【8月5日(月曜日)】
オブ・ザ・デッド、私はやっと東京に到着出来ました。
これからリアさんと共にロノウェとして、ゲームクリアを目指そうと思う。真っ暗な部屋でディスプレイを見ると目が疲れるけど、私の才能はこれらしい。
リアさんから東京で生きていくための資料を受け取ったから、これから勉強しようと思う。まずはコンビニで何かを買おう。
【8月6日(火曜日)】
今日はいろいろな出来事がありました。何から話せばいいんだろう?
コンビニに行く途中でナンパをされました。無視をしていたのですが、手首を掴まれてしまい……高校時代を思い出して、その人を殴ってしまいました。
その人は私を車に詰め込んで、思い出したくない。
怖かった。本当に怖かった。みんな私の知らない男の人がたくさんいて……このまま殺されるんじゃないか? たくさん嫌な目に合うんじゃないか? 不安だった。
でもそこには学校からいなくなってしまった、あの人がいました。
髪の毛も赤色になっていて雰囲気が違ったけど、あれは間違えなく私の事を助けてくれた人です。そしてその人は、また私を助けてくれました。
かっこいい……私の全てともいえる人。
血だらけになりながら、私をまた助けてくれたんです。ずっと探してたのにこんな事で見つけてしまうなんて、人生とは何があるか分かりません。
――あの人の名前が知りたい。だってこの日記を書き始めたのは、高校時代に私が自殺しようとした日から始めた物だから。
その後、頭から血が出ていた私は、あの人とあの人の友人を名乗る人物と一緒に病院へ行きました。意識を失っているあの人に、友人は確か……「俺は逃げる――見舞いには行けないし連絡も取れないと思うが、適当にまた会えるだろ?」みたいな事を言っていました。きっと親友なんだと思います。
【8月7日(水曜日)】
昨日の事が嘘の様な、平凡な1日。
ずっとあの人の夢を見ていました。布団にしがみ付いて、抱きしめられたり、キスをされたり、頭を撫でてほしい……恥ずかしいけど。
あの人が髪の色を真っ赤にしていたので、私も髪の毛を染めてみようと思います。本当は同じ赤色が良かったんだけど、赤は流石に派手すぎるのでピンクにしました。
似合っているかは分からないけど、とっても幼く見える。自分じゃないみたいで、ドキドキした。
【8月8日(木曜日)】
職場から追い出されました。
流石にピンク色の髪はダメだったみたいです。でも、黒色に戻す気はありません。
このまま仕事を辞めてしまうのもありかな?
あの人のお嫁さんになると言うのはどうだろうか?
あの人がいる病院にも行きました。でも、何て言ったらいいのか分からなくて……結局帰ってきてしまいました。
勇気のない自分を殴りたい。早く会いに行かないと、退院してしまうかもしれない。
【8月10日(土曜日)】
人生とは何があるか分かりません。
昨日から頭痛が激しくて、倒れてしまいました。
今日は検査と入院の手続きをして、あの人と同じ病院のベッドで寝ています。川村家の人達に助けられるのはとても嫌な気分になりましたが、あの人と同じ病院なら全然気になりません。
パソコンで久々にオブ・ザ・デッドをプレイしましたが、リアさんにはしばらくログインできない事を伝えて、色々と相談に乗ってもらいました。
バルベラさんは少しひねくれ者で、会話をしている限り……あの人は危ない人なんじゃないかと思えてならない。いつか犯罪に手を染めるに一票!
カイトさんとリアルで知り合いらしいですが、そういう意味だとカイトさんも危なそう。
【8月11日(日曜日)】
サキ様が病室に来ました。
いろいろな推理小説が段ボールいっぱいに入っており、シャーロックホームズの話を嫌というほど聞かされた。会うのは随分と久しぶりなのに、この人は変わらないらしい。
それとシュンという人の話をしている。きっとサキ様はその人の事が好きなんだろう。
お父さんの浮気相手の子供にここまで優しくしてくれるサキ様は嫌いじゃないけど、会いに来るのに随分と苦労したに違いない。
【8月14日(水曜日)】
余命宣告を受けた。
訳では無いが、クモ膜下出血という病気? らしい。
長々と説明されたが、手術をするためには正確な場所を特定しないと始められないと言われ、どうやら手術が確定してしまった。
何だろう? 怖い以上に、止めていた歯止めが外れた感じだ……何となく今ならあの人に会いに行けるような気がする。大丈夫だろうか?
【8月15日(木曜日)】
熱意リョウ――あの人の名前だ。
熱意リョウ、熱意リョウ、熱意リョウ、熱意リョウ……いっぱい書いて、絶対に忘れないようにしよう。
でも、恥ずかしくて……何て声をかければいいのか分からなくて、結局私はその扉を開ける事が出来なかった。ネットでリアさんに相談しようかな?
【8月16日(金曜日)】
今日は熱意リョウさんに会いに行こうとしたけど、変わった病気の人と会った。アルビノという肌や髪が真っ白になってしまう人だ。
最初は白衣を着ていたから医者だと思ったけど、違った。研究者の人らしい……少しだけ、いや、かなり変な人だったけど……これがマッドサイエンティストっていうのかな?
宇宙の話や時間軸? 世界線? そんな難しい話を楽しそうにしていた。多分この人はこれからすごい偉業を成し遂げる気がする。
でも、その人も苦労しているらしくて、後輩のライバルが1人いるらしい。物凄い負けず嫌いなんだろう……でもその人と仲が良さそうに感じた。その人が事故にあった事をすごい心配しているのだから。
私のリョウに対する気持ちもたくさん相談した。アルビノの人は私に「男なんて押しまくればいいのよ。押してダメなら更に押す……ホルマリン漬けするまで押すのよ。死んだらその程度の男」なんて言うものだから、ホルマリン漬け? するまで明日は押そうと思います。
【《約1年半前》8月17日(土曜日)/12時58分】
通路で右往左往しながら桜井ナナはリョウのいる病室の入り口をうろうろしていた。心臓が張り裂けそうなほど緊張しており、手先が震えている。
「ど、どうしよう……まずはお礼だよね? でも、地味に見られちゃう!? ピンクの髪も派手過ぎたかな……引かれちゃう? とりあえず、好きな食べ物と自己紹介は必要だよね? 豚肉豚肉豚肉……これで願い叶うよね!?」
ふらふらとしながら考えが纏まらない。
それと同時に高校生の時に言われたことを少しだけ思い出す。あの時の奇跡をナナが忘れる事は絶対に無い。
『――おぉ、今の『ね』の発音いいじゃねぇーか? これから語尾に『ね』を付けてみたらどうだ? それを聞けば、どんな奴でも心開くと思うぞ?』
そんな事をずっと昔に言われた。
どんな奴でも心を開くなら……リョウさんも私に心を開いてくれますか?
「ス~……ふぅ~。私はね! ね! 桜井ナナはね。――……熱意リョウの事が好き。大好きだよ! ――よし、行ける。行けるぞ!? ホルマリン漬けにするぞ!!」
ゆっくりと扉を開き――体中を小さくしながらロボットの様にリョウに近づいた。日差しに反射した赤色の髪はやっぱり似合っていて、夢で見る何百倍もかっこよく見えた。
リョウは音楽を聴きながらずっとスマートフォンを眺めており、ナナに気付かずに歌詞を口ずさんでいる。そんな光景をしばらくの間見つめており、気付いた時には自分から声をかけていた。
「ね! 何を聞いているんですかね?」
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