俺は呆れた表情を浮かべ、ゆっくりとキーボードで打ち込む内容を考えながら、周りを巻き込めるかチャレンジしてみた。
《コメント(自分):マジレス、これどうすんの? 外出られないじゃん?》
一部の掲示板でしかネット会話をしてこなかった俺は、内容に偏りがあったかもしれない。ここはオンラインゲームのチャットだ……あの戦場とは違うはず。何度あそこでメンタルをやられたかを思い出しながら、ため息が漏れる。
《コメント:無理~死んで別の場所からリスタートする》
《コメント:マジでそれぐらいだよな…終わってる》
話の話題に食いついた人を確認した後、再度書き込みを行う。
《コメント(自分):どうせやり直すんだったら、みんなで突りません?》
こんな感じの書き込みを数十分ほど行い、話に乗ってくれる人間を何人か集めていく。そして人数が増えて行けば、後は勝手に賛成と批判に分かれていき、そこそこ長い口論となってコメント欄を埋め尽くす。
シンヤの意見に『やってもいい』と言ってくれた人間が集まり、そして集団で教室の出口前に集まり、再度声掛けを行う。
《コメント:今からここにいる何人かで突撃してワンチャン狙うんですが、参加する人はいませんか?》
この言葉を数名で送り、それは大人数となって集まりだした。
50名を軽く超えるほどのキャラクターが教室で集まり、シンヤはコメントでカウントを取り出す。
《コメント(自分):それじゃあ、いきますよ!!》
《コメント(自分):3……》
《コメント(自分):2…》
《コメント(自分):1》
《コメント(自分):GooooOOOOOOOOOO!?》
次の瞬間――大勢のプレイヤーキャラの叫び声がコメント欄に嵐のごとく流れだし、それと同時にたくさんの死亡告知がコメント欄に張り出された。
ゲーム内では銃声が鳴り響き、リアルな戦争ゲームを彷彿とさせる迫力を感じた。
ゾンビによって左右の道を塞がれた廊下から、複数名のプレイヤーキャラクターが上手い事抜け出し、そのまま学校の外へと走り出す。
俺はその光景を眺めながら、タイミングを見計らっていた。
学校の外へと走り出したプレイヤーキャラクターを追いかけるゾンビ達……教室の前からゾンビの数が激減し、そのすきを突くようにロベルトも教室を抜け出す。
水色の髪が左右にゆらゆらと揺れながら、閃光のように細い隙間を抜けていく。
「良し!! ――やった、やったぞ!?」
感情が高ぶり、武者震いと共にコントローラーを握る手が熱くなる。思いっきり立ち上がって踊りだしそうなテンションだ。
そのまま廊下を駆け出して、階段や別の教室をうまく利用しながらゾンビ達を交わしていく。いろいろと苦労はあったが、無事に学校を脱出する事に成功した。
自分自身で呼びかけを行い、みんながそれに対して賛同した結果生まれたこの状況。何とも言えない優越感に頬が緩み、同時にこのキャラクターでゲームをクリアしたいと思った。
カメラの視点を動かしながら、街並みを確認していく。学校の外の出来栄えはなかなかのものだ。建造物は綺麗にシェーダーされており、影や奥行きも悪くない。ボロボロの瓦礫なんかも置いてあり、世界の終焉を綺麗に再現できている。
視線全体が薄い霧に囲まれおり、不気味さも感じられる。
まるで実体験を元に制作されたようだ。
学校での逃走劇を終えたシンヤは、街並みを回りながら操作方法のおさらいをする。それと同時にゾンビを探し周る。
条件はこちらが一方的に攻撃出来て、直ぐに逃げられる場所。そしてゾンビが単体で移動している事が大前提。
数時間ほど周りながら、何か所かそれらしい場所を見つけて、その場で銃を数発乱射する。その音でゾンビが集まる事は動画で確認済みだ。
ゆっくり……ゆっくりと近づく、人影が遠目で見えた。
ロベルトが立っている場所は、フェンスで覆われたバスケットコートだ。入り口が二か所あり、入ってきてもすぐに逃げられるようになっている。
シンヤは試してみたいことがあり、その確認を動画で見ながらずっと考えていた。
やがて一匹のゾンビがディスプレイ画面に映り込み、俺はゆっくりとナイフを構える。ゾンビはシンヤに近づこうとするが、フェンスにぶつかりその場を動かないまま歩き続けていた。
