ミコ・サルウェ

(ノベリズム版)
皆月夕祈
皆月夕祈

夜が笑う惨劇2

公開日時: 2022年10月30日(日) 16:15
文字数:4,504

 荒い息を整えようとしては、幾度も失敗し、せき込む。

 ただ、サルタンにとって優先すべきは、そんな所ではなかった。

 転がり込む様に、中に入った。

 

 すると見覚えのない男が居た。

 勿論、国軍の兵士自体の数も多ければ、仕事の同僚でもない。

 故に覚えていない人間の方が多いのではあるが。



「ん?……どうした?」 


 いい年をした大人の男が、涙濡れに大慌てでやってくれば、当然に男も訝しむ。

 男は眉を顰めて、サルタンの方へ歩いてきた。

 

 男は、武器の類は持っていない様に見えるし、兵士としては、ひょろりと細身の体をしていた。

 サルタンは片隅に、兵士と言うよりは、兵舎付きの事務役人か、と考えた。

 

 「た、助けてくれ。」


 しかし、今は人と会えたことだけでも、大いに救いであった。


 サルタンは、縋らんばかりに、男へと駆け寄っていく。

 その反応に、男の方が狼狽する。


「お、おい、落ち着けよ? ここは兵舎だぞ? 人も沢山いるし、大抵の事には対応できるさ。」

 男は宥める様に言う。


 男が言う割には、兵舎の中はシンと静まり返り、他に人の気配は感じられなかった。

 しかし、サルタンは男の言葉を鵜呑みにし、その事には気付かなかった。


「な? 落ち着いて……何があった?」

 

 サルタンは、男に今まで在った事を話した。

 

 荒唐無稽な話だ。

 しかし、男は時折、訝し気な反応を示しながらも、真面目にサルタンの話を聞いていた。

 

 サルタンは全てを話し終えた。

 

 すると、

「はあ……そうか。」

 

 男は意味深に、額を手で覆いため息を吐いた。

 

「嘘じゃない! 信じてくれ! 明日になれば、誰もが解る事だ!」


 サルタンは狂人の妄言、その様に思われたかと、必死になって食い下がった。

 

 男はそれを、両手を突き出して制した。


「ああ、大丈夫だ……別にお前さんを疑っている訳じゃない。ただ、もう一度聞きたいんだが……、その女っていうのは、笑っていたのか?」

 

 男は、一度、サルタンの後ろへ、チラリと視線を向ける。

 そして、じっと、真剣な表情でサルタンの目を見つめた。


 なぜ、そこをもう一度聞くのか、サルタンの後ろには、サルタンの入ってきた扉がある。

 

------そこに何かあるのか。

 

 確認したいが、男が余りに真剣に目を合わせてくるものだから、サルタンは男の瞳から目を逸らすことが出来なかった。

 

 息をのみ、サルタンは頷いた。

 そうすると、男は身体から力を抜き、だらけた様にため息を吐いた。

 視線も外される。


 

「そうか……じゃあ、ダメだな。」



 男は何故か突き放す様に告げた。

 

「え?」

 男のあまりに想定外の反応に、サルタンは困惑した。

 

 

「あのな? ”あいつら”って言うのはだ。」 


 再び、男はサルタンの目を見つめる。

 そして、言い聞かせるように言った。


(何がダメなんだ? あいつらってなんだ?)



「基本的に笑わないし、泣かないし、怒らない。いっつも無表情だ。……でも、お前が”そう”見えたって言うのなら……。」

 言って、一拍、言葉を切った。

 


「お前。祟られてるぞ?」

 


------ドン


 サルタンは胸に冷たい衝撃を受けた。

 視線を下げると、自らの胸に、開かれた状態の女の物らしい、綺麗な右手が生えていた。

 

 外傷が在るようでも無い。

 しかし、サルタンの背中の方から、しっかりと貫通している様に見える。


 手が引き抜かれようとする。

 

 信じられない者を見るような顔で、サルタンは男を見る。

 男は、憐れむ様に、そして、呆れた様にもう一度、ため息を吐いた。

 

「なん……?」

 それが、サルタンの最期の言葉となった。

 

 崩れ落ちるサルタンの身体。

 それを見下ろす様にして、男は不愉快そうに眉を顰めた。

「悪趣味だな。」

 

