転生したらまさかのシンデレラボーイ?!

羊緋紫
羊緋紫

異世界転生?

公開日時: 2021年2月15日(月) 07:15
文字数:5,291

 グリーウォルフ家が拝領はいりょうしているのは六大王国ろくだいおうこくのうちの一つ、テール王国。精霊せいれいあいされし王国というび名を持つ気候きこう地形ちけいゆたかな国である。


 この世界せかいは人の統治とうちする六つの王国と三つの少数民族しょうすうみんぞく。そして、精霊の統治する七つの国でり立っている。精霊の国は物質界ぶっしつかいには存在そんざいしないため、私たち人は容易よういに精霊の国へ行くことはできない。


 火・水・風・木・土・光・やみの精霊たちは人間たちの住むこの物質世界のみなもと根幹こんかんとして存在そんざいし、原始げんしよりこの世界をささえている無くてはならない存在である。


 そして、この世界に生まれた人は時に精霊の加護かごける。生まれた時に七つの精霊のうち一つがその人の身に『きずな』を宿やどし、絆は精霊によってことなったあざのような文様もんようとなりあらわれる。


 精霊の加護を受けた者を、この世界では『絆を持つ者』と呼ぶ。

 しかし全員が加護を受ける訳ではなく、テール王国だと絆を持つ者はだいたい8人に1人の割合わりあいだと言われている。


 だが、他の国だとその割合はグッとり、20人に1人ならまだ良い方で、もっとも少ない国は100人に1人だという。

 テール王国が精霊に愛されし王国と呼ばれるのは、それゆえだ。


 絆を持つ者は精霊をあやつる事が出来る。

 ………と一言で言うと何でもかなえてくれる万能ばんのうの存在のように聞こえるが、厳密げんみつに言うと絆でつながった精霊にやって欲しい事を言葉なりイメージなりで伝え、それを精霊が受け取り、精霊が力を使い実行じっこうする。すなわち、はっする側と受けとる側の意志疎通いしそつう重要じゅうようであり、実行の精度せいどはまさにその一点いってんにかかっている。

 つまり、発する側の人の頭脳ずのうえるような事は出来ないと言われている。またコミュニケーション不全ふぜんがおきている関係性かんけいせい場合ばあい制御せいぎょする事が出来ない精霊は最悪さいあくの場合いなくなることもあるそうだ。


 なので、子供のうちは精霊と人は良い遊び相手あいてくらいの関係であることが多い。まぁ、遊びながらなかを深めていくのがつねで、15歳になると絆を持つ者は身分関係みぶんかんけいなく同じ学校に通い学ぶのがこの国の決まりだ。


 そんな私、フェリックスも絆を持つ者だ。

 私は土の精霊との絆がある。弟のセバスチャンは風の精霊との絆を持っている。

 先ほど窓の外から私を見ていた風の精霊は多分たぶん、人との繋がりの無い無絆むはんの精霊だろう。


(それにしても……どっかで聞いたことあるような世界なんだよねぇ。めんちゃんがしてくれたものにもこんな感じのファンタジー設定せっていあったような…………)


 前世では親友の布教活動ふきょうかつどう渋々しぶしぶ付き合ってあげていた感覚かんかくの方が強く、あまり真剣に彼女が貸してくれる物の数々かずかずせっしてこなかった為にぼんやりと見知った世界観せかいかんであるというくらいにしか思い出せないのだが、今この世界は設定ではなく現実げんじつなのだ。

 ちなみに、何故なぜ精霊が人と繋がりを持つかと言うと、未熟みじゅく下位精霊かいせいれいは人と繋がる事で様々さまざまな事を経験けいけんしレベルを上げていくのだそうだ。勿論もちろん経験値けいけんちが上がれば精霊自身の強さや力も上がる。そして上位じょういになればなる程人間世界にはめったに現れず、精霊界での地位を上げていく。人に絆を宿す精霊はまず下位の精霊なのだ。


