ミコ・サルウェ

(ノベリズム版)
皆月夕祈
皆月夕祈

神判2

公開日時: 2022年10月9日(日) 16:15
文字数:2,790

 いったい何が起きているのか、もっとも事態を把握していた者は、アエテルヌムより離れ、ソール・オムナスにいるアニムであった。

  

  

 ここで一つ、背景としてEOE内にある昔話をしよう。

 

 とある所に、変わり者のデーモンがいた。

 彼は古く、力のあるデーモンであった。

 そして、あろうことか、この変わり者は、一人の天使に恋をしてしまうのだ。

 

 しかし、当然、この思いを伝える事は叶わず、変わり者のデーモンは苦しんだ。

 

 そんなデーモンを見て、面白がる、更に古いデーモンがいた。


 さらに古いデーモンは、変わり者のデーモンを揶揄う為に、彼に悪戯を仕掛けた。

 

 天使を唆し、堕天させたのだ。

 そして、「さあ、想いを伝えれば良い。」と嗤った。

 

 変わり者のデーモンは、激怒した。

 

 彼は本当に変わり者だ。

 デーモンにありながら、天使の全て、その清純さすら愛していたのだ。

 

 戦いが始まった。

 それは他の強大なデーモンたちを巻き込んで。

 

 歌うデーモン ゾル・アトワン

 囁くデーモン ポルコーグス

 堕天使 イルサーブ

 大笑いのデーモン プレヴィオーグ

 闘争のデーモン カーゼィ=アンカ

 束縛するデーモン コマシネオロス

 

 彼らは三日三晩、戦いを続けた。

 その戦いは凄まじく、戦いの余波で大地は抉られ、生命はひどく侵された。

 

 そして、ついに変わり者のデーモンは、天使を唆した更に古いデーモン、その力の源である”喉”を炎の槍で穿ち、戦いに勝利したという。

 

 


 しかし、この話はとある神殿の壁板《へきばん》に書かれた物語であり、その後の事は語られず、中途半端に物語は終わるのだ。

 

 

 

 そして、ソォールたち、蠢くインプ団のフレーバーテキストには、こうある。

 

 

 ※UC蠢くインプ団 闇闇

 蠢くインプ団が場に出た時、1/1のインプトークンを2体場に出す。

                1/1


 FT--------かつて強大な力をもった悪魔も、こうなってしまっては一山いくらでドラゴンの餌だ。


 神の嫌気に触れたか、互いの争いの果てに、力が削がれたのか。

 何があったかは不明にしろ、おそらくは”そう”いう事なのだろう。

 

 次に、果敢なファオルトナ教の弟子は、”果敢なファオルトナ教の弟子”が破壊されたとき、ユニット一体をゲームから取り除き、すぐに場に戻す”という能力を持っていた。

 

 普段は、港町のスプライト(場に出た時、カードを一枚引く)の様な、カード能力を使いまわす目的で使用されるカードであった。

 

 そして、ルール上、ゲームからユニットを取り除く場合、それまでの蓄積されたダメージないし、あらゆる強化《バフ》、弱化《デバフ》は取り除かれる。

 

 故に、ケニスが守ろうとした、ポックスが一度、世界より除外され、これにより、囁きのデーモンとしての力を取り戻した、ポルコーグスが世界に顕現する事になったという事であろう。

 囁きのデーモンはデーモンの中でも最古に近しい存在であり、言葉の力の体現者。

 

 ユニットの力は記載事項カタログスペックには収まらない。

 何故そうしたのか、享楽的な彼の思考は、アニムには理解できなかった。


 ただ、恐らく、彼の言葉が他のインプ達の魂の奥底に存在した、本来的な存在を呼び覚ましたのだろうと思えた。

 

 アニムが推察できたのは、ここまでである。

 

 アニムは眉を顰め、クニシラセを見つめていた。

 

 アエテルヌムの南、イロンナの果樹林では、すでにアーシャ達、闇燦師団の者達が到着し、戦いが始まっていた。

 

