クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第121話 野獣の森ラスボスその1

公開日時: 2021年11月29日(月) 17:30
文字数:5,453

「なんだキサマラ」

「帝国軍は亜人の村へ進軍中だ。

 関係ないモノはどいていろ」


「そりゃ、こっちのセリフだよ」

「この先には帝国軍が用事の有る様な場所はありませんよ」


帝国兵士500名。

その前に立ち塞がるのは二人の男。

侍剣士タケゾウと弓士ムゲンである。


「この先の亜人の村に用が有るのだ」

「冒険者に用は無い、どいていろ」


「それなんだよな。

 亜人の村に何の用件なんだ」

「それを聞かなければ通す訳にはいきませんね」


兵士は呆れる。

小声で囁く。

何をカンチガイしてるか知らないが。


「あのな、悪いコトは言わん。

 逃げとけ、こちらは帝国軍三個中隊だぜ」

「率いてるのはムラード大佐だ。

 冒険者に気を使う様な男じゃねえ。

 素直に逃げときな」


現場の兵士達だ。

なかなか話の分かりそうな真っ当な雰囲気の兵士達。


「何だ、何を止まっている」


あちゃ、兵士達は目を見合わせる。

下士官、貴族のバカどもが出てきちまった。


「なんだ、どうしたのだ」

「なぜ進軍を止めている」


タケゾウとムゲンの視界に現れたのは今までとは違う男達。

先ほどまで話していたのは軍人としての苦労もして来たであろう中年男。

今しゃしゃり出てきたのはピカピカの制服に苦労を知らぬげな若い男達。


現場の兵士達は下士官に敬礼姿勢で答える。


「はっ、一般人と接触しまして」

「今、どいて貰うよう交渉していた処です」


下士官はタケゾウを見ながら言う。


「一般人? 武装してるではないか」

「亜人じゃないのか」

「クツクック。脱がしてみたらどうだ。

 亜人どもは獣との混血だからな」

「どこかに尻尾でも隠しているかもしれんぞ」


居丈高な若い下士官が四人。

兵士達はその後ろで目を見合わせる。

あーあ。

逃げちまえと言ったのに。

俺達はもう知らんぞ。


ガタン。

いきなり倒れる。

下士官の男達だ。

タケゾウの正面に居た男が二人座り込んでいる。

顔は青ざめ冷や汗を流している。

座り込んだ男の後ろに居た別の下士官が言う。


「おい、どうした?」


「…今 俺は斬られた…」

「俺の腕が切れて落ちたんだ…」


「何を言ってるんだ」

下士官は訝しむ。

座り込んだヤツらは何を言ってるのか。

彼等はケガもしていない。

へたり込んでるだけだ。

原因はあの男か。

正面に立つ剣を二本下げた男。

剣を鞘から抜いてさえいない。

しかしコイツが何かした。


「キサマ、何かしたな」


剣を持った男に下士官は言う。

槍を男に向ける。

その瞬間だった。

男から何かが飛んできた。

刃。

斬られた。

そう思った。

剣が疾風の様に飛んできた。

自分の胸がバッサリと斬られた。

血しぶきが上がった。

胸元からこの出血。

もう助からない。

膝を折って倒れ込む。

その視界に入る剣を持った男。

何かが変だ。

この男は剣を抜いていない。

男の剣は二本とも鞘に納められたまま。

自分の身体を見てみれば。

赤くなどなっていない。

体から飛んだ血しぶきで真っ赤に染められた筈の軍服。

黒くシワも無いまま。

切り傷など微塵も無いのだ。

しかし。

下士官は立てない。

斬られた、その記憶が鮮明に残っている。

胸元から今も血が流れている気がする。

精神が納得しない。

立ち上がろうとすることが出来ない。


「ほほう、前の剣気とは一味違いますね」

「ああ、ちっとばかりムカついちまったんでな」


ムゲンは言う。

目の前の帝国兵士は倒れたまま動けずにいる。

タケゾウだ。

この男が剣気を飛ばしたのだ。

しかし以前ケロ子さんに使ったオドシのための物とは違う。

もっと凶々しい。


「ここまでやるとな。