「やっぱり……さすがにすり抜けて来ないか……」
辺りを見直し、他のゾンビが近づいて来ない事を確認した後に、ゆっくりとゾンビに近づく。そのままナイフを振り下ろし、直ぐに後ろへと下がった。
「ゾンビにダメージが入ってる!!」
ゾンビを切りつけては、直ぐに距離を取る。これを繰り返して確実に一匹ずつ仕留めていく方法を取ることにした。慎重すぎるやり方であり、忍耐力の無い人間ではなかなか出来ない戦法だ。
「近づきすぎて死んだら泣くな……多分」
精神をすり減らすこの行動は、1時間近くまで続く。銃を使えばもう少し早く終わるだろうが、そんなリスクを負う勇気は無かった。
銃声によってゾンビ達が集まり、最悪囲まれる可能性だってある。二か所の出入り口が両方塞がれた時点でゲームオーバーだ。
そして長い時間をかけて、やっと一匹のゾンビを仕留める事に成功した。首をパキパキと鳴らしながら、ゾンビから落ちたアイテムを回収する。
ゾンビの足元にはキラキラと輝くキューブが置いてあり、ドロップしたアイテムだとすぐに理解できた。
と言っても、これも動画で見ているが……
手に入れたのは『薬草』と『お金』
「即死するのに回復薬必要かよ?」
ネットで調べた結果、どうやら防具が存在するようだ。回復薬は即死してしまう今の状況では役に立たない。防具を手に入れて即死しない状況を作らなくては……
お金はいくつか存在するショップで使うことが出来る。ショップと言っても、ふらふらと歩いているマントを羽織ったおっさんに声をかけると購入画面に進む仕様だ。なかなか出会えないらしい。
それから俺はひたすらゾンビを単体撃破で倒し続ける作業に入った。
複数のゾンビが出現すれば逃げ出し、いくつか見つけてたハメポイントで単体の撃破に努める。その結果が功を奏したのか、確実にアイテムは増えていった。
――だが
「くっそ!? レアドロップが出ない……」
問題はそこだ……
レアドロップが出なければ、この状況を続けるしかない。それはゲームとして楽しむことも出来なければ、シンヤの目標であった東京へ到着することも出来ない。
多分――東京にはゾンビ以外の化け物がうじゃうじゃいるはずだ。
そいつらは飛んだり、瞬間移動したり、周りの建造物を破壊したり、巨大化したりとめちゃくちゃだ。少なくとも東京に到着する手前で出てくる化け物は、動画で確認した限りだとそんな感じだった。
ゆっくりと動き出すゾンビならハメ技で倒せるが、そういった特殊な化け物に通用するとは思えない。ここで最高の装備や武器を一通り集めておきたい。
まぁ、同じような事をした実況プレイヤーは、東京に到着する手前の中ボスでボラカスに負けていたが。
何百時間費やしたのだろう?
ものすごい鳴き声が聞こえて、動画のコメント欄が荒れていたな。
大体、ゲームのデータはゲーマーの命だろうに、世界の半分を受け取ろうとしたわけでも無いのにデータが消えるのは酷すぎる話だ。――ドラ〇エでも無いのに……
それから高校2年生の学校生活が始まるまでの間、つまり春休みのほとんどをこのゲームに捧げた。習慣ともいえるゾンビ一日15体狩り生活だ。
悲しい事に長かった……それが功を奏したのか?
シンヤは4月手前である武器を手に入れた。
「――AK-47……Ⅱ型? 武器……なのか?」
それを恐る恐るメニュー画面の装備欄から装備し、弾数を確認する。
武器の知識は全くないシンヤだが、そのアサルトライフル? のデザインに感動した。所々が木製で作られているAKという武器。
Ⅱ型という事は、Ⅰ型も存在するのだろうか?
装備した銃にはサバイバルナイフのような物が付いており、その弾数には∞マークが記載されていた。
「ハハ……ハハハ!! やっと来たぁ~!!」
苦笑いと共にゲーム画面と部屋の明かりにめまいを起こし、頭を軽く抑える。何とも言えない達成感がシンヤを包み込み、今まで忘れていた腹の音が鳴る。
「腹減った……」
フィールド上に複数存在する電話ボックスを探してログアウトする。シンヤはふらふらとした足取りでコンビニに行くことを決めた。
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