二日目が始まった。
その日、数の多い側の方が、取れる選択は多く、また、昨日の内容を取り返すため、スカリオンが、何かしら動いてくる。
そういう風にミコ・サルウェ軍は想定し、防御的な陣形でまずは様子を見ていた。
対して、スカリオン軍。
本来であれば”そう”したいのは山々。
しかし、障害物が殆どない地形的要因が災いした。
また、ミコ・サルウェ側は、その恐ろしさを軽視している様であるが、アニムの目が常に戦場を見ている。
そして、それによって動く群緑師団は、スカリオンを凄まじく縛る脅威であった。
昨夜の話し合い、別動隊などの意見は出たが、それはアドミラルによって止められる事となった。
教皇に対して不審を持つ者は、トルニス達だけではなく、アドミラルも同様である。
彼も、敵は人間と、それに使役された獣人が中心と聞いていた。
普段、スカリオンが戦争する相手と言えば、南方に存在する獣人国家、獣王国:グラプトであり、アドミラルも幾度と、鉾と牙を交えて来た。
慣れた物だ。
ましてや、自らの意思で戦う訳でもない使役獣人が相手。
自らの同胞の為、死に物狂いで向かってくるグラプトの獣人に比べれば……。
アドミラルは、決して油断さえしなければ、そう遅れは取らないはず、そう考えていた。
しかし、実際はどうか。
当初、アドミラルは軍団の右翼端におり、ミコ・サルウェの側面に回り込もうと動いていた。
数多の兵法家というのは、結局のところ、どうやって敵を囲んで叩くか。
そのことで常に脳漿を割いている。
スカリオン軍の方が数が多いうえに、ミコ・サルウェはどんどんと押し込んでくる。
であれば、右翼左翼が前に出て、正面と左右から叩くというのが兵法の基本。
その様な名前、この世界には存在しないが、鶴翼の陣である。
そして、そこへ現れたのは、正面の”黒生地に鳥”という軍旗とは違う、”緑生地に獅子”の絵が刺繍された軍旗、獣人や獣で構成された軍団であった。
ははあ、なるほど。と
あれは聞いていた通り、獣も混じるが、確かに獣人の部隊である。
アドミラルは、そう考えた。
しかし、すぐに考えを改める事になった。
------速い! 速すぎる!
あれのどこが使役されているというのだ。
自分の意思と、判断で動き回る者でなければ、あの動きは制御できまい。
事実、アニムは事象のみを伝え、どう動くかの判断は”群れの長”に一任していた。
------くそ! あれは、野に放たれた猛獣だ!
それは、先頭を走る女を筆頭に、軍の行軍とは、とても思えぬ神速でアドミラル達へ接近してきた。
アドミラルは、咄嗟の判断で兵たちに槍を突き出し、槍衾を作れと怒鳴り上げた。
軍の行動とは、個人の動きに比べて非常に緩慢である。
間に合わないかもしれない。
アドミラルの脳裏に、それがよぎる。
それ程の速さ。
間一髪、間に合った。
迎撃の体制が整う。
しかし、それは幸いとはならなかった。
アドミラルは、今思い出しても背筋が凍る思いである。
自然界において、狩りとは、群れから逸《はぐ》れた獲物から狙われるものである。
あの獅子にとって、小賢しく回り込もうと、本体から”逸《はぐ》れた”アドミラル達はまさしく、その獲物であったのだ。
凄まじい勢いと脚力。
獅子は、高く飛び跳ね、槍衾を飛び越えると、アドミラル達の後ろ脚から半分を、そのまま食いちぎって、またどこかへと走り去っていった。
あっと言う間の事。
50%近くの損耗、戦略的な見方をすれば、アドミラルの部隊は一瞬で壊滅した。
アドミラルは後に聞くことになる。
彼等、右翼よりも先に、左翼部隊の先端が襲われ、此方は文字通りの意味で全滅していたというのだ。
アドミラルは自覚した。
己がこうして生きているのは、ただ運が良かっただけなのだ、と。
もし、あの獅子が出会ったとき、それが未だ空腹であったのならば、自分たちは平らげられていたであろう、と。
故に、スカリオンも動けない。
逸れ者を出さないように、ひたすらに固くかたまり、どちらも一進一退の状況が長く続く事となった。
アーシャは、今日も前線に立っていた。
