Where Are You

迷子の句読点
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Where Are You

【第一話】忌む

公開日時: 2024年6月1日(土) 00:00
文字数:1,127

 固まっていた。

 突如開いたドアの音に驚いたから? 違う。無断で屋上まで来たことが、警備員にバレていたから? 違う……。私と京子の前に現れた人物に、見覚えがあったからだ。どこかで会ったことのある顔。数秒もしないうちに悟った。

 京子も、その人物を前にして、笑顔が消えていた。いつの間にか、京子の手から、私の手が離れていることに気づく。

 私と京子の前に現れた人物も、その場から動こうとしなかった。ただ、微かに口を開き、眉が狭まり、目を少しだけ見開かせている。


 風が吹く屋上。どこまでも続くあおぞら。3人を囲み込むような入道雲。


 京子が、わらった。






























「ひさしぶりだね」






 京子の嘲るような笑みが、前に佇む人物に向けられた。




「……ここで何してるんですか」



 聞こえなかったのだろうか。京子の言葉を無視して、その人物はこちらに歩み寄ってきた。


「ここは立ち入り禁止ですよ。今すぐ戻ってください」


 風になびく髪を手で押さえ、その人は背後のドアに向かって指をさした。


「……すみません。……京子、行こ」


 戻ろうとした私は、京子の方を振り向いた。しかし京子は、その場から一歩も動こうとしなかった。




「西岡さん……だよね?」



 京子は笑みを浮かべたまま聞いた。


「私のこと、覚えてる?」


「………」


 西岡……。昔、私が殴り飛ばした奴。クラスを恐怖で支配して、転入してきた京子を散々いじめてきた張本人。風の噂で、遠い地に引っ越したと聞いていたが……。




「……覚えてるよ」


 西岡が、まっすぐこちらを向いた。


「早田と、川村だよね」


「そうだよ。あの時はいろいろあったよね、西岡さん」


 京子の薄い微笑みが、青空とよく似合う。

 

「まぁね。あなたとも、早田とも、いろいろあったね」


 

 いろいろ、か。



「なんでここにいるんだ」


 自然と、西岡に聞いていた。すると西岡は、待っていたかのように私にこう返した。









「あんたこそ、なんでここにいるのよ」









 なんでって……。


 

 コと……。



 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。








「西岡さん。学園祭、楽しんでる?」


 突然、京子が口を開いた。

 西岡も驚いたのか、ハッとした表情で京子の方を向いた。


「うん。楽しいよ。いま、ここの3階でアイスクリーム屋やっててさ。すごく繁盛してる」


「ほんと? いいなぁ。おいしそう。私、アイス買って帰ろうかな」


 京子が、ドアに向かって歩き出した。私は呆気に取られて、京子の後を追うように歩き出した。西岡も、それに続いて歩き出す。



 京子が、階段に続くスライド式のドアを開けた。


「アイス、楽しみだな」


 その顔はどこか、嬉しそうにも、寂しそうにも……憎そうにも見えた。

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