お父さん、大嫌い、大好き お父さんなんて大嫌い

公開日時:2022年2月16日(水) 18:04更新日時:2022年2月16日(水) 18:04
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 僕はお父さんが嫌い。

 家に帰ってくるといつもむすっとしていて、黙っている。

 口を開けば、僕や母さんのことを怒るもん。


 お母さんとも仲良くしているように見えない。

 帰ってもずーっと黙っているもん。

 だから、お母さんに聞いたんだ。

「どうしてお父さんと結婚したの?」

「優しい人だからよ」

 僕はびっくりした。


「お父さんが優しいの?」

 笑いもしないし、怒ってばっかりだし。

「小太郎が思っているより、お父さんはずっと優しい人よ」

「ウソだ!」

 僕は信じたくなかった。


 お父さんは僕が生まれてから、ずっと優しくなんてしてもらったことないもん。

 お母さんの言ってることは間違ってる!

 絶対信じてやるもんか。


 お友達のお父さんの方がよっぽど優しいし、みんな仲が良くていいなあ。

 なんで僕はあんなお父さんの子供になったんだろう。

 怒ってばっかでお仕事のことしか頭にないもん。

 忙しいんだろうけど、キャッチボールもしたことない。


 僕はお父さんのことが大嫌い。

 でも、少しだけ変わってくれるなら、嫌いじゃなくなるかも。

 本当にちょっとだけでいいから、話してほしい。

 笑って僕と遊んでくれるなら……。


 ある日、お友達の隆一くんと遊んでいる時、おもしろい遊びを考えたんだ。

 それは自転車の二人乗り。

 かわりばんこで運転する人と後ろに乗る人を交代した。

 すごく楽しい。

 こんなこと、お父さんはしてくれない。

 けど、僕には隆一くんが遊んでくれるからいいや。


 しばらく二人乗りで僕たちは楽しんでいた。

 けど、隆一が運転する番になった時、こう言ったんだ。

「小太郎くん、坂道を下ってみようよ」

 僕はちょっと怖かったけど、「いいよ」って答えた。


 隆一くんは「いくよー」と叫んだら、ものすごいスピードで坂道を下った。

「うわぁ、すごい早いよ~」

「ちょ、ちょっと待って!」

 僕の左足の靴が取れかけた。

「なあに、聞こえないよ」

 風の音で隆一くんに僕の声が聞こえないみたい。


10

 僕の片っぽの靴は坂道に転げ落ちる。

 そして、僕の左足は自転車の車輪にからまってしまった。

「いたーい!」

 泣いて叫んだ、怖かった。

 隆一くんが慌てて、自転車を止めると近くを走っていた車の人に助けを呼ぶ。


11

 僕は救急車に運ばれて、手術をすることになった。

 そこからは記憶がぼやけていて、何度かお母さんの声が聞こえたけど、よく覚えてない。

 とにかく痛くていっぱい泣いて叫んだ。


12

 目を覚ますと左足が包帯で巻かれていた。

 ものすごく痛い。

 ベッドの隣りには心配そうに見つめるお母さん。

「小太郎、痛い?」

「痛い……」


13

 それからしばらく、僕は痛みで寝ることができなかった。

 ずっとえんえん泣いていた。

 その度にお母さんが頭を撫でてくれた。

 こんなときもお父さんはきっと仕事が大事なんだ。

 僕はもうあきらめていた。


14

 夜中の2時ぐらいに病院の廊下をバタバタと走る足音が響いた。

 お父さんだった。

 僕はびっくりした。

 見たことないくらいお父さんは汗だくで、Yシャツもびしょびしょ。

 すごく焦っているようだった。


15

「小太郎、大丈夫か!」

「うん」

「小太郎、痛いか!」

「うん」

 なんだか恥ずかしかった。


16

「お父さん、お仕事は?」

「仕事? そんなのどうでもいいだろ!」

 そう言うとお父さんは僕をギュッと抱きしめてくれた。

「小太郎が生きててよかった!」

「僕に生きて欲しいの?」


17

 お父さんは涙を流しながら答えた。

「当たり前だろ! 小太郎が生きているからお父さんは頑張れるんだ!」

「そう…なんだ」

 意外だった。

「そうよ、小太郎。お父さんは小太郎のことしか考えてないんだから」

 お母さんも僕をギュッと抱きしめてくれた。

 まるでサンドイッチみたい。


18

 それから入院している間、お父さんは毎日お見舞いに来てくれた。

 リハビリも手伝ってくれて、僕の足は治り出した。

 あとでお母さんに聞いたんだけど、お父さんは毎日僕のことをメールで聞いてくるんだって。

「お父さんは恥ずかしがり屋なのよ、本当は優しいのに、おかしいわよね」

 お母さんは嬉しそうだった。


19

 退院する前の日にお父さんが僕に聞いた。

「なあ小太郎、退院祝いに何か欲しいものはないか?」

 僕は迷わずに答えた。

「お父さんとキャッチボールがしたい!」

「そんなことでいいのか?」

 お父さんはびっくりしていたみたい。


20

 退院して僕とお父さんとお母さんの3人で近くの公園に来た。

 お母さんは近くのベンチで座ってて、僕とお父さんでキャッチボールするんだ。

「いくよー! お父さん!」

「よし、来い小太郎」

 僕とお父さんは日が暮れるまでキャッチボールを続けた。

 何度も何度も……。


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