「おら! ウチより前に出んな!」
本来であれば、現状に対して、一番イラついていそうな性格をしているアーシャ。
しかし、その日、アーシャはとにかく堅実に戦をしていた。
味方が突っ込み過ぎるのを諫め、逆に、敵が勢い付こうとすれば、その鼻ずらにはしっかりと杭を打ち込む。
空気を感じ、前線に居ながらも、その様な指揮を行っていた。
そもそも彼女は凡将でも、愚将でもない。
常に前線に立ち続けて来た、彼女だから出来る達人技。
嫌な予感がする。
その勘がアーシャに強く囁くのだ。
故にアーシャは決して、攻めすぎない。
良いのだ。
闇燦師団は、人間しかいないスカリオン軍と比べて、体力に大きな優位があった。
長引けば、それだけ、勝機は闇燦師団に傾くのだ。
とにかく守れ、犠牲を減らせ。
それがアーシャの指示であった。
この日は、ひとまずそれで終わりそうだ。
そうして、夕刻を迎えそうな時になって。
しかし、流れが変わった。
「団長。モニカが到着しました。」
オニツカが態々、前線にまで出て、アーシャに耳打ちした。
「……ちっ!」
アーシャは二重の意味に舌打ちする。
一方は、おっとり刀で現れた団員への苛立ち。
そして、もう一方は、本来後方にいるオニツカが前線に居るという事へである。
それは、”この位置を後方とする程に前へ攻める気である”という意思表示に他ならなかった。
黒く、大きな影が、上空を素早くかけて行った。
その者の召喚には、闇のマナのみを8マナも要求される。
多くの土地を支配するアニムにしても、特殊なカードを使用せねば召喚する事、叶わない存在。
※UC再生のリチュアル 闇水土
闇闇闇闇闇を生み出す
彼《か》の者を召喚し、その存在を前にアニムは言った。
------この何処までも闇に染まった常闇の塊。
------お前を見ていると、「悪」という言葉の古い意味を思い出すよ。
------古い言葉で「悪」とは。
「guwaaaaaaaaaaa!!!!」
※R闇の末裔 グラドロモニカ 闇闇闇闇闇闇闇闇 デーモン・ドラゴン
飛行 生命吸収
グラドロモニカの与えるダメージは-1/-1カウンターとして与えられる。
グラドロモニカがプレイヤーにダメージを与えた時、対戦相手は全ての手札を捨てる。
8/8
------強いという意味だ!
敵陣中央に、巨大な黒炎の球体が着弾し、一帯を抉る様に消失させた。
「相変わらず、人に産まれたことを後悔してしまうほどの強さですね……。」
そう言うオニツカを、アーシャは一瞥した。
人の身では、越えられなかった何かに、彼は直面した事があるのだろうか。
副師団長という近しい立場である青年の過去を、アーシャは存外何も知らなかった。
そして、今回も敢えては聞き返さない。
此処は戦場であり、そんな場合ではないのだから。
「……ちっ! 遅刻しておいてデカい面してんじゃねーよ……。おい! 攻めるぞ!」
未だ、アーシャの勘は”守れ”と囁き続けていた。
しかし、グラドロモニカによる攻撃で、敵は大混乱に陥っていた。
慎重すぎる指揮官は勝機を逃すと、ここで攻めに転じなくては、士気にかかわる。
スカリオン軍は動揺しながらも、なんとか対応を試みた。
しかし、圧力を増した前からの攻撃と、防御の難しい上空からの超越的な攻撃に、軍はすぐさま瓦解しかけた。
しかし、好事魔とは、どこにでも現れる者である。
アーシャの肉体は確かに固く、傷つかない。
ただし、味方はそうではなく、敗戦の経験も少なくなかった。
勝ち戦も負け戦も、数多の戦場を渡り歩いた。
そのアーシャの勘と言う物は、ないがしろにするには、あまりに大きな要素だった。
それを無視するが故に、悲劇は起きるのだ。
猟銃の照準越しに、オニツカは見た。
スカリオン軍に突如現れた、けして人間ではありえない生物。
そして、その攻撃から味方を守ろうとしたアーシャが、首をあらぬ方向へと曲げ、吹き飛んでいくところを。
「団長ーーー!!?」
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