クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第20話 カトレアの闘いその3

公開日時: 2021年8月20日(金) 17:30
文字数:5,397

『一点必中』



滑空する“闇梟”。

巨大な梟の翼に女冒険者カトレアが跳ね飛ばされる。



「Hoooooo………」

声にならない叫びをあげているのは“闇梟”だ。

地上をバタバタと翼が打つ。

先ほどまでの音の無い殺し屋はいない。

騒がしい羽音を立てる巨大な鳥類だ。

その目には矢が突き立っている。

視界を突如奪われて暴れているのだ。


近接戦闘組の戦士が近付こうにも、近づけない。

自分より図体の大きい魔獣が暴れているのだ。

下手に近付けば、跳ね飛ばされる。


「クゥウォー――ン!」


その騒がしい羽ばたき音を切り裂く声。

“妖狐”タマモによるマヒの遠吠えだ。

地面を撃つ羽音が止む。


「効いた、マヒだ」

「よくやった、タマモ」



『炎の玉』


魔法がデカイ図体に当たる。

燃え上がり火の粉が散る。

マヒの影響で動きはしないが、胸が上下している。

呼吸をしているのだ。

人間3人分はあるサイズの魔獣だ。

簡単にやれるほど体力は少なくない。



斧戦士が走り込む。

“闇梟”の頭部だ。

自分の体ほどもある頭。

首筋目掛けて斧を振り下ろす。



コノハは走る。

先ほど跳ね飛ばされた女戦士の元へだ。

体ごと飛んでいった。

あれはマズイ。


「カトレアさん!」



ベテラン剣戦士が剣を突き刺す。

翼の付け根だ。

マヒが切れてももう飛翔させはしない。

翼の表面は固い。

付け根はいけそうだ。



“妖狐”タマモはフクロウに近づく。

足元だ。

長く鋭い爪が生えてる根元。

太腿に噛みつく。

口を開け犬歯を突き立てる。

この凶器で主を攻撃させるものか。



『炎の玉』



魔術師は唱える。

杖を握りしめる。

杖が無ければ魔法を使えない訳ではない。

だが精神を集中させるのだ。

まだ肩から出血している。

気を乱すな。

もう一回はいける。

先ほどと同じく胴体の真ん中に火がブチ当たる。



羽毛が燃えている。

“闇梟”はもがいている。

弱々しい動きだ。

だが翼が動く。

マヒが切れつつあるのかもしれない。


近接組の戦士は“闇梟”から距離を置く。


「やったか?」

「まだ生きてるが、時間の問題だ」


「もう一発食らわせる。

 俺はこれが限界だ」


魔術師の言葉だ。

魔力は使い過ぎると気絶する。

魔術師がこれが限界と言ったら限界なのだ。

近接組の戦士は魔法の後だ。

まだ“闇梟”が生きてるならトドメを刺す。



『炎の玉』



“闇梟”の身体に宙に浮かぶ火が飛んでいく。

衝撃でデカイ図体が揺れる。

もうその翼は動いていない。




「回復薬です。

 飲んでください」


コノハはカトレアを抱き上げ、強引に薬を飲ませる。

良かった。

意識が有る。


「美少女がウチを抱き上げてる…

 ここは天国かな」

「違いますっ!

 良かった。

 あんなに跳ね飛ばされたのに大丈夫そうですね」


巨大梟の羽が当たった。

カトレアの躰が10Mは跳んだのだ。

死んだかと思った。

 

「誰にでもとりえってあるだろ。

 ウチは丈夫なのがとりえなんだ」

「そうみたいですね。

 骨は折れてなさそうです」


コノハはカトレアの身体をチェックする。

革鎧は悲惨な状態だ。

でも腕も足も変な方向を向いてない。

 

