ショウマ達はチーム登録を済ませた。
亜人の村の冒険者組合にある『冒険者の鏡』は迷宮都市のモノより小さかった。
ちょうど姿見くらい。
ショウマの隠れ家にあるのと同じようなサイズだ。
ひょっとして同じものかも。
ショウマをリーダーに。
チーム『天翔ける馬』にメンバーとしてエリカ、ミチザネ、コザル。
そしてコノハ、タマモが登録される。
これで『天翔ける馬』メンバーは一気に増えた。
ショウマ。
ケロ子、みみっくちゃん、ハチ子、ハチ美。
プラス新しい4人と一匹。
9人と一匹の大所帯だ。
ショウマは新しいメンバーのステータスをチラっと盗み見る。
ノートに書き留めるまではしない。
あからさまにメモったら怒られるかも。
エリカはLV20。
職業は剣戦士だ。
ミチザネはLV19。
職業は魔術師、商人。
商人!
転んだら会心の一撃とか決めてくれる?
コザルはLV18
職業は忍者。
忍者キター!
何が出来るの?
気になる、気になる。
コノハさんはLV5。
従魔師だ。
タマモもLV5
種族 妖狐。
職業は無い。
そうか。
普通の従魔はこう出るんだ。
ミチザネが事情を聞き込んだ。
関税を取られるらしい。
組合としては最低限の薬、道具は揃えたい。
でも近くに有るのはベオグレイドの街。
街の門をくぐる時、兵士たちに入都市税を取られる。
持ち込む品物に税金が掛けられる。
商店に品物を売る時に税金が掛けられる。
買う時にも税金が掛けられる。
門を出る時に持ち出す品に税金が掛けられる。
何をしても税金が取られるのだ。
明らかにこちらを亜人と知ってやってる。
普通の商人が商品を売買するのにそんな高い税は掛からない。
「何よそれ、
陰湿じゃない。
それで黙ってるの!」
「逆らえば、すぐ捕まるだけだよー。
捕まったら、鉱山で強制労働ねー」
女冒険者エリカは怒るけど。
冒険者組合の女性ザクロはアッサリ答える。
慣れてる事実なのだ。
今さら腹を立てても始まらない。
「という事はですな。
ここでミチザネが亜人の冒険者から定価の5割くらいで買って、
何食わぬ顔でベオグレイドに行って売れば、
ちょっとした商売になるという事です」
「ミチザネ、アンタ考え方がショボイわよ。
迫害を受けてる村の人の窮状に付け込む気?」
「うん。そんなカンジでたまに流れの商人さんが買い取りに来るよー。
この組合に売るよりそっちに売った方がいーね」
「ザクロさん。だからそういう事は口に出さなくていいと」
「ムッ。しまった。
ミチザネとした事が出遅れたか。
すでに他の商人にやられていたとは」
「あー。でもやってくれた方がいーよ。
あまり同じ商人が何度も行き来してると、
門番の兵士に目を付けられるんだって。
だからしょっちゅうは来てくれないんだ」
うーん。
ショウマは思う。
ザクロって受付のお陰でいろんな話を聞いたな。
帝国で亜人は住み辛いって聞いてた。
その通りみたい。
従魔少女達は戦ってる。
“暴れ猪”が突撃してくる。
「ブモッ ブモモモー!」
『ツタ縛り』
みみっくちゃんの魔法だ。
身動き取れないケモノをハチ子が槍で仕留める。
“鎌鼬”が現れる。
細長い胴体。
前足が刃物のように見える魔獣だ。
矢が長い胴体に刺さる。
現れたとみるや、ハチ美が即仕留めてる。
ハチ美は肌を風魔法で斬られたのがよほど腹に据えかねたらしい。
親の仇のように“鎌鼬”を狙ってる。
おのれ、かぁまぁいぃたぁちぃー。
どこだ!一匹残らず殺す殺す殺す。
目が血走ってる。
荒い息を吐いてる。
ハチ子でも引くほど荒ぶってるのだ。
実は肌のキズはもう治ってる。
みみっくちゃんが回復薬を持っていたのだ。
「仕方ないですねー。ほれハチ美、回復薬です。数本しか無いから大事に使うですよ」
『毒消し』も数本なら呑み込んでるらしい。
迷宮都市で別行動した時に買っておいたのだ。
「キサマ。ショウマ王の金を勝手に使ったのか?!」
「お金はみみっくちゃんに預けられたモノですよー。薬を買ったのもご主人様のためです。
みみっくちゃん準備のために別行動をすると言って任せられたのですよ。
だからみみっくちゃんの判断で必要品買うのも任せられた範囲内というモノです」
「む。屁理屈を…」
「ナイスだよっ。
みみっくちゃんっ」
実際に役に立ってるのだ。
文句を言うコトでは無いだろう。
一度回復薬を買いに戻ろうか。
そんな話も有ったが、みみっくちゃんが持っていた。
お陰で引き返さずに済んだのだ。
従魔少女達はあまり奥には行かず、ショウマを待つことにした。
それにしても魔獣が多い。
既に何体倒しているだろう。
“化け狸” ×3
“飛槍蛇” ×4
“鎌鼬” ×11
“火鼠” ×3
“暴れ猪” ×2
そのくらい。
“鎌鼬”が多いのは気配を感じ次第、ハチ美が仕留めてるからだ。
そろそろ覚えられない。
“土蜘蛛”が姿を現す。
人間大のクモだ。
「気を付けて、“鴆”の猛毒ほど強くないけど毒を持ってる。
糸も吐いてくるんだ。
身体にくっつくと動きが鈍くなる」
ハチ子が槍で攻撃する。
中距離から一撃。
刃先で刺すが、まだ“土蜘蛛”は倒れない。
糸を吐いてくる。
「うわ、何だ。これは?
