「チッ」
ベオグレイドから亜人の村へ向かう道。
森と湖に挟まれた自然の道。
幅は通れて5人程度。
しかし5人は通れるのだ。
その道を帝国軍は進軍しようとしている。
前面に二本の刀を振るう侍戦士タケゾウ。
後方から弓で支援する弓士ムゲン。
タケゾウが左の兵士と切り結んだ。
その隙に右から兵士が二人駆けていく。
目標は後ろで支援してる弓使い。
「ムゲン、逃げろ」
チッ。
通しちまった。
タケゾウは叫ぶ。
ムゲンは至近距離に入られた時用に小刀くらいは持ってたハズ。
しかし二人相手は厳しいだろう。
敵は盾と槍を装備した兵士なのだ。
フォローに行きたいところだが。
タケゾウも槍で狙われてるのだ。
左の兵士が意外と手強い。
上手く盾の金属部分でタケゾウの斬撃を受け止めた。
その間に横から別の兵士が攻撃してくる。
躱しはしたが。
槍傷を頬に受けるタケゾウ。
支援には向かえない。
血が頬を伝いアゴに流れてくるのが分かる。
ムゲンは兵士の槍を躱し、小刀を取り出す。
その間にももう一人が攻めて来る。
槍がムゲンの胴体に迫る。
ガンッ。
何かが槍を弾き返していた。
斧。
長い柄のバトルアックス。
もう片方の手にも斧を持っている。
こちらは柄が短く広刃のモノ。
斧を両手に持つ戦士。
キバトラであった。
槍を打たれバランスを崩した兵士。
どこから現れたのか布装束の人影。
人影が小型の刃物で刺し貫く。
と思うと既に姿を消している。
人影はタケゾウの横に現れる。
苦無を投げ近付く兵士達を足止めする。
忍者コザル。
「オマエラ早いじゃねーか」
「避難は終わったんですか」
キバトラは一人では無かった。
亜人の戦士も十数人。
正面で帝国兵と切り結ぶ。
「おっと、オレも休んでらんねーな」
正面に出ようとするタケゾウ。
「待て、待て。
血がでてるじゃねーか。
薬くらい飲んでけ」
「チェレビー、なんだ。
女どもと一緒に逃げるんじゃなかったか」
「あっちは跳ね返りの女やミチザネに任せてきた。
こっちの方だって回復薬は必要だろ」
冒険者にして薬師チェレビー。
腕に盾を着けている。
彼は盾戦士でも有るのだ。
今頃亜人の村ではエリカとミチザネが女達を逃がしてる。
ショウマの家の裏手で暮らす女性達。
攫われて村に戻って来た女達。
戦場に若い女はいない方がいい。
血で興奮した兵士達はなにをやらかすか分からない。
ただでさえ傷ついている女性達。
これ以上ひどい目に会わせる訳にはいかない。
亜人の村の子供達も一緒の筈だ。
老人達は残ると言った。
ワシらだって普段から魔獣と戦ってるんじゃ。
帝国兵くらいで逃げてられるか。
村に襲ってくると言うなら痛い目に遭わせてやるさ。
兵士達に後悔させてやろうじゃないか。
血気盛んな老人達。
変にはりきるなよ。
帝国軍は俺達が食い止めておくからよ。
爺さん達まで出撃しようなんざするなよ。
クギを刺して走って来たチェレビーと亜人の戦士。
亜人の戦士達。
キバトラを先頭に斧を持つ者が多い。
彼らが兵士に突撃する。
スピードもパワーも半端では無い。
力まかせに斧を振るう。
斧は精緻な扱いを必要としない。
武器自体の重量を乗せ振り回すだけで恐るべき破壊力を発揮する。
普段の敵は魔獣なのだ。
迷宮のバケモノと比べれば人間など取るに足らない。
兵士達が次々倒れていく。
兵士達とて素人ではない。
意地の悪い士官に蹴飛ばされながら訓練を行っているのだ。
戦列を整える。
横一列に盾を揃え進軍する。
守りを固め盾の後ろから槍を突き出す。
亜人達より人数が遥かに多いのだ。
複数の力が指揮されて使われてこその軍隊。
相手は軍隊と戦った経験の無い蛮族。
陣形を活かした戦いなど知らない。
基本通りやれば良い。
「チッ、全面抗争じゃねーか。