 本当に斬られた気になって自分の心臓を止めちまうヤツまで出て来る。

 だから普段は抑えてるのさ」


タケゾウが言う。

ムゲンは座り込む帝国兵士に目をやる。

下士官だろうか。

若くて威圧的な態度が身に付いていた男。

下半身が濡れている。

ズボンのシミは大きくなる。

座り小便をしたらしい。


「なぁ、ムゲン」

「なんです」


「三個中隊って何人くらいなんだ?」

「知らないで来たんですか。

 およそ500人ってところですね」


「そんなもんか。

 じゃあ2人で250人ずつ倒せばいいな」

「ムチャ言わないでください。

 私はアナタの様なバケモンじゃありません。

 前方で400人引き受けてくださいよ。

 後方から100人は何とかしましょう」


2人の男に怯えた風情は無い。

前方には帝国兵500人。

既に下士官を敵に回してしまった。

なのに今日の天気でも話してるような余裕を見せる男達。


四人の下士官の残り一人は怯えてる。

三人の仲間がいきなりバタバタと倒れてしまった。

前方の男達がやったのだ。

男達は武器さえ抜いていないが。

それ以外考えられない。

亜人には特殊能力を持つモノも居ると言う。

コイツらもそんな仲間。

下士官は後ろに逃げる。

兵士達に隠れながら言う。


「やれっ、かかれ。

 相手は少ない。

 帝国兵の力を見せてやれ」


帝国兵士達は進む。

揃いの兵装。

盾を前方に持ち、槍を構える。

木の盾、中央と周辺を金属で補強している。

軽くて扱いやすい割に頑丈なのだ。

いきなり隣の男が倒れる。

兵士は慌てる。

何が起きた。

弓矢。

矢が同僚に突き刺さっている。

盾の隙間を狙われたのか。

同僚を救護する暇はない。

何故なら。

剣を抜いた男が斬りかかってくる。

片刃の剣、刀だ。

盾で受け止めようとする。

しかし嘘のように盾が両断される。

もう一本。

男はもう一本刀を持っていた。

左手からの斬撃が兵士を襲う。


「斬られていい覚悟が有るヤツからかかって来な」


タケゾウは叫ぶ。

正面の兵士を叩き切る。

横から迫る盾を切り割き、蹴り飛ばす。

脇の兵士を盾の隙から刀の先端で突く。


後ろには兵士がまだまだ居る。

目に見える先まで兵士が渋滞。

前面に押し出された兵士には怯えが見える。

しかし後ろには逃げられない。

更に兵士が詰めかけているのだ。

後ろから押されている。


モノも言わずタケゾウは刀を振るう。

先頭の兵士が斬られて倒れる。

怯えてる男を斬るのは楽しくないが。

コイツラは一般人を武装して集団で襲おうとしているのだ。

反撃で斬られる覚悟くらいは持ってる。

そのハズだ。


「おのれ、調子に乗るな」

「帝国軍を舐めるな」


おっ、元気が有るヤツも居てくれたか。

そうじゃねーとな。


槍を構える男達が進み出る。

タケゾウを左右から狙うつもりだろう。

しかし左に回った男が倒れる。

見ればこめかみに矢が刺さってる。

フン。

タケゾウは右の兵士に剣を振るう。

足を踏み出し全身の力を乗せる。

盾は金属で補強されてはいるが木製。

勢いに乗せて振るえば斬れない程じゃない。

盾ごと後ろに居た兵士は切り飛ばされる。


「ホントにこんなコトしてていいのかよ。

 色男さん」

「何です?」


「愛しい彼女が久々に会いに来たんだろう。

 なかなかの美女だったじゃねーかよ」

「アイリスは分かってくれます。

 それに逢いに来たのではない。

 奇跡みたいな偶然です」


「奇跡ねぇ」

「そう。

 ですから、ここは逃げられないのですよ」


「ヘッ」


タケゾウが正面の兵士を斬る。

その後ろに回りこもうとして来た兵士にムゲンの矢が刺さる。


「アナタはどうなんです?」

「オレ?オレはよ、オマエ。

 こんな楽しそうな状況、逃がすワケねーだろ」


タケゾウは笑いながら言う。

右手で突き、左手で払う。

動作に合わせて前の兵士達が倒れる。


「そうですか?