ネバネバするでは無いか」
「ハチ子ちゃんっ!」
んがっ
“土蜘蛛”がハチ子の目の前から消える。
「んぐんぐ…んがが。んぐんぐ」
どうもみみっくちゃんが『丸呑み』したらしい。
以前は至近距離でしか呑み込めなかったハズ。
中距離でもイケるようになったようだ。
「ペッするから誰か仕留めるですよ」
「よし、糸のお返しをするぞ」
ペッ
“土蜘蛛”。
身体のアチコチが溶けてる。
動きも弱った風だ。
「ハァッ」
ハチ子が槍を構えて突撃する。
勢いを乗せて、刺し貫く。
“土蜘蛛”は消えていった。
『LVが上がった』
『ハチコは冒険者LVがLV6からLV7になった』
『ハチミは冒険者LVがLV6からLV7になった』
「うーむ。レベルが上がるのは有り難いが、
そろそろ休憩もしたいところだ」
「休憩したいのです」
従魔少女達はずっと戦ってるのだ。
さすがに疲れてきている。
しかし休憩しようにも、魔獣が襲ってくるのだ。
こちらが進まなくても、魔獣からやってくる。
「ユキトくんっ。襲われない場所って有るの?」
「無い。
一度森を出ないと襲われない場所は無いよ」
とか言ってるうちに火の玉が飛んでくる。
“火鼠”だ。
『氷撃』
みみっくちゃんが対抗。
ハチ美がネズミを狙い撃つ。
「姉ちゃん達。一体オレが仕留めてもいいかい?」
「大丈夫なのっ?」
ユキトは山刀を手に構えてる。
ショウマが見たらサバイバルナイフかなと言うだろう。
刃は広く曲線を帯び、裏側は鋸状。
護身用にも使えるが、山菜獲りや小枝を斬るのにも使える。
アウトドアに必須の便利グッズだ。
日本では一つ間違えると銃刀法違反で捕まったりする。
昔、「デ〇ノート」の漫画家さんが捕まったりしたよね。
あれは刃渡り8~9CMのアーミーナイフ。
ユキトが構えてるのは刃渡り20CM近い。
「うむ。子供とはいえオトコだ。
その意気や良し。仕留めて見せろ」
「仕留めて見せなさい」
心配するケロ子をよそに、けしかけるハチ子とハチ美。
ユキトは山刀を手に“火鼠”に近付く。
火を吐き出してくるネズミ。
素早く避けて、ダッシュ。
小さなネズミを山刀が刺し貫く。
“火鼠”はアッサリ動かなくなった。
「おおっ。ヤルではないか」
「お見事です」
「ユキトくんっ。
ケガしてないっ」
ケロ子がユキトを抱き寄せる。
「大丈夫。
“火鼠”くらいなら前にも仕留めてるんだ。
平気だよ。
ケロ子さん」
ユキトは顔が真っ赤だ。
「うわ
ミストシャワー?」
木と木の間に白いモヤが立ち込めてる。
先はモヤで見えない。
これが『野獣の森』の入り口らしい。
ショウマ達は『野獣の森』入り口に来ていた。
村から10分と歩いてない。
途中には壊れた見張り台が有った。
昨日“暴れ猪”に壊されたらしい。
『野獣の森』からは魔獣が溢れてくる。
見張りを置いてるのだ。
数はともかくほとんど毎日出て来るらしい。
よくそんな場所の近くに住もうと思えるね。
迷宮都市だったら、魔獣が溢れたら一匹だけでも大騒ぎになりそうだ。
「気を付けてください。
中に入った途端、襲われるコトも有ります」
コノハのセリフだ。
「大丈夫よ。
一層でしょ。
手強いのはいないわ」
エリカは自信満々に言う。
「これでも毎日『野獣の森』探索してるプロよ。
まかせておいて」
最初はコザル、エリカが入る。
続いてミチザネ、ショウマ。
最後にコノハ、タマモだ。
よく分からないけど、『野獣の森』に慣れてる人に任せよう。
「こっ!これは…」
エリカが『野獣の森』に入るとコザルは黙ってしまった。
元々コイツは言葉数が少ない。
だからエリカも気にしない。
当たりを眺める。
へー。
広場みたいになってる。
ベオグレイド近い入り口から『野獣の森』に入ると一本道になってる。
左右は木々が生い茂って通れない。
人間が2~3人並ぶのが限界。
それくらいの道を進んでいくのだ。
こっちは開放的な空間。
森の中だ。
どこでも通れる。
ミチザネとショウマが現れる。
続いてコノハ。
最後にタマモ。
「グルー、グゥゥゥー」
タマモは唸り声を上げてる。
警戒してる。
「皆の者!
静かに、ゆっくりと下がれ!」
コザルが押し殺した声で言う。
「なに?
どうしたのよ、コザル」
コザルは横を見ている。
視線の先をエリカは追う。
「うわ!大きいクマ」
「“双頭熊”!
『野獣の森』でも最大級の魔獣です!」
熊。
陸上、最大級最強クラスの獣と言われる。
日本にいるのはツキノワグマとヒグマ。
本州にいるのはツキノワグマだ。
体長100~130CM。
クマとしては比較的小さい。
食料も肉より木の実などを好んで食べると言われる。
北海道に現れるのがヒグマ。
こちらは体長200CM。
木の実やハチの巣なども食べるがそれだけでは無い。
エゾシカを襲って食べるのだ。
世界的に有名なのはアメリカのグリズリー。
ヒグマの一種だ。
最大級と言われるのがアラスカのコディアックヒグマ。
平均体長は240CM、体重500kg。
後ろ足で立ち上がると高さは3Mを越すと言う。
目の前にいる“双頭熊”はそのサイズ。
ショウマの見た限り、さらに凶悪だ。
だって、二つの頭で二つの口がよだれを垂らしてる。
立ち上がる後ろ足は二本。
だが、前足は4本。
全て爪が伸びているのだ。
「コワッ。
クマモンとかリラックマとチェンジしてくれない?」
「戦士達が10人がかりでも返り討ちに会う魔獣です。
一端逃げましょう」
「なーんだ」
エリカはさらっと言う。
“化け狸”だ。
一層目に出てくる魔獣。
良く“双頭熊”に化ける。
慌てて攻撃すると、正体は小柄なタヌキ。
魔法やスキルをムダ撃ちさせられるのだ。
ホンモノの“双頭熊”が出てくるのは『野獣の森』5層目。
まだエリカ達が辿り着いてもいないトコロだ。
チームが平均LV30はいかないと厳しいと言われてる。
こんな入り口に “双頭熊”が居るワケ無いじゃない。
エリカは剣を手に魔獣に近付く。
“化け狸”は化けるだけ。
大した攻撃力は無い。
一応、攻撃はしてくるけど。
エリカは鉄の胸当てを着てる。
ダメージは食わないレベルだ。
「エリカ様!」
ミチザネだ。
また、アタシより先に攻撃するつもり?
ここはアタシの出番よ。
多分この辺。
デカイ魔獣の下の方。
ホンモノの“化け狸”はこの位のサイズ。
エリカは剣を振るおうとする。
「グゥアーガアアアーー!」
クマの前足がエリカを襲う。
肩に盛り上がった筋肉。
左前足を振っただけで、エリカはブッ飛ばされる。
ナ、ナニが起きたの?
エリカはまだ事態が呑み込めてない。
でも胸当てがひしゃげてる。
エリカの肩が切れてる。
血が流れてる。
血?!
血が出てる。
マボロシじゃない。
ニセモノじゃない。
というコトは…
このエリカの前で咆哮を上げてる巨大なヤツは。
「ググァアアアー!!」
“双頭熊”。
エリカがいままで出会った事さえない魔獣。
『野獣の森』最強クラスの敵がエリカを睨みつけていた。
【次回予告】
まずい。僕も恐怖状態になったかも。ショウマはビクついてる。
二つの頭から四つの赤く燃えた目玉が睨みつけてくる。四本の前足にギラギラとした爪が見える。巨大な体に盛り上がった筋肉。相手は悪夢の中のバケモノだ。
「恐怖!恐怖状態になってる。みんなやられてる!しばらくまともに攻撃できない」
次回、コノハは叫び声を上げる。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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