クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第50話 高速馬車にてその2

公開日時: 2021年9月19日(日) 17:30
文字数:4,135

ショウマ達は夕方には寝てしまった。

酔っぱらったショウマとハチ子、ハチ美の事だ。

ケロ子はそれ以前に幸せそうにショウマの横で寝ている。

みんな飲み食いした挙句、正体を無くしてた。

みみっくちゃんはいつもと変わらない態度でキューピーと夕食を食べていた。


コノハはちゃんと起きていた。

夜になると街道が見えなくなる。

馬車はその前に野営に入る。

“八本脚馬”は寝ずに走れると言う伝説も有るが、御者はそうもいかない。

停車して睡眠を取っても、旅人が十日間かかる道のりを二日で行けるのだ。

充分な性能である。

高速馬車は毎回同じルートを通っている。

決まった場所が有るのだろう。

森の間の街道を抜け、平野に4台の馬車がまとまって停車する。


馬車の荷台に乗っていた護衛役が降りてくる。

野営の準備をする。

火を起こし、テントを張る。

火は暖を取るだけじゃない。

野生の動物避けにもなる。

御者は夕食を取ったら睡眠。

護衛役が夜の見張り役を務める。

“八本脚馬”(スレイプニル)は轡を外され自由だ。

普通の馬なら自由には出来ない。

従魔なので放し飼いにしても逃げる心配が無いのだ。

護衛としての戦力にもなる。

ナカナカ便利なのである。


コノハも外で食事を取る。

キューピーという紳士には用意していた食事を勧められた。

一口、二口いただいたが、贅沢過ぎる。

明らかに専門のレストランから取り寄せたような食べ物だ。

コノハが奢ってもらう謂れが無い。

ミミックチャンさんはパクパク食べてた。

ショウマさんやケロコさんが酔っぱらってる寝てる中、彼女だけ素面だ。

何も変わった様子が無い。


干し肉とパンを齧る。

馬車の一行が火を起こしていたので、肉を焙らせてもらう。

カチカチの干し肉も軽く焼くと油が溶けだしご馳走になる。

タマモにも食べさせる。

クレマチスさんがスープを分けてくれる。


「ありがとうございます」


護衛の冒険者も交互に食べているようだ。

本当にコノハも夜の見張りに加わらなくていいのだろうか。

迷宮都市に来るときは夜の見張りをずっと務めていたコノハだ。


クレマチスさんは言う。


「何、気にしてるのさ。

 馬車に豪勢なソファー持ち込んでんだろ。

 ゆっくり寝なよ。

 こっちは通常料金より大分高い金貰ってるんだ。

 お客様サマサマだよ」


通常料金より高い額!

高速馬車1台貸し切りの通常料金。

コノハには想像もつかない金額。

だって馬車一台に100個は荷物が載せられる。

その分の料金は通常だと幾ら?


「で、どういう関係?

 アッチの中年男のお妾さんになるとかいうんじゃないでしょね。

 止めといた方がいーよ。

 アレは人の好さそうな顔してるけど、絶対食わせもんだー」

「違いますっ!」


「んじゃ、あの細い子の方。

 まだ子供っぽい顔してんのに、女の子4人も連れちゃって。

 アレなに、貴族のボンボン?