「やけに効く回復薬だね。

 身体が軽いよ」

「コノハ特製です。

 私のとりえは薬草から回復薬を作れる事なんです」


「そんな特技があるならリーダーに申告しろよな」


カトレアが立ち上がる。

コノハの助け付きで。



『LVが上がった』

『コノハは冒険者LVがLV3からLV4になった』


機械的な音声が聞こえる。

魔獣を倒しきらないと聞こえない音だ。


「終わったみたいですね」

「おおお、こりゃ」


カトレアが驚きの声を上げる。

何事っと身構えるコノハ。


「一体で2000Gにもなってるよ。

 祝杯は豪勢に行こう」


コノハは呆れた。

つい吹き出してしまう。


「えへへへ。

 リーダーのおごりですか」

「いやチームの収入からだよ」


タマモがコノハに向かって走ってくるのが見える。


コノハとカトレアは歩き出す。

チームメンバーの元へ。






ショウマ一行は迷宮都市の大通りを歩いている。


「街の大通り凄いですね。人で賑わってます。みみっくちゃん大通り歩くのは初めてです。羽根生えた人いますね。鳥系亜人でしょうか。みみっくちゃんの背中の箱も羽根の一種って事にならないでしょうか…」

「ショウマさまっ、この前鎧を見たお店ですっ」


ケロ子の言葉に思い出す。

前回街を歩いた時、鉄鎧一式12000Gで売ってた。

鎧が120万円。

すると、もしも3人分揃えたら360万円。

手持ちが30000G、およそ300万円。

足りないじゃん。


Oh No!なんてこった。

金持ち気分が吹っ飛ぶ。


「うーん。

 とりあえず、

 いろいろ相場を見て回ろう」


この前の鎧が極端に高かったと言う事も有りうる。

 

ショウマは冒険者組合を出るときアヤメに防具くらい揃えなさいと言われた。

冒険者に見えないそうだ。

「魔術師の装備ってどんなの」と聞くと、「革のローブかマント」と答えが返ってきた。

魔術師は体力が少ないので軽い防具を選ぶ。

金属鎧は頑丈だがその分重たい。

麻の服に革のローブを羽織る。

もしくは軽めの革鎧を着こむ。

その辺りが基本らしい。


革の装備を中心に見て回るか。

でもショウマは後衛だ。

前衛のケロ子が優先だろう。

ケロ子は手甲を直したいと言ってた。

金属製の手甲だった。

それに合わせるなら金属製の鎧だよね。


明日は3階を通って、4階に行くつもりなのだ。。

『毒消し』を探すクエスト。

その前に少しは防具を整えるか。


「お店入りますかっ」


ケロ子が言うのは大きいお店だ。

以前鉄鎧を見かけたお店。

この前見た鎧は無いが、他にも防具は売っている。

薬らしいのも、食品も売ってる。

デパートみたいなモノかな。

相場を見るには良さそうだ。


「あれ、なんて書いてあるのっ?」

「ルメイ商会。お店の名前ですよ。ケロ子お姉さま」


「そうだね。

 入ろう。

 ついでにケロ子の手甲を直せるかきいてみよう」


もしも数時間で直せるなら、今日持って帰れる。

先に預けてその間に食事に行ってもいいし。


ショウマ一行は大きいお店に入った。

少し前にアヤメとキキョウがこの店に来ていたとは知らない。


「大きいお店ですっ」

「確かに3階建てでこの敷地面積。みみっくちゃんが思うにこの街で最も大きいお店ですね」

 


「防具の修理ですか。

 出来ないとは申しませんが…」

店員は差し出した手甲をチラっと見てから、ショウマをジロジロ見る。

ケロ子、みみっくちゃんを眺めて続ける。


「この手甲は大分傷んでるな。

 修理しても防具としては使えないぞ。

 替わりにこれなんかどうだ」


差し出してきたのは金ピカの防具だ。

『5000G』と値札が付いてる。


「坊主、お使いだろ。

 これを買って行けばご主人様に褒めてもらえるぜ」


店員は何か勘違いしている。

ショウマを冒険者に雇われた荷物持ちか雑用係だと思ったらしい。

ちょっとムッとするショウマだ。


店員の判断はおかしくない。

ショウマは杖こそ持ってるが、後は3人ともまともな武装をしていない。

冒険者と思えと言う方が無理だ。


「いらないから、

 修理した場合幾らになるか教えて。

 どのくらい時間がかかるかも」


「チッ、まぁ3000Gってトコだな

 預かって一週間だ」 

 

