ミコ・サルウェ

(ノベリズム版)
皆月夕祈
皆月夕祈

晩春遊園会1

公開日時: 2022年11月8日(火) 16:15
文字数:2,577

 季節は晩春。

 ミコ・サルウェ、ソール・オムナス宮では、中庭の作庭を利用した花見、遊園会が催されていた。

 


 ソール・オムナスの中庭は、時間から切り取られたように、一年中が暖かった。

 故に、そこは季節など無関係に、花が咲き乱れている空間であって、いつ見ても、そう変わらない美しさが、そこには保存され続けていた。


 では、何故、今更遊園会など開いて、花見をやる事になったのか。

 勿論、それには理由が存在し、そこには五色の団長が一人、群緑のベスティアが大きくかかわっていた。

 

 

 スカリオン、ベンデルの戦争以降、拡大した王国を防衛するために、其々の師団は各地にわかれ、それまでと違い、各々は本拠地を王都とは別にしていた。


 赤武師団は、西の旧スカリオンの首都オベリオン。

 天白師団は北の旧ベンデル国の首都ゴルド。

 蒼海師団は南西の港町アルテラ。

 群緑師団は北西の城塞都市ラピリス。


 と、なっており、闇燦師団のみは、王都に残って、今までと同様に、首都とその周囲の防衛を任される編成となっていた。

 余談であるが、スカリオン戦の前までは、闇燦師団は五色でもっとも弱いと言われていたのである。

 しかし、コルノ平原での戦いに打ち勝ったという戦果を挙げた。

 そして、こっちはもっと余談であるが、兵舎とは言え、王都に住めるという理由から、もっとも入隊希望が多い軍団となっていた。

 

 この事実を聞いたアニムが、

「やっぱ東京か……。」

 と呟いた、その意味を知るものは誰もいなかった。


 さて、閑話はこの辺りで終えて、今回話したい事は、群緑師団の本拠地、ラピリスの話である。

 現在のラピリスは、ベンデル時代の荒森ではなく、春には下草が花を咲かせ、夏はラピリス湖の水草が湖面を賑わし、冬に雪は降らないが、秋には木々が朱々とその葉を輝かせていた。

  

 ミコ・サルウェでもっとも自然豊かな大都市、ラピリス。

 そんな四季を感じる街をねぐらにしているベスティアは、師団長である為に、半年に一度、定期報告としてオムナス宮に帰城しなくてはならなかった。

 

 そして、その帰り際、彼女は、今回の園遊会の原因となる大失言をやらかす事となるのだ。


「ここは、いつ見ても同じで、全然面白くない。」



 別にベスティアの性格が悪いとかではない。

 ただ、発言や態度に、配慮が無いのだ。

 故に、彼女は、本当に余計な事を、よく言う女であった。


 ソール・オムナスにおいて、修羅場が形成された。


 中庭を管理していた花妖精は勿論の事、王を喜ばせようと、手の空いた時には、花妖精達を手伝っていた近侍の者達や文官達、その全てが激怒したのだ。

 花と平和を愛する花妖精が「あのどら犬、覚えておきなさい」と吐き捨てたのは、城が出来上がって以来の大珍事である。

 

 この作庭は、ソール・オムナスの庭、只意味も無く花を咲かせている訳では無いのだ。

 ソール・オムナスは、アニムを守る城であると同時に、アニムを祀る神殿である。

 咲き続ける花は国民の姿であって、庭という形をした、花妖精に出来る最大限の賛美であるつもりであったのだ。

 

 それは、激怒もしよう。

 

 正直に白状すれば、一部の者達は、内心ではベスティアと同じような事を考えたことはあった。

 

 ただ同時に、彼等は、何も本人を前に堂々と口にせずとも良かろうと言う事でも一致した考えであった。

 

 

 別に、法を犯した訳でもない故、法の遵法者である三舌もベスティアを罰するわけにはいかなかったし、ましてや軍法会議に掛ける様な話でも到底ない。

 とは言え、このまま放って置いても、良くない”しこり”となる事は目に見えていたし、現状でも、国政が一部麻痺する状況が発生していた。

 

 そして、事件は更に発展していく。

 最終的に裁可は直属の上役であるアニムに頼もうと、話はまとまったのだが、この時、アニムは、大きな頭痛の種を一つ抱えていたのだ。

 そして、余計な懸案を増やしたベスティアに苛立ち、執務席の肘掛けを殴りつけて、陳情に来たプロセンと、ネルフィリアを凍り付かせるという事が起きた。


 ------これは、相当大きな鉄槌が下されるか?


 ------もしかして、この様な些事に巻き込んだ我々に、主は怒りを抱いておられるのでは?


 ------これで、私の周囲が少しでも平和に成れば良いのだが。


 各々、考える事は様々だが、おかげで、何か凶事がある訳でも無いのに、ピリピリと宮中は殺気だち、そして、それに浮足立つ者達。


 実の所、アニムは、花妖精達が何故これ程、怒っているのか、その理由を解っていなかった。

 アニムが綺麗だと賛辞を送れば、彼等は満足するし、貴方を讃える作庭です等と、彼も態々説明したりはしなかった。

 こういう物は、まさしく言わぬが花なのだ。


 しかし、アニムとしては信頼のおける配下であるベスティアを更迭や、降格などという事はしたく無いし、出来れば庇いたい所である。

 とは言え、只庇うだけでは、花妖精たちの面目がたたない事は、アニムも解っている。


 結果、ベスティアに関しては、実刑罰を与える事は出来ないが、即刻王都に呼び戻された。

 そして、謁見の間にて、アニムから直接叱責を受けた上で、その場で事前に用意させた始末書の提出。

 死刑の方がマシだったと、ベスティアが泣いた、超ド級の醜態を晒す事で決着がついた。

 憐れとは思っても、彼女を庇う者はいない。

 それ位にまで、事態は発展していたのだ。



 対して、花妖精には、どう報いてやれば良いか。

 喧嘩両成敗と言っても、流石に今回、花妖精を責めるのは違うし、むしろ何か名誉挽回の場を作ってやらねば、事態は完全な手打ちとはなるまい。

 

 であれば、花見と称して、何か見せ場となる企画を作ってやる事で、収めてはどうかと、アニムは提案した。

 

 そして、それを受けた花妖精や文官達の間で話し合いがもたれ、企画の内容が決定されていく事になる。

 当初、花見は年に一度の予定であったが、ベスティアに変化が無いとぼやかれた事を、殊の外意識した花妖精たちは、それでは納得しなかった。


 要望されたのは毎月の12回。

 

 しかし、それは流石に数が多いと、年に4度。


 晩春、晩夏、晩秋、そして初春。

 

 数は減ったが代わりに、アニムも参加するという事で、つり合いを取った。

 これは、ただの行事から、宮中の祭事へと扱いが繰り上がったという事である。


 内容としては、「来(今)季の作庭は、この様な形です」という、お披露目の様な意味合いを持って、開催される事となった。



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