ショッピングモールリオンの正面通路を歩いているのはシンヤ、リア、カオリだ。正面通路には複数のゾンビが徘徊しており、施設内でリアが持っているエクスプロージョンを使う訳には行かず、シンヤが先導しながらコルトガバメントでゾンビ達を蹴散らしていた。
ショッピングモールリオンの施設内は比較的綺麗な状態で残っており、商品やガラスが所々で散乱している程度だった。しかし不思議な点がいくつ見受けられる。
「人がいない。それに」
「どうしたの? シンヤ君」
そう。カオリが名前を呼ぶ時に呼び捨てじゃ無くなっている。知らず知らずのうちに『君』が語尾についていた。好感度が下がってしまったのだろうか?
(嫌われたの……俺?)
「カオリ、気にしなくていいのだよ。どうせ下らない事を思春期の男らしく考えているに違いない。どうでもいい事に頭を使うのが好きなようだね。羨ましい限りなのだよ」
ドヤ顔で不敵な笑みを浮かべているリアを睨みつけた。
「うるせー黙ってろよ」
(何でこのロリガキは何も言ってないのに思考を読んでるんですかねぇ?)
「どういう事? リアちゃんはシンヤ君が考えてることが分かるの?」
「分かるのだよ。正直、シンヤほど分かりやすい『人間』もいないと思うが。しかしカオリ、君が考えている事はさっぱりだね。君ほど感受性が豊かな人間は珍しい。誰もいない学校の廊下で踊りだしても、不思議に思わないのだよ」
ッビク! っと肩を揺らす。
思い当たる節があるのか、カオリは口笛を吹きながらリアから視線を逸らした。シンヤもリアもここまで露骨に誤魔化すのが下手な奴を知らず、ため息が漏れる。
「そ、それより人が少ないねぇ。みんなどこ行っちゃたのかな!?」
「確かに、リアは分かるか?」
それはシンヤも疑問に思っていた事だ。平日の夕方手前とはいえ、ここはショッピングモールだ。本来なら行列が出来ているこの場所が、今はゾンビの吐息と自分達の足音しかしない。
そして、リアならこの状況が分かるのでは? と思ってしまった。理由は説明できないが、リアの存在は無意識にシンヤの中で大きなものになっている。人間としては嫌いだが、心強いのもまた事実。どんな状況でも自信満々の態度で歩いている姿は、それだけでオーラのような物を感じる。
(受け入れがたいが)
「そうだね。化け物が関東地方を襲いだしたのが昨日の12時頃。そして駐車場には大量の自動車が放置されていた。普通ならそれで逃げるのが人間の行動パターンなのだから、このショッピングモールには生存者が大勢いる可能性があるのだよ」
「見当たらないな、その生存者が」
「考えられる場所はいくつかあるのだよ。立てこもるのに適した場所、映画館や従業員のみが出入りを許された裏口。すでに全滅している可能性もあるが、この場所にいるゾンビ達と平均来客数が一致しないのも事実なのだよ。しかし生存者との接触は出来るだけ避けるべきだよ?」
「何故?」
「私達が武器を持っているからさ。人前で武器を使いたまえ、さすがのシンヤでも理解できるのではないかね? 人が平気で死ぬ世界、武器の価値は血の繋がりや恋人を越える可能性もあるのだよ。それを視野に入れて我々は行動しなくてはならない。そういう意味で言えば、シンヤの武器は理想的なのだよ」
受け入れがたいが、しかし納得している自分がそこにいる。リアの言っている事はほとんど正しいと思う。ただ武器が『家族や恋人を越える』と平気で口にする辺りが、二人の距離を妨げていた。まるで人間が愚かな獣であると言っているように、その発言がシンヤの中で納得のいかない壁を隔てる。
「私は人間が醜いと思っているのだよ。物事には必ず意味がある、私はこのパンデミックが人為的に引き起こされた事だと確信しているのだよ。そして、その大量殺戮者を殺す事が今の目標さ」
「殺して、どうするんだよ?」
「さぁ、そこに意味を求めるのかい? 神に近づき過ぎた人間は罰を受ける。理不尽な目に合っている私達には殺す権利があると思わないのかい?」
