クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。

くろねこ教授
くろねこ教授

第136話 とりあえずエピローグ

公開日時: 2021年12月14日(火) 17:30
文字数:4,889

帝国軍大佐ムラードは苛立っていた。


「おい、まだ外出は出来んのか」

「はい、許可は出ておりません」


黒い制服の男が言う。

帝国兵では有るだろう。

ムラードが見た事の無い男。

交替で扉の前に二人が立っているのだ。


「これでは監禁だ。

 もう一ヶ月は経つぞ」


「我々は事情は聞いておりません」

「何かご要望の物が有ればお持ちします」


「言ってるだろう。

 私は外出したいんだ」

「それは許可出来かねます」


「お前達じゃ話にならん。

 上官を連れて来い。

 直接話す」


「大佐殿、それも出来かねます」

「この部屋で過ごすのに不自由が有ればご協力します」


「それ以外の事は我々は致しかねます」


黒服の二人は能面の様に表情を変えず答える。


くそっ。

コイツラ普通の軍人じゃあるまい。

情報部の人間か。


ムラードが居るのは塔のような建物の上階。

部屋自体は豪華なモノだ。

上等のベッド。

棚に置かれてる酒瓶も高価なものばかり。

見張りの兵は言いつければ美味をすぐ持ってくる。

最初は良かった。

ムラードは好き勝手に贅沢を楽しんだ。

だが、既に一ヶ月だ。

その間誰にも会っていない。

軍関係者、親族誰一人面会すら無しだ。


自分の親族はどうしたのだ。

自分が軟禁されてると知れば抗議の一つもするはず。

最近は力が落ちてるとはいえ、長くに渡りこの近辺の領主だったのだ。

帝国軍とていつまでも領主一族からの文句を無視できない。


ところが今日は来客が有った。

見張りの兵が言ったのだ。


「来客がお見えです」

「服装を整えてください」


誰だ?


「キルリグル少佐ともう一人の方です」


なにっ。

キルリグルだと。


「お元気ですかな、ムラード殿」


いつも通り薄笑いを浮かべて情報部の少佐は部屋に入って来た。


「元気な訳が無いだろう。

 キルリグル少佐。

 貴君にここに監禁されてから、既に一ヶ月だぞ。

 一体どうなっている」

「どうなっているか、お教えするために今日は来たのです」


見張りの兵が出ていく。

替わりに一人の人物が入ってくる。

 

「ムラードってのはお前か」


誰だ。

まだ若い。

20代後半と言ったところ。

マントに隠されているが大分上等な服装。

貴族か。

男はそのまま室内を見分している。


「おっ、なかなかいい酒吞んでるじゃないか。

 一口貰うぞ」


勝手にグラスを取り出し吞み始める。

なんだ。

この道化は。


「キルリグル少佐。

 そろそろここから出して貰えるのだろうな」

「ムラード殿。

 部屋が気に入りませんでしたか。

 最後の生活です。

 なんでも要望を聞くように申し付けておいたのですが」


最後の生活だと?

何を言っている。


「なんの話だ」

「ムラード殿。

 アナタは本日自決する事になっております。

 理由は長く帝国を欺いて来た事に責任を感じて」


「ムラード殿、貴方はこの地方の領主でした。

 この地区を任せられた軍の大佐でも有りました」


「そんな貴方が相応しいのです」


「鉱山が迷宮で有ると、魔獣が出ると、貴重な品が排出されると。

 その人類すべてが共有しなければならない情報を知りながら秘匿されていた。

 その責任者が貴方です」


「何を言っている、キサマ。

 鉱山だと、知るモノか。

 あんなもの、とっくに権利を帝国に奪われているぞ。

 今鉱山がどうなっているか等、我らが知るはずも無い」


「何を言ってるんです、ムラード殿。

 あの鉱山の権利者は今でも貴方達ですよ。

 権利書にも間違いなく記されている」


これは…。

ムラードとて貴族のはしくれだ。

これは俺を犯人に仕立て上げる陰謀。


「陰謀だ。

 頼む、キルリグル少佐。

 これは誰かの罠だ。

 わたしは無実だ」


「あーっはっはっは。

 キルリグルに頼むのは無駄ってもんだぜ」


若い男が言う。

ソファーに勝手に腰掛け、グラスで酒を呷っている男。


「ムラード、もう分かっていいだろう。

 誰かの罠というか。

 その筋書きを書いたのが目の前の男だぜ」


なんだと。

キルリグル。

微笑みを浮かべた男。

この男が俺を陥れた。


「わたしでは有りませんよ。

 情報部の頭脳明晰なスタッフが考えたのです」


「ムラード殿、諦めてください。

 すでに貴方の執務室は調べました。

 魔法武具の横流し等、貴方の不正は既に掴んでおります。

 貴方の秘書官ですかね。

 実に優秀に工作されていた。

 怪しいとは踏んでいたのですが、まったく証拠を掴ませなかった。

 しかし几帳面過ぎました。

 全て帳簿を残していました。

 どのように魔法武具を調達して。

 なんという業者に幾らで販売し、大佐に幾ら渡したか。

 見事な帳簿です。

 隠してはありましたがね」


アイリス、あのバカ女め。

可愛げが無いだけじゃ無く思慮まで無かったのか。


「秘書官にしてみれば。

 露見した場合自分が主犯でなく貴方が主犯だと証明する書類です。

 大事にもしておくでしょう」

「そんな訳だ、ムラード。

 お前の親族たちとは既に話が付いてる。

 領地変更だ。

 ちょっぴり手狭にはなるがな、辺境じゃなくて帝都近くの土地だ。

 主犯はムラード。

 お前が首を切れば、他の者に罪は及ばない。

 そういう話で決着が付いてる」


「ふざけるな、そんな話が有るか。

 大体キサマ何者だ。

 どこの貴族だ。

 さてはキサマの入れ知恵か」


ムラードは声を荒げる。

しかし男達は動じない。

キルリグル少佐は面白い物でも見るように微笑んでいる。

若い男はソファーで酒を呑んでいるのだ。


このままでは我が身の破滅。

なんとか乗り切るには。


ソファーでくつろいでいる男。

若い男に近付く。

頭を垂れる。


「どこの方か存じませんが、名の有る貴族の方かと。

 わざわざいらしてくれたという事は何か、私に貴方の力になれる事が有るのでしょう。

 なんでもご協力します」


「ムラード、悪いがな。

 俺はオマエに用は無いんだ。

 ただのついでだ。

 こっちの方に用が有ってな、そのついでなんだよ」


ついで。

俺の命が掛かった事態をついでだと。

下げたくない頭を下げてやったと言うのに。

こうなったら逃げる。

なんとしても生き延びる。


いきなりムラードは扉へ走る。

途中にはキルリグル少佐。

しかしこちらが素手だと油断したのか。

武器を持っていない。


服の中から隠しナイフを取り出す。

帝国軍の装備。

ムラードとて一応は大佐なのだ。

隠し武器の一つくらいは持っている。


ムラードを取り押さえようとするキルリグル少佐。

その腕に着きたてる。

ナイフを。


だがキルリグルは叫び声を上げない。

表情も変えない。

微笑んでいる。


「な、何だと」


異様な反応。

キルリグルの腕にはナイフが刺さっている。

制服が破れそこから血が流れ出る。

なのに少佐は眉をしかめすらしない。

微笑みを浮かべているのだ。


目の前の男の異様さにムラードはナイフを手放してしまった。

キルリグルが自分の腕からナイフを抜く。

抜いた傷痕からはまた血が流れ出る。

相当な痛みの筈だ。

幾ら訓練をしている人間でも眉くらいはしかめる。

もしくは表情を硬くして一切反応しない様にするかだ。

ところが男は微笑んでいる。

幸せな事でもあったように、恋人と再会したかの様にただ微笑んでいるのだ。


『微笑みのキルリグル』。

そんな名前を思い出す。


「キルリグル、まずい血の量だ。

 流しすぎると体が動かなくなるぞ」


若い男が布をキルリグルに放る。

包帯代わりに血止めをしろという意味だろう。


「そうですね。

 痛みを感じないとついつい自分の身体の危機サインに鈍くなります。

 感謝しますよ、バルトロマイ様」


なんだと、今なんと言った。


「こいつは痛みを感じないと言ったんだよ。

 産まれつきらしいぜ。

 たまにいるんだと痛覚ってヤツが働かない人間」


