俺がタイムスリップによってやって来たこの世界は、天文18年(1549年)の1月10日だということが分かった。
スマホのカレンダーアプリを起動すると、今日が上の日であることがわかったのだ。一体この世界はどうなっているんだろうか。
さて、俺なりにこの天文18年という年のことを調べてみた。この年の大きな国内のニュースは三つ。一つは、後に江戸幕府を開くことになる徳川家康のお父さん・松平広忠が暗殺された。
次に、西日本で「厳島の戦い」という戦いが起こる。この戦いによって、毛利元就の力が増していったらしい。
そして最後に特大イベントだ。8月ごろに、鹿児島にある男がやってくる。トンスラ頭が特徴的なフランシスコ・ザビエルが日本に上陸する。1549(以後よく)広がるキリスト教という語呂合わせで覚えた記憶があるのではないだろうか。一応俺もその達だ。
「でも、ここがどこなのかよくわからないからなぁ。」
「おぬし。迷い人か?」
背後から声をかけられて、俺は慌ててスマホをポケットにひそめる。
「聞こえぬのか。」
「は、はい!そうですね。そんな感じです。」
あれ?俺ってさっき何を聞かれてたっけ?
「ここは尾張が那古野。じゃ。」
「え、ここ名古屋なんですか?」
これは後で知った話だが、ナゴヤというのは歴史を学ぶ、調べるうえでとても面倒くさいもので、主要なもので3つある。織田信長が納めていた尾張那古野。豊臣秀吉が朝鮮出兵の時に拠点とした九州の名護屋。それから、今の愛知県名古屋につながる尾張藩名古屋。もちろんこの時の話題は最前者のナゴヤだ。
「あぁそうだ。」
少し落ち着いてきて、話しかけてきた相手のことをよく見てみるととても奇妙な恰好をしていた。派手な朱色の着物をだぼだぼに着て、その上肩肘をさらけ出しているのだ。おかげで彼の分厚い胸板が露わとなっている。
年齢は俺と同じくらいか年下だろう。腰には紐がぐるっと一周ベルトのようにされていて、白い瓢箪が2つ。それと季節ではないが干し柿が2つぶら下げられていた。頭は、髪をまとめて点を突くかのように整えられていた。
「暇だ。少し話そう。」
少年は俺が座っていたところの右側に勢いよく腰を下ろすとそのまま横になった。
「お主はどこから参った。」
「どこからですか。東の方からですかね。」
「東というとどのあたりだ?」
少年の眼の色が急変し、質問する声の圧が増した。
「江戸のあたりですが。」
「北条はどんな治世をする。」
あぁ、なんだろう。すごい面倒なことに巻き込まれた気がする。北条氏がどんな政治をするかなんて歴オタでも何でもない俺にはわからないよぉ。まあ適当に言っておくか…
「権力を固めるような政治でしょうか。軍事に偏りすぎていて、あれでは天下は取れませぬな。取れて関東圏。東北東海には手が出せないでしょう。」
どうだ。これであっててくれるとありがたい!
「お前もそう思うか。俺の意見と全く同じじゃ。」
そういって正面に移る美しい川の流れを見つめながら、まだ15くらいの少年は感傷にふけっていた。
「そういえば名を聞いていなかった。お主名前をなんと申す。」
「木下秀太と申します。」
「俺は、織田三郎信長じゃ。」
「えぇぇ⁉」
俺は声になったかもわからない悲鳴を上げた。まさかこの奇妙な少年があの超有名な戦国武将・織田信長であったとは…俺は一瞬頭が真っ白になった。
「よし決めた。秀太。お前は今より俺の家来になれ。」
「えぇぇ⁉」
信長の言い放った提案に、俺は再び奇妙な悲鳴を上げてしまった。ニコッとさわやかに笑う少年は、俺の持つ織田信長という魔人のイメージとはかけ離れていた。
これが、俺と俺が一生をともにすることになった親友であり主君・織田信長との最初の出会いであった。
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