ミコ・サルウェ歴51年 5月7日 ミコ・サルウェ王アニムより、宣戦の詔が発布された。
両軍が出陣を急いだ結果、御前会議の翌日の夕刻には、ミコ・サルウェ、スカリオンの両軍が、両国のちょうど真ん中、コルノ平原と呼ばれる地でぶつかり合う事となった。
ミコ・サルウェ側としては、天白師団の団員が、上空からスカリオン軍を認識しており、接敵はある程度、予想出来ていた。
しかし、スカリオン側は半ば遭遇戦のような形で接敵してしまった為に、非常に浮足立ったまま戦闘が始まる事となる。
混乱の要因は、闇燦師団の兵たちの容姿も理由の一つかもしれない。
余程、混乱したのか。
その様は、戦闘のさなかに降伏の勧告書を携えた使者が、ミコ・サルウェ側にやってくる程であった。
そして、その内容も、始めは蛮族呼ばわりに始まり、スカリオン側がミコ・サルウェの国民を拉致しておいて、天使を解放すべしと綴り、締めには、従わねば天使に変わり、我々が貴様らに天罰を下すだろう、と言いたいことだけ散々に述べる事で終わる。
酷い内容である。
”お互い様”ではあるが、ミコ・サルウェからすれば、スカリオンという国は全く意味不明な信仰を持っている国である。
言葉の意味は解る。
とはいえ、何を言っているのか、ミコ・サルウェ側は誰も理解できず、その上、すでに戦闘は始まっていた。
使者は丁重に返され、降伏勧告書は黙殺される事となった。
なお、ミコ・サルウェにおける、仕える神を見つけた天使と言う者は、やりたいことが見つかった”フリーター就活生”くらいの意味合いである。
もっとも、フリーターの社会的地位が、日本の”それ”とは違う為、まったくもって同じと言う訳でもないのだが。
ミコ・サルウェという国家に対して、フリーターが落とす天罰と言う物が、どういう物か、出来の悪い詩文でも、もう少し解り易く書いてあるはずである。
アニムは、”霧”の晴れたコルノ平原の様子を、離れたソール・オムナスの地より見守っていた。
コルノ平原は、背の低い草が繁茂する平原で、高低もほとんどなかった。
故に、平原から出ない範囲であれば、伏兵に注意する必要はお互いあまりないし、アニムの目を出し抜いて、急襲するには、数日かけて、後にミコ・サルウェが関わる事になるオリエテムに入り、そこから大回りして、ミコ・サルウェ国内へ侵入するという、あまりに非現実的、非効率的な事をする必要があった。
ミコ・サルウェ側の布陣は予定通り。
闇燦師団を正面に据えて、群緑師団が遊撃としてバックアップする形。
アニムも読書は嫌いではない。
軍記物語の本の一冊くらいは、読んだ事はあった。
とはいえ、素人の分際で鶴翼だの、車懸りだの、ほざく事は無かった。
今まで、生きた戦場で戦ってきた者たちがいるのだ。
彼等もアニムが言えば、無視はできない。
ど素人が口を出して、現場を混乱させるような、みっともない真似は、アニム自身がもっともしたくない事であった。
アニムの仕事、その八割は”信じる”事としていた。
アニムから見て、戦争は今の所、順調な様に思えた。
総大将はアーシャ。
総大将が打ち取られたからと言って、戦に負ける。
そんなルールはこの世界に在りはしない。
とはいえ、不思議な女であった。
普段、誰かが隙を見せれば、すぐに仕事をサボり、本人の品性も劣悪粗野《れつあくそや》。
だというのに、人をひきつけ、こと戦争になれば、誰よりも最前線に立ち、仲間を守る堅牢な盾となり、同時に味方を鼓舞して見せた。
アーシャは、彼女であればと、歪みの無い安定、安心感をアニムや周りの兵たちに与えた。
唯一の懸念とすれば、アニムによって託された炎鍛冶の剣は、未だ、抜かれることなく、アーシャの腰にある事であろうか。
信じるだけとは、存外つらい事である。
このまま、何事もなく、押し切れれば、それが一番良い。
アニムはそう願った。
しかし、どうしても不安は拭えず、クニシラセを見つめる眉間に、力が入るのを止められなかった。
ゲームの戦争など、どれほど楽であったか。
軍事力も人命も、戦闘力10の部隊は、戦闘力10の部隊であり、捕虜1はただの捕虜1という数字でしかない。
そこに人格もなければ、親も家族も、恋人も無かった。
実の所、闇燦師団は、生きる意味を見出せぬ者、死を望む者、ただ死を待っている者、そういった者が多く所属しているという、かなり特異な師団であり、その割合は師団の2/5を超えた。
EOEは戦いの物語だ。
悲惨な話や、過去を持つ者が沢山いる。
アーシャを始め、オニツカもそうである。
人肉すら、錬金培養で作り出せるミコ・サルウェでは、人食いである事、それだけでは、共存の妨げにはならなかった。
チェンジリングで人に育てられ、ある時覚醒し、育ての親を食い殺してしまった人食い。
狂った孤児院の牧師によって、複数の意思を残したまま、つぎはぎ造られたマーダーレギオン。
我が子の転生体を探して、子供を殺して周り、ついには魔物となり果てた魔女……。
悲劇は何処にでも蔓延していた。
本来、闇燦師団の主任務は、国の防衛と警察である。
この様に配置したのは、他ならぬアニムだ。
闇燦の軍旗は、幾度も蘇るとされる不死鳥。
前線ではなく、他の国民に最も近い所におり、生まれ変わったように過去の頸木から逃れ、新たな繋がりを作ってほしい。
それがアニムの願いであった。
無論、それが上手く行っていない事は知っていた。
だからこそ、闇燦の者達が、アエテルヌムをここまで怒りに思ってる事を、アニムは予想出来ていなかった。
これはアニムに対して、火薬樽に火種を投げ入れた様な衝撃を与えた。
アニムが、まさか本人たちに、国民達《かれら》の死が悲しかったか?等と確認するはずはない。
アニムの淡い期待、独りよがり。
そうなのかもしれない。
しかし、だとしても、彼女たちの思いを無碍にすることは出来なかった。
(……未熟な王ですまない。……愚かな王ですまない……。)
口には出せず、アニムは、心の中で全ての国民達に謝罪した。
アニムは信じる事以外に残された2割。
うち一割を”見る”事とし、もう一割を行う為に、クニシラセの上で指を走らせた。
(ならば、せめてこの戦い、勝たせてやらねばならない。)
アニムは一枚のカードを選択し、戦場であるコルノ平原に使用する。
※UCまがまがしき軍勢 闇闇②
全ての味方ユニットはターン終了まで、+2+0の修正を受ける。
その瞬間、ミコ・サルウェ軍全体を、薄っすらと黒いオーラが覆い、スカリオンの軍勢を一気に押し込んでいった。
突然の事に、敵だけではなく、味方すらも小さく動揺する中、すぐさまそれをアーシャが察知し、声を張った。
「敵が疲れて、弱っているぞ!! この好機を逃すな!」
自らへの不信を、敵の弱化とすり替える。
あっと言う間に士気を立て直して見せた。
しかし、敵もやられるばかりではない。
「天使様が見ているぞ! 立て直せ! 化け物共に押し込まれるな!」
スカリオンの指揮官の一人が、戦場全てに響いたのではないか、と言うほどの大声で大喝した。
彼によって、スカリオンの兵も勢いを取り戻し、押しは出来ずとも、なんとか粘り強く、辛うじて崩壊だけは防いだ。
「……っち。良いのがいるじゃねえか。」
アーシャは眉を上げ、一瞬、瞠目すると舌打ち一つ、相手を褒めた称えた。
------ドゥン!!
腹に響くような破裂音が、”ミコ・サルウェ軍”から上がる。
すると、先ほどのスカリオン指揮官である彼は、頭部を粉砕されて、びくりびくりと痙攣しながら倒れ伏した。
音の発生源。
そこには、白面の男が、猟銃を身体近く、地面からほぼ水平に構えた姿勢で立っていた。
彼の周りにいる者たちは、エルフの女を除き、音がした瞬間に、びくりと身体を震わせる。
そして、反射的に手で頭などを守り、縮こまっていた。
彼らが特段、憶病という訳ではない。
彼らの常識に即していえば、音の出る遠距離攻撃といえば魔法であった。
魔法と言えば、発射音は”小さく”、着弾点では”大きな”音を立てて、爆発や発火、など、何らかの現象を引き起こす物であった。
しかし、男の武器は発射音が”大きく”、着弾点では”小さな”音を立てて、敵を死に至らしめた。
男は未だ、何が起こったか理解できず、周りをきょろきょろとしている味方を一瞥すると、小さく首をふり、
「お構いなく」
そう言って、再び照準を覗き込んだ。
彼は闇燦師団、副師団長。
※Rキョウスケ・オニツカ 光光③
キョウスケ・オニツカに-1/-1カウンターを一つ載せる。
ユニット一体に、このカードの攻撃力分のダメージを与える。
6/2
※R宝石の森の守り手 リーフェ 土土
味方ユニットに-1/-1カウンターが置かれる場合、そのユニットに+1+1カウンターを一つ置く。
1/3
※-1/-1カウンターと+1/+1カウンターは相殺される。
その後、良く守ったが、夜が来たこともあり、スカリオンは軍の体制を立て直すためか、殿(しんがり)を置いて一度引き、改めて布陣を固めなおした。
初日、スカリオンは300、ミコ・サルウェは70程の損失を出し、残るスカリオン軍1200に対して、ミコ・サルウェ軍は群緑を含めて800程が残存。
攻防の損耗比率としては、ミコ・サルウェの勝ちである。
しかし、まだまだ、最終的な勝敗を論ずるに値《あた》はず。
戦いは翌日へと持ち越される事となった。
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