もうちっと穏便にお引き取り願えなかったのかよ」
チェレビーのセリフだ。
タケゾウに向かって言っている。
「帝国兵に言ってやれよ。
アッチがケンカ売って来たんだぜ」
「それはこの人に言っても無理と言うモノでしょう」
「ムゲン、アンタもついてんたんだろ」
「帝国兵はこの人数でしかもキッチリ武装して来てます。
何の収穫も無しに引き上げる筈が無い。
軍隊とはそう言う物です」
「さて休憩終わりだな」
回復薬を飲んだタケゾウ。
先陣へと歩く。
既に頬に受けた傷は無い。
「ケガしたヤツは交替だ。
オレが替わるから引っ込んでな」
刀を突き出すタケゾウ。
刀が盾を抵抗なく刺し貫く。
周辺と中心部を金属で補強された盾。
金属を避けて木製部分を貫いたのだ。
後ろに隠れていた兵士が倒れる。
「盾なんざオレの前じゃ役に立たねーぞ」
タケゾウが吼える。
帝国兵に動揺が走る。
盾を持ち隙の無い隊列を作り上げていた。
それが崩れる。
崩れた処へキバトラが突っ込む。
亜人戦士達のリーダーキバトラ。
両手に斧を持った戦士。
盾ごと兵士をぶっ飛ばす。
その相貌は凶悪。
迫力の有る顔に獣毛が混じりつつある。
牙が伸びて来る。
狂暴な野獣。
虎を思わせる風貌になりつつあるのだ。
帝国兵士達は怯えてる。
「なんだありゃ、バケモノか」
「アレが亜人、噂に聞いちゃいたが」
亜人は魔獣とのあいの子みたいなもんだ。
毛が生えてバケモノみたいになるヤツがいるんだぜ。
そんな噂は聞いていたが、間近で見るのは初めて。
目の前の亜人は大柄な戦士。
斧を構えてる。
柄の長い斧と柄は短く刃の広い斧の二種類。
長い斧を振り回す。
刃の広い方は至近距離に入られた時用なのだろう。
手が付けられない。
ただでさえインパクトのある顔なのに。
夜道で会ったら絶対みんな逃げ出す。
凄まじいまでの外見になっているのだ。
横を向いて逃げ出す兵士。
座り込んでしまうモノまでいる。
「ジャマだ、ジャマ」
座り込んでる兵士をタケゾウは蹴飛ばす。
脇にもしゃがみ込んで震えてる兵士がいる。
「アレ、アンタじゃねーか」
最初にタケゾウに忠告して来た中年兵士。
悪い事は言わない、逃げとけと言ってた。
中年の兵士は首を振って怯えてる。
「悪い事は言わねえ、逃げとけよ。
湖に飛び込んどいたらどうだ。
ちょっとばかり冷たいかもしれんが。
死ぬよりゃいいだろ」
兵士はガチガチとアゴを振るわせながら湖の方へ這って行く。
タケゾウは確認せずにまた刀を振るう。
「オラオラ、逃げたいヤツは逃げときな」
コザルは傷ついた戦士を捕まえる。
首根っこを引っ掴んでチェレビーの処へ放り投げる。
「オラ飲め、薬だよ。
回復したらまた戦えばいいんだよ。
焦るんじゃねえ。
休んどけ」
順番に回復薬を飲ませる。
この戦士どもと来たらチェレビーが幾ら言っても聞かないのだ。
ケガしたヤツからちょいと後ろに下がれっての。
そう言っても誰も後ろに下がろうとしない。
コザルに頼んで強引にケガしたヤツから休ませてるのだ。
「フフフ。
面倒見がいいですね」
「コイツラ、
突っ込むしか能がねえんだ。
ほっとくと全く下がろうとしねえ。
こっちが上手くやってやらねーとな」
そう言ってるうちにコザルがまた戦士を放り投げて来る。
けっこうな血を流してるじゃねーか。
「あいよ、ご苦労さん」
チェレビーはコザルにも声をかける。
「その調子で頼んだぜ」
「どうやらまだしばらくは保たせられそうですね」
その様子を見ながらムゲンは思う。
「なんだ、何故進めない」
「それが亜人の戦士どもが抵抗を」
「亜人だと、何人くらいいるのだ」
帝国軍、ムラード大佐だ。
後方にいる大佐は状況が分かっていない。
下士官が報告している。
「何?!
