無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*

ゲームから始まるゾンビ世界 ホラー部門カクヨム最高2位
夢乃
夢乃

第87話【熱意リョウは何かを探している】

公開日時: 2021年3月5日(金) 18:07
文字数:2,335

【4月5日(月曜日)/18時00分】


 幼少の頃から定期的に同じ夢を見ることはあるだろうか?


 いきなりこんな話を振るのもどうかと思ったのだが、しかし少しだけ考えてみてほしい。それは得てして、いい夢じゃないパターンが多いと思うんだ。定期的に見続ける同じ夢の中で、その少女は必ず俺に満面の笑顔を向けてくる。


 それが幸せだと感じた。


 しかし俺はその少女の顔を知らない。明るい髪色をした真っ直ぐな性格だった気がする。夢の中の少女を抱きしめて、その温かみを感じながらも次の瞬間には粉雪のように儚く消えていく。そして、最後に必ず言うんだ。


「私は、幸せですね!」――なら、何で俺の前から消えた?


 熱意リョウは少ない人生を過ごしながら、欠落したなにかを探し続けている。人生を楽しいと感じる瞬間に、冷たい視線を向けるもう一人の自分自身が必ず「何をそんなに楽しんでんだ?」って、肩に腕を回して来る。


 そして満面の笑みは徐々に消えて、表情は沈んでいく。


 もう一人の自分自身は『白い空間』の中で、その少女と出会うことを待ち続けている。信条シンヤが成功させた、この一瞬の時間を『桜井ナナ』と過ごしたい。そして今なら、偽りの言葉を本当に出来る。


「俺は桜井ナナに好きだと伝えられる」


■□■□


 『人類の進化』と呼ばれる天能リアが生み出した論文が存在する。

 これはアイリス・時雨の原点とも呼ぶべき内容だ。


 ここで詳しく説明するのは愚策だろう。

 簡潔に説明しよう。


 パーソナルコンピューターやスマートフォンと言った、誰でも扱う電子機器の心臓にあたる部分を『OS』と総称されている。アプリを動かすための基本的なプログラムと考えてくれればいい。


 そして『2038年問題』で、そういった電子機器が全て誤作動を起こして使えなくなってしまうと言う問題が世界で注目されていた。

※正確にはUnix関連のOSであり、全てではない。


 その為、マイクロチップ型コンピューターが開発される可能性がある現在、それを脳内や肉体に投与し、テレパシーのように連絡を取り合うような開発は行うべきではないと言う考え方だ。誤作動が人間にどのような影響を及ぼすかと言う予想を、論理的な視点で述べていた。


 そして、コンピューターとは全く別の方向から同じようなことを可能に出来るのではないかと言うのが天能リアの発想である。兄弟や姉妹が時々、全く同じことを考えてしまう現象を数学的に割り出し、それを互いの了承を得ている状態で送信や受信を行える脳を作ることが可能だと言う。


 そしてそれは遺伝子を受け継いだ子孫にも反映され、人類が皆、いずれはテレパシーを日常的に扱える世界になると天能リアは言い切ったのである。それはアカシックレコードの誤差に満たない神の領域に、人類が一歩近づいた瞬間だ。


 言ってしまえばオカルトのような発想であり、現実的に不可能であると誰もが思いながらも、その具体的な内容に賛否両論となり、確定された奇跡を起こし続けている。そして様々な分野を扱い、それぞれの矛盾点や新しい発想を生み出しながら行われる天能リアの論文は、それだけで様々な天才を驚愕させた。


 アイリス・時雨はそんな光景を、星でも眺めているような感覚で見惚れている。そして、天能リアはそれほど優れた可能性を生み出しながらも、それをアイリスに渡して言ったのだ。


「この研究はアイリス先輩に任せるのだよ。申し訳ない、こんな下らないゴミだったとしても、目を引いてしまった人間が多いと苦労する。今度の昼は、ラーメンを我慢して蕎麦を食べに行くので、それで許してくれないかい? 残念ながらその研究に私が関わる時間は残されていないのだよ」


「ゴミ?」


「あぁ、アイリス先輩には恥ずかしいところを見せてしまったね」


「――そう。そうね……ゴミだわ」


 ここからはただの例え話だ。


 アイリス・時雨がこの論文を近い未来実行に移すとして、その被検体を手に入れるために神月家と川村家に助力を要請したとする。しかしそこで届いてきた実験動物が、失敗しても問題が無い『死体』だったとしたら、その死体は一体誰なのだろうか?


 そして死体が、肉体を失いながらも脳内でやり取りが出来てしまえたとしら。

 もしかすると、アイリス・時雨はその人間を管理しているかもしれない。

 別の世界線に飛び立った現在を含めて、その可能性は消えていない。


■□■□


「なんだよ、これ? かっこいいじゃん」


 届いてきた荷物の中に入っていたのは『メリケンサック』だった。それは男なら一度は買ってみたいと思いながらも、なかなか手に出しづらい、修学旅行の木刀ポジションに含まる物だ。


 熱意リョウは入っている手紙を読むこと無くゴミ箱へ捨てて、そのメリケンサックを腕にはめた。いや、正確には身に着けている。


 グローブのような形状をしたメリケンサックをはめた瞬間――棘のような物がそれぞれの指に刺さり、メリケンサックが自分の手のサイズに収縮していく。それは皮の手袋に鉄が埋め込まれたようなデザインだ。


「おい、いって~な!! って、外れねぇ。嘘だろ!?」


 力尽くで、そのメリケンサック手袋を外そうとするが指に刺さった針の様なものがそれを許さず、無理に外そうとすると指が引き千切れそうだ。人生史上初の大驚愕である。


 唇を丸くさせながら目を見開き、何なら鼻水を出してもいい。


「くそ!? うぅぅ~! あ、俺の人生終わった」

(これから一生、この中二病発症させたような物を身に着けるの、俺?)


 そして、その日からリョウのメリケンサック手袋を身に着けた、中二病何ですか? サバイバル生活が始まる訳だ。


「絶対に俺が一番雑な扱い受けてるって!! 手袋外れないとかあり得ないだろうが! どうすんだよ、トイレとか風呂とか女と遊ぶ時とか……なんも出来ねぇ―ぞ!?」


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