固まっていた。
突如開いたドアの音に驚いたから? 違う。無断で屋上まで来たことが、警備員にバレていたから? 違う……。私と京子の前に現れた人物に、見覚えがあったからだ。どこかで会ったことのある顔。数秒もしないうちに悟った。
京子も、その人物を前にして、笑顔が消えていた。いつの間にか、京子の手から、私の手が離れていることに気づく。
私と京子の前に現れた人物も、その場から動こうとしなかった。ただ、微かに口を開き、眉が狭まり、目を少しだけ見開かせている。
風が吹く屋上。どこまでも続くあおぞら。3人を囲み込むような入道雲。
京子が、わらった。
「ひさしぶりだね」
京子の嘲るような笑みが、前に佇む人物に向けられた。
「……ここで何してるんですか」
聞こえなかったのだろうか。京子の言葉を無視して、その人物はこちらに歩み寄ってきた。
「ここは立ち入り禁止ですよ。今すぐ戻ってください」
風になびく髪を手で押さえ、その人は背後のドアに向かって指をさした。
「……すみません。……京子、行こ」
戻ろうとした私は、京子の方を振り向いた。しかし京子は、その場から一歩も動こうとしなかった。
「西岡さん……だよね?」
京子は笑みを浮かべたまま聞いた。
「私のこと、覚えてる?」
「………」
西岡……。昔、私が殴り飛ばした奴。クラスを恐怖で支配して、転入してきた京子を散々いじめてきた張本人。風の噂で、遠い地に引っ越したと聞いていたが……。
「……覚えてるよ」
西岡が、まっすぐこちらを向いた。
「早田と、川村だよね」
「そうだよ。あの時はいろいろあったよね、西岡さん」
京子の薄い微笑みが、青空とよく似合う。
「まぁね。あなたとも、早田とも、いろいろあったね」
いろいろ、か。
「なんでここにいるんだ」
自然と、西岡に聞いていた。すると西岡は、待っていたかのように私にこう返した。
「あんたこそ、なんでここにいるのよ」
なんでって……。
わたしハきょウコと……。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「西岡さん。学園祭、楽しんでる?」
突然、京子が口を開いた。
西岡も驚いたのか、ハッとした表情で京子の方を向いた。
「うん。楽しいよ。いま、ここの3階でアイスクリーム屋やっててさ。すごく繁盛してる」
「ほんと? いいなぁ。おいしそう。私、アイス買って帰ろうかな」
京子が、ドアに向かって歩き出した。私は呆気に取られて、京子の後を追うように歩き出した。西岡も、それに続いて歩き出す。
京子が、階段に続くスライド式のドアを開けた。
「アイス、楽しみだな」
その顔はどこか、嬉しそうにも、寂しそうにも……憎そうにも見えた。
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