「思わないね。それじゃ、そいつらと同じじゃねーか」
「改めて認識するのだよ、私は君が嫌いだ。綺麗ごとだけでは何も救えない。私の憧れが殺された時、復讐ぐらいはしてあげるべきだと思ったのだよ」
「憧れね。リアよりも天才だったのか?」
「いいや、私の方が天才なのだよ」
「自信過剰だな。黙ってろよ」
「ダメだね。私は喋るのがとても大好きな年頃の女子高校生だよ? 口を開けば数時間は話してしまえる魔性の女さ」
「あほくさ」
「ん~、もう我慢できない。リアちゃんが可愛い!!」
カオリは後ろからリアを力強く抱きしめる。そして高校生とは思えない発育した胸がリアの小顔を覆いつくした。シンヤの視線がカオリの胸に注がれた事は言うまでも無い。
(やっぱりカオリ、デカいな)
「な!? は、離したまえ! 私は君の抱き枕では無いのだよ。そういった行為は、小学校で卒業するべきだと思うがね」
「シンヤ君、本当にリアちゃん可愛いんだけど? あんなに強いのに小っちゃくて毒舌で、何て言うか可愛すぎるんだって!!」
「マジかよ。悪趣味すぎるだろ」
(カオリって人を見る目が無いんだな)
「いいや! シンヤ君が可笑しい。だってこんなに小さくて妖精さんだよ。金髪だし、コスプレとかさせてみたいな。メイド服とか!」
「それはちょっと見てみたいかも」
(出来れば眼鏡を外してカオリが着てみてほしい)
カオリに抱きしめられて顔を赤面させているリアの姿は見ていて清々しい気分になる。人の不幸は蜜の味というが、それはあながち間違っていないらしい。
(この考え方、クズいな俺)
そんな会話を長々と続けながら、シンヤ達はショッピングモールリオンの中央通りにたどり着いた。壁際には様々な店舗が並んでおり、やはり人の気配は感じられない。と言ってもここに来た目的は、制服の代わりとなる服を探すぐらいで長居をする気は無い。
「いや、忘れる所だった」
「今シンヤ君なにか言った?」
「何でもない」
「そう!」
シンヤが死んだ時、白い空間で白衣を着た未来のシンヤに会った。そこで言っていたことを思い出す。それはこのショッピングモールリオンでリアにゴシック服をプレゼントすると言う訳の分からないミッションだ。そして、死んでもリアを守れと言った。
理由は分からない。しかし、リアがこの世界で生きていく為に必要な何かを持っている事は確かだ。どこまで行動を共にするかは分からないが、しばらくは着いていく必要がある。
(確か、一階で変な服が並んでる店だよな? そんなもんあるのかよ。でも、ゴシック服だけは納得がいかない。ただでさえ金髪、毒舌、女子高校生と属性を大量に保持しているのに、ここにコスプレが入ってみろ。そん時は戦争だ! 戦争パーティーだ! こんなダイヤモンドよりも硬い頭をしたリアがコスプレ何てするとは思えないが、奇跡の確率で0じゃない)
「それじゃぁ、服を探そうかリアちゃん! ランドセルとか!!」
「だから離したまえ、シンヤ! カオリを止めたまえ!! どうやらショックのあまり精神的に不安定だと予想されるのだよ。このままだと、大変なことになるぞ!?」
「知るかよ。こっちはそれ以上に極致に立たされてるっての」
「意味が分からないのだよ!」
「クソ、ゴシック服はやっぱりねーよ」
「「どういう事!?」」
(え、シンヤ君ってガチな人なの?)
(人は見た目では判断できないのだよ。シンヤが女装趣味だったとは)
「いや、多分お前らが考えてること間違ってるから」
「「そ、そう」」
「信じてないだろ?」
そんな楽しそうな光景を二階から覗いているのは、中学生の少女だ。それはリアと運命的な出会いに繋げるためのピースであり、近い将来に決断を迫られる分岐点でもある。
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