無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*

ゲームから始まるゾンビ世界 ホラー部門カクヨム最高2位
夢乃
夢乃

第75話【森根サチは遊びが大好き】

公開日時: 2020年12月5日(土) 12:03
文字数:2,254

 サチの短いスカートから触れる下着越しの生暖かさと、全身が触れ合う女性の柔らかな肉体は中年のサラリーマンには少しばかり刺激が強いようで、サチはわざとらしく両肩を使って胸を内側に集めながら頬を赤らめる。


「あ、すいません」


(身長差からして適度に下着が見える角度、視線は優しく、適度に頬を赤らめて顔の角度は斜めから少し顔が見える程度……ちょ、完璧すぎるんですけど!)


 などと考えながら男物のYシャツはボタンの一番上が外れており、その隙間からちらりとシマシマ模様の可愛らしいブラが見えていた。おじさんとサチの身長差からギリギリ見える程度だが、首に巻かれているネクタイ代わりのリボンが邪魔をして、見えたり見えなかったりする光景はむず痒さを感じさせる事だろう。


「あぁ、大丈夫です」


 サチの謝罪にワンテンポ遅れて返事を返したおじさんは、その視線をサチから外すことが出来なくなっている。まじまじと眺められている状況は別に嫌いじゃない……減る物は無いし、得られる物の方が多い。


 この場合の得られる物とは、程よい刺激と想像通りに動いてしまうおじさんを眺める優越感。恥ずかしさは刺激を高めるためのスパイスに過ぎず、自らの遊びに付き合わせているのだから多少のデザートぐらいは用意するべきだろう。


 満員電車の揺れに逆らう形で、ビジネスバッグを持っているおじさんの手の甲がサチの下半身に適度に触れたり触れなかったりしている。人によっては声を上げそうなグレーラインだが、サチ的にはこれで勝ったとは言えない。


(ん~、面白さに欠けるなぁ)


 そのあと駅が停車してドアが開くと同時に人が数名抜けていき、数十名が入ってくる。それに合わせてサチは角度を変えると同時におじさんの正面に立ち、背中を押されながらそのまま体を密着させる。


 胸をおじさんの腕に挟むような体勢で、少しでもおじさんが手首を上にあげれば、大切な部分が触れられてしまうような状況に笑いを我慢できない。下を向きながらクスクスと肩を震わせていた。


(これはやばい……ギリギリって感じが最高。触れちゃう? 触っちゃう? 流石にこれは我慢できないよね? いいと思うよ、おじさん。これはしょうがないよね? だって女性の方からアプローチしてきてるもんね。触っても悪くないと私は思うよ?)


 サチの思考は痴女そのものだが痴女ではない。あくまでこれは遊びであり、自分の中のルールに従っているだけだ。もしも関係の無い場所で同じような事をされれば怒るし、警察に通報もする。しかし今回は娯楽が羞恥心を上回っており、目的を達成する事だけに思考を凝らしているため、あまり深い所まで考えていないだけだ。


 女子高校生に体を密着されてはおじさんも我慢が出来ず、震える指先がサチの下半身をこねくり回す様に動かした。サチはビクリと体を動かした後に目を見開いて、想像通りの展開に満面の笑みが漏れだす。


(あ、これは完璧に触ってるね……これはアウトだよ!?)


 しかしサチは特に抵抗しなかった。そして抵抗しないと分かるや否や、おじさんは調子に乗った様に激しく指先を動かしながら色々な部分に触れてくる。サチは長い期間続けてきた遊びが終わった事に多少の虚しさを感じながらもスマートフォンの無音録画機能を使い、自らが痴漢されている光景を証拠として動画に収めた。


「っあ……(ちょ、下着の中に指入れるのはやりすぎだよぉ……それにゲームは終わったんだよ?)」


 ある程度のスキンシップは許容範囲内だが、下着の中に指を潜り込ませようとするのはサチ的にもNGであり、おじさんの腕を力強く握りしめると同時に引きはがしてネクタイを握りしめると同時に耳元で「あんまり調子に乗るなよ……クソじじい」と、ドス黒い小声で囁いた。


 目玉を真ん丸と広げた大きな瞳がおじさんと重なり、頬をピクピクと動かしながら笑みを浮かべているサチの表情は不気味の一言に尽きる。その後スマートフォンの画面をおじさんに見せつけると同時にてへぺろ顔をしながら可愛らしい表情を向ける。


 スマートフォン画面には自分の顔と、自分がサチに痴漢した動画が映し出されており、酷く怯えたような表情を浮かべながらその場で頭を下げた。


「お~じさん……痴漢はダメだよぉ~。罰として、焼肉代を要求しちゃいますね。そしたら動画は削除してあげますよぉ?」


 周りに聞こえないサチの小さな声がおじさんに届く。しかし可愛らしい表情とは裏腹にその声は冷たい口調であり、背筋が凍り付くような感覚がおじさんを襲う。


「す……すいません。すいません。本当にすいません」


 何度も何度もサチに向かって謝るおじさんの姿があまりにも惨めで、滑稽で、そんな姿を見せられてはこちらが申し訳ない気分になってしまう。財布から出された万札を手で遮り「冗談ですよぉ。いらないですから……」とは言ったが、なかなか財布に戻さないので受け取る事にした。


 その場で動画を削除して、サチは学校の最寄り駅へと到着する。


 学校に到着する頃、サチは焼き肉の食べ放題が行けるほど財布の中身が潤っていた。金は天下の回り物と言うが、随分と好き勝手な理由で回ってきたものだと失笑する。


(まぁ、楽しかったし……いっか!)


 そして学校に到着したサチの髪を注意する教師はこの学校にいない。満員電車にいたおじさんの様に怯えた表情をサチに向ける教師たち。まるで悪魔を見るような視線がサチに突き刺さり、サチはいつも通りの笑顔を周りに振りまく。


 悪気はない――ただ楽しい事をしようとしただけ、他人を巻き込むと私の人生は楽しい。


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