 また、生まれた時に絆を持った精霊を『初絆しょはんの精霊』と呼び、それ以降に絆を持った精霊をその順番で『第二の精霊』『第三の精霊』と呼んでいく。

 初絆の精霊以外と絆を持つことはあまり無いそうだが、皆無かいむという事でも無いらしい。


 と、ここまでが家庭教師かていきょうしから受けた講義こうぎと図書室の本から得た知識。精霊についての基本を脳内復習のうないふくしゅうしていた私をジーナが呼びに来た。父上がお呼びだと言う。

 何か用だろうか、と首をかしげながら私は父上の書斎しょさいへと向かった。


「父上。フェリックスです」


 かたい木の扉をノックしながら中へと声をかけると、すぐに


「入りなさい」


 と、地からひびくような低いヴィクトーの声が返ってきた。

 扉を開け中に入ると、正面奥しょうめんおくの大きな書斎机しょさいづくえにヴィクトーが腰掛こしかけている。部屋の左側ひだりがわの扉の近くにはヴィクトーの机よりは小さめの書斎机が置かれており、その小さめの書斎机の横にアシルが立っている。

 机仕事つくえしごとをする為だけにしつらえたような簡素かんそな部屋で、父上は相変わらずの険しい表情でこちらを見ていた。そこから内心を読み取ることはなかなか難易度なんいどが高い。


「何かご用でしょうか?」


 にらむように私を見てくる父上におだやかな口調くちょうを意識しつつたずねると、うむ、と短く唸りヴィクトーは口を開いた。


「強く、なりたいそうだな」

「え?」

「ケヴィンに、料理のメニューを、渡したと……」


 あぁ、と私はアシルを見た。

 父上のちょっと要領ようりょうない話し口はいつもの事なので、すぐに補足ほそくの形でアシルが言った。


先程さきほど厨房ちゅうぼうでの事を旦那様だんなさまにお話いたしました。そうしましたら、フェリックス様とお話がしたいともうされましたので」

「体を強く、したいと……?」


 アシルの言葉に繋げるように、ヴィクトーはまた聞いてくる。

 小さく首を傾げながら、私は頷いた。


「はい。あまりに体が弱くて、病気ばかりの上にケヴィンたちの作った料理を残してばかりなのが申し訳なくて。それに、セバスチャンとおもいっきり走り回りたいんです」

「…………そうか」


 小さい声で言ってだまった父上に、私はますます首を傾げる。


「父上?」

「……………私も何とかしよう」

「え?」

「……………任せなさい」

「え………あ、はい?」


 真意しんいみ取れず疑問符ぎもんふだらけな返事をしたのだが、特にそのことを父上は気にすること無く、私に自分の意思いしを伝えられた事に満足したようで、険しい表情からやややわらいだ顔で私を見ていた。無言むごんで。


(え………なに? え? どうしたらいいの?)


 流れる沈黙ちんもくに、どうしたら良いのか分からず固まってしまった私の肩へアシルの手がやさしくえられる。


「色々決まりましたら、お伝え致します。それまであまり無理せずお過ごしくださいね」

「あ、うん……」


 扉へうながされながらそう言われたが、私の中ではいまいち消化不良状態しょうかふりょうじょうたいである。アシルを見上げれば、胸中きょうちゅう理解りかいしたのだろう。壮年そうねんのイケオジ執事は小さく頷いた。


