クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第117話 サルビア女兵曹その1

公開日時: 2021年11月25日(木) 17:30
文字数:4,648

「で、誰さん?」


朝だ。

ショウマは御殿の2階。

謁見の間。

弓士ムゲンともう一人が訪問して来た。

知り合いが村に来たと言うのだ。


「こちらがアイリスです」

「よろしくお願いします、聖者サマ」


ムゲンが紹介する。

女性が頭を下げる。

美人。

しかもセクシー。

制服の胸元は空いてて下はスカート。

ピッタリしてて腰のラインが見える。

むー。

気にはなるけど女性は明らかにムゲンの恋人っぽい。


二人は寄り添う雰囲気。

ピンク色のオーラに包まれてる。

ムゲンは顔を隠す帽子を取ると美青年。

アイリスという女性は恰好こそセクシーだけど知的美人風。

お似合いの二人。


なんだよ。

バカップルか。

リア充報告しにわざわざ来たの。

朝から何のイヤガラセ。


「で、二人はどんな関係?」

「彼女は…

 私が祖国に居た時の婚約者でして」


「あー分かった。

 もういい、もういい」


ショウマは手を振る。

ムゲンから以前話は聞いてる。

彼は小国の王子様だった。

相続争いから逃げて来たと言っていた。


「どうせアレでしょ。

 そのアイリスさんは祖国の有力貴族の娘さんなんでしょ。

 二人が結婚するとムゲンが国の中で勢力を持ちすぎる。

 本格的な王位継承権争いになる前にムゲンは国を出た。

 そんなカンジでしょ」


「な、何故それを…」

「ムスターファ、そうなの」


テキトーにありがちなのを言ったんだけど。

一発目から正解だったらしい。


「お見通しとはさすが聖者と呼ばれる方」

「そうだったの、だから私を置いて去って行ったのね」


「すまない、アイリス。

 君には申し訳なく思っている。

 しかし私は自分が引き金となって国の内部で争いが起こる事だけは避けたかった」

「いいの、私こそ分かってあげられなくて…」


いや、二人だけでやってくんないかな。

朝から人の家でなにやってんのさ。


「分かった。

 分かったからお幸せにねー」


とっとと帰って貰いたいショウマだ。


「しばらくこの村で彼女と一緒に暮らしたいと思っています」

「いいよー。

 好きにして」


「待って、

 ムゲン今どこに住んでるの?」


冒険者用の簡易宿泊所。

一応一人ずつ個室は有るけど水場は共用。

風呂は無くて村の温泉施設を使う。

そんな施設にムゲンは住んでると言う。


「手狭ですが、贅沢は言えません」

「はい、個室が有れば充分です」


「いや、ダメダメ。

 みみっくちゃん、大工さんに言って何とかしてあげて。

 超特急ね」

「はい、ご主人様。新婚さん用新築ですね。

 ムゲン、ムゲン。ベッドのお好みは?鏡張りにします?それともウォーターベッドですか?。お風呂は広い方がいいですか? それとも~、二人で浸かるとちょうどお互いの体がピッタンコしちゃう位のサイズがいいんですか~?、よ、この色男!」