いや、そこでは無い。

それより今、バルトロマイ、そう言わなかったか。


若い男は近付いてきている。

ソファーから離れ、ムラードの方へ。


その時、マントから見える。

服に着いた紋章。

太陽と三日月。


それは帝国に居る者なら知らぬ筈が無い紋章。

皇帝一族しか使用が許されないマーク。


「バルトロマイ皇子!!!」


ムラードは頭を下げる。

床にはいつくばっても構わない。


「お許しを、皇子。

 無礼な口を、失礼しました。

 存じ上げなかったのです。

 まさか、皇子がここにいらっしゃるとは…」


「ムラード、もういいんだ。

 お前はここで自決する。

 もう決まってる事なんだ」

「お許しください。

 慈悲を、慈悲を」


「ここで殺さないでやっても良いんだがな」

「はい、皇子殿下。

 お願いします。

 殿下の御慈悲を・・・」


「その場合キルリグルの玩具になってもらうぜ」


「フフフ」


にこやかに笑う男。

三日月の様に口の端が上がる。

キルリグル少佐。


「痛みを私は知らないのです。

 それはどんなものなんですか。

 貴方の体で試してみたいですね。

 手の指の爪をはいだなら貴方はどんな反応を見せてくれますか。

 奥歯を歯ぐきと共に引き裂いたなら。

 髪の毛を一本ずつ抜いたなら。

 足の指を1ミリずつ切り取って行ったなら。

 胸の肉をヤスリで削って行ったなら。

 睾丸をペンチで千切れるまで引っ張ったなら」


「その顔が見たいですね。

 それはどんな感情なのでしょう。

 それは甘いに似てるのですか、悲しみに近いのですか。

 それとも嬉しいのですか。恋の様なのですか。

 驚きに似てるのですか。笑いたくなるものですか。

 痛みを私に教えてくれるますか、ムラード殿」


「さあ、何からはじめますか

 目玉に針を一本ずつ刺していきましょうか。

 指の爪を剥がしましょうか。

 腹の肉を犬に齧らせましょうか」


笑う。

微笑む。

唇の両端がつり上がる。

キルリグル。

微笑みのキルリグル。


ムラードは腰が抜ける。

足が動かない。

キルリグルの顔を見たまま、体がピクリとも動かせない。

意味の無い言葉が口から洩れる。


「あ、あああああああああ! あああああああああああ」


「この場で死ぬのが慈悲ってもんだ。

 そうだろう、ムラード」






フワワさん。

“森の精霊”は森に帰って行った。


『我から解き放つ、森よ』


ショウマがずっと従魔にしておくのはムリ。

魔力が消費され続ける。

ショウマは又魔力切れで倒れてたのだ。


『野獣の森』は移動した。

街道を越えた場所。

帝国領じゃない所。

これで『鋼鉄の魔窟』ともぶつからない。


亜人の村に有った建物も何故か一緒に移動してた。

木造の建物だからイケたらしい。

何故知ってるかって。

フワワさんから聞いたからね。


「おまけよ」


そうフワワさんは言ってた。

亜人の村の建物が移動しただけじゃない。


建造用の木材。

木材が何故か多量に積み上がってた。

それを大工と亜人の戦士達でどうにかしたのだ。

突貫工事。

無理やり整然と建物を並べて、町の様に整えた。


もちろんショウマの仕業じゃない。

みみっくちゃんとミチザネの指揮。

大工のアラカワと亜人の戦士達がなんとかした。

ショウマは魔力切れで気絶してた。


というか、オマケまでしなければ気絶せずに済んだんじゃない。

勝手に僕の魔力を。

ヒドクない。


ショウマが気付いたらもう町が出来てた。

名前をどうしましょう。

そう言われてフワワさんの町と答えたのはショウマだ。


「ふふふ。

 やっぱりご主人様。

 フワワちゃんの事が大好きなんですねー」


「フワワ、もうご主人様と従魔じゃないですよ」


「そうだ、キミは何故勝手に人の家で夕食を食べてるのだ」

「そうです。アナタは何故勝手に人の家で夕食を食べているんですか」


ハチ子ハチ美がジト目で言う。


「いいよっ。フワワちゃんの分も作ってあるよっ」

「そうやって、ケロ子姉が甘やかすから。

 こいつ調子に乗って毎日食べに来るんだ」


タマモも納得いってないらしい。


「いいじゃないのー。

 ケロ子ちゃんのゴハン美味しいもの。

 わたしだけ仲間外れにしないでよー。

 それに今はムリでも、将来はご主人様の従魔よ。

 みんなと姉妹みたいなモノよ」


そう。

何故かフワワはまだいるのだ。

森に帰った筈なのに、毎日のように夕食を食べにくる。

図々しい精霊である。


まぁ良いんだけどね。

お土産に何かしら持ってきてくれるし。

ショウマはあまり気にしない。


そんな光景を見ながらみみっくちゃんは言う。


「いいえ、フワワ。

 将来の事なんて誰にも分かりませんよ。

 まして、ご主人様のコトです。どんな事になるか。

 思い通りに行くなんて思っちゃダメですよ」



『クズ度の高い少年が モンスターと戦って倒すと、倒したモンスターが美少女になって、倒した相手に絶対服従してくれる世界に行ってみた。』

第一部 完結









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