「ハッ」
棒を突き出す従魔少女ケロ子。
六尺棒。
中心は木製、左右は金属で覆われている。
棒の中心を両手で持って払う、突く。
たまに片手持ちにして棒の後ろを持てば長く攻撃できる。
多様な使い方の武器。
マリーは鉄棒状の鞭で受け止める。
この場合ムチと言うよりベンと呼んだ方がいいかもしれない。
鉄鞭でケロ子の棒を受け流し左手の革鞭を振るマリー。
こっちは紐状のしなるムチ。
ケロ子は後ろへ飛び退いてムチを躱す。
マリーの両手に巻き着いてた革紐は革鞭だった。
足も同じ太腿に鎖が巻いてあった。
どちらも編み目が荒くて変だなと思ったのだ。
その分イロっぽくていいけど。
今マリーさんは右手右足から革鞭、鎖を外してる。
素肌が見えてる。
ショウマは見学。
生足に目が吸い寄せられてる。
「ケロコちゃん、棒術を取ったのね。
私はムチよ、武闘家・鞭」
武闘家のランクが上がると派生するらしい。
武闘家・棒、武闘家・鞭、武闘家・爪。
鞭は武闘家なのかな。
馬に乗る騎士辺りが使うならアリ?
騎士というよりカウボーイかな。
もしくは踊り子。
踊り子の上級職で女王様のムチ使いとか、良くない?
戦闘職ではないか。
鞭。
あまり武器として実戦に使われる事は無い。
動物、家畜を打つ。
罪人をムチで打つ笞刑はあらゆる国に有ったと言う。
三国志、水滸伝を読むと出てくる。
鞭を使う武人。
双鞭の使い手とか。
これは革紐状のムチの事では無い。
ベン、硬鞭と分類されたりする。
棒状の物で英語にするとrodになる。
紐状の武器は軟鞭でwhipとなるのだ。
マリーさんが足に巻き付けていたチェーン。
それが硬い棒状になった。
どのようなギミックなのか。
鎖を二重三重に手で引っ張たら棒状になっていた。
ケロ子の様に身長ほど長くない。
その半分位。
先程の分類で言えばrod、硬鞭に見える。
肩から腕に巻き着けていた革紐。
こちらは普通に軟鞭、ムチとして利用してる。
こういうのも双鞭て言うのかな。
ショウマはちょっと興味惹かれてる。
セクシー女戦士でムチ使い。
女王様キャラじゃん。
ケロ子はムチを避けると棒をクルクル回す。
カンフー映画なんかでやってるヤツ。
ショウマから見ると動作が派手でただの見せ物の様にも見える。
しかし。
棒術の基本、型の一つだ。
棒の基本練習に棒回しは必ず有る。
一つには棒の操り方を身体に馴染ませるため。
そして上手く体に合わせて回転して行けば棒の速度は早くなっていく。
棒の先端がすでにショウマには見えない速度。
回転速度を乗せてケロ子は棒で広く払う。
マリーさんが鎖から出来た金属製の半棒でガードをする。
ケロ子の棒を受け止め弾き返す。
「さすがね、速度は一流。
でもまだ棒に慣れてないでしょ」
ケロ子は更に左右に払う。
マリーさんが軽くいなす。
ケロ子は今度は突き。
棒を長く持って正面からマリーさんに突きこむ。
マリーさんが棒を躱す。
横から棒ごとケロ子を突き飛ばす。
距離を取って立つ二人。
ケロ子とマリーさん。
ショウマから見るとアクション映画の様な攻防。
片方は体のラインがピッタリ見える革鎧を着た女戦士。
片方は生足生腕を見せているセクシー女性。
なかなか良い光景。
武器が刃物じゃ無いのがいい。
安心して見てられる。
剣とか槍だと物騒。
掠っただけだって出血するのだ。
でもあまり安心も出来ない。
だってマリーさんは完全に余裕の表情。
突き飛ばされて体勢を崩したケロ子に追撃もしない。
うーん、まあイジメるつもりでは無さそう。
稽古をつけてくれるならいいかな。
「ケロコちゃん、武道家なんでしょ
私もそうなの。
ね、少し二人で練習して見ない」
「はっ、はいっ」
マリーさんはそう言いだした。
冒険者組合の建物から少し離れた空き地でケロ子とマリーさんは練習してる。
「うふふ、体も温まってきたかしら。
そろそろ本気出していーのよ」
ケロ子は距離を取って息を整える。
マリーさんが本気出してと言う。
いや、ケロ子は本気だった。
人間相手だって戦った事が有る。
亜人の村で襲って来た冒険者さん達。
チェレビーさんの部下。
5人がかりでケロ子に向かって来たけど危険とは全く思わなかった。
ケロ子が棒を振るう。
あっと言う間に二人の男を叩きのめす事が出来た。
そんな人達と目の前に居るマリーさんはレベルが違うみたい。
マリーさんの本気出して良いって多分こういう意味。
ケロ子は唱える。
『身体強化』
ケロ子の体が一瞬大きくなった。
そんな風にショウマには見えた。
棒を八双に構えるケロ子。
左足を前に体を横にして棒を右側に構える。
ショウマから見ると野球のバッティングフォーム風。
そのまま棒を大きく振りつつマリーさんの方へ。
速度が違う。
棒の唸る音が違う。
今までとケロ子の動作速度が異なっている。
「はっやーい」
マリーが茶化すように言う。
ケロ子の棒はマリーゴールドまで届いていない。
ケロ子が踏み込んでくる。
その足の進路をマリーの革鞭が打った。
ケロ子の踏み出しが止まる。
棒を勢いのまま振る。
けど、マリーには届かない。
「『身体強化』も使いこなしてる。
ホントウに16歳とは思えないわ。
子供の頃から何かの武道をやってたのかしら」
「いえっ、子供の頃はそんなに…
頑張って鍛えてるだけですっ」
ケロ子に子供の頃は無い。
ショウマさまの前で産まれた。
その時から既にケロ子は今のケロ子。
「うふふ、じゃあ私も」
『身体強化』
鞭を持った女性が唱える。
そうだ、マリーさんだって武道家。
『身体強化』を使える。
ケロ子は少し焦り出す。
実力で負けている気がしてしまった。
『身体強化』を使って追いついた。
そのつもりだったのにマリーさんにも使われてしまった。
うー。
負けないっ。
ケロ子は大上段に構える。
棒を頭の上に振りかぶる。
「ハァッ」
気合と共に飛び出す。
素早く足を踏み込む。
その勢いで棒を振り下ろす。
振り下ろしつつ、棒の持ち位置を移動する。
マリーさんから見れば予想より棒が長く伸びてくる事になるハズ。
タケゾウさんから教えてもらった。
ケロ子は少しだがタケゾウとも訓練している。
マリーさんが後ろに下がれば狙い通り。
後ろに下がって避けられるハズの棒がマリーさんまで届く。
ところがマリーさんは前に出てくる。
ケロ子の方に一歩踏み出す。
鉄鞭でケロ子の棒を横にずらす。
彼女の体には当たらない軌道。
勢いを殺されたっ。
狙いも外されたっ。
でも驚いてはいられない。
横にずらされた棒
そのままマリーさんの横を下まで振り抜く。
棒の回転を利用する。
手の中でクルンと回す。
棒の逆側を先端に下段から上へと攻撃。
ケロ子は下から上へと棒を払う。
マリーさんはそれさえも避ける。
体勢も崩してない。
今の、上半身の動きだけで避けたっ。
「アイタッ」
ケロ子は棒を落としかける。
マリーさんのムチ。
見えないところからケロ子の手を打った。
ケロ子とマリーさんは至近距離。
近接での攻防。
ケロ子の視界の外から革鞭が襲ってきたのだ。
素手だったら大ダメージ。
でも革のグローブを身に着けてる。
ショウマさまに買ってもらった六尺棒。
落とすものかっ。
どうしようっ。
まだマリーさんからはまともに攻撃して来てない。
ケロ子の攻撃を躱して軽く反撃。
まだ本気を出してないのがケロ子にだって分かる。
もっと強く。
もっと強くなりたい。
強くなる方法が有る気がする。
ケロ子はまた仕掛ける。
今度は下段に棒を払う。
足元を大きく攻撃。
相手は簡単には躱せない。
だけどマリーさんが鉄鞭で受け止める。
ケロ子の棒を受け流しながら革鞭で攻撃。
革鞭の動きは大きくしなり読みづらい。
マリーさんが手元でちょっと調整するだけで方向を変えたりする。
ショウマは観察している。
動きの速さ。
踏み込む速度。
棒の攻撃力。
それらで言えばケロ子は劣っていないと思う。
むしろマリーさんよりケロ子の方が速いかもしれない。
だけどマリーは手練れだ。
熟練の技。
戦闘方法が確立している。
右手の鉄鞭で相手の攻撃をガード。
受け流し、攻撃に集中してる相手を視界の外から革鞭で打つ。
パチン。
いきなり音が響く。
「アッ」
ケロ子が座り込んむのがショウマに見える。
何が有ったの!?。
マリーさんの攻撃は喰らわなかったハズ。
「あらあら」
マリーさんが近寄って上着をケロ子に掛けてる。
「大丈夫?
ケロ子、どうしたの」
「す、すいませんっ。
ショウマさまっ」
「ご主人様、近付いちゃダメですよ。心配はご無用です。革鎧が切れた音ですよ。
ケガはしてないです」
みみっくちゃんが言う。
革鎧が壊れた?
そっか。
激しく動き回ってるものな。
ケロ子の革鎧は体にピッタリした薄手のヤツ。
ケロ子の体のフォルムが出るエロカッコいいヤツなのだ。
薄手だし破れる事もあるかも。
「聖者サーマッ。
彼女の鎧少し考えてあげて」
ええっ。
どういうコト。
あの鎧はショウマなりに選んだケロ子がカッコ良く見えるヤツなのだ。
エロカッコ良くだけど。
「『身体強化』よ。
あれを使うと筋肉が普段より多くなる。
体を動かしてない時ならなんて事はないんだけど。
今みたいに戦闘で全身の筋肉使ってたら…
多分鎧がパンパンで苦しかったハズよ」
「……」
ケロ子から全く聞いた事なかった。
いや、ケロ子なのだ。
ショウマが買った鎧に文句を言うハズが無いのだ。
「…だからマリーさんは手足出してるんですか?」
「そうよ、鎧も胴体は少し余るくらいのサイズ。
腕や足は出してるわ」
「防御に関してはあのコート。
裾が足元まで有るし、普通の布に見えるけど鋼糸も入れてある。
いきなり切りかかられても平気」
「…武道家の男が上半身ハダカになってたのって」
「そうよ。
元から筋肉多いヤロウなんかは更に太くなるみたい。
布の服なんか着てたらはじけ飛ぶわ」
そうなのだ。
以前練習試合で見た。
武闘家という男達が上半身脱いでた。
ショウマは若干イラッとしたモノだ。
何だよ。
鍛えた肉体見せびらかしたいのかよ。
貧弱な坊やとバカにされてたけど今ではこの通りってヤツ。
男達が『今ではこの通り』の肉体。
ショウマが『貧弱な坊や』状態である。
若干ムカツクものがある。
だからと言って筋トレする気なんて一切無いけど。
そんな風に思ってたけど。
そうか。
『身体強化』使った時、一瞬身体が大きくなったように見えた。
実際にも筋肉が大きくなってたのか。
普通の服を着てたらはじけ飛ぶ。
そりゃ最初から脱いどくよね。
でも、どうしよう。
ケロ子も脱がしておく。
上半身ハダカで戦う女武闘家。
それはそれでショウマ的にはオッケー。
グッドでナイスみたいな気持ちも有るのだけど。
他の冒険者達にもハダカのケロ子が見られるのだ。
やっぱダメ、明らかにナシだ。
そうだ、マリーさん。
冒険者組合の偉い人で、武闘家。
この人なら何か知らないかな。
もしも知ってたら訊きたいんだけど。
試合をした武闘家の男達。
素肌で鉄の矢を喰らってもノーダメージだった。
なにかの特技?
「素肌で矢を弾き返してた!
それも鉄の矢。
そう、それは…」
どうしよう、教えていいのかな、あれは奥義だし。
マリーさんは口の中でブツブツ言ってる。
ショウマには少し心当たりも有るのだ。
「ひょっとして職業:修行僧とか 大地属性の魔法に関係ある?」
「!どこでそれを
その男が教えたの?」
「マリーさん。
何か知ってるならケロ子に教えて上げてくれない」
「それは教団に行って修行しないとダメなの。
一応私も司教の資格は持ってるし、導師として指導出来なくもないんだけど…
やっぱり一度は大地の神は父さんだよ教団の本部に行ってからね」
「それって何処に有るの?」
「王国を南に言った山奥ね」
「山奥!」
「そう、そこまで辿り着くのも修行ってコトよ」
山登りかー。
ムリ。
どうせケーブルカーとか無いんでしょ。
何故山に登るのか、そこに山が有るからだ。
英国の登山家、ジョージ・マロリーの有名な言葉である。
ショウマに言わせればこうだろう。
何故山に登るのか、いや登りません、ケーブルカー有ったら乗ってあげてもいーよ。
不満そうな表情を表に出してるショウマ。
軽く笑うマリー。
「いくら聖者サマでもこればかりはね。
一応奥義と呼ばれてるのよ。
簡単に教える事はできないわ」
むうー。
奥義。
奥義か。
でも山登りはイヤだな。
だって僕、山の生き物じゃ無いもの。
山で生きる生物がするコトでしょ。
ケーブルカー造れないのかな。
そこまで複雑な機械じゃないと思う。
亜人の村の大工ならなんとかならない。
ケーブルカーを開発する方が登山するより遥かに大変な筈だ。
それでも自分が登山するという思考には向かわないショウマである。
みみっくちゃんがマリーに話しかけてる。
「マリーマリー、どぶろく呑みますか。村でも何人か作ってる人いるんですけど、その中でも一番美味しいヤツですよ。みみっくちゃんの保証付きです」
「ええっ、呑みたい呑みたい。
ザクロちゃんは大工の奥さんのが美味しいとか言ってたわ」
「それです。アラカワの奥さんが作ったヤツ、今が呑み頃ですよー」
「ちょうだい、頂戴」
「ならマリー、ケロ子お姉さまに修行をつけてあげてくださいですよー」
「えー」
マリーさんはさすがに渋ってる。
そりゃそうだ。
奥義だもんね。
「…本当に教えても大地の神は父さんだよ教団の本部に行かなきゃ意味無いのよ」
あれマリーさんは何か教えてくれるみたい。
それでいいのか。
まあいいか。
簡単な方がいいに決まってる。
【次回予告】
ケロ子もやってみるっ。両足に力を入れる。地面を踏みつける。素足で踏む地面は少し冷たい。今は初冬なのだ。幸い地面に小石なんかは無いけれど。雑草が生えてる。草を踏む感触、少し湿ってる。
分からないっ。どうすればいいんだろうっ。地面に力、それは分かる気がする。
足で踏むと撥ね返す力を感じる。そのまま地面に立ってる。少しづつ足が、足の裏に触れてる土が温かくなってくる。その先に何か有る。感じるっ。
「あそこは一応帝国領では有りません。軍をいきなり動かすのはどうでしょう」
次回、アイリス報告する。
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!