 イロンナの果樹林に比べて、アエテルヌムに対するスカリオンの侵攻速度はあまりに早く、アニムは断腸の思いで、手遅れと判断した。

 

 アエテルヌムを敢えて避け、闇燦には、イロンナの防衛を優先させた。

 

 結果的にはそれが正しく働き、イロンナの侵攻割合は、そこでほぼ膠着する。


 そして現在、アエテルヌムは、敵も国民も、現状で壊滅状態、その上でデーモンたちは大戦の再現を始めていた。

 

 彼らをどうするべきか。

 

 まず、彼等を止めなくてはいけない。

 アニムは、そう考えて、クニシラセを介し、彼らに呼びかけを行う。

 

 しかし、応答はない。

 

 彼らは、アニムが意図して生み出した存在では無いからか、それとも、もとは固有名を持つユニットでは無いからか。

 

 アニムは顔を歪めた。

 そこへ。

(……そもそも、止めた所で、どうするのだ……?)

 アニムの中で、もう一人の自分が囁きかけてくきた。

 

 デーモン種族のユニットは、強力である代わりに、癖のあるユニットが多い、という特徴があった。

  

 そして、それは時に、他人との共存を、致命的なものとしてしまうのだ。


 ※歌うデーモン  闇闇闇③

  飛行 全てのユニットは-2/-2の修正を受ける

 

                7/7

 

 ヒューイ達が衰弱したのは、この為であり、 

 

 ※大笑いのデーモン 闇闇③

  毎ターン全てのユニットに、1点のダメージを与える。

 

                5/6


 死亡したのはこの為であった。  

 


               

 この能力に敵味方の区別はなく、彼等を国民として迎え入れる事は、そもそも難しい事であるのだ。

 

 そして、アニムは”ある意味で”彼らを止める事が出来た。

 アニムは、クニシラセの手札欄に表示される、一枚のカードを見つめていた。

 

 ※神の審判 光光②

  すべてのユニットを破壊する。

 

 俗にリセットボタン。

 カードゲームであれば、本当に全てのユニットを破壊できる呪文だ。

 

 しかし、この世界での”全て”はその土地内のという意味である事は、幾度もの、実験で解っている事である。

 歌うデーモン、大笑いのデーモンの効果が、他の土地にまで波及していないのも、これが理由であろう。

 

(今であれば、彼ら以外アエテルヌムに、ユニットはいない。)

 

 彼等のみを破壊すれば、これ以上の被害、その一切は抑えられる。

 

 しかし、ここでアニムは、己の中の自己矛盾に気付き、手を止めた。

 

 元は、アニムの召喚により産れた存在。

 しかし、彼等はすでに自らの意思を得て、生きている。

 

-----今は有事、そんなことを考えている場合ではない。


 また、もう一人の自分がアニムの中で囁いた。

 解っている。

 


 しかし、アニムは極力、政治から離れる努力をしてきた、味方同士の殺し合い、という罪はあれど、すでに罪の裁可はアニムの手にはないのだ。

 

 故に常のアニムであれば、その後に彼らが裁かれる事を含めて、意思を尊重すべきと考えただろう。

 

 そうでなければ、アニムの王座は、自らの都合、不都合で生命を弄ぶ、惨めな人形遊びの台座へと変り果てる、そんな気がしていた。

 

 アニムは葛藤する。

 しかし、だらだらとしている暇はない。

 

 熱くもないはずなのに、アニムの額に汗が浮かんでいた。


「ふうー……。」


 アニムは一つ深呼吸をすると心を決めた。

 

 できれば取りたくなかった選択肢。


「……。」


 しかし、それは現実の問題として、選ばねばならない、唯一の選択肢として目の前に存在した。

 傍観は許されない。


 自らの愚鈍さが生んだ悲劇。

 それから何も学ばず、また新たな悲劇の萌芽を、見て見ぬ振りをする事の愚かさ、そんなものを自覚するくらいならば。

 

 そんな思いでアニムはクニシラセを操作した。

 そして、この決断をアニムは後悔し、大きな自戒とした。

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート