クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第16話 不思議な従魔少女その2

公開日時: 2021年8月16日(月) 17:30
文字数:5,534

「いいか、今日は地下迷宮の右回廊に行く」


女冒険者カトレアは気合を入れている

『花鳥風月』の子チームが集合している。

迷宮の入り口だ。

ここで装備を整えるのだ。

剣戦士なら剣を鞘から取り出す。

迷宮から出て街に入ったら冒険者といえど剣を鞘から抜くのは禁止だ。


昨日参加していた槍戦士は今日は休みだ。

替わりに斧戦士が入っている。

前列に新入りの剣戦士、斧戦士

中央にベテラン剣戦士、弓戦士のカトレア

後列に魔術師、従魔師のコノハ

さらに最後尾に“妖狐”タマモ

そういう隊列と決まった。


「どうだ。

 疲れてないか?」

「えへへ、

 大丈夫です」


「そうか。

 コノハちゃんは地下迷宮には慣れていなくてもLV3だものな。

 昨日くらいの戦闘なら楽勝か?」

「楽勝では無いですよ。

 アンデッドを見たのは初めてなので驚きました」


「ああ、2階はアンデッドが多いんだ。

 ニオイもするし、イヤになるぜ」

「クサイんですか。

 それはちょっとイヤですね」


カトレアは新人の従魔師に声を掛ける。

昨日で“妖狐”がそれなりに強いのは分かった。

後はコノハの体力が気になるところだ。

1時間や2時間迷宮を歩いただけで息が上がっていたんじゃ使い物にならない。


「午後は地下2階から3階にいくからね。

 へばるんじゃないよ」


「だから焦り過ぎだって」

「ダメだ。このリーダー本気だ」

「もう俺たちが何言っても行く気だ」






「ご主人様ですね。みみっくちゃんです。よろしくお願いします。昨日は挨拶もしないでゴメンナサイでした。

 あの時は実は混乱していまして、脳に負荷がかかったと言いますか、あまりの衝撃を受けたと言いますか、で身動き取れなくなっちゃったんです。

 だってですよ。昨日まで、ご主人様に遭うあの瞬間まで、みみっくちゃん箱だったんです。箱ですよ、木の箱。ちょっと装飾はされてて、金属の枠で補強されてはいますが基本の材料は木です。金属の枠は金に見えますけど実はあれ金メッキなんです。

 で何でしたっけ?。ああそうそう。箱だったみみっくちゃんはいきなり人間の女の子になっちゃったじゃないですか。これはもうビックリです。呆然自失です。誰でもビックリしますよね?四角かった自分の体が丸や長方形、楕円色んな形を集合させた複雑な形状の物体になってるんです。驚きです。レゾンテートル崩壊です…」

「待って、待って!」


「はい。待ちます。ご主人様が待てとおっしゃるなら、みみっくちゃん待ちます。

 たとえ 那由他の果てまでも、阿僧祇、恒河沙の時までも待ち続けますとも…」

「いや、ちょっと落ち着こうよ……」


ショウマが起きて行くと“宝箱モドキ”だった少女は元気に食卓に座っていた。

さっきまでゴハンを食べていたらしく、頬にパンくずがついている。

そこからいきなり怒涛の挨拶が始まったのだ。

少女はケロ子より小柄だ。

少し伸びた前髪、目が隠れてる。

ツンとしたお鼻と小さい口元。

何故か箱を背負ってる。


「じゃあキミの名前は『みみっくちゃん』でいいんだね?」


昨日はケロ子が寝てしまった少女をなんて呼びましょう?と言うのでとりあえずみみっくと言っただけなのだ。

ちゃんを付けたのはケロ子だ。


「はい。みみっくちゃん、みみっくちゃんです。素敵な名前です。あまり人の名前としては使われることが無い響きですが、その分オリジナリティが有ります。異国の言葉ですね。意味としては“擬態”でしょうか。真似る、似せるとも言えますね。みみっちいという言葉に響きが似ていてみみっちいという言葉はあまりいい意味じゃありませんが、くを付ける事で差別化を図りさらにちゃんを付ける事で可愛らしい女の子だという事を現しています…」

「すごーいっ。

 みみっくちゃん、なんだか物知りだねっ」

「ケロ子お姉さま、ワタシお腹に書物を取り込んでるんです」


みみっくちゃんが んがっと口を開ける。

と口から何か取り出した。

どう見ても少女の口より大きいサイズの本だ。

どうやって身体に入れて、どうやって取り出した?


「うわーっ、読書家なんだねっ」

「はい。迷宮に落ちてるんです。迷宮に有る物はだいたい何でも体に取り込めます。

 栄養になるのは生きていた物だけですが、木や植物の茎なんかだと外枠の木の箱を補強する材料、栄養になったりもするみたいです」


「いや、問題がズレてる気がするけど。

 …まぁいいや」


だいたい本を体の中に入れるのはいいとして。

…いいとしていいのか?

でもそこから気にすると話が進まない。

その書籍を体の中に入れて、知識が増えるのか?

語彙が豊富になるのか?

