「んじゃ休憩しよう」
ショウマは既に『野獣の森』奥にいる。
前回の話では『野獣の森』その奥はナワバリが分かれてる。
イタチの話がどこまで信用していいか。
そういう問題はあるけれど。
いきなり“双頭熊”の集団に襲われる可能性は低そう。
でも何が起こるか分からないのだ。
慎重に順番でゲートに入ってく。
何が有っても6人ともいれば大丈夫。
おっけー。
期待通り『野獣の森』奥では次々襲われるコトは無い。
入り口側では何もしてなくても次々魔獣が襲ってくる。
ゆっくり休憩も出来ない。
ここは大丈夫そう。
辺りはちょっとした空き地風。
少し先には木々が生え森が広がる。
一行はまとまって休憩。
ケロ子の用意したお弁当をパクつく。
「ハチ美、この辺“双頭熊”や“埋葬狼”のナワバリが有るらしいんだけど、
どの辺がどれとか分かる?」
ショウマは訊いてみる。
ハチ美は超感覚(中)。
メンバーの中では最も感覚が優れてる。
ハチ美の金髪の頭から黒い毛が立ちあがる。
ハチ美は目を閉じて探ってる。
「ショウマ王」
左手を指して言う。
「あちらが最もザコ、“埋葬狼”
中央の先に以前も感じた手強い気配。
右周辺が感じた事の無い気配です」
手強い気配が“双頭熊”だろう。
“蛇雄鶏”(コカトリス)や“鴆”とはまだ戦った事が無い。
“双頭熊”は避けたいな。
二つの顔が有って四つの腕に爪を伸ばしたバケモノだ。
今なら以前ほど苦戦しないと思うが、出くわしたい敵じゃない。
“蛇雄鶏”は石化の呪いを使う。
コイツの息を浴びると石になると言うのだ
サツキさんやナデシコさんはコイツにやられたのだ。
「“蛇雄鶏”は石化以外大したコトないのかな。
“鴆”てヤツはどうなんだろ」
「“鴆”は羽根から猛毒をまき散らすらしいですよ。それ以外はあまり聞かないです。でも猛毒だけで充分です。
喰らえば毒状態のより倍はダメージ強烈です。『毒消し』持ってなければ村に辿り着く前に亡くなります」
みみっくちゃんだ。
前は『野獣の森』の敵には詳しくなかったのに。
「みみっくちゃんこれでも勉強家ですよ。ご主人様とは違います。現役の戦士からも話聞いてますし、引退した老人からも聞き込みしてますよ」
さすがみみっくちゃんだ。
というかショウマが一切聞き込みしないので従魔少女がするしか無いという説も有る。
「“蛇雄鶏”の方は?」
“蛇雄鶏”コカトリス。
ショウマだって知ってる。
有名モンスターだ。
複数のゲームに出て来るヤツ。
どのゲームでも石化を使う厄介な敵キャラ。
「“蛇雄鶏”の方が情報少ないです。出くわした戦士はみんな石化して亡くなってるんです。“鴆”よりは強敵、“鴆”は普通の鳥サイズ。遠距離攻撃方法さえ持ってれば大したコト無いらしいです。“蛇雄鶏”は空を飛ばない物のサイズはデッカイ、“双頭熊”くらいは有るそうですよ。当然体力も多い。ちょっとやそっと斧で打ったくらいじゃ死なないそうです」
「じゃあ“鴆”がいる場所を通ってくのが良いのかな」
そうだ。
それ以前に。
「ハチ美、どっかにケタ違いの敵とかいない?
もしくは更に奥へのゲート。
どこかに中ボスいるんじゃないかと思うんだ」
ハチ美の感じ取れる範囲には居ないらしい。
ならやっぱりもう一回ゲートを越えるのかな。
「魔獣かどうかは分かりません。
でもこの先に不思議な大きい気配は有ります」
ハチ美は正面を指して言う。
“双頭熊”のナワバリらしき場所。
「うーん。
“双頭熊”を迂回して右から回り込んでいける?」
「はい、ショウマ王。
お探しの物かは分かりませんがおそらく巨大なモノだと思うのです。
迂回しても見つけられるでしょう」
「えいっ」
いきなりタマモがハルバードを投げつける。
柄の左右に斧の刃が着いた武器。
柄の先端は槍状に尖っている。
なになに。
僕なんかした。
驚くショウマ。
ハルバードの先には。
姿はゴリラに似て顔は豚風の魔獣。
“猩々”である。
こいつは冒険者を襲わない。
冒険者が荷物を脇に置いている。
その荷物をそっと盗んでいくのだ。
メイワクな魔獣である。
ドロボーである。
ハルバードの先端を受けた魔獣は消えて行った。
「タマモちゃん、ナイスだよっ」
「見事、一撃で仕留めたな」
「見事なのです」
従魔少女達は動揺もしていない。
気が付いていたらしい。
ビックリしてるのはショウマだけ?
