カオリは吐き気が収まらない感覚に悩まされながらおぼつかない足取りで職員室へ向かった。
現在3階の北校舎と南校舎を繋ぐ廊下に居たカオリは、南校舎の階段を降りて1階の職員室へと向かう。
「ただいま学校に不審者が侵入!! 直ちに学校のグラウンドへ避難してください!! 繰り返す……」
向かう途中の階段付近で、先生からの放送がかかる。
――良かった、報告しなくても先生たちが理解してる……
この様子なら警察にも連絡が入っていることだろう。一旦落ち着きを取り戻したカオリは、職員室へ向かって教師と合流することにした。
そして礼儀作法を無視して職員室のドアを勢いよく開ける。
「先生!! ……せ、んせ……い?」
こんな事態にも関わらず、職員室は静寂に包まれていた。教師たちがいないわけではない……立って、動き回っている。
しかしそれは警察を呼ぶとか職員会議を行ってるとか、そういう話ではない。ただ動き回っているだけの人形だ。
「ァァ……ァァ……ァァ」
職員室で誰かが暴れ回った形跡がある……並べられた教師の机はバラバラになっていたし、先ほど私が持って行った資料も、地面に散らばっている。
カオリはその光景が気持ち悪くて、職員室から距離を取る。近づいて声をかけようと思えなかった。
何これ……? 私がここに来たの……10分前よ? なんでこんな短時間で……
そこにいた教師たちは白目をむいて……壁にぶつかったり、机にぶつかったり、まるでゾンビのようだった。カオリの最初の声に反応したのか、複数の先生がカオリに近づいてくる。
そして職員室の入り口から正面を見ると、外の光景が見えるようになっていた。職員室の窓から見える光景はグラウンドだ。
北校舎にいた1年生・2年生・3年生教室から逃げてきた生徒たちが、放送を聞きつけてグラウンドに集合していた。
しかし――、グラウンド周りの柵はすでにゾンビによって囲まれている。教師たちと同じような状況になっている近隣住民にカオリは目を疑う。
そしてゆっくりと無言で近づくいてくる先生に恐怖し、2階の放送室へ向かった。
意味わからない……なんでこんないきなり……パンデミック? とりあえず、放送室にいる先生に協力してもらって。
2階の放送室へ向かい、先ほど放送をかけていた教師に会いに行こうとした。
そして階段を上がった先にいたのは、現国の教師【木村先生】が歩いていた。
スーツ姿の綺麗に整えられた癖の強い七三分け、細い眼鏡が、目に鋭さを与えている。年齢は40代前半ぐらいだろうか。
「はぁ……はぁ……、待ってください先生!! 職員室の先生たちがおかしくなっています!! どうしたらいいですか?」
カオリの声に反応した木村先生はゆっくりとこちらを向いた後に、一言「知らん、自分で何とかしろ」と言い残し、廊下を再び歩き出した。
その発言に目を見開き、木村先生の腕を握る。
「待ってください先生!! 先生の放送でみんながグラウンドにいるんですよ!?」
「そうか……良かった」
「よ……、よかった? どう……いう、ことですか?」
教師である木村先生はため息交じりに、カオリの顔面を思いっきり殴る。
いきなり殴られたカオリはそのまま後ろへ倒れ込み、口から血が流れるのを感じながら『ありえない』という顔で見ることしか出来なかった。
カオリの眼鏡が吹き飛び、三つ編みされた髪の片方がほどける。
衝撃が大きすぎて言葉が出ない。怖くなり、震えと共に体を小さくする。
「こういうことだ……、学校の外の光景を見たか?もう教師とか関係ないだろ? なぁ!? グラウンドに被害者が集まれば、車の回収が楽になる……だから放送をかけた。お前らみたいな馬鹿どもを何で助けなくちゃならん? 人の話は聞かない、自分勝手で自己中心的、いじめに怒鳴ればすぐに反抗……、猿の方が何倍も賢く見えるっての!!」
教師たちの車が置いてあるのは裏門付近、つまりグラウンドの逆側だ。生徒たちを犠牲にし、車の回収を狙っている。
ピキ……ビキ!! パキパキ……!! ドガ!!
木村先生の言葉の後に、でかい揺れが2人を襲う。
「「!?」」
北校舎が3階から一部、崩落をはじめた。
3階にいた複数の人影が、次々と1階へと落ちていく。
グリャ……グチャ……グチャと……
「きゃぁぁぁぁあああ!!」
人が死ぬ瞬間が次々と目に入ったカオリは叫ぶ。
教師に殴られた恐怖と崩落で死んでいく生徒に、情緒不安定になっていく。
「ははは!! ここまでくると笑えて来るな!! もう世界の終焉って感じか!?」
木村先生もまた、高笑いを上げながらこの状況を整理できない。ここまでイカれた状況に、腹を抱えて大声で笑い出す。
そして木村先生の視線がカオリへと注がれた。眼鏡が外れ、三つ編みが片方ほどけた姿は、地味な生徒だと思ったがそこまで悪くない。
「童貞のまま死ぬのもなぁ……どっちみち、これじゃ生き残るのも難しい。最後に楽しむのも……ありか?」
少し考える素振りを取った後に、カオリの胸倉を掴み、叫び散らすカオリを放送室へと連れ込んだ。
木村先生の表情はエクスタシーに達したように、頬を赤く染め、不敵な笑みを浮かべていた。
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