いったい何が起きているのか、もっとも事態を把握していた者は、アエテルヌムより離れ、ソール・オムナスにいるアニムであった。
ここで一つ、背景としてEOE内にある昔話をしよう。
とある所に、変わり者のデーモンがいた。
彼は古く、力のあるデーモンであった。
そして、あろうことか、この変わり者は、一人の天使に恋をしてしまうのだ。
しかし、当然、この思いを伝える事は叶わず、変わり者のデーモンは苦しんだ。
そんなデーモンを見て、面白がる、更に古いデーモンがいた。
さらに古いデーモンは、変わり者のデーモンを揶揄う為に、彼に悪戯を仕掛けた。
天使を唆し、堕天させたのだ。
そして、「さあ、想いを伝えれば良い。」と嗤った。
変わり者のデーモンは、激怒した。
彼は本当に変わり者だ。
デーモンにありながら、天使の全て、その清純さすら愛していたのだ。
戦いが始まった。
それは他の強大なデーモンたちを巻き込んで。
歌うデーモン ゾル・アトワン
囁くデーモン ポルコーグス
堕天使 イルサーブ
大笑いのデーモン プレヴィオーグ
闘争のデーモン カーゼィ=アンカ
束縛するデーモン コマシネオロス
彼らは三日三晩、戦いを続けた。
その戦いは凄まじく、戦いの余波で大地は抉られ、生命はひどく侵された。
そして、ついに変わり者のデーモンは、天使を唆した更に古いデーモン、その力の源である”喉”を炎の槍で穿ち、戦いに勝利したという。
しかし、この話はとある神殿の壁板《へきばん》に書かれた物語であり、その後の事は語られず、中途半端に物語は終わるのだ。
そして、ソォールたち、蠢くインプ団のフレーバーテキストには、こうある。
※UC蠢くインプ団 闇闇
蠢くインプ団が場に出た時、1/1のインプトークンを2体場に出す。
1/1
FT--------かつて強大な力をもった悪魔も、こうなってしまっては一山いくらでドラゴンの餌だ。
神の嫌気に触れたか、互いの争いの果てに、力が削がれたのか。
何があったかは不明にしろ、おそらくは”そう”いう事なのだろう。
次に、果敢なファオルトナ教の弟子は、”果敢なファオルトナ教の弟子”が破壊されたとき、ユニット一体をゲームから取り除き、すぐに場に戻す”という能力を持っていた。
普段は、港町のスプライト(場に出た時、カードを一枚引く)の様な、カード能力を使いまわす目的で使用されるカードであった。
そして、ルール上、ゲームからユニットを取り除く場合、それまでの蓄積されたダメージないし、あらゆる強化《バフ》、弱化《デバフ》は取り除かれる。
故に、ケニスが守ろうとした、ポックスが一度、世界より除外され、これにより、囁きのデーモンとしての力を取り戻した、ポルコーグスが世界に顕現する事になったという事であろう。
囁きのデーモンはデーモンの中でも最古に近しい存在であり、言葉の力の体現者。
ユニットの力は記載事項には収まらない。
何故そうしたのか、享楽的な彼の思考は、アニムには理解できなかった。
ただ、恐らく、彼の言葉が他のインプ達の魂の奥底に存在した、本来的な存在を呼び覚ましたのだろうと思えた。
アニムが推察できたのは、ここまでである。
アニムは眉を顰め、クニシラセを見つめていた。
アエテルヌムの南、イロンナの果樹林では、すでにアーシャ達、闇燦師団の者達が到着し、戦いが始まっていた。
イロンナの果樹林に比べて、アエテルヌムに対するスカリオンの侵攻速度はあまりに早く、アニムは断腸の思いで、手遅れと判断した。
アエテルヌムを敢えて避け、闇燦には、イロンナの防衛を優先させた。
結果的にはそれが正しく働き、イロンナの侵攻割合は、そこでほぼ膠着する。
そして現在、アエテルヌムは、敵も国民も、現状で壊滅状態、その上でデーモンたちは大戦の再現を始めていた。
彼らをどうするべきか。
まず、彼等を止めなくてはいけない。
アニムは、そう考えて、クニシラセを介し、彼らに呼びかけを行う。
しかし、応答はない。
彼らは、アニムが意図して生み出した存在では無いからか、それとも、もとは固有名を持つユニットでは無いからか。
アニムは顔を歪めた。
そこへ。
(……そもそも、止めた所で、どうするのだ……?)
アニムの中で、もう一人の自分が囁きかけてくきた。
デーモン種族のユニットは、強力である代わりに、癖のあるユニットが多い、という特徴があった。
そして、それは時に、他人との共存を、致命的なものとしてしまうのだ。
※歌うデーモン 闇闇闇③
飛行 全てのユニットは-2/-2の修正を受ける
7/7
ヒューイ達が衰弱したのは、この為であり、
※大笑いのデーモン 闇闇③
毎ターン全てのユニットに、1点のダメージを与える。
5/6
死亡したのはこの為であった。
この能力に敵味方の区別はなく、彼等を国民として迎え入れる事は、そもそも難しい事であるのだ。
そして、アニムは”ある意味で”彼らを止める事が出来た。
アニムは、クニシラセの手札欄に表示される、一枚のカードを見つめていた。
※神の審判 光光②
すべてのユニットを破壊する。
俗にリセットボタン。
カードゲームであれば、本当に全てのユニットを破壊できる呪文だ。
しかし、この世界での”全て”はその土地内のという意味である事は、幾度もの、実験で解っている事である。
歌うデーモン、大笑いのデーモンの効果が、他の土地にまで波及していないのも、これが理由であろう。
(今であれば、彼ら以外アエテルヌムに、ユニットはいない。)
彼等のみを破壊すれば、これ以上の被害、その一切は抑えられる。
しかし、ここでアニムは、己の中の自己矛盾に気付き、手を止めた。
元は、アニムの召喚により産れた存在。
しかし、彼等はすでに自らの意思を得て、生きている。
-----今は有事、そんなことを考えている場合ではない。
また、もう一人の自分がアニムの中で囁いた。
解っている。
しかし、アニムは極力、政治から離れる努力をしてきた、味方同士の殺し合い、という罪はあれど、すでに罪の裁可はアニムの手にはないのだ。
故に常のアニムであれば、その後に彼らが裁かれる事を含めて、意思を尊重すべきと考えただろう。
そうでなければ、アニムの王座は、自らの都合、不都合で生命を弄ぶ、惨めな人形遊びの台座へと変り果てる、そんな気がしていた。
アニムは葛藤する。
しかし、だらだらとしている暇はない。
熱くもないはずなのに、アニムの額に汗が浮かんでいた。
「ふうー……。」
アニムは一つ深呼吸をすると心を決めた。
できれば取りたくなかった選択肢。
「……。」
しかし、それは現実の問題として、選ばねばならない、唯一の選択肢として目の前に存在した。
傍観は許されない。
自らの愚鈍さが生んだ悲劇。
それから何も学ばず、また新たな悲劇の萌芽を、見て見ぬ振りをする事の愚かさ、そんなものを自覚するくらいならば。
そんな思いでアニムはクニシラセを操作した。
そして、この決断をアニムは後悔し、大きな自戒とした。
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