「そんなにかかるんですかっ。

 いいですっ、ショウマさま。

 ケロ子そんなに高いと思ってませんでした。

 ちあこすの30倍ですっ」

「お金はあるから大丈夫だよ、ケロ子。

 でも他のお店でも聞いてみよう」


「どうかされましたか、お客様?」


店員の対応にイラつく物を感じたショウマ。

とっとと店を出ようと思ってる。

その時、割って入ってきた人間がいる。

ヒゲを生やした偉そうな男だ。


「あ、店長」

「どうした?」


「使いの子供ですよ。

 防具の修理らしいですが、勘違いしてウチに来たんでしょう」


店長と呼ばれた男は店員に説明を受け、ショウマに向き直る。


「お客さん。

 その防具を見せてもらってもいいか」


ショウマは手甲を渡す。

どうもこのヒゲ店長は信用できない。

最初お客様と呼びかけた。

ショウマを見て、一瞬でお客さんになってる。

態度が尊大だ。

ショウマを侮ってる風情が表に出ているのだ。


「フーン、

 お客さんこれを店に下取りに出さないか」

「下取り?」


「下取り、言葉が分からんか。

 このボロボロの防具をウチが買うんだ。

 その分オマエは新しい防具を安く買える」


「いらないよ。

 それ返して」

「話の分からんガキだな。

 そらよ」

  

店長は手甲を投げてよこす。

受け取ったショウマ。

もうちょっとマシな店を探そう。

店を出ようとするショウマに店長が耳打ちする。

ショウマと店長だけに聞こえる声だ。


「いいか、坊主。

 次来るときは亜人を連れて来るな。

 ここは人間様専用のルメイ商会だ」


「亜人!

 亜人差別?

 そんなの有るんだ」

驚くショウマ。


「ふーんもう来るなって、

 僕のケロ子とみみっくちゃんに対して言ったんだ」


「へー、そういう店なんだここ」


ショウマは店長を振り返る。

口に出してる。

声は大きくなっている。

店長とショウマだけに聞こえる声では無い。

まわりの店員にも客にも聞こえる声だ。


「亜人を連れて来るな、

 人間様専用?

 そんなコト何処に書いてあるの?

 知るワケないだろ。

 ちゃんと分かるように店頭に大きく書いときなよ。

 それが客を迎えるって事でしょ」



「だいたい修理に来た客を捕まえて5000Gの防具を買えって、

 バカじゃないの?

 人の外見見てあからさまに態度を変える。

 ろくでもないね。

 なんだあの金ピカの防具。

 金メッキじゃないの」


声はドンドン大きくなる。

店長が「このガキ」と止めようとするがショウマは止まらない。

 

「金は色こそ派手だけど頑丈な金属じゃない。

 子供だって知ってるよ。

 金メッキの防具に5000G出す冒険者いる?

 その位わかんない?」


「亜人を連れて来るな?

