ショウマは明日成人を迎える。
そうしたら迷宮都市に行って冒険者になるのだ。
何故かというと冒険者組合が成人までは加入を受け付けない。
組合に加入しなければ、迷宮に入れないのだ。
冒険者の付き添いが居れば、見習いという形で子供が入る事も可能だ。
しかしショウマにそんな知り合いはいない。
家族にも言っていない事だが、コギクには洩らしてしまっていた。
ショウマの口に出してしまうクセのせいである。
「コギク、内緒だよ」
「うん、ショウマ兄ちゃん。
地下迷宮怖かったらすぐ帰っておいでよ。
意地張っちゃダメだよ」
5歳年下の少女に子供扱いされているショウマだった。
「という訳で村長、馬車に乗せてください」
「イヤ、ダメじゃが」
「僕も村の住人ですよ。
荷馬車に乗る権利位あるでしょ。
イジメ?
これなんてイジメ?」
「荷馬車は貴重なんじゃ」
「お前を一人乗せる重量有ったら、作物がどれだけ乗せられると思ってんだ」
村から迷宮都市へ定期的に荷馬車が出ているのだ。
ショウマはこれに隠れて乗るつもりでいた。
「だって迷宮都市まで歩くと丸一日かかるらしいよ。
人間が一日中歩けるわけないでしょ」
その計画は失敗だった。
馬車を見ただけで不可能なのが分かった。
ショウマがイメージしてたのは宅急便とか引っ越しのトラックみたいなヤツだ。
クロネコ〇マトとかサ〇ワ急便である。
「潜り込めそうだよね」
しかし村の荷馬車は郵〇局の赤い車だった。
1頭の馬にカートを引かせ上に幌がかかっている。
サイズでいうとミニバンだ。
人間一人隠れるのは明らかに不可能だった。
「これってサギじゃないの?
もしかして僕騙された?」
誰も騙してない。
普通の村人なら行っている荷馬車に作物を載せる作業。
それをすれば誰でも分かる事なのだ。
だが、もちろんショウマは作業を手伝った事が無い。
そして前述の会話になるのである。
「ショウマくんだったか?
なんだって街に行きたいんじゃ? 」
「村長。
村長が住人の名前分かってないってどうなの?
100人にも満たないような村で」
「キミ、集会に出とるか?
ワシ集会でキミの顔見たことないぞ」
「!(ギクリ)」
「今年の夏、嵐が来て村人総出で畑を守った時や、倉庫を修繕した時にもいなかったんじゃないか」
もう一人のツッコミは馬車の御者をしている男だ。
御者は村人数人が交替でやっており、今日は彼の当番なのだ。
「まあ村長もお忙しいですし、住人も多いですからね。
名前をハッキリ覚えてない事も有りますよね…」
「もう用事は終わりじゃな」
村長は帰ろうとする。
「ストップ! ストップ! スゥトォップー」
ショウマは考える。
一昼夜歩くのはイヤだ。
というかムリだ。
不可能なコトってこの世には有るよね。
今まで村では内緒にしてたけど、もう戻る気も無いしバラシてもいいんじゃない。
「僕、実は攻撃魔法が得意なんです。
それで迷宮に行って、冒険者になろうと思っています」
「そうか。
ショウマの両親も大変じゃのう…」
「えっ、なんでいきなり同情? 話通じてます?」
「わかるぞ、ワシも子供の頃は冒険者に憧れた。
男の子なら一度は夢見るもんじゃ。
……普通なら10歳までには現実に気付くもんじゃが……
村の住人と一切話をせんというウワサは聞いておる」
「ショウマくん。
まず両親の仕事の手伝いから始めなさい。
次は村人たちと話をするようにするんじゃ」
「なんか人生相談みたいになってる!
そして僕中二病設定?」
目の前で攻撃魔法使って見せるしか無いかな。
何処にしよう。
村長の家に『炎の玉』当てたら怒られるかなぁ。
ショウマは本気で考えていた。
が、村長の家の中から助け船が入る。
イヤ、本当に助けられたのは村長の家かもしれない。
「ショウマの言ってる事は本当だよ」
「ユリ」
「ショウマ、夏場に『そよぐ風』ずっと使ってるよ。
1日中使っても平気みたいだね。
どうかすると昼寝しながらも風吹かせてる。
夜『明かり』を使うのも1時間程度じゃへばらない。
異常なレベルだよ」
ユリは村長の孫娘だ。
ショウマの姉と仲が良く、家に良く遊びに来ていた。
にしても、ショウマはそんなに観察されていたとは思ってなかった。
ズバズバモノを言うタイプのユリをショウマは苦手で距離を取っていたのだ。
じゃあショウマが苦手じゃないタイプってどんなのと訊かれると、いない!としか答えようが無いのだが。
「へぇ人は見かけによらねえな」
「フゥム。そんな特技が有るなら、迷宮で荷物持ちとしてくらいなら雇ってもらえるかもしれんな」
ショウマは荷馬車に乗せてもらえる事になった。
荷馬車に荷物を載せ、街で市場に降ろすのを手伝う条件付きである。
もともと村人で成人した者は一度は街に行くのだ。
荷馬車の手伝いをして見分を広めるのである。
ショウマは順番にカウントされていなかったのが、急遽当番に入った。
そう考えれば大した話では無い。
そしてショウマは16歳にして、遂に迷宮都市に向かう。
「やった。
抜け出した。
最悪だったよ。
ホントにもう。
普通の水準の家に生まれるって言ってたじゃん。
完璧なウソだよ。
だってエアコン無い家って何さ。
しかも徒歩圏内にコンビニも無いんだよ。
いや異世界だからコンビニ無いのは100歩譲って許すよ。
でも夜営業してるスーパーや商店が何も無いなんて想像の範疇を超えてるよ」
ショウマが3日に一度とはいえ猟師の仕事を手伝っていたのはそれが原因だった。
親が本気で怒るとメシ抜きにされるのだ。