「まぁ、ご心配なく」


 苦笑混くしょうまじりに、私だけに聞こえるよう小声こごえで言ったアシルにとりあえず頷くと、彼は謝辞しゃじ意味いみを込めた頷きを返し、書斎の扉を開けてくれた。


「それでは父上。失礼致します」


 ヴィクトーを振り返りお辞儀じぎをすると、満足そうに頷く父上。

 書斎を後にし、私は首を傾げた。


「…………う~ん。なんだったんだろう?」


 歩きながら、私は腕を組み唸った。


 父上からの呼び出しから数日後すうじつご、ティータイムをあたたかな日差ひざしの中、私はセバスチャンと庭を散歩さんぽしていた。

 今日は昼食後、勉強の時間だったセバスチャンはあまり勉強が好きではないこともあってブゥブゥとふくれてたが、その膨れっ面ふくれっつらもまた可愛い。

 私も多分数日のうちにまた貴族のお勉強が始まることだろう。だが、それまではこの庭を堪能たんのうするつもりだ。


 庭は今日も綺麗に手入れが行き届いていて気持ちがいい。元気に走るセバスチャンを追いかけたいが、まだまだそれをするには体力が足りない。


 ゆっくりと歩きながら、今日は庭師にわしのサシャのところへ向かう事にした。

 屋敷やしきとはちょうど反対側はんたいがわの庭のはし木造平屋作もくぞうひらやづくりの小屋こやが庭師であるサシャの作業場さぎょうばだ。

 作業場のとなりには小さな温室おんしつもあり、様々な植物が育てられている。


 作業小屋の外で仕事をしていたサシャは、私たちの姿すがたに気付くとまだ距離きょりが遠いにもかかわらずお辞儀をしてくれた。

 そんな彼の元へ歩みを進めていると小屋の戸が開き、中からフェリックスより少し年上の男の子が姿を見せる。

 今年12歳になるサシャの息子ライアンだ。赤褐色せきかっしょくの髪にグリーンの瞳。そして、良く焼けた肌が印象的いんしょうてき活発かっぱつそうな少年のライアン。


「ライアーン!」


 大きく手を振り、セバスチャンはライアンへとけ出す。としが近いこともあって、私たち3人は赤ん坊あかんぼうの頃から日中は同じ部屋で同じように育てられた。本来ほんらいならない話だが、ヴィクトーやシャルロットが使用人たちに寛大かんだいで、こども同士一緒どうしいっしょの方が教育きょういくにも良いだろうし、親は仕事もしやすかろう、という考えからだった。


「セバスチャン! フェリックス!」


 陽光ようこうらされたライアンの笑顔はキラキラと輝いて見える。セバスチャンとはまた違う美しさを持つ青年になるだろう事は容易ようい想像そうぞうできる容姿ようしをライアンは持っていた。

 

(んー良く考えたら私ってラッキー?)


 セバスチャンとライアンが並んで立っているところをながめながら思う。何故なぜなら、可愛い可愛い子供の頃から成長せいちょうしイケメンになる過程かていが見られるなんてそうそう無い。子どもの2人がならんでいるところも随分ずいぶんになるのに、それが青年せいねんになんてなったら、もう、もう、とうとすぎて鼻血はなぢものである。


 ぽやーっと成長後の二人の姿を妄想もうそうしていた私にかろやかに近づいたライアンがいぶかしげにまゆを寄せる。


「なーにしてんだ? ボーッと突っ立って」

「え?! いや、なんでもないよー」

「ほんとか? 気分が悪いとかじゃ無いだろうな?」


 眉をしかめて顔を近づけながら、私の額に手を当てたライアンの少し真剣な表情にややドギマギしつつも、にへらと私は笑った。


「うん。大丈夫だよ」

「なら良いけどさ」


 至近距離しきんきょりで私の顔を覗き込み、まじまじと見ていたライアンは額から手を外し、小気味良こきみよく私の肩を叩いた。


「フェリックス坊ちゃん」


 ライアンを渋いイケメンにしたイケおじのサシャが微笑みを浮かべて私の前に立つと少し身体をかがめて、私と目線を合わせるようにしてきた。

 

