アンオールの村、村長宅。
ラウラの母、ミファナは村の会合に出席していた。
現在、村が置かれている状況は、非常に悪い。
この村を捨て、どこかへ逃げていくべきか、逃げるというのならばどこへ行くのか。
他の村も同じような物ではないだろうか。
では、留まるのか。
滅ぶ以外、道は無いのではないか。
もともと、貴族の都合に振り回される事に慣れたベンデル王国の国民は、自由意志という物が希薄であった。
残念ながら、同じような発言がぐるぐると回るだけで、何か決まるというでもない。
ほとんどの村人は、諦めているのだ。
開拓村と言われるアンオールだが、開拓村と言われている村は、実際のところ、国中に沢山あるのだ。
開拓に失敗すれば野垂れ死ぬ。
成功すれば、その領主貴族の物となり、高い税を払い、その日、その日のギリギリの生が保証された。
ミファナの口からため息が零れた。
なんの為に生きているのだろうか?
ラウラを育てるため?
私の可愛いラウラも、大人になれば、私の様になるのだろうか……。
戦争というのならば、失敗して、こんな国など滅んでしまえばよいのに。
考えれば考えるほど、ミファナの目から生気が失われる。
ミファナは首を振り、正気を取り戻そうとした。
(私が、しっかりしないと……。)
その時、外からミファナを呼ぶ、ラウラの声が聞こえた。
ミファナは集会を中座して外へ出た。
すると、少し慌てた様子の愛娘がいて、こちらに走ってきていた。
「お母さん 、こっち来て!!」
「どうしたの? 母さん、まだ集まりの途中なのよ。」
娘の話を聞くと「妖精が沢山の食べ物をくれた」と言い始めた。
妖精と言えば、ミファナも幼い頃、寝物語で聞いたことがある。
(実在するのかしら……いえ、何を……そんなわけないでしょ・・・もしかして、私より先にラウラの方が……。)
愛娘がおかしくなってしまったのかと、ミファナの目頭に涙が溜まっていく。
「……ううう……ラウラ……ごめんなさいね……。もっと良い国で産んであげられなく……。大丈夫だからね……。貴女がおかしくなっても、母さんが守るからね……。」
何やら壮絶な勘違いを始める母に、ラウラは焦った。
「違う違う違う!! 何いってるのよ! お母さん、ちゃんと聞いて!」
「大丈夫だからね……。」
「もーーー!!! ミリー!? 何してるの!? 早く来て!」」
ラウラは、きっ、と眉を寄せると見ればすぐに分かるのにと、少しイラついた調子で、遠く、自分の家の方を見て誰かを呼んだ。
すると、おっかなびっくりといった風に、ミリーが顔を出し、こちらに飛んできた。
(え?……飛んでる?)
身長50cmほどの可愛らしい少女。
背中には半透明の翅が生えている。
その翅は陽光を反射して、キラキラと輝いていた
ミファナの心が綺麗かは兎も角、確かにミファナが聴いた、寝物語に出てくる妖精の姿と同じものだ。
(そんな……、本当に妖精?少しおどおどしている様に見えるけど、大人が苦手なのかしら……?)
「こ、こ、こ、こんにちは!私、ミリーっていいます!」
「え……、ええ、私は、ラウラの母、ミファナよ……本当に妖精なの……?」
ミファナは少々戸惑いながら、半信半疑といった風に尋ねた。
「うん! ……私は港町のスプライト! 種族は妖精種になるよ! ・・・です」
ミファナの予想は正しく、元来、ビビりで内弁慶なミリーは、初対面の大人相手だと、緊張して言葉が怪しくなってしまった。
「港町のスプライト?」
何処かに港町があっただろうか?と不思議がるミファナ。
その時。
「あああーーー!! 妖精さんだ!?」
今年6歳。
村で一番年少であるサラトナが、勢いよく此方に走ってきた。
ラウラ同様、母が会合に参加しており、家で留守番をしていたが、ミファナ達の声を聞いて、家から出てきたのであろう。
まっすぐにミリーの元へ走ってきたサラトナ。
「ねえ、妖精さん! 私、サラトナ! 妖精さんは何処から来たの!?」
流石のミリーも6歳の子供相手に、ビビりは発動しない様だ。
「こんにちは、サラトナ! 私はミリーだよ。」
ミリーは南の森を指さし、
「あの森のずっ~と先から来たんだよ。」
と言った。
「へぇ~!! すごい! すごい!」
きゃっきゃっと、無邪気に喜ぶサラトナ。
ミファナが、またミリーに声をかけた。
「それで、ミリーちゃんはどうしてこの村に来たのかしら?」
途端、ミリーはまた、少しもじもじとし始める。
「あ、そうだった。この村の事を色々、教えてほしいな~と思って。」
ミファナは眉を下げて少し悩んだ
「う~ん……とりあえず、長老に合わせるわ。こちらにいらっしゃい。」
しかし、流石に自分で決めていい事では無いと思いなおし、長老の指示を仰ぐことにした。
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