十数名だと。
そんなモノ、大軍で圧し潰してしまえばいいではないか」
「それが、道が狭いもので」
「敵の中にやたら腕が立つ者が混じっていまして」
「言い訳はいらん。
何とかしろ!」
ムラードは苛立つ。
敵は十数人。
多めに見積もっても20人。
500対20だ。
敵にもならんだろう。
何を時間かけている。
バカどもめ。
ショウマ達はラスボス戦前に最終打ち合わせ。
目の前には凶悪な外見の巨人。
獅子の顔、竜の様な鱗、石斧を構えたスゴイヤツ。
“森の巨人”フンババ。
大自然の番人、森を荒らす者への懲罰者。
「よしっ、ケロ子全力で行くよっ」
「うん、タマモも頑張る」
「まず状態異常試してみましょう。あのデッカイ斧で殴られるのはゴメンです。
みみっくちゃん一発でペシャンコになりますですよ。みみっくちゃん『眠りの胞子』と『ツタ縛り』使うです。ハチ美は『気絶の矢』『毒の矢』頼んだですよ」
「ハコ、何故お前が指示を出すんだ。
リーダーはショウマ王だ」
「リーダーはショウマ王です」
「みみっくちゃん、リーダーになる気なんか無いですよ。みみっくちゃん参謀役です。頭脳労働者向きなんですよ。ホワイトカラーです。ブルーカラーのハチ子とは違うですよ」
「むう、意味が分からん」
「まぁまぁ、ハチ子。
うん、みみっくちゃんの戦法で行ってみよう。
みみっくちゃんとハチ美は状態異常使って。
他のみんなは防御。
攻撃は僕。
『絶対零度』と『灼熱地獄』で一気に行こう」
ウ〇トラマンじゃないのだ。
必殺技出し惜しみしてられない。
あの斧。
巨人が持ってる斧。
人間三人分くらいは有りそうな巨人の手に丁度いいのだ。
バカデカイ。
みみっくちゃんもペシャンコだけど。
ショウマだって一撃お陀仏。
攻撃は最大の防御。
やられる前にやる。
死にたいより殺したい。
で行こうぜ。
みたいな。
それに最近じゃウ〇トラマンシリーズだってバージョンアップ。
三分ギリギリまで必殺技待ったりしない。
すぐぶっ放したりもするのだ。
『絶対零度』で動けなくさせて。
かーらーの。
『灼ー熱ー地ー獄』
×3魔力。
超絶コンボ。
普段ランク5を気軽に使うなとうるさいみみっくちゃんも何も言わない。
なにしろ正面には石斧巨人。
牙もはやして激烈デンジャラス。
超絶コンボで反撃させずに倒そう。
「はいっ、ショウマさまがいれば無敵ですっ」
「じゃあタマモ、ショウマ守るのやる」
「うむ、ショウマ王なら楽勝だ」
「はい、ショウマ王なら楽勝です」
「そうですね。ここは出し惜しみする場面じゃないです。いいでしょう。異常なご主人様、思いっきり異常に行っちゃってください。その異常っぷりを見せつけてくださいですよ」
順番に進むショウマ一行。
武闘家ケロ子、斧使いタマモ
槍使いハチ子、賢者みみっくちゃん
弓使いハチ美、魔術師ショウマ。
堀のように張り巡らされた水。
橋を越えると土の地面。
すぐに平らな舞台が広がる。
木目が見える。
地面より少し高い位置に有る木製の舞台。
正面にはデカイ魔獣。
人間の3倍くらいはあるサイズ。
石斧を持つ巨人。
舞台が狭く感じる巨大魔獣。
多分舞台に出れば即戦闘だろう。
気合を入れて進む従魔少女達。
橋を渡る。
そこから木製の舞台へ一気に進む。
タマモは一瞬違和感を感じる。
カベを越えたような感覚。
以前『野獣の森』の外から中へカベを越えて入った。
ホントウは通っちゃイケナイ道。
世界と世界を隔てるカベ。
でもコノハを助けるためだからしょうがない。
強引に入った。
それと同じようなカベを越える感覚。
あれ、広いっ。
ケロ子は驚く。
さっきまで見えていた巨人は目の前。
舞台に入ったらもう巨人の手が届く距離。
すぐ蹴り飛ばすっ。
そのつもりだったのに舞台に足を降ろした途端。
木の舞台が広がった。
石斧を持つ巨人とも距離が有る。
10メートルくらいは有るだろう。
良く分からないけどいいやっ。
準備も出来るし、みんなと協力姿勢も取りやすい。
ホントウにあの巨人と6人も入れるのかなっ
さっきまでは舞台はそんな風に見えていたのだ。
続いてハチ子ちゃん、みみっくちゃんが入ってくる。
みみっくちゃんは杖を構えて魔法準備。
最初はみみっくちゃんとハチ美ちゃんの出番。
そういう計画。
ハチ美ちゃんが入ってくる。
弓矢を構える。
あれっ。
あれ。
あれ。
あれ。
あれあれあれあれあれあれあれああれあれあれあれあれあれあれあれあれあれっ。
どう言うコトっ。
さっきまでハチ美ちゃんの隣にいたのにっ。
姿が見えないっ。
「ショウマさまっ!?」
【次回予告】
分かった。イザとなったら本当に逃げろよ。そう言おうとしたチェレビー。ヒュッヒュヒュヒュッ。矢音、しかも複数。上も見ずに目の前の小柄なムスメを抱きしめ自分の身体で守る。上から覆いかぶさったのだ。
「うふふ。こんにちは。手練れのお姉さんの助けは要るかしら?」
次回、コザル初めての…。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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