スゴイスゴーイと感心してるケロ子。

喋り続けてるみみっくちゃん。

また んがっと口を開けて本を飲み込んだ。

出し入れ自由みたいだ。


あまり気にしない様にしよう。

魔獣だし、従魔だし、特殊なスキルくらい持ってるよ。

うん。


 



名前:みみっくちゃん

種族:亜人モドキ/従魔モドキ


冒険者LV:1


体力:23

魔力:30


攻撃力:6

魔法攻撃力:13

防御力:12

魔法防御力:15

行動速度:4


職業

 運び人モドキ ランク1


スキル

 特殊攻撃

  丸呑み ランク1


 種族特性

  体内収納 ランク1  

  変形



ショウマは鏡に映る少女のステータスをマジマジと見つめる。

どこから気にしていいのか分からない。


「ご主人様。いくら従魔と言えどもみみっくちゃん女性ですよ。女の子です。

 女の子の体の秘密をそんなにじっくり眺めると言うのはデリカシーに欠ける行為と言いますか、紳士の嗜みとして問題が有ると言いますか。

 親しき仲にも礼儀ありです。従魔師と従魔少女にも気配りという物がなくてはイケマセンです」


「モドキって、亜人モドキ。

 亜人てコトバがすでに人間に近いちょっと違うモノ的な意味じゃないの?

 さらにモドキなんだ。

 モドクんだ」


「あんまり気にしちゃイケナイです。“宝箱モドキ”の生態自体研究者でも良く分かってないです。

 みみっくちゃんにも良く分からないです。自分の事だろって思うかもしれませんが、そこはそれ人間だって自分の事が全て分かってるワケじゃないじゃないですか。

 “宝箱モドキ”だって“宝箱モドキ”自身の事は良く分からないです。

 ましてみみっくちゃん “宝箱モドキ”から美少女に変化させられるという特殊状況の産物じゃないですか。自分の事だって分からないと言いますか、分かんなくって当然と言いますか…」






「このホネヤロウ」


新入り剣士が剣を横凪ぎに振るう。

昨日の経験でアンデッドには慣れたらしい。

コノハは顔をしかめている。

今日の骸骨は骨の合間に腐った肉が残っている。

つまり、クサイのだ。


「イヤなニオイです。

 2階はこんなのがウヨウヨ居るんですか」  


「よーし、今日は新入りに任せた。

 他は手を出すなよ」


意外と“歩く骸骨”はシブトイのだ。

そう気づいて新入り剣士はガンガン攻めている。

大した反撃もしてこないのだからいい練習相手だ。

数回の攻撃の挙句、やっと骨が崩れ落ちる。

戦いの最後も良く確認せずチームは歩き始める。


「よーし、次行こう」

「ヒデェ。ちょっと休ませてくれよ」


「何、言ってんだい。

 スタミナのテストも兼ねてんだよ」






ショウマ一行は迷宮の湖から街に向かっている。

一行とはショウマ、ケロ子、みみっくちゃんだ。

みみっくちゃんは木の鎧と盾を身に着け、木箱を背負ってる。

最初から木の鎧を持っていたらしい。


「軽くて便利ですよ。今では鎧と言えば鉄製か革製がほとんどですけど、製鉄技術が発達するまでは木の鎧が中心でした。原始的なものだと大きな木からくり貫いて創っていたみたいですけど、みみっくちゃんのは木片を紐でつなぎ合わせてますから比較的近代的と言えるんじゃないですか。でも色が塗ってないから味気ないです。本来、漆とかを塗って耐久力上げる物だから未完成品といった風情です。みみっくちゃんが少女だからでしょうか?

 あと木と木の間にすき間が意外と有りますですね。下に布の服を着てるからいいですけど、これ素肌だったらえっちです。この服装って実はご主人様の願望が反映されてるんじゃないでしょうか。みみっくちゃん“宝箱モドキ”から美少女になったワケで、美少女と言っても好みがいろいろあるじゃないですか。ご主人様の好みに合わなかったらそれは美少女じゃないワケで、つまり何が言いたいかというとですね。外見の価値なんて主観的なものだから、美しさは千差万別なんです。だからご主人様の好みがみみっくちゃんの外見に多少なりとも反映されてる可能性が有りますよね。反映されてないとご主人様にとっての美少女じゃない訳です。

 そして外見と言うのは顔立ちだけじゃなくて、体形、スタイル、歯並び、髪型まで含まれて外見な訳で服装だって例外じゃないですよね。そうするとつまり服装もご主人様の好みが多少なりとも影響していると考えるのはあり得ない可能性じゃないです。

 つまるところご主人様は鎧を少し下が透けて見える物にしてチラチラ見えるみみっくちゃんの身体を覗き見したいなと思っていた筈です…

「要するにご主人様はえっちです」

「結論だけ目立つように言わない」


「ショウマさまっ。

 ケロ子、この手甲をキレイにしたいですっ」


ケロ子が昨日迷宮で拾った防具だ。


「気に入ったの?