 男はサルタンの死体を肩に担ぐ。



「恐怖は最高の調味料。生者には解らない事ですわ。……でも、ご協力ありがとうございます。この男、逃げ足だけは早くて……クスクス。」

 

 先程の女だ。


 嘘と理解しつつも、それを口に出す意味はない。

 男は顰めた眉の皴を、深めるにとどめた。

 

 女の右手、小指と薬指の間には、先ほど、サルタンから抜き取った、白く薄ぼんやりとした光が引っかかっている。

 光は、そのまま、上へ向かって登っていこうとした。

 

 しかし、女に捕まえられ、思うようには行かない。

 

 女はそれを口元へもっていき、一息に飲み下した。

 

 

「ん~んふふ。美味しい。」

 

 彼女は、終始、ひたすらに無表情のまま言い放った。



 ※R貪り食らうエクスタビ  闇闇闇③ ホラー・ゴースト

  飛行 

     ユニットが破壊されるたび、ターン終了時まで、貪り食らうエクスタビは+2/+2の修正を受ける

                           99(4+95)/99(4+95) 


 ※99がカンストです。

 

 

 男は、奥へと続く扉を開けると、サルタンの死体を放り投げた。

 

 奥の部屋には、沢山の兵士たちの死体が山となって転がっていた。


 そして、その死体の山の頂上には、赤い頭巾を被った少女たちが、無表情で座り込んでいた。

 

 ※R赤ズキン   火闇③  ホラー・スピリット

 隠形 行動終了:ユニット一体に2点のダメージを与える。そのユニットが破壊された場合、行動可能状態に戻す。


                            2/2


 男が再び、口を開いた。

「報復も、破壊工作も、もう十分……というか、どう考えてもやり過ぎだ……。本題を始めるぞ。何かわかったか?」

 

 それに対して、エクスタビが首を傾げた。

「……あら? マカさん? 本題って何です? 私《わたくし》は沢山、食べれば陛下が喜ぶと聞いたから参加したんですわよ? ふふふ……わたくし以上に食べられる者は、ミコ・サルウェには、いませんからね? んふふふふふ。」

 

 次いで、少女たちが声を揃えた。

「「「隊長ー! 遊びに来ただけー。」」」


(そうだった……。)


 

 R致命の暗殺者マカ 闇闇①

  先制 行動終了:行動終了状態のユニット一体を破壊する。

 

                 3/3

 

 マカは目を瞑り、どう説明するか、頭を巡らせた。

 いや、事前に説明していない訳ではないのだ。

 彼女たちが興味を示さず、聴いていなかっただけで。

 

 

 彼等はマカを隊長とする、表にはアニムの近衛”的”な部隊である。

 そして、実質的にはミコ・サルウェの暗部、月影《げつえい》だ。 

 隊なのは、規模が極めて小さいからである。


 彼等は、人知れず、表では出来ない事をする存在。



 では、もともと無かった。



 所で、突然話は変わるが、アニムの側近として、ネルフィリアが良く知られていた。

 きっかけは、初期デッキに封入されていたためであり、アニムが初めて手に入れたレアカードである事が大きかった。

 

 しかし、勘違いしてはいけない。

 初期デッキ『Angel&demon』にはレアカードは3枚、封入されている。


 現在、ミコ・サルウェで近侍司として、式、催事の一切を取り仕切るネルフィリア。

 城の中庭に堂々と鎮座する、設置呪文:輪廻の揺り籠。

 そして、無職、致命の暗殺者、マカである。


 

 これでは、あんまりにも哀れ。

 アニムも何か、役職をつけてやりたいと考えた。

 しかし、彼は暗殺者であった。


 軍団長と言う”なり”ではないし、そもそも、暗殺者にやってもらうような仕事は早々ないし……と、あれこれ考えたのだ。

 そして、結果、アニムは自らの近衛部隊を作り、そこの長にマカを据えようとした。

 

 しかし、これが良くなかった。

 

 近侍司はまだいい。

 式催の一切といっても、身も蓋もない言い方をすれば、雑用係である。

 ゆえに、ネルフィリアに対して不満が上がることは無かった。

 しかし、常に陛下の傍で御身を守る近衛となると、他の各師団は面白くないのだ。


 口には出さず。

------その様な物造らずとも、我々が代わりにやりますけど?