 コノハは第5婦人?」

「そんな訳無いですっ!」


「あれコノハ。

 顔が赤くなってるー。

 そうか、細い子の方に気が有るんだー」

「違いますったら

 止めてくださいっ」


「でもあの子は大変そうだよー。

 4人もタイプ違う女の子連れて」


これ以上話しても、クレマチスさんの玩具になるだけだ。

コノハは答えない。


「もう寝ますっ」


馬車の荷台に乗り込む。

下にはカーペットが敷き詰められてるし、壁には飾り布。

馬車は小さいランプだけ点いてる。

光は抑えられ暗いけど見えないほどじゃない。

もうみんな寝たみたいだ。

飾り布や装飾の施されたソファーが薄明りに照らされ雰囲気が有る。

コノハは泊った事が無いけれど、上等な宿とはこんな風だろうか。

空いてる前方の方のソファで横になる。

置いてあった毛布を使わせてもらう。

寝心地は冒険者組合の簡易寝台より遥かにいい。


酔っぱらったショウマさん達はデタラメな寝方。

キューピーさんも寝ている。

まあいい。

夜の見張り役は別にいる。

今日は素直に寝かせてもらおう。

タマモがくっついてくる。

タマモの首筋を撫でながらコノハは眠りに着く。

寝ながら少しコノハが思い浮かべるのはケロコさん。

ショウマさんの腕に抱き着いて眠ってた。

何の警戒心も無い安心しきった寝顔。

羨ましい。

羨ましいと思ったのは、安心しきった表情にだ。

ショウマさんにくっついていた事では無い。



キューピーは目を開ける。

寝息のみが聞こえる馬車の中で立ち上がる。

ショウマという少年に近付く。

ケロコという少女とくっついて寝てる。

ソファーで横になって、酔っただらしない格好だ。

のんきな寝顔。

警戒心が無さ過ぎるだろう。

だが、どうやら本物だ。


葡萄酒でアッサリ酔っぱらった時にはハズレを引いたかと思った。

しかし酔わせた彼から出てきた言葉の数々。

フライドチキンくらいはいい。

揚げた鳥だ。

油さえ手に入ればどこでも作れる料理だ。

しかし。

ご希望の品が有れば何でもご用意しますよ。

キューピーは酔ったショウマにそう言って要望を聞いていた。

チョコレートと言っていた。

おそらく彼が言っていたのはカカオの実から作った菓子。

別の大陸から入ってきた珍味として試しに食べたことが有る。

まだ流通はしていない。

今は帝国で栽培できないか実験中だ。

コーラ。

炭酸飲料と言っていた。

聞いた事が有る。

昔の王族の嗜好品。

伝説の品だ。

真珠を葡萄酒に入れると何故か固い真珠が葡萄酒には溶けるのだ。

それはシュワシュワとガスを発生させるという。

若返りの秘薬として伝わっているのだ。

本気で試した者はないだろう。

他にもキューピーにすら分からない商品知識。

そして迷宮の話。

迷宮を造った何者か。

魔獣を造った意図。

それは『失われた技術』の話か。

それとも更なる古代。

何を知ってるのか。

この少年は。


キューピーは思う。

この少年はあの方と一緒だ。

キューピーの人生を変えたあの方。

帝国の隠された皇子。

まだ幼いのにすべてを知っていたあの方。

ここ数年で帝国の魔道具は発展した。

それにはあの方が関与していた筈だ。

隠された存在だったあの方は既に有名になってしまった。

冒険者組合。

荒くれのたまり場だった存在を一気に発展させたのもあの方の力だ。

あの方にもっと深く関わりたかった。

しかし、以前のキューピーにそこまでの力は無かった。

今は違う。

キューピーは現在では世界有数の商人だ。

いま自分の目の前にこの少年が現れたのは偶然ではない。

このショウマという少年からは目を離さない。


彼はショウマに近付く。

既に手を伸ばせば触れられる距離。

その瞬間だった。

キューピーの首筋に固いものが当てられた。

刃物!

背筋が凍る。

うす暗い馬車の中、キューピーは息が止まる。

さっきまで全員寝ていた。

暗殺者!

何処から?


「静かにして、ゆっくり後ろに下がりなさい」

押し殺した声が聞こえる。

キューピーは言うとおりにする。

首筋に刃物が当てられているのだ。

逆らう事は出来ない。

慎重に後退るキューピー。


「なんちゃってー。キューピーおじ様、寝ているご主人様に近付くのは良い趣味とは言えないですよ」


みみっくちゃんだった。


キューピー会長は息を吐き出す。

一瞬本当に背筋が凍ったのだ。


「はっはっは。これは失礼しました。私は毛布を彼にかけてあげようと思っただけですよ。夜は冷えますからな」


「そうですねー。秋ですから、夜は寒いですねー。

 みみっくちゃんにください。ご主人様とケロ子お姉さまと一緒にくるまって寝るですよ」


「どうぞ、どうぞ」


毛布を小柄な少女に渡す。

見れば刃物と思ったのは料理用の小型ナイフ。

チキンを切り分けるのに使った物だ。

  

「いや、起こしてしまいましたかな。ミミックチャンさん」


「へっへっへー。クイズです。みみっくちゃん、どうやって寝るでしょう?

 ヤドカリは短い睡眠を1日に何回も取ると言います。だから見ているとずっと行動しているように見えるです。

 クジラやイルカはなんと、右脳左脳別々に睡眠状態に入る事が出来るですよ。片方の脳が寝てても、片方の脳で考えて行動するです。よく観察すると片目で泳いでる時間が有るそうですよ。器用です。

 さあ正解は?」


「ブッブー。正解はみみっくちゃんにも分かりません!でしたー」


「それはそれは」


さすがにどう反応していいのか分からないキューピー会長。

気にせず少女は毛布をショウマとケロ子にかけている。

そのまま隙間に自分も潜り込むつもりらしい。


「じゃあお休みですよ。キューピーおじ様。ご主人様を思いのままに操ろうなんて考えない方がいいですよー。ろくでもない事になるだけですよ」


「はっはっは。そんなことは考えていませんよ。

 私はショウマさんのお役に立ちたい。

 そして商人ですからそれなりの見返りもいただく。

 私が考えてるのはそれだけです」


「それならいいんですよー。キューピーさんもゆっくり寝るですよ。

 この旅の間は仲間です。夜何かあってもみみっくちゃんがついてるですよー」


そう。

今はそんな事は考えていない。

キューピーは幾つか持っている。

人を思いのままに操る方法。

例えば〇〇の実。

これを精製すれば中毒作用のある薬が出来る。

常用した人間は薬を手に入れるためなら親でも殺す。

だが、そんな物は使わない。

薬を使ってしまった後では少年の頭の中身がどうなるか分からない。

そんな危険は犯せない。

薬を使うのはイザという時だけだ。


さあ、自分も寝よう。

しかし、自分専用の護衛を一人も連れてこなかったのは失敗だった。

無骨な護衛がいては親密な関係になるのは難しいだろう。

そう考えた結果だ。

しかし。

首筋を手で撫ぜるキューピー。

先ほどの首に当たった感触を忘れたい。

簡単には忘れられそうにない。

生きるか死ぬかの目に遭ったのは初めてではない。

だがキューピーが人生で最も死に近づいた瞬間。

それは先ほどかもしれないのだ。

旅の間気持ちよく寝るのは難しそうだ。



【次回予告】

みみっくちゃんによる解説

「炭酸飲料に関してはクレオパトラが紀元前に炭酸飲料を飲んでいたと言う逸話が有るですよ。作者はそれをネタにしてますです。

真珠を葡萄酒に入れると主成分、炭酸カルシウムが酸に溶け炭酸ガスが発生するです。これをクレオパトラは美容と不老長寿の薬として飲んでいたと言う伝説ですねー。本当かどうかは怪しいもんです。信憑性はともかく、さすが伝説の美女。とんでもなく豪華な逸話ですよー」

「なっ。アヤメ、おかしいだろ」

次回、アヤメは言ってしまう。 

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください) 

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