 大丈夫だよ。

 僕も含めて二度と来ないから」


「行くよ。

 ケロ子、みみっくちゃん」


ショウマは店長を押しのけて出て行く。

店員たちは気圧されて見送るだけだ。






従魔師コノハは街を散歩していた。

従魔のタマモも一緒だ。

午後の予定が無くなったのだ。


彼女は冒険者チーム『花鳥風月』に加入試験中だ。

今日は一日迷宮探索の予定だった。

午後の探索は中止になった。

魔術師が治療院に行っているからだ。

あの大きいフクロウ。

何とか倒したけれどみんな疲れ切っていた。

コノハと一緒に入った剣戦士。

彼は泣いていた。

「もうやめる、冒険者なんか出来ない。

 俺はやめる。

 こんなの死んじまう」


気持ちは分かる。

コノハもあれが1階に出てくる魔獣で、下層にはさらに強いのがウヨウヨいると言われたらやめたくなる。

でもあれは例外だったらしい。

一緒に戦ったチーム『花鳥風月』は地下迷宮でもトップクラス。

4階まで行っている猛者だ。

それでも苦戦する敵だったのだ。

結果的に死人は一人も出なかった。

魔術師も治療院には行ってるが、明日は戦線復帰するらしい。

だったらいいではないか。

冒険者なんだから死を覚悟するのは当たり前だ。

新入り戦士の覚悟が甘いのだと思う。


明日また迷宮前に集合だ。

カトレアさんは新入り戦士に言っていた。

「明日まで考えな。

 明日また辞めると言うなら止めないよ」


さて昼ご飯をどうしよう。

カトレアさんにご飯処を訊こうかと思ったが、彼女は魔術師に付き添って治療院に行ってしまった。

昼ごはんを探しに出たのだけど、タマモも連れて入れる店があるだろうか。

コノハとタマモは街の大通りを歩いている。

大通りは賑やかでキレイな店が多い。

歩いている人も身なりが良い人間が多い。

もう少し脇道に行ってみようか。

下町の方がコノハとタマモに向いた店が多い。

そんな気がする。


「亜人を連れて来るな、

 人間様専用?

 そんなコト何処に書いてあるの?」


そんな声が聞こえてビクっとする。

見ると大声を出しているのは小柄な少年だった。

大きなお店。

お店の人間と対峙している少年の後ろには二人の少女が居る。

亜人の少女だ。

爬虫類系の混血に見える娘と何だろう不思議な雰囲気の娘、良く分からないけど亜人の混血だと思う。

少年は大声を出している。

戦っているのだ。

彼は少女たちを守るために戦っているのだ。

そう思った。




「最悪だよ!

 あの店どうしてやろう。

 ルメイ商会だっけ。

 お客様センターの番号教えてよ。

 毎日クレームの電話入れるよ。

 名前変えて、毎日10回は電話するよ」


「ショウマさまっ、怒らないでいいですっ。

 ケロ子は気にしてないですっ」

「大丈夫、ケロ子。

 ちゃんと最初の店員の名札は見たんだ。

 名指しでクレーム入れるよ。

 問題は店長だな。

 あいつ名札付けてなかった。

 でもいーや。

 店長に暴言吐かれたで毎日クレーム入れよう」


「うーん亜人差別ですか。みみっくちゃんの知る限り迷宮都市ではあまり聞いた事ないんですけどね。帝国では亜人は生き辛いとは聞きますけど…」

「そうルメイ商会は帝国が本拠地なの。

 従業員も帝国出身の人が多いんです」


みみっくちゃんの言葉に返してきたのはショウマ達が見知らぬ女性だ。

後ろに大きい狐を連れている。


「ごめんなさい。

 わたしコノハと言います。

 こっちの狐は従魔だから怖がらないで」


「従魔!?」

「狐! 

 そっかこれが普通の従魔なんだ」


「えーとコノハさん?

 何か用ですかっ」

「防具を探してるみたいだったから、

 えへへー

 わたしも防具を探してるの。

 大通りに有るのはお金持ちの人用なの。

 その道を左に行った方に武具屋さんが集まってるんだって、

 一緒に行かないですか?」



【次回予告】

金と欲望渦巻く迷宮都市。

喧騒と人混みに満ち溢れる街の中。

巡り合うは従魔師の少女と従魔の少女を連れる少年。

「そんな事考えてないよ それどんな魔改造?」

次回、めぐり逢いは運命なのか。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)

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