------専門性と言うのならば、専門の部隊を作りましょうか?

 

 内心では思っていた。

 まさかアニムに対して嫌がらせなど、出来るはずもない。

 しかし、それを束ねるマカへは別だ 


 であらば、実力は折り紙付きの者を出しますので”是非に”と。

 集められたのだ。


 本当に実力は折り紙付きである……実力は。

 

 しかし、軍に入隊したは良いが、いう事を聞かない、話もろくすっぽ聞かない。

 好き勝手な事ばかりする、そんな問題児達は何処にでもいる者であった。

 

 そんな者達も、名誉ある近衛としての職務には乗り気であった。

 ただ、護衛のさなか、フラフラと何処かに行ったり、”おかしな物”を常日頃携帯していたり、夜寝ていればアニムの枕元に立ったり……。

 

 別に謀意もなければ、アニムには好かれたいと思っている。

 素行に目を瞑れば、健気ですらあるのだ。


 しかし、終いには、マカ以外は、アニム自身からも遠ざけられていた。


 勘弁してくれと。




 兵舎の窓から、するりと液状の何かが入って来た。



 ※Rアルテラの浸透者 キュベレ 水水⑤

 隠形 ブロックされない。


                 5/5


「隊長、困ったことになりました。」

 その液状の何かは、ズブズブと盛り上がり、中から美しいラミアが姿を現した。

 

「被保護者は自力で脱出を試みたようでして……。現在、行方不明です。」

 

「……それはまた、勇ましい事で……。」

 

 死体の山から、ズズズズと影が動いて人型を作り、その陰の中から、一人の優男が姿を現した。

 

 優男は涙を流しながら、神経質そうに眼をパチパチと閉じ開けし、どこか落ちつかない様子である。

 呼吸も妙に粗かった。

 

「ハッハッ……ハーハー……こちらの情報とは少しズレる。ふうー……脱獄した犯罪者が天使を攫って潜伏中だから、全力で探し出せって命令だ。ハーー」

 

 影人のハロは、死体の影と一体化する事によって、その死体の持つ記憶を読み取る事が出来た。

 ただ、様々な記憶を読み取り過ぎて、それを行った後は、暫くは精神が不安定な状態が続いてしまう。


「はあ……そうか。……まあ、どっちでもやる事は一緒だ。……お前ら、もう、解ったと思うが、今回の一番の任務は捕まってた捕虜の奪還なんだよ。」

 

「めんどくさいですね……。」

 無表情のまま、エクスタビが答えた。

 

「陛下の一番の懸念事項だ。そう言うな。じゃあ、事前に渡した資料は……どうせ、持ってきてねーんだろ?」

「捨てたー。」

「そんな物在りましたっけ?」


 マカは懐から小さく折りたたまれた紙を、複数取り出し、全員に渡した。

「覚書《おぼえがき》だ。撤収まで3時間。時間が無い。行ってくれ。」


 そして、三々五々、彼等は捜索の為に散っていった。




 のだが……。

 何故か、キュベレは何時までも、その場に留まり、死体からナイフで何かを剥ぎ取っていた。

 

 見かねて、マカが声を掛ける。


「お前……何をやってるんだ?」

 


「睾丸です。」



「……は?」

 キュベレは真顔で応えた。


 マカは一瞬何を言われたのか、解らなかった。 


「睾丸です。……金〇まの方が解り易いですか?」

 

「いや、解った……好きにしてくれ。」

 


「今回の侵略で、出奔していた私の愚弟が死んだんです。」

「……そうか。」


 兵士たちの金た〇を、剥ぎ取りながら急に何の話か。

 内心では、早く捜索に行けよと思いながら、マカは、自らの股下を手でスッと隠し、相槌をうった。

 

「姫《ルー》も心を痛めていると聞いています。弟の墓前と、姫の枕元に備えようかと思いまして……。少しは慰めになると良いのですけれど。」


「そう、ん? くっ……。」

「?」

「いや、なんでもない。」

 

 マカは適当に相槌を打とうと考えていた所に、とんでもない事を言われ、一瞬、詰まった。


 なお、アリアナ《姫》に睾丸を集めて、心慰める趣味は無い。


 


 結局、その日、保護するべき人物を見つける事は出来なかった。






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