人だろう。
一緒に数人の武装をした男達。
着流しを着た戦士。
二本の長剣を持っている。
革のマント、革の帽子を深くかぶった男。
手からは弓が見えている。
腕に小型の盾を装備した男。
腰に細身の剣を下げている。
冒険者。
亜人の村に来る冒険者は少ないんじゃなかった。
でも少しはいるのかも。
村には流れの商人が来ると言ってた。
商人とその護衛かな。
ショウマはあまり気にせず通り過ぎる。
道を歩いてるのだ。
人とすれ違う事もある。
ハチ子とハチ美は何故かショウマが相手を見えないように動いてる。
ショウマと男達の間に入っているのだ。
通り過ぎた後も警戒した風。
彼女たちはショウマの視線をジャマしていたのではない。
男達からショウマの間に立つ事で護衛をしていたのだ。
「あの剣を持った男、アレは出来るヤツだな」
「弓を持った男も油断なりません」
「どうかした?」
「通り過ぎた戦士、アレは実力者です。
がそれ以上に…」
「実力者で、それ以上に殺気を感じました」
「可愛らしいじゃねーか」
「アンタ、わざと殺気をぶつけただろう。
可哀そうに、怯えてたぜ」
「見た目が美女だってのに、
そこそこ出来そうなのがおもしれ―からな。
からかってみたくもなるだろ」
からかってみたくなると言ったのが剣士である。
可哀そうにと言っているのは腕に盾を付けた男。
「お前たち。
今日は目立たない様にしたいんだ。
騒ぎは起こさないでくれよ」
紳士服を着た男が言う。
彼等は亜人の村の方へ歩いていく。
ショウマ達は街への門の手前まで来た。
分厚い門の前に兵士達の検問所が有る。
兵士達は10~20人くらいだろうか。
全員黒ずくめの制服、帝国軍の証だと言う。
揃いの槍と腰には小剣を装備している。
基本装備なのだろう。
規律正しく並んでいる。
ショウマの見たところ銃器は無い。
銃器がまだ無い世界なのか。
ええと銃が出来たのっていつ頃だっけ?
日本に伝来したのは戦国時代。
1500年~1600年あたり。
ヨーロッパではもう少し前なんだろうな。
世界史の教科書に載ってたかな。
ショウマはチラっと考える。
そのくらいの時代背景の世界?いやそうとも限らない。この世界には魔法が有る。攻撃魔法が発展してる替わりに銃器が研究されない。そんな可能性もある。
兵士達の隊長らしい人物は女性。
女隊長とミチザネが今話している。
鋭い瞳の女性兵士。
制服を一部の隙もなく着ている。
美人女性兵士キター。
ショウマがそう言うには少々迫力のある女性だ。
「商会の身分証か。
冒険者じゃないのか?
「商会に雇われてますから。
それだけではありません。
これをご覧いただければ」
ミチザネがなにやら紙を見せている。
女隊長が驚いている。
「む。こ、これは。紋章官、本物か」
「間違いございません。
……侯爵家の紋章です」
「分かった。
身体検査はいい。通ってくれ」
女隊長が言う。
エリカとミチザネは兵士達の間を通っていく。
エリカは胸を張ってるし、兵士達はこころもち丁寧だ。
さてショウマとハチ子、ハチ美の番。
10人以上の兵士達が群がってくる。
身体検査するつもりのようだ。
他に通る人も今はいない。
ヒマなのか。
知らない人に近付かれるのニガテなんだけどな。
「その三人も我らの仲間です。
お手柔らかにお願いしますぞ」
ミチザネが一言添えてくれる。
ショウマ達に近付く兵士達が隊長の顔を窺がう。
女隊長は言う。
「証書にあるのはエリカ、ミチザネ、コザルの三名のみだ。
規定通りに検査せよ」
「空港の麻薬取締官?
密輸業者じゃないんだよ。
勘弁して欲しーな」
と思ったが、ショウマに近付く兵士はいない。
おざなりにフードの上から調べただけ。
兵士達はハチ子、ハチ美の方に寄ってる。
「キサマら、何処を触っている?」
「ちょっと、そんなにしつこく触る必要は無いでしょう」
メイド服の女性二人に男兵士達が群がっているのだ。
うーん。
兵士達も男だものな。
調べるなら、そりゃ美女の方がいいに決まってる。
ハチ子、ハチ美に兵士達には逆らわないよう言っておいて良かった。
言ってなかったら、今頃大騒ぎだ。
そんな風に思っていたショウマだが、どうも雰囲気がよろしくない。
「どうした?」
「隊長、この二人亜人なのでは無いでしょうか」
「どうも、普通の人間と思えません」
「別室で詳しく調べたいと思います」
ホントにバレたの?
どうも男兵士達の目が怪しい。
単にハチ子、ハチ美にイタズラしたいだけじゃないのか。
「マズイですな。
普通なら小銭でも掴ませればいいのですが、
帝国兵は賄賂が通じないので有名なのです」
ミチザネだ。
なりゆきを見に来てくれたらしい。
「どうするといい?
どうしようもなかったら実力行使で通るよ」
ここにいる兵士は10人~20人。
ショウマとハチ子、ハチ美がいれば何とかなるだろう。
ミチザネは一瞬呆れる。
目の前の魔術師は何を言っている。
帝国軍を本気で敵に回すつもりなのか。
しかしこの男。
この男ならば。
本気でやるかもしれない。
ショウマという男。
母なる海の女神教団の関係者であろう。
神聖魔法を使う。
同時に攻撃魔法も使う。
そのこと自体驚きだ。
だがあり得ない事では無いのかもしれない。
ミチザネは女神教団に詳しい訳では無い。
ベオグレイドにも女神教団の冒険者チームは来ている。
青い鎧を着た戦士と神聖魔法を使うと言う神官。
あの青いラインの入った白い衣を着ている神官の中に攻撃魔法を使う者も混じっていたのかもしれない。
あまり聞いたことは無いが。
職業に魔術師であり、戦士である者もいると言う。
ならば魔術師であり、神官でも有る者もいるのかもしれない。
珍しい存在なのは確かだ。
このショウマという男はそれだけでは無い。
あの時、何が起こったのか。
“双頭熊”と出くわした時。
ミチザネは情けない話だが、恐怖状態に陥っていた。
だから正確には覚えていない。
しかし目の前の男が知らない魔法を使った。
その結果“双頭熊”は消えていった。
あの魔法は何だったのか。
ランク3の魔法だと思っていた。
ミチザネが使えるのは風魔法のランク2まで。
ランク3が使える魔術師などほとんどいない筈だ。
王国。
西方神聖王国ならば分からない。
あそこは魔法の研究が盛んに行われてると言う。
表に出ていないだけで、ランク3が使える魔術師を囲っている。
充分にあり得る話だ。
だからこのショウマという男は王国、もしくは女神教団の重要人物。
もしかしたら両方にとっての重要人物かもしれない。
さすが、キューピー会長が気に掛けるだけの事はある。
会長は自分の姪をこの男と肉体関係にしてしまえとまで言っていた。
それだけの価値が有る男なのだ。
しかし。
あの魔法。
あれは本当にランク3だったのだろうか。
『野獣の森』最大最強クラスの魔獣“双頭熊”が抵抗する間もなく消えていった。
ミチザネがランク2の魔法が使えるまで長い時間がかかった。
ランク2は範囲魔法。
ランク1と攻撃力は同等。
しかし、同時に現れる魔獣を一気に殲滅できるのだ。
『吹きすさぶ風』
初めて実戦で使った時の万能感を今でも覚えている。
無数の“火鼠”が一瞬で切り裂かれていく。
自分の力によって。
自分は無敵だ!
そう思いすらした。
冷静になればそこまで無敵の力では無い。
攻撃力は『切り裂く風』と同程度。
“暴れ猪”は倒せない。
そして魔力を一気に使ってしまう。
一度ランク2を使えばその日はもう魔法が使えない。
ミチザネはランク1、ランク2と手に入れて来た。
だから違和感を覚える。
その延長にあの日見たショウマの魔法があるのだろうか。
『切り裂く風』『吹きすさぶ風』の次に来るモノがあの魔法。
本当だろうか。
もっと別次元のモノでは無かったか。
もしかしてランク3以上のナニカ。
ミチザネは思考を止める。
心の中で暴れる知りたいという欲求を抑えつける。
今はそれどころではない。
この男は本当に帝国軍と戦いだしてしまうかもしれない。
今はそれを止めないと。
「お止めください。
街の中には軍の駐留所が有ります。
ここは国境の街です。
軍も常に大隊クラスの人数が居るはず」
【次回予告】
紋章官。
要するに貴族や王族の紋章を記憶し確認する仕事だ。だが誰の紋章か確認したり、ニセモノと判別するだけが仕事というワケでも無い。今でいう、弁護士や交渉人に近い仕事もしている。遺言状を託されることも有れば、貴族同士の結婚の証人になる事も有る。新たな貴族の紋章デザインも行う。争う貴族同士の仲を取り持つことも有った。単に知識だけあればいい存在ではないのだ。
「こ、これは〇〇〇〇一族の紋章 それも…」
次回、紋章官は震えている。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!