「もう外に出て大丈夫なんですか?」

「うん。お陰様かげさまで、もうだいぶ元気になってきたよ」

「そうですか。それは良かった。もう、こいつが坊っちゃんのこと心配して心配して大変だったんですよ」

「お、親父おやじっ!!」


 笑いながらライアンを指差ゆびさしながら言ったサシャに、顔を赤くし慌てるライアン。

 美形親子びけいおやこのやり取りになごみつつ、目の保養ほように頬が緩むのがわかる。

 と、そんな3人の様子など無視して早く遊びたいセバスチャンがって入ってくる。


「ねぇねぇ、遊ぼうよー」


 そんなセバスチャンに私とライアンは笑い、そして3人はいつもの遊び場へ向かった。

 フェリックスたちの遊び場は敷地しきちの端にある、この屋敷で一番大きな木を中心とした辺り。久しぶりに来た大きな木には、太い枝のあちこちにいくつもロープが垂れ下がっていて、ロープの先に木の板がくくりつけられている。


「このロープ、なに?」


 聞いたセバスチャンにライアンは得意気とくいげに言った。


「ふふーん。じつはな、この木の上に秘密基地ひみつきちを作ろうかと思ってさ」

「ええっ! 秘密基地~!?」


 途端とたんに目を輝かせるセバスチャン。ますます得意気とくいげな顔でライアンはあごに手を当てたりなんかしている。


「ほんとはフェリックスが良くなるまでに完成させて、あっとおどろかせるつもりだったんだけどさ。まぁ、上がってみるか?」


 そう言ったライアンのそば頭部とうぶから緑色みどりいろ若葉わかばに似た柔らかな葉を生やした、えだで出来た人形のような体の木の精霊が浮かぶ。

 

 木の精霊が大きな木のみきに溶け込むと、ざわざわと枝が動きロープが私たちの目の前に下りてきた。ライアンはそのうちの1本のロープの板に足を掛け、ロープを握る。

 私とセバスチャンもライアンを真似てロープをつかんだ。すると、枝がうご葉擦はずりの音をさせながらゆっくりロープは高く上がっていく。


「わあぁっ!」

「すっごーい!」


 ゆっくりと開けていく視界しかい。屋敷のへいが下に見え、王都おうと街並まちなみが見渡せる。

 グリーウォルフ男爵家は王都の貴族の屋敷が建ち並ぶエリアの端の方にあるので、見晴らしの良い場所に建っている訳ではないのだが、それでも大木の上の方からは遠くまで良く見えた。


 枝の動きが止まると、丁度良い位置に太く立派りっぱな枝が伸びていて、ライアンにならって3人は枝へとうつった。

 

「ここにさ、板を並べていてさ。かべ屋根やねも作って3人一緒にれるひろさにしてさ」


 り立った太い枝は、もう一つの太くしっかりした枝と幹をつなぐと丁度ちょうど扇形おうぎがたに伸びているし、枝の上に敷いた板は水平が取りやすそうだ。


「僕、お菓子も食べたい!」

「あぁ、食べよう」

「あと、勉強したくない時にここにかくれるんだっ!」


 キラキラとしたセバスチャンの顔は、もう完全にこの3人の秘密基地が、大人たちの目からげられるゆめの場所になっているようだった。


「勉強か。あぁ、そういえばなんかあたらしい家庭教師かていきょうしが来るってな」


 そう言ったライアンに私とセバスチャンは目をまたたかせる。


「え、そうなの?」

「なにそれー聞いてない」

「あれ。そうなのか?」


 私たち2人の反応はんのうにライアンは頭をき、視線しせんななめ上にさ迷わせながら口を開く。


「んーなんか、なんの勉強かは知らないんだけど俺も一緒に受ける事になってるらしくてさ。3人一緒だって親父が言ってたんだけど、まだ聞いてないのか」

「うん」


 3人一緒に受けるって、なんだろう? でも、3人一緒なら………


「でも、3人一緒なら僕なんでもいいや。一緒の方が楽しそうだし!」


 私の気持ちを代弁だいべんするように、ニカッと笑って言ったセバスチャン。そんな可愛い弟に私は笑う。


「はははっ、私も今同じこと考えてた」

「なんだ。じゃあ3人同じか」


 ライアンの言葉に3人は顔を見合わせ笑った。

 なんの勉強が始まるのか分からないけど、楽しみだ。


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