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(日常小話)線香花火③

公開日時: 2021年7月12日(月) 21:04
文字数:924

手持ち花火で文字を書いてみたり、ロケット花火を飛ばしてみたり、僕らは一通り楽しんだ。


最後に残った線香花火を手に取る。


「ひよしさん、どっちが最後まで火種が落ちないか勝負しよ」


「おーいいぜ。俺が勝つけどな」


「僕だって負けないし」


僕とひよしさんは睨み合ってから、しゃがみこんだ。


そして、同時に線香花火に火を付けた。


「線香花火やると夏って感じだよね」


「だな。つーか最近暑すぎだよな。夏ってこんなに暑かったっけ?って思うよな」


「うん、思う。熱中症にも気をつけなきゃね」


そう言うと、何故かひよしさんから反応が返ってこなかったから、不思議に思ってひよしさんの方を見た。


「なぁ、空」


ひよしさんも僕の方を向いて言う。


「なに?」


「熱中症ってゆっくり言ってみてくんねーかな?」


「なんで?」


「いいから」


よくわからなかったけど言ってみた。


「ねっちゅーしょー?」


「もっとゆっくり」


「え…、ねっ…ちゅーしょー?」


「もうちょい感情込めて」


「はい?感情?んー…、ねっ…ちゅー…しょー?」


「了解」


「え、何が…っ、ん、んんぅ」


ひよしさんがいきなりキスしてきた。


「…っ、何…?なんでいきなり…?」


唇が離れ、僕は聞いた。


「ねぇ、ちゅーしよ?って言ったろ?」


「あ…」


そーゆーことか!


ハメられたとは言え、自分からせがんだみたいで、急に恥ずかしくなっちゃって僕は頬を赤らめた。


「そんで、俺の勝ちだな」


「え‥、あーっ」


いつの間にか僕の線香花火、火種落ちてた。


「ずるいよ、ひよしさん」


僕は唇を尖らせて言った。


「ちゅーしよ?って言ったのはお前だろ?」


そう言って、ひよしさんは笑顔を見せる。


その笑顔を見ると結局僕は何も言えなくなってしまう。


だって、大好きな笑顔だから。


「…えいっ」


僕はひよしさんの腕をつついて、火種を無理矢理落とした。


「あっ、おまっ…!」


ひよしさんが襲いかかって来る前に、僕は逃げた。


ひよしさんは「待てこら」って追いかけて来る。


なんか夏の夜の風が気持ちいい。


ねぇ、ひよしさん。


僕が制服を着ていられるのはあと1年半だし、線香花火は火種が落ちたら終わっちゃう。


でも僕は、ひよしさんとずっと一緒に居たいんだよ。


僕が大学生になっても


成人しても


社会人になっても


おじいちゃんになっても


ずっとね。




END


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