狂おしい.....。京子の背中を追うようにして、有名な国立大学に合格した。両親は今までに見たことがないほど歓喜していたことを覚えている。京子も合格していたようだ。互いの番号を見つけた時の抱擁は一生の思い出である。しかし、学部は違った。学部が違えば授業も異なるので、会える頻度は少なくなるが、会えないよりかはマシだ。
毎日のように学校に残って勉強していた日々が懐かしい。大学に入学した今では、1週間に一度か二度会う程度である。幸い、私は大学でも新しい友達に恵まれた。仲も良く、学生生活は純粋に楽しかったが、それでも京子と会うことが何よりの楽しみだった。
京子も相変わらずであった。真面目で勤勉、物腰の低い容姿端麗な美人……。性格も少し積極的なものとなり、誰とでも明るく接することができるようになっていた。しかし、それと共に京子は少しずつ変わっていった。それは、どんな恐怖現象よりもはるかに異常を実感させるものだった。それは、大学の食堂で京子と昼食をとっていた時のことだった。
「アキ。私のこと、好き?」
「え?」
唐突な質問に、私が目を丸くしたものだから、思わず京子と目が合った。その瞬間、私のうなじを得体の知れぬ悪寒が走ったのだ。表情こそ絵に描いたような笑顔だが、目が全く笑っていない。赤茶色に光る澄んだ瞳は、愚直なほどまっすぐと私の眉間を射抜いている。それはそれは恐怖した。比較的温暖な空気を忘れさせる程に……。
「そりゃあ、好きだよ」
咄嗟に目を逸らしてしまった。京子はにっこりと微笑んだ。
まただ.......。作ったような表情。私に何かを隠しているようで気に入らない。私は、京子を誰もいない近くの公園に連れていき、ベンチに腰掛けさせた。私はというと、京子の目を見ないように、近くにある小さなブランコの鎖を手でいじくりながら話した。
「なあ、京子」
「なに……?」
「京子さ、前から変わったよな……」
「そう………?」
「何か、あったの……?」
「……何もないよ」
「そうか……」
「アキこそ、最近変わったね」
「私が?」
「うん、大人になったっていうか、高校時代に比べて落ち着いたよね」
「それは、京子が私を育ててくれたから」
「ふふ、アキはなんでも私のお陰にしてくれるね」
「ああ、実際そうだからな」
「私も、いじめられていた頃はアキに助けられたよ」
「あれは、ただ西岡が気に食わなかっただけだ」
「でも、そのお陰で今、こうしてここにいる。私、アキとずっと一緒にいたいな」
死人とかわすかのような会話……。ああ、私もさ……。そう言おうと思って、京子の目を見た時、喉に言葉が詰まった。
京子は瞬きを一切せずにこちらを凝視していたのだ。それがいつからかはわからない。もしかしたら、この公園に来た時からずっと……。その目から感じられるものは断じて友情などではない。そんな生半可なものとは一切異なるのだ。ただただ異常だった。赤茶色の瞳が私の全身を捕らえている。絶句する私を気にすることなく、京子はまたにっこりと笑って見せた。
「死ぬときは一緒に死のうね? アキ……」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!