そして日本での翔馬のように親のヘソクリをチョロまかして、コンビニで食べ物を買うという手が通用しなかったのである。
この説明の時点で日本での翔馬が如何にヒドイ奴であったか、良く分かっていただけたであろう。
「しかし遂に底辺状況からの華麗に脱出ーっ
正義は勝つよね」
そしてまた口に出している。
馬車の御者が完全に引いているのにまだ気づいていないショウマだった。
冒険者組合の登録は呆気なかった。
ショウマが読み書き出来ると申告すると用紙を渡された。
書くのは名前と年齢、出身地、特技程度だ。
それで冒険者証を渡されてしまった。
胸に止める名札みたいなシロモノだ。
『冒険者証
階級:ラビット
名前:ショウマ
発行:冒険者組合』
これしか書いてない。
ステータスが記されてるとか期待してたのがバカみたいである。
「魔力を調べます…
こっこれはー!?」
みたいなのも無い。
仮に有って注目されるのもお断りなのだが。
そのまま迷宮に向かうショウマ。
場所の検討はついている。
馬車で来る途中に見えていた。
街のはずれに大きな遺跡が有って、入口に人が集まっていたのだ。
「アヤメ、先刻の新人の子どうしたかしら?」
「キキョウ主任。それがいないんです。
加入したら最初に主任から初心者説明が有るって伝えようとしたら、もういなくなっていて」
「初めてこの街にくる子でしょう?」
「はい。16歳、今日成人したばかりみたいです」
未成人のうちにチームの見習いとしてダンジョンに入る者もいる。
もちろん1人前の冒険者が認めて、彼らが見習いをフォローする場合のみだ。
「どこかのチームの見習いかしら?」
「そんなカンジじゃなかったですけど」
「確かに冒険者になろうというにはずいぶん体格が貧相だったわ。
ホントに成人だったの?」
「『真実の水晶』には何の反応も有りませんでした」
普通見習いなら荷物持ちからスタートだ。
体力がなければやっていけない。
「まさか一人でダンジョンに入ったんじゃ?」
「そんな度胸ありそうに見えませんでしたよ。ずっとうつむいてて」
アヤメもキキョウも少し気になった。
が、すぐ忘れてしまった。
冒険者組合の受付は忙しいのである。
新人一人にかまけてはいられない。
ショウマは地下迷宮にすでに入っていた。
入り口には見張りらしい人間がいたが、ショウマが冒険者証を着けているのを見ると黙って行かせてくれた。
「うーん。受付で年齢や身元の確認も無かった。
こんなことなら、成人する前から入れたんじゃない」
自己申告を成人年齢にするだけだ。
ショウマは損した気分になっていた。
ショウマは気づいていないが、冒険者登録する者は『真実の水晶』でチェックされている。
申告にウソが有れば水晶が反応する。
ウソの有る者は犯罪歴の有無、現在までの職歴、親族まで慎重に調査されることになる。
ダンジョンに入ると、付近は無骨なレンガ造りの壁が続いていた。
最初は広間があり、すぐ3方に分かれる道が続いている。
広間にはこれからダンジョンに潜るのであろう、装備を確認しているチームや打ち合わせをしているチームがいる。
「チッ 毒消しがもう無いぜ」
「商店で相場の10倍まで跳ね上がってる。とても買えないよ」
「クソッ 3倍値段のうちに買っとくべきだった」
「今日も地下2階はいけないんじゃないか。どうする?」
「右に行って、コツコツ稼ぐしかないか」
ショウマは一切迷わなかった。
だって書いてある。
「ショウマくんへ こっちだよ→」
蛍光ピンクでデカデカと地面に書いてあるのだ。
ご丁寧に矢印まで書いてある。
周囲の冒険者たちを窺がうが、誰も字を気にした様子が無い。
ミカエルはなんて言ってたっけ。
「ダンジョンに到着したら隠し部屋には辿り着けるようにしとくよ」
うん。
確かに辿り着ける。
ショウマは真ん中の道を進んでいった。
ショウマは『明かり』を使う。
広場から道に入るとそこは暗い迷宮だった。
そういえば、広場はカンテラやロウソクで照らしてあった。
暗がりに光の玉が浮かんで、ショウマの上を着いていく。
「暗いな」
ショウマはもう一つ『明かり』を使う。
光の玉が二つになった。
地面は先ほどまでレンガ作りだったのがただの岩肌になっている。
「滑りそうだよ」
ショウマは恐ろしい事にサンダルしか履いていない。
「おい、今のヤツ。真ん中の道を一人で進んでいかなかったか?」
「真ん中? あそこは地下2階への近道だが強敵の多い場所だ」
「一人で行くのはよほどの腕じゃないとムリだぜ」
「イヤ、そんな強そうなヤツじゃなかった」
「チームの後衛じゃねーの」
「それに 今は…」
「あの…バケモノが…」
うーん
冒険者は考える。
さっきのヤツ
布の服にサンダルで、剣すら持ってなかった気がする…
イヤ さすがにあり得ない
冒険者は自分の記憶を打ち消す。
見間違いだろう。
目立たない武装をしていたのだ。
だって地下迷宮に武装せずに行くやつがいるハズが無い。
【次回予告】
人は闇の中を歩く。
ひたすら歩き続ける。
行く手に何が有ろうとも留まる事は出来ない。
それが生きているという事なのだ。
「ゲロッ ゲロロッ ゲロッ」
「何か五月蝿くない?」
次回、ショウマの行く手には何が待つ?
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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