 ハチ子さんの為じゃないんですか?」

「ハァ?!

 何でだよ」


両手で切るタケゾウ。

目の前の盾が両断される。

ついでに奥の大柄な兵士まで二つに斬られる。


「イヤ、そんな風に見えんのか?」

「クッフフフフフ。

 ずいぶん可愛がってるようには見えますよ」


ムゲンの手から矢が放たれる。

盾と盾の間へ吸い込まれる。

盾に隠れた兵士が鈍い呻きを上げて倒れる。


「あー、まぁな。

 確かにあの姉さんは美人なだけじゃねぇ。

 可愛いとこがあんな」

「アッハハハハ」


「笑うんじゃねえよ」

「いえ、ついね。

 アナタの台詞も可愛らしかったもので」


言葉を交わしながらも隙を見せないタケゾウ。

左に回った兵士を蹴りつけ、正面の兵士に突きを放つ。

ムゲンも笑いながら矢を放つ。

盾からはみ出た兵士の足を撃つ。

身動き取れず倒れる兵士。


自分は随分バカな事をしている。

ムゲンはそんな自覚をする。

元は敵として亜人の村に訪れたムゲン。

出来る女達を捕まえるのに協力しろ。

今考えると何故あんな腐った話に乗ってしまったのか。

やはり疲れていたのだろう。

名前を隠し生活する日々に疲れていた。

冒険者として生活していくだけの収入は手に入ったが。

ムゲンの得意は弓矢。

一人で迷宮探索には向いていない。

チームメンバーが必要。

後ろ暗い事が有る人物は気づかれてしまう物だ。

ムゲンと組もうとするのは後ろ暗い事が有る連中ばかり。

信頼できる存在では無かった。

そこで捕まった。

丁度この道で戦い、ムゲンは破れた。

投降したムゲン、相手は蛮族どんな目に遭う事かと思ったが。

なんのペナルティも無い、自由にしていいと言う。

不思議な雰囲気の少女。

聖者サマに遣える賢者と言われている少女。

彼女と話すうち、いつの間にかムゲンは自分の素性をバラしてしまった。

小国の王子。

祖国での王位継承権争いに巻き込まれぬよう逃げて来た。

やってしまった。

これで祖国に売りとばされて終わる。

そう思った。

しかし。

ムゲンは自由だった。

亜人の村の戦士が『野獣の森』探索に行く。

出来ればその手伝いをしてくれない。

聖者達はいつか鉱山へ鍛冶場へ行くと言う。

可能ならその案内をしてくれない。

そう頼まれただけ。

逃げようと思えばいつでも逃げ出せる。

亜人の村から。

亜人の村、蛮族が生活していると思っていた場所。

この村の人々の温かさもムゲンには驚きであった。

みんなムゲンを仲間として接してくるのだ。

子供たちなどムゲン兄と、兄と呼んでくるのである。

いつの間にか弟、妹が増えてしまった。

もう逃げ出すことは出来ない。

そしてアイリス。

昔結婚の約束をしていた女性。

彼女とここで出会うとは。

亜人の村、普通訪れる人はいない。

こんなところで出くわす筈が無いのだ。

それが。

あの男。

聖者と呼ばれている男。

彼の仕業。

彼が色々な計画を立てたとか密かにアイリスをムゲンに逢わせようとした。

そんな風に考えている訳では無い。

あの男の周りはおかしい。

あの男もおかしい。

ムゲンは小国とは言え王族としていろいろな人間に逢っている。

あの男は普通の冒険者では無い。

第一、鍛えた跡が無い。

冒険者は命懸け、自分の命を張り身体を鍛え金を稼ぐ。

そんな人間でないのは誰が見たってわかる。

近い雰囲気なのは天才と呼ばれるクラスの職人や芸術家。

浮世離れしている。

相手が王族だろうと貴族だろうと気にしない。

自分の専門分野の事しか頭に無い連中。

それに近い。

芸術家はその作品を見ると分かる。

この男の力だけでは無い。

神に愛されている。

そう感じる作品が、そう思う芸術家がいる。

そんな存在。

あの男は神に愛されている男。

その神の気まぐれ。

その神の引き起こす奇跡の一端がムゲンとアイリスを引き合わせた。

ムゲンはそんな風に感じている。

願わくばまだ奇跡の中に居たい。

だからこの場は逃げられないのだ。


「ではお互い、愛しい女性のため。

 戦うという事で」

「誰がそんなコト言ったよ。

 オレがそんなクサイセリフ吐くかよ。

 一宿一飯の恩義で充分だ」





ショウマ達は進む。

『野獣の森』その奥の更に最奥。

だだっ広い大樹の切り株の上。

中央に向かって進んでいるのだ。

やがて見えてくる。

水が流れている。

川?

堀と呼ぶべきかな。

四方を水で囲われて、中には舞台のような空間。

水を越えていける橋は一ヶ所だけのようだ。


橋の正面まで行って一休み。


「ダメージ有る人は言って。

 回復させるよ」


ショウマの予想では橋を渡ればラスボスステージ。

最後の準備。


「なるほど、あれがショウマ王の言うラスボスというヤツですな。

 確かに手強そうです」

「確かに手強そうなのです」


えっ?

振り返って橋の先を見るショウマ。

舞台の上に見えていた。

巨人。

体長は5メートルから6メートルくらいだろうか。

全身は緑色。

体の内側は獣毛の様にも見えるしツタが絡みついているようにも見える。

背中側はそれが固い鱗状。

背の鱗は尻尾へと続く。

顔は獅子に似ている。

赤茶色いタテガミ。

長い毛が逆立っている。

口からは大きな牙が見えている。

二本足で立ち手には武器。

石で出来たらしき斧。

胸と肩に盛り上がった筋肉。

威圧的な恐ろしいバケモノであった。


「えええええええーーっえーーーーっ」


堀を迂回してる時は見えなかった。

正面に来た途端見えたのだ。

なにあれ、なにあれ。

うそー。

女の人じゃなかったの?

以前見た女性。

獅子の仮面を付けたショウマ以外に見えなかった女性。

ありがとう、そうささやいたのだ。

“森の精霊”フンババさん。

そのイメージと180度違う。

いや360度は違う。

360度だと一周回って同じか。

んじゃ更に回って540度違う。

やばい。

コワイ。

進〇の巨人かよ。

武器持ってるんだから奇行種か。


慌てるショウマである。



【次回予告】

ショウマ達はラスボス戦前に最終打ち合わせ。目の前には凶悪な外見の巨人。獅子の顔、竜の様な鱗、石斧を構えたスゴイヤツ。“森の精霊”フンババ。大自然の番人、森を荒らす者への懲罰者。

「よしっ、ケロ子全力で行くよっ」「うん、タマモも頑張る」

「まず状態異常試してみましょう。あのデッカイ斧で殴られるのはゴメンです。

 みみっくちゃん一発でペシャンコになりますですよ。みみっくちゃん『眠りの胞子』と『ツタ縛り』使うです。ハチ美は『気絶の矢』『毒の矢』頼んだですよ」

「ハコ、何故お前が指示を出すんだ。リーダーはショウマ王だ」「リーダーはショウマ王です」

次回、従魔少女慌てる。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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