「んじゃ、“鴆”や“蛇雄鶏”倒して進もう。
更に奥目指すよ」
驚いていないフリをするショウマだ。
木々の間を行くショウマ達。
道は人間二人が並べるくらい。
順に並んで進んでいく。
木々の上から音がする。
鳥の羽音。
「ピトフーイ」
甲高い鳴き声。
オレンジ色の派手な鳥が飛んでいるのだ。
「ハッ」
ハチ美が弓矢を撃つ。
「セイッ」
ケロ子が宙に跳ぶ。
魔獣に矢が刺さる。
矢を受けバタバタと慌てる魔獣。
ケロ子が蹴り飛ばす。
蹴られた衝撃で地面にバウンド。
オレンジの鳥は消えて行った。
情報通り、手強い魔獣じゃ無さげ。
“鴆”。
ちん と読む。
中国の伝説の鳥だ。羽根から毒を撒き散らし、この鳥が飛んだ後は田畑が全滅したと言う。中国の歴史書には鴆毒、この鳥から取った毒薬を使った供述が有り実在している様に扱われている。
近代化の中で単なる空想上の生き物とされたが、更に近年では実在した可能性が指摘されてる。ニューギニアで羽毛に毒を持つ鳥が発見されたのだ。ピトフーイと呼ばれる鳥の羽根にはステロイド系の強い神経毒が有る。
この鳥に近い種類がかつて中国にいたのではないか、もしくはこの鳥の情報が中国に伝わって伝説化したその様に言われ出しているのだ。
「ゲホン、ゲホン。
気持ち悪いですっ」
地面に降りて来たケロ子。
ケロ子はいきなり顔色が悪い。
咳こんでるし目も赤い。
慌ててショウマは回復魔法を使う。
『治癒の滝』
海属性魔法のランク3。
「あっ、治りましたっ。
ショウマさまっ、ありがとうございますっ」
ケロ子は顔色が良くなってる。
いつも通りの健康そうなホッペの従魔少女。
近付いて蹴り飛ばすだけで猛毒喰らうのか。
「じゃあ“鴆”はハチ美の矢と僕の魔法で対処する。
他のみんなは防御していて」
「ショウマ王、私も聖槍で参加する」
ハチ子が言う。
聖槍は投げ槍にも使える。
投擲した後ハチ子の手に呼び戻す事が出来るのだ。
どうしようかな。
魔力を使う技。
いざという時に取っておきたい。
しかしここは『野獣の森』の奥。
LV30越えの冒険者でないと厳しいと言われる場所。
出し惜しみしてる場合じゃないかな。
「オッケー、ハチ子。
聖槍も使おう」
「来ます、大きいヤツ」
そこにハチ美の声。
同時に聞こえてくる。
COCK-A-DOODLE-DOO。
けたたましい鳴き声と羽ばたき音。
魔獣が近付いてくるのだ。
『聖槍召喚』
ハチ子は唱える。
その右手に槍が現れる。
…………………。
ほへっ。
そんなカンジでハチ子は手に現れた武器を眺める。
普段現れる聖槍は白銀に煌めく、身長位のサイズ。
今ハチ子の手に有るのは明らかに長い。
身長プラス頭二つ分は長そう。
色もシブイ金属色。
風格が有る。
ハチ子がほへっとしてる間に魔獣が姿を現す。
大きいニワトリ。
人間二人分程度は有りそう。
鶏冠のある頭、鶏の上半身。
下半身は緑の鱗に覆われ尻尾は蛇の様。
“蛇雄鶏”コカトリス。
コイツの息を喰らうと石化すると言う。
サツキさんやナデシコさんイチゴちゃんを石化させたイヤな魔獣だ。
“鴆”と“蛇雄鶏”のナワバリは一緒なのか。
上空を飛び回る“鴆”。
地上を歩く“蛇雄鶏”。
同じエリアでも分かれて行動している。
問題は無いらしい。
ハチ美の弓矢が飛んでいく。
ニワトリの胴体に突き刺さる。
「えいっ」
タマモもハルバードの斧部分で攻撃。
「やっ」
ケロ子は鶏の足元を蹴り飛ばす。
固い鱗に覆われた爪の生えた足。
地面に手を突き身体ごと回転する蹴り。
ケロ子より大きい魔獣だけど足をキレイに払われた。
“蛇雄鶏”はバランスを崩してる。
『眠りの胞子』
みみっくちゃんの魔法が決まる。
“蛇雄鶏”は横に倒れた。
寝ちゃったみたい。
そのままケロ子とタマモがタコ殴り。
アッサリ魔獣は消えて行った。
「なんだ、大したこと無いじゃない」
「みんなが強くなってるんですよ、ご主人様。“蛇雄鶏”は本来手強いと言われてます。デカイ図体、体力があるしクチバシでだって攻撃してきます。なかなか倒せないウチに冒険者は石化の呪いを喰らうです」
「よーし。
みんなよくやったよ。
この調子で進もう」
ショウマ一行は先に進む。
「ほへっ」
槍を見つめるハチ子だけ取り残される。
【次回予告】
“蛇雄鶏”コカトリス。
みみっくちゃんによる解説~。
「説明の要らない位有名モンスターですね。雄鶏が産み落とした卵をヒキガエルが暖める事でこの世に誕生するなーんて話もあるそうですよ。
蛇、鶏、竜の要素が混じったモンスターとしてバジリスクの伝説と入り混じりどちらがどちらともつかない状態らしいです。同じモンスターのオスメスがバジリスクコカトリスであるという話も有るそうですよー。でもどっちもトサカ有るって言われてますからホモです、BLモンスターですね。
作者は“凶毒蛇”バジリスクとして登場させるつもりも有るらしいですが、何時になる事やら期待しない方がいいですよー」
「なんだキサマラ」「巻き込まれたくなかったら道を開けろ」
次回、帝国兵進む。
(ボイスイメージ:金元寿子(神)でお読みください)
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