手持ち花火で文字を書いてみたり、ロケット花火を飛ばしてみたり、僕らは一通り楽しんだ。
最後に残った線香花火を手に取る。
「ひよしさん、どっちが最後まで火種が落ちないか勝負しよ」
「おーいいぜ。俺が勝つけどな」
「僕だって負けないし」
僕とひよしさんは睨み合ってから、しゃがみこんだ。
そして、同時に線香花火に火を付けた。
「線香花火やると夏って感じだよね」
「だな。つーか最近暑すぎだよな。夏ってこんなに暑かったっけ?って思うよな」
「うん、思う。熱中症にも気をつけなきゃね」
そう言うと、何故かひよしさんから反応が返ってこなかったから、不思議に思ってひよしさんの方を見た。
「なぁ、空」
ひよしさんも僕の方を向いて言う。
「なに?」
「熱中症ってゆっくり言ってみてくんねーかな?」
「なんで?」
「いいから」
よくわからなかったけど言ってみた。
「ねっちゅーしょー?」
「もっとゆっくり」
「え…、ねっ…ちゅーしょー?」
「もうちょい感情込めて」
「はい?感情?んー…、ねっ…ちゅー…しょー?」
「了解」
「え、何が…っ、ん、んんぅ」
ひよしさんがいきなりキスしてきた。
「…っ、何…?なんでいきなり…?」
唇が離れ、僕は聞いた。
「ねぇ、ちゅーしよ?って言ったろ?」
「あ…」
そーゆーことか!
ハメられたとは言え、自分からせがんだみたいで、急に恥ずかしくなっちゃって僕は頬を赤らめた。
「そんで、俺の勝ちだな」
「え‥、あーっ」
いつの間にか僕の線香花火、火種落ちてた。
「ずるいよ、ひよしさん」
僕は唇を尖らせて言った。
「ちゅーしよ?って言ったのはお前だろ?」
そう言って、ひよしさんは笑顔を見せる。
その笑顔を見ると結局僕は何も言えなくなってしまう。
だって、大好きな笑顔だから。
「…えいっ」
僕はひよしさんの腕をつついて、火種を無理矢理落とした。
「あっ、おまっ…!」
ひよしさんが襲いかかって来る前に、僕は逃げた。
ひよしさんは「待てこら」って追いかけて来る。
なんか夏の夜の風が気持ちいい。
ねぇ、ひよしさん。
僕が制服を着ていられるのはあと1年半だし、線香花火は火種が落ちたら終わっちゃう。
でも僕は、ひよしさんとずっと一緒に居たいんだよ。
僕が大学生になっても
成人しても
社会人になっても
おじいちゃんになっても
ずっとね。
END
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