「そんな申し訳無い」

「私たちのために家まで」


「アタリマエだよ」


ムゲンとアイリスは感激した風情。


アタリマエである。

簡易宿泊所はヒトリモノの男がほとんどなのだ。

隣で美男美女が一緒に暮らしてる。

今もイチャイチャしてる。

そんなコトになってみろ。

みんなテンション下がるに決まってる。

せっかく亜人の村側から『野獣の森』探索してる冒険者達。

もう迷宮なんて行ってらんねーよ。

全員そう言いだすだろう。

ショウマならそう言う。

間違い無い。


「早く、二人だけの家に移り住んでね」



ムゲンとアイリスは聖者の御殿を出る。


「凄い人ね。

 アレが聖者サマなのね」

「ああ、私もあの方に報いたいと思っている」


「本当に良かったのかしら。

 あの話を伝えないで」

「キバトラの決定だ。

 彼の決意を無には出来ない」



「聖者サマは『野獣の森』に行く予定だ。

 巻き込まみたくねえ」


村のリーダーキバトラはそう言っていた。

今日にも帝国軍は村にやってくる。

ムラード大佐が来るのだ。


アイリスは思い出す。

昨日の出来事。


「サルビア兵曹、正直に本当の事を言え。

 亜人達が魔法防具をベオグレイドに持ち込むのをワザと見逃したな。

 見返りに何を貰った、幾ら貰ったのだ」

「知らないって言ってるんだろ」


アイリスは目をそむけた。

既に女性は拘束されている。

椅子に縛られたあげく下士官に殴られている。

鋭い目つきの女性隊長。

顔には痣が出来ている。

体も制服の下は青痣が幾つも出来ている筈だ。


「キサマラいい加減にしろ。

 サルビア兵曹は賄賂など受け取ってはいない」

「これでは拷問だ。

 まともな聞き取り調査と言えるか」


女性の部下らしき兵士達が抗議する。

彼らも既に拘束されているのだ


「ムラード大佐、なかなか吐きません」

「どういたしましょう」


下士官の男達が言う。

ムラード大佐の子飼い。

下級貴族、軍学校を卒業し現場で訓練さえしないまま士官になった男達。

現場の兵士達とは軋轢があるのだろう。

それ位はアイリスも予想が出来る。

サルビアという女兵曹は現場の兵に信頼されている様子だ。

女兵曹に肩入れしたい位だが。

アイリスはムラード大佐の秘書官なのだ。

向こうから見れば大佐の仲間、下士官と変わらない存在だろう。


アイリスは進言する。


「大佐、まだ調査の段階です。

 暴力が過ぎるのは如何かと」


大佐は煩そうに手を振る。


「暴力では無い、ただの聞き取りだ。

 フン」


「ならば、お前らその女の制服を脱がせろ。

 なにか証拠になる物を持っているかもしれん」


ムラードが下士官に命じる。

何を言い出してるの。


「大佐!」

「アイリス、ただの身体検査だ。

 これ以上口出しするな」


アイリスは秘書官。

大佐の駐留基地司令官としての煩雑な事務を補助するのが職務。

現場に口出しする権限は無い。

しかし女性として見ていられない。


サルビアという女兵曹は整った顔立ち。

美女と呼ぶには鋭い目つき、迫力が有り過ぎる。

しかし化粧をしてドレスでも着れば化けそうなそんな女性だ。

 

下士官の男達には隠せない好色の感情が見える。

サルビアの眼光に圧されてもいるが、相手は縛られているのだ。

男達が手を伸ばして制服のボタンを外す。


「やめときな。

 イヤなモンを見るコトになるよ」


アイリスは唇を噛みしめ、状況を見つめる。

これ以上エスカレートするなら何が何でも止めないと。

しかしサルビアは怯えていない。

女兵曹は衣服を脱がされる行為に抵抗しない。

クールな顔で他人事の様な雰囲気。


帝国軍の黒い制服が脱がされると見えてくる。

女性物の下着では無い。

女兵曹は包帯の様な白い布を胸に巻き付けている。

右胸、右胸の形がおかしい。

左胸は女性らしく豊かに膨らんでいる。

肩から二の腕は鍛えられた体形。

筋肉が着き過ぎはしない。

アイリスから見ても美しいスタイル。

右胸だけが不自然。

左胸の様な膨らみが無い。

そこだけ不自然にえぐれているのだ。

胸を隠す包帯からは赤黒い肌が見えている。

何かの傷痕。

それも軽いケガでは無い。

女性は兵士なのだ。

怪我を負う事も有るだろう。

それにしても無惨だ。

右胸以外均整の取れた美しい身体だけに無惨さが引き立つ。


「せ、戦場のケガかね」


先程まで好色そうな顔で眺めていた大佐。

その声に動揺が出ている。


「戦場ね、くくく。

 子供の頃の物さ。

 酸でやられたんだよ」


女兵曹の服に手を伸ばしていた下士官たちを指して言う。


「こんな若いボンボンどもは知らんだろう。

 しかし大佐は御存知なハズだぜ」

「!災いの魔獣か…」


災いの魔獣。

何だろう。

聞いた事が有る気がする。

20年以上前の話。

『野獣の森』から魔獣が出現した。

その魔獣は近辺を荒らしまくった。

体長10Mは越える大型魔獣が数体。

酸を撒き散らし土中に潜る。

冒険者でも歯が立たない。

帝国の街は原型を留めない程の被害を受けた。

全てが焼け野原となった。

その跡に一から街を新しく作り上げたのだ。

ベオグレイドの街が奇麗で計画的に作られているのはそのお陰とも言える。

アイリスはそんな話を思い出す。


「兵士が吐きました」


その時下士官が入ってくる。

門番の兵士を一人、別室で尋問していたのだ。


「何だとアイツめ」

「サルビア兵曹を裏切ったのか」


女性の部下の男達が言う。

アイリスには大体想像がつく。

正直に話さなければサルビア兵曹がどうなるか。

お前が話せば彼女は助かるんだ。

そんな風に脅したのだろう。

サルビアを慕っている者こそ話さずにいられない。


「ホウガンが関わってるようです」

「ホウガンだと」


大佐は驚いている。

こんな場面で出てくるとは思わなかった。

そんな表情。

アイリスも知っている。

ホウガン、帝国の貴族では無い。

帝国と王国の中間地帯に大きな勢力を持つ一族。

最近は名前も聞かないが以前は帝国と危険な雰囲気になった事も有る筈だ。


「ホウガンの紋章入り指輪を持つ者が定期的に門を出入りしていると。

 サルビア兵曹はそいつを見逃し、一銭の税も取っていないそうです」


「どういう事だ、兵曹?」


「どうもこうも無い。

 聞いた通りだろうよ」

  

開き直った態度の女兵曹。

ムラードを鋭い目で睨む。


「その態度は何だ」

「ここは帝国の街だぞ。

 帝国領民で無い者が通るのに税を取ってないとはどういう事だ」


「職務怠慢。

 いや帝国に対する裏切りではないか」

「ホウガンとか言う輩に丸め込まれたのか」


下士官の男達が次々と責め立てる。

しかしムラード大佐が何も言わない。

女兵曹は若い下士官の言葉を気にも止めてない。

大佐だけを睨みつけている。


何だ。

何か不自然な態度。

サルビア兵曹もムラード大佐も。

アイリスには違和感が有る。

嵩に懸かって怒鳴りつけそうな大佐が黙っている。


「もういい。

 大体分かった。

 ホウガンに関係ある者が亜人どもに妙な入れ知恵をしてる。

 亜人どもと一緒に密貿易で不法な利益をむさぼってる」


「そういう事だな、アイリス」


何故か大佐はアイリスに同意を求めて来る。

あまり頷きたい場面では無いが、今の話を聞く限りその通りだ。

 

「いいか、お前ら。

 明日には出撃する。

 行先は亜人の村。

 三個中隊連れて行く。

 準備をしておけ」


大佐が下士官たちに指令を出す。

三個中隊。

500人近い。

亜人の村に何人の住人がいるか知らないが。

訊いた噂では100人から200人程度。

まさか大佐は住人を全員捕縛するつもりなのか。

驚くアイリス。

だが下士官の男達は気にも止めず頷く。


「はっ、了解しました」


「ククク、あの蛮族ども目にモノみせてやるぜ」

「俺の初出撃が蛮族相手とは、物足りないが訓練相手には丁度いいな」


「ヒヒヒ、先日の闇商売騒ぎで若い女が大量に村にいるらしいぜ」

「本当か、いや亜人じゃあな。俺のムスコが汚れるぜ」


「ならキサマは女はいらんのだな。

 覚えておくぞ」

「そんな事は言ってない」


誰一人大佐を諫めようとはしない。

女だと、何を言っている。

正規の職務中にしていい発言か。

アイリスは胸の中に暗闇が広がる。

しかしどうすることも出来ない。

アイリスは事務職、ただの秘書官にすぎない。


「キサマラ、何を言ってる。

 職務中にしていい発言か!」


怒鳴ったのは誰でも無い。

サルビア兵曹であった。

椅子に縛り付けられ、殴られている。

制服の上半身は脱がされ無残な胸の傷痕が見えている。

そんな女性が下士官達を、大佐を怒鳴りつける。


「ムラード、覚えていないのか。

 あの時誰が助けてくれたのか。

 サラ、サラソウジュ・ホウガンの名を知らないとは言わせないぜ」



【次回予告】

女冒険者サラ。その英雄譚、“金環形邪蟲”退治。数ある冒険譚の中でも有名な話だ。子供なら誰でも胸をときめかせて聞く。彼女が遠く離れた地下迷宮からわざわざ野獣の森まで遠征したのだ。彼女は勇気ある冒険者達を募った。迷宮都市から、王国から、帝国のあちこちから気概有る者がサラの下に集結した。『名も無き兵団』。そう呼ばれた冒険者達。

「やめときな。イヤなモンを見るコトになるよ」

次回、サルビアが言う。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート