異世界グルメもので、バトルあり笑いありのライトな作品です
「さあ、祈りなさい。さすれば神はスキルを授けるであろう」
神殿内に神官の声が響く。祭壇の女神像の前に、このベロス村の住民で今年成人した若者達が頭を垂れて必死に祈っていた。
「うおおお……頼む! 剣技系のスキルを!」
「魔法スキル……魔法スキル……」
「私は回復スキルが……」
各々の願いがダダ漏れの中、それを後ろの方で退屈そうに見つめる青年がいた。ひょろりと背が高く、身体は細い。手足は長く顔も整っている為、何か造り物めいた雰囲気を纏っているが、両手に持っている揚げた鶏肉がそれを台無しにしていた。
「ケイル! 神殿内は飲食禁止だと何度言えば!! 貴様もさっさと祈らぬか!」
神官が頭から湯気を立てながら、右手の鶏肉にかぶりついているその青年――ケイルへと怒声を上げた。
金色の髪が揺れ、ケイルはその蒼い瞳を瞬かせつつ顔を傾けた。
「スキルとか別に要らないんだけど? 無くても料理人はやれるし」
「スキル要らないとかアホか! さっさと祈れ! スキル無しの者がおったら儂が怒られるじゃろ!」
「だって料理系のスキルってまだ発見されてないんでしょ?」
「お前みたいな料理バカなら授かるかもしれんじゃろ!! 別に損するわけじゃないからとりあえず貰っとけ!」
神官に両手の鶏肉を奪われて、渋々ケイルは目を閉じ、手を組んで祈りを捧げた。
ケイルはこの神殿内にある孤児院で育った。なので、なんだかんだ言いつつも神官の言う事は聞くのだ。でなければとっくに山に食材を採りに行っていただろう。
(料理系スキルは欲しいが……結局技術を磨けば手に入るからなあ……んー毒無効とかあれば新しい食材が食べられるのに……いや炎スキルもありか……いや待てよ動物召喚スキルがあれば食材無限? いや植物系スキルも……)
などと祈りを捧げていると、ケイルの脳内に女性の声が響いた。
***
『スキル【悪食】を授けました』
***
「ん? 悪食?」
ケイルが目を開くと、そこには心配そうに見つめる神官と若者達の姿があった。
「だ、大丈夫か?」
「1時間近く祈っていたよ? あんなに熱心に祈るケイルを見たのは初めてだよ」
「え? 1時間?」
ケイルの体感では1分ほどだったにもかかわらず、どうやらどのスキルであれば更に料理の腕を磨けるかを考えているうちにそれだけの時間が経ったようだ。
「それで……何のスキルを授かった? 俺なんて【騎士剣】だぜ? へへへ、これで俺の王国騎士になるという夢も実現できそうだ」
「僕は無事【精霊魔法】をゲットしましたよ。ふふふ、早速あとで使ってみましょう。スキルは使えば使うほど成長しますからね」
「回復じゃないけど……【解毒】のスキル……私、治療士を目指すんだ」
3人の幼馴染みがそう嬉しそうに報告する。ケイルはとりあえずありのままに報告する事にした。彼らに隠し立てする必要もない。
「あー俺のスキルは……【悪食】だ」
「あくじき? なんだそれ」
「儂も聞いた事がないの……」
全員が首を傾げる中、ケイルは頭の中にある【悪食】の能力について確認した。
それは何ともシンプルな説明だった。
***
スキル【悪食】(NEW)
LV1:食用に適さない食材を食べられるようになる
***
「だってさ。料理系スキルではないけど……」
「……ぷっ! なんだそれ! 食べられるようになるってなんだよ? そもそも食用に適さないって時点でダメじゃん!」
「まあハズレスキルですね」
「た、食べなければ大丈夫だよ! これまで通り料理は出来るよ? 気を落とさないで。もし変なの食べても私の【解毒】スキルで何とかするから……」
幼馴染み達がそれぞれ反応する中、神官だけが難しい顔をしていた。
「ふうむ……悪食か……」
「神官、知っているのか?」
「いや……だが、その能力はどこかで……」
豊かなあごひげを撫でる神官を見て、ケイルは肩をすくめた。
「ま、スキルがあっても無くても俺は料理人の道を極めるだけだよ。これで毒草やら毒虫も遠慮無く食えるしな! 毒でやばくなったら【解毒】頼む!」
満面の笑みでケイルはそう言うと、早速スキルを試そうと神殿を飛び出したのだった。
内心、ケイルは喜んでいた。
ケイルは物心ついたころから食欲旺盛で、何よりも食べる事が好きだった。いつしかそれはもっと美味しい物を食べたいという欲求に変わった。しかし、田舎の小さな村で食べられる物は限られている。だからケイルは宿屋や酒場の主人に頼み込んで料理を教えてもらい、それを元に作り上げた我流の調理術を使い、日々新しい料理を生み出していた。
しかし食材も限られており、ケイルは少し壁にぶつかっていたのだ。その為、彼は食べた事の無い物はとりあえず食べてみては死にかけるを繰り返していた。
そこに、このスキルだ。これまで食べられなかった物が食べられるようになる。つまり、死ぬ事はないとケイルは解釈した。
「これで、新しい食材が試せるぞ! まずはやっぱり……アレだな!」
ケイルは部屋に戻り、いつもの調理器具一式をバックパックに入れ、それを背負うと村の裏山にある洞窟へと向かった。
その洞窟の名は【スライム空洞】。
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