ミコ・サルウェ

(ノベリズム版)
皆月夕祈
皆月夕祈

コルノ平原の戦い2

公開日時: 2022年10月19日(水) 16:15
文字数:3,218

 二日目が始まった。

 

 その日、数の多い側の方が、取れる選択は多く、また、昨日の内容を取り返すため、スカリオンが、何かしら動いてくる。

 そういう風にミコ・サルウェ軍は想定し、防御的な陣形でまずは様子を見ていた。


 対して、スカリオン軍。

 本来であれば”そう”したいのは山々。

 しかし、障害物が殆どない地形的要因が災いした。

 また、ミコ・サルウェ側は、その恐ろしさを軽視している様であるが、アニムの目が常に戦場を見ている。

 そして、それによって動く群緑師団は、スカリオンを凄まじく縛る脅威であった。

 

 昨夜の話し合い、別動隊などの意見は出たが、それはアドミラルによって止められる事となった。

 

 教皇に対して不審を持つ者は、トルニス達だけではなく、アドミラルも同様である。

 彼も、敵は人間と、それに使役された獣人が中心と聞いていた。

 

 普段、スカリオンが戦争する相手と言えば、南方に存在する獣人国家、獣王国:グラプトであり、アドミラルも幾度と、鉾と牙を交えて来た。

 

 慣れた物だ。

 ましてや、自らの意思で戦う訳でもない使役獣人が相手。

 自らの同胞の為、死に物狂いで向かってくるグラプトの獣人に比べれば……。

 アドミラルは、決して油断さえしなければ、そう遅れは取らないはず、そう考えていた。

 

 しかし、実際はどうか。

 

 当初、アドミラルは軍団の右翼端におり、ミコ・サルウェの側面に回り込もうと動いていた。

 数多の兵法家というのは、結局のところ、どうやって敵を囲んで叩くか。

 そのことで常に脳漿を割いている。 

 スカリオン軍の方が数が多いうえに、ミコ・サルウェはどんどんと押し込んでくる。

 であれば、右翼左翼が前に出て、正面と左右から叩くというのが兵法の基本。

 

 その様な名前、この世界には存在しないが、鶴翼の陣である。


 そして、そこへ現れたのは、正面の”黒生地に鳥”という軍旗とは違う、”緑生地に獅子”の絵が刺繍された軍旗、獣人や獣で構成された軍団であった。

 

 ははあ、なるほど。と

 あれは聞いていた通り、獣も混じるが、確かに獣人の部隊である。

 アドミラルは、そう考えた。

 

 しかし、すぐに考えを改める事になった。

 

------速い! 速すぎる!

 

 あれのどこが使役されているというのだ。

 自分の意思と、判断で動き回る者でなければ、あの動きは制御できまい。

 事実、アニムは事象のみを伝え、どう動くかの判断は”群れの長”に一任していた。

 

------くそ! あれは、野に放たれた猛獣だ!

 

 それは、先頭を走る女を筆頭に、軍の行軍とは、とても思えぬ神速でアドミラル達へ接近してきた。

 アドミラルは、咄嗟の判断で兵たちに槍を突き出し、槍衾を作れと怒鳴り上げた。

 軍の行動とは、個人の動きに比べて非常に緩慢である。

 間に合わないかもしれない。

 

 アドミラルの脳裏に、それがよぎる。

 それ程の速さ。

 

 間一髪、間に合った。

 迎撃の体制が整う。

 しかし、それは幸いとはならなかった。

 

 アドミラルは、今思い出しても背筋が凍る思いである。

 

 自然界において、狩りとは、群れから逸《はぐ》れた獲物から狙われるものである。


 あの獅子にとって、小賢しく回り込もうと、本体から”逸《はぐ》れた”アドミラル達はまさしく、その獲物であったのだ。

 

 凄まじい勢いと脚力。

 獅子は、高く飛び跳ね、槍衾を飛び越えると、アドミラル達の後ろ脚から半分を、そのまま食いちぎって、またどこかへと走り去っていった。

 

 あっと言う間の事。

 50%近くの損耗、戦略的な見方をすれば、アドミラルの部隊は一瞬で壊滅した。

 

 

 アドミラルは後に聞くことになる。

 彼等、右翼よりも先に、左翼部隊の先端が襲われ、此方は文字通りの意味で全滅していたというのだ。

  

 アドミラルは自覚した。

 

 己がこうして生きているのは、ただ運が良かっただけなのだ、と。

 

 もし、あの獅子が出会ったとき、それが未だ空腹であったのならば、自分たちは平らげられていたであろう、と。

 

