生まれて初めて、本気で泣いた。
晴れて第一志望の大学に合格した私は、無事に高校も卒業し、今日、ひとり暮らしをすることになった学生マンションに引っ越す。
笑顔の伯父さんと、涙目の伯母さん、号泣する友達。平日の真昼、人の少ない駅のホームで、ひとりずつ握手を交わす。
「帰りたくなったら、いつでも帰っておいで」
「ハタチの誕生日は絶対帰って来んばぞ。ビールで乾杯ばせんといかんけん!」
「カナエー……元気にしとってね。ぜっったい遊びに行くけんね」
短い間だったのに、濃い日々だった。充実した時間はあっという間に過ぎていく。これは本当だったんだな。今になって思い知った。家を巣立ち、遠い地にひとりで暮らすからと言って、永遠の別れになるわけではない。夏季休暇に入れば帰ってくるし、年末年始だってもちろん帰るつもりだ。
なのにどうだ。目から止めどなく流れる涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして、いっときの別れに悲しみを覚えている。実家を飛び出したとき、泣くどころか笑っていた私が……。
やがて、発車の時刻を知らせる放送が流れた。いま一度、みんなの方を向き、嗚咽を押し殺して笑顔になる。伯父さんも伯母さんも友達も、ニッと笑って手を振ってくれた。ドアが閉まり、新幹線は動き出した。がらんとした車内。席に座る。流れ行く景色。楽しかった思い出、かけがえのない日々。忘れることは決してない。充分過ぎるほどの幸せを味わった。これからの学生生活も、非常に楽しみだ。
残るは、罰のみ。
自然と涙は止んでいた。確かな覚悟を胸に、流れゆく景色を見つめる。かつて人をいじめたという罪を、私は未だに背負ったままだ。償わければ。どんな罰だって受け切ってみせる。散々、非道を働いたのだ。これから、地獄のような苦痛を味わうかもしれない。それでいい。そうでなきゃダメなんだ。私は、地獄を見るべきなんだ。すべての罪を償って初めて、西岡カナエは新生する。
カナエ。しっかりするのよ。あなたは強いんだから。
そう自分に言い聞かせる。伯父さん、伯母さん。私、生まれ変わって帰ってくるからね。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!