 防具屋で直してくれるかな。

 鍛冶屋を探すべき?」


「洗ってちょっとは汚れ落ちたんですっ。

 でもキズに入ってる汚れは消えないんですっ」


確かに金属製の手甲はところどころに傷や凹みが有る。


「まだ、武器屋に入った事無いね。

 鍛冶屋も有ると思うけど大通りでは見なかったな」



「キィ キュイ キィ」


コオモリの声が聞こえる。

ショウマが見上げると頭上にコオモリが群れている。

まだだいぶ上空だ。


「あれは“吸血蝙蝠”ですね。強敵ではありませんが、空を飛んでるので近接戦闘武器しか持ってないと厄介です」

「うーん、真上に向かって『炎の玉』撃つのはイヤだな。

 天井が崩れて来そう。

 迷宮崩壊事故?」


「そうか。

 コオモリを仲間にする?

 コオモリ少女、

 バットガール?」


「ヒーローでバットガールっているんだっけ?

 バットマンは有名だけど」


ショウマは知らないが、バットガールは居る。

バットマンに比べれば知名度は遥かに落ちるが、日本でもコミックは出版されている。



「ハァッ」


「え?」

「ケロ子お姉さま?!」


ショウマが考えてる間にケロ子は跳んでいた。

ショウマの身長を遥かに超える高さを一気に上昇する。

少女はそのままコオモリを殴りつけ、天井の岩に手で着地。

衝撃を受け止め落下する少女。

落下しながらもコオモリにカカトから蹴りを入れる。

従魔少女は唖然としているショウマとみみっくちゃんの横に着地した。



「ケロ子やりましたっ」


「お姉さま、凄いです」

「大ジャンプ、パンチ、

 からのカカト落とし?

 それってなんて格ゲー?」


『蝙蝠の牙』と小銭がショウマのポケットに現れる。

トドメを刺しきったらしい。


「キタ! キタキタ! ケロ子の覚醒キィタァー」


「スゴイじゃん!

 ケロ子。

 闇の波動に目覚めたケロ子?」


朝ステータスをチェックしたらケロ子はLV7になっていた。


名前:ケロ子

種族:亜人/従魔


冒険者LV7


攻撃力:95

魔法攻撃力:21

防御力:104

魔法防御力:69

行動速度:69


体力:206

魔力:116



数値が跳ね上がっていた。

昨日の戦闘経験も影響しているだろう。

まさに覚醒したケロ子だ。



「ケロ子。

 さっきの攻撃、チアコスでやってたら本当に恰好良かったと思うんだ」

「ダメですっ。

 あの服はお洗濯して乾かしてるとこなんです。

 それに…街に着て行くには露出多いですっ」


「やっぱりご主人様はえっちです」


まぁ確かに街ではミニスカートの女性は見かけない。

ショウマは分かっていないが、酒場に行けば露出の高い女性は結構いる。

男性冒険者に対する客寄せサービスだ。


「もう秋だからね。

 ミニスカートの季節じゃないのか。

 まぁとにかくカワイイ服は他にも買おうよ。

 みみっくちゃんもね」


「それは…欲しいですっ。

 けど、荷物になっちゃいますっ。

 先に冒険者組合に行った方が良くないですかっ」

「そうだね。

 階級アップがどうなったかも知りたいし。

 あれもしかして、

 クラス:ドッグになれたら割引率上がる?」


「荷物?

 みみっくちゃん持ちましょうか?」


うん?


ケロ子は担ぎ袋を担いでいる。

中身は今まで手に入れた『カエルの死体』やら『コオモリの牙』、水筒、非常用食料などいっぱいだ。

んがっとみみっくちゃんは口の中に担ぎ袋を入れて見せた。

もちろん袋は少女の口より大きい。

というか少女の顔よりも大きい。

が、どういう仕組みか、みみっくちゃんの口の中に入っていった。


「大丈夫?

 消化したりしない?」

「大丈夫だとは思いますよ。ただみみっくちゃんもこの体になったばかりなので、慣れてないですし。保証はしかねると言いますか、よくわからないですね」


「ちょっと口開けて見せて」


ショウマはみみっくちゃんの口の中を見るが、口の中に今飲み込んだ荷物は見え無い。

お口の中は普通の人間の口だ。

歯が並んでいて舌が有る。

奥は咽喉へとつながっている。


「多分みみっくちゃんの感覚なんですけど、お腹の中に入ってると言うより、この背中の木箱に行ってる気がします」


みみっくちゃんはお腹を触って見せる。

それから背中の木箱を指す。

少女が何故か担いでる木箱だ。

近くで見ると担いでるんじゃなかった。

背中から生えてるのだ。

木の箱が。


「さっきの荷物ちゃんと取り出せるよね」

「はい。見ますか」


んがっと口を開けるみみっくちゃん。

口の中から先ほど飲み込んだ担ぎ袋が出てくる。


うん。

便利だ。

良いとしよう。




【次回予告】

毒物とは生命活動に芳しくない影響を与える物質の総称である。そういう性質は毒性とよばれ、またそういう性質があるものは有毒と表現される。

「クエスト発生:『毒消し』を手に入れろ」

次回、ショウマはクエストを達成できるのか

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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