 故に、スカリオンも動けない。

 逸れ者を出さないように、ひたすらに固くかたまり、どちらも一進一退の状況が長く続く事となった。

 

 



 アーシャは、今日も前線に立っていた。

 

「おら! ウチより前に出んな!」

 

 本来であれば、現状に対して、一番イラついていそうな性格をしているアーシャ。

 しかし、その日、アーシャはとにかく堅実に戦をしていた。

  

 味方が突っ込み過ぎるのを諫め、逆に、敵が勢い付こうとすれば、その鼻ずらにはしっかりと杭を打ち込む。

 空気を感じ、前線に居ながらも、その様な指揮を行っていた。


 そもそも彼女は凡将でも、愚将でもない。

 常に前線に立ち続けて来た、彼女だから出来る達人技。


 嫌な予感がする。

 その勘がアーシャに強く囁くのだ。

 

 故にアーシャは決して、攻めすぎない。

 

 良いのだ。

 闇燦師団は、人間しかいないスカリオン軍と比べて、体力に大きな優位があった。

 長引けば、それだけ、勝機は闇燦師団に傾くのだ。

 とにかく守れ、犠牲を減らせ。

 それがアーシャの指示であった。


 この日は、ひとまずそれで終わりそうだ。

 そうして、夕刻を迎えそうな時になって。

 しかし、流れが変わった。

 

「団長。モニカが到着しました。」

 

 オニツカが態々、前線にまで出て、アーシャに耳打ちした。

 

「……ちっ!」

 アーシャは二重の意味に舌打ちする。

 一方は、おっとり刀で現れた団員への苛立ち。

 

 そして、もう一方は、本来後方にいるオニツカが前線に居るという事へである。

 それは、”この位置を後方とする程に前へ攻める気である”という意思表示に他ならなかった。

 

 黒く、大きな影が、上空を素早くかけて行った。

 

 その者の召喚には、闇のマナのみを8マナも要求される。

 多くの土地を支配するアニムにしても、特殊なカードを使用せねば召喚する事、叶わない存在。


 ※UC再生のリチュアル 闇水土

   闇闇闇闇闇を生み出す




 彼《か》の者を召喚し、その存在を前にアニムは言った。

 

------この何処までも闇に染まった常闇の塊。


------お前を見ていると、「悪」という言葉の古い意味を思い出すよ。


------古い言葉で「悪」とは。





「guwaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 

 ※R闇の末裔 グラドロモニカ 闇闇闇闇闇闇闇闇 デーモン・ドラゴン

  飛行 生命吸収

  グラドロモニカの与えるダメージは-1/-1カウンターとして与えられる。

  グラドロモニカがプレイヤーにダメージを与えた時、対戦相手は全ての手札を捨てる。  


                          8/8

 

 


------強いという意味だ!





 敵陣中央に、巨大な黒炎の球体が着弾し、一帯を抉る様に消失させた。

 

「相変わらず、人に産まれたことを後悔してしまうほどの強さですね……。」


 そう言うオニツカを、アーシャは一瞥した。

 人の身では、越えられなかった何かに、彼は直面した事があるのだろうか。

 副師団長という近しい立場である青年の過去を、アーシャは存外何も知らなかった。 

 そして、今回も敢えては聞き返さない。

 

 此処は戦場であり、そんな場合ではないのだから。

 

「……ちっ! 遅刻しておいてデカい面してんじゃねーよ……。おい! 攻めるぞ!」

 

 未だ、アーシャの勘は”守れ”と囁き続けていた。

 

 しかし、グラドロモニカによる攻撃で、敵は大混乱に陥っていた。

 

 慎重すぎる指揮官は勝機を逃すと、ここで攻めに転じなくては、士気にかかわる。

 

 スカリオン軍は動揺しながらも、なんとか対応を試みた。

 しかし、圧力を増した前からの攻撃と、防御の難しい上空からの超越的な攻撃に、軍はすぐさま瓦解しかけた。

 




 しかし、好事魔とは、どこにでも現れる者である。


 アーシャの肉体は確かに固く、傷つかない。

 ただし、味方はそうではなく、敗戦の経験も少なくなかった。

 勝ち戦も負け戦も、数多の戦場を渡り歩いた。

 そのアーシャの勘と言う物は、ないがしろにするには、あまりに大きな要素だった。

 

 

 それを無視するが故に、悲劇は起きるのだ。

 

 猟銃の照準越しに、オニツカは見た。


 スカリオン軍に突如現れた、けして人間ではありえない生物。

 そして、その攻撃から味方を守ろうとしたアーシャが、首をあらぬ方向へと曲げ、吹き飛んでいくところを